純然たる驕傲編 第六話
雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
「コウ様!」
青褪めた表情をした男が狩りを終えたコウの元へ駆け寄ってきた。彼はコウの忠実な従者である。
「なんだ、喧しい」
コウはいかにも煩そうに顔を顰める。
「申し訳ありません。ですが……大変なのです! リン様と、リコ様が!」
「あいつらがどうしたというんだ」
「倉庫に閉じ込められています。そして今、その倉庫に火がつけられようとしているのです!」
コウの資産を保管する倉庫は、貴重な鉄をふんだんに用いて造られていた。鍵は一つきりで、それがなければ開けることはできない。
そんな倉庫の前にガク、ロウ、ミヤの三人は立っていた。手には火打ち石を持っている。
「なんのつもりだ」
倉庫のまわりには既に多くの野次馬が集まっている。コウはそのことに苛立ちを隠せないまま、ガクに詰め寄った。しかしガクはそれには答えず、コウを手で制す。
「それ以上近づくな。この倉庫の中には、お前の妻と娘が入っている。俺の言うことを聞かなければ、この倉庫に火をつける」
この倉庫は大部分が鉄でできているが、木製の柱もあった。火をつければメラメラと燃え、鉄が熱を伝え、倉庫の中は蒸し焼き状態になるだろう。
「倉庫の鍵はどうしたんだ。どうやって中に入った」
「盗ったんだよ。警備はザルなんだな。というより、他人に任せきりにしているからそうなるんだ」
「……何が望みだ?」
コウの問いに、ガクはその場にいる全員に聞こえるような声で言った。
「集落の長の座を俺に譲れ。すべての決定権を俺に委ねるんだ」
ガクの言葉にコウは憤慨した。
「バカ言え。お前にそんなことができるものか!」
「俺一人では無理だろう。だが俺には仲間がいる。俺は民の意見をよく聞くリーダーになるつもりだ。お前とは違ってな」
「お前、俺にそんな口を利いて……」
「ただで済むなんて思っちゃいない。こっちにはそれだけの覚悟があるんだ。さあ、早く決めろ! 家族を見殺しにするのか、自分の地位を捨てるのか!」
コウは唇を噛み締めた。このやり取りは、多くの民たちが見ている。コウが言った言葉はそのまま真実になる。「やはり冗談だった」では済まされないだろう。
決断を迫られている。
しばらくの沈黙の後、コウが出した答えはこのようなものだった。
「やれるものならやってみればいい。僕は地位を捨てる気はない」
「……そうか。残念だよ」
ガクは吐き捨てるように言うと、ロウとミヤに何やら目配せをした。
それから少しして倉庫は火に包まれ、中からは苦痛に喘ぐ悲鳴と助けを呼ぶ声がこだました。
「今ならまだ助かる。地位を捨てると言え!」
コウは何も言わない。
「家族を殺すのか!」
悲鳴が途絶えるまで、コウは唇を固く引き結んでいた。