純然たる驕傲編 第五話
雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
コウははじめ、力を手に入れて自惚れていたとはいえ、その行動理念は間違いなく集落のためであった。
集落のために大きな獣を狩り、集落のために敵襲を退けた。集落の人々の喜ぶ顔が見たかったのだ。
しかし、いつの間にかそれらの行動は全て、自分のためにすり替わっていった。己が力を誇示するために大きな獣を狩る。自分の地位を維持するために敵襲を退ける。
いつしか人々のコウを見る目は、英雄への尊敬の念から、強く傲慢なリーダーへの畏怖の念へと変わっていた。
畏怖の念とともに、確かな反逆の意思を持っていたのが、コウによって集落を滅ぼされ、半ば無理矢理集落の一員へと加えられた『元リーダー』たちであった。
「あのリーダーは気に入らない。自分のことばっかりだ」
そう吐き捨てたのはガクという青年だった。ガクはついこの間、コウに直談判し、容易く捻じ伏せられたばかりである。
コウの圧倒的な力に多くの元リーダーが反抗を諦めたが、ガクは別だった。
ガクの仲間であるロウとミヤも、やや及び腰ながらもガクの考え方に賛同している。
「分かってますけど、どうしようもないですよ。一度やられたくらいでビビってる奴らばっかりだ。ガクさんみたいな勇者はいませんよ」
「戦う勇気もない奴がよく言うよ」
「うるさいぞ、ミヤ。俺は慎重なだけだ」
二人の言い争いを、ガクが制す。
「落ち着け、ロウ、ミヤ。このままではいけないが、ロウの言うことにも一理ある。あいつの力はおかしい。正攻法じゃ叶わないだろう」
「正攻法じゃ……ってことは、他の方法があるんですか?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思っていやがる」
ガクは自慢げに胸を張ると、二人の部下の方を見て言った。
「いいか。使えるものはなんでも使う。俺だって、できればこんな方法はとりたくなかったが……仕方がない。革命には犠牲も必要なんだ」
穏やかではない物言いに、ロウとミヤは息を飲んだ。
ガクが続ける。
「あいつの家族を人質に取る」
「お父さん、リコね、引き算ができるようになったの……」
ソファで寛ぐコウに、リコがおずおずと声をかけた。
家族に何も与えていないコウだが、子とは健気なもので、リコは確かにコウのことを父親と認め、慕っていたのだ。
しかしコウの反応は冷たいものだった。
「そんなことより、お前は人の上に立つ方法を学んだほうがいい。お前は僕の娘なんだから、そうおずおずされていると困る。人を使うことを知れ」
「……ごめんなさい」
リコは落ち込んだ様子で謝り、そっとコウの元を離れた。
これが彼らの家族の形である。
かろうじて形を保っているような歪な家族は、たった今、外側から崩されようとしていた。