純然たる驕傲編 第四話
著者:雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
それから数年の月日が経ち、コウは青年になった。
背丈はあまり伸びていないし、華奢な体型もそのままだ。しかしコウの影響力は、少年の頃とは比べ物にならないほどに大きくなっていた。
――これも全部、こいつのおかげだ。
コウは朱い石を握りしめた。片時も手放すことができない、彼の宝物。否、心臓ともいえるものだった。
「コウ様、新しく合併した集落の奴らが、コウ様のやり方に文句があると言っていますが」
コウの付き人が恐る恐るといった様子でコウにそう報告した。コウは眉一つ動かさず、「そうか」と呟く。
「僕が直接話をしよう」
「そんな、コウ様の手を煩わせるわけには」
「愚かな民衆を導くのも僕の仕事だ」
コウは付き人に案内され、自身を疎む者たちの前に現れた。全員が屈強な男だった。コウの登場に彼らは眉根を寄せる。
「コウ様自らお出ましとはな」
「なんでぇ、背も小さいし、女みたいに細いじゃねえか。どうしてみんな、こいつが好き勝手するのを許しているんだ。納得いかねえ」
彼らは吐き捨てるが、コウは表情一つ変えない。
「見かけだけで人を判断するのは愚かなことだ。今やこの集落は多くの集落を取り込み、かなり大規模なものになった。僕はそれをたった一人でまとめている。それは力があるからだ。力のないものは何もできない。ただ喚くだけだ。ちょうど、今の君たちのように」
「なんだと」
男たちはコウの言葉に苛立ち、コウの腕を掴んだ。しかしその腕はいとも容易く振り払われ、体勢を崩した男は地面に転がった。
他の男たちも次々とコウに襲いかかるが、気づいたときには全員仲良く床に転がっていた。
「僕は愚かな君たちも赦そう。ただし次はない。集落の治安を、僕は守らねばならない。そのために君たちの存在が不要なら、排除する」
男たちを見つめるコウの瞳は強く、そして冷たかった。男たちは何も言えずその場に倒れ込んだままだった。
「コウ様、帰っていたんですね。おっしゃってくれれば、お茶を用意しましたのに」
家に戻ったコウが寛いでいると、一人の女性が近寄ってきてそう言った。
女性の名前はリンといった。リンはコウと同じ年頃の若く美しい女性で、コウの妻でもあった。
リンの後ろから、幼い少女がコウの方を見ている。娘のリコだった。
「僕は疲れている。話すのさえ億劫だ。僕が帰ってきたことくらい、物音で判断しろよ」
「申し訳ありません」
その光景は夫婦というより、主人と召使だ。はじめはコウはリンを愛し、生まれてきた子を愛していた。
しかし、強くなりすぎたコウにとって、守るべき相手の存在というのは、疎ましいだけのものになり始めていた。
一言命じれば、人々はコウの意のままに動く。愛など、コウには不要だったのだ。
彼に必要なものは、力――そして、それを齎している朱い石、それだけだったのである。