純然たる驕傲編 第三話
著者:雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
集落の殆どの人々がコウを崇め、褒め称えた。初めこそ謙遜していたコウも、次第にそれが気持ち良くなっていった。
しかし、そんなコウをよく思わない者がいた。
青年の名はガクといった。コウが初めて狩りに出たつい数日ほど前に、集落の武闘大会で優勝し、見事村の長の座を継いだのだった。
それなのに、今チヤホヤされているのは、自分ではなく自分より五つ以上年下の少年。面白いはずがなかった。
ある日、ガクは集落の皆の前で、コウに詰め寄った。
「おいコウ、お前、おれと戦え」
「君と?」
「ああ。まさか逃げやしないよな。見ろ、皆見てる。断るのは敗北と同じだ。分かるだろ」
「断らないよ。勝負内容は何にする? 君が決めて構わない」
ガクより随分と身体の小さいコウは、一歩も臆することなくそう言い放った。それどころか、勝負方法を決めるというハンデまで与えたのだった。
ガクは腸が煮えくり返る思いだった。ガクにとって、この上ない侮辱だった。
「お前が決めろ」
「そう? それなら、剣にしよう。武闘大会と同じルールだよ。木刀を使って、審判が勝敗を決めるか、片方が降参するまで戦い続けるんだ」
「いいだろう。ただし、武闘大会と同じルールじゃつまらない。こうしよう。本物の剣でやるんだ。審判もなし。どちらかが降参するまで終わらない」
集落の人々の間から動揺の声が起こった。ガクに文句を言う者もいた。しかしコウは動じなかった。
「分かった。そのルールでやろう」
コウの瞳の奥の冷たく強かな光に、ガクは生まれて初めて死の恐怖を覚えた。
すぐに準備が整えられ、決闘が始まった。ガクは自分の胸に湧いた恐怖を打ち消すように叫び、コウのもとへ剣を持って突進した。
しかしコウはその刃先を素早く躱し、鳩尾を剣の柄で突いた。ガクが呻き頽れた。その瞬間を狙い、コウはガクの顔面を剣の柄で殴った。
圧倒的なまでの力の差に、ガクは何が起きたのか理解出来なかった。気づいたときには地面に倒され、首の横に剣を突き立てられていた。刃先が掠ったらしく、首筋から血が流れていた。視界がひどく滲んでいる。先程殴られたことで鼻が折れたようだ。
「早く降参してくれないかな」
「おれは……まだ……」
「そうしないと、僕は君を殺してしまう。殺してしまったら、勝負が終わらないじゃないか」
挑発している様子でもなかった。コウの瞳は純然たるものだった。
「……降参だ」
こうして、コウに逆らうことができる者は一人もいなくなった。
集落に絶対的な王が誕生したのである。
コウは朱い石を手に取り強く握りしめる。
コウの気持ちに呼応するかのように、石は淡く輝いた・・・。