純然たる驕傲編 第二話
著者:雪路よだか 様(ココナラ
企画・原案:mirai(mirama)
茂みの中から現れたのは、虎によく似た獣であった。猫をそのまま大きくしたような見た目だが、そこに可愛らしさはなく、瞳には獲物を狙う捕食者の光が宿っている。
狩りに慣れた大人の狩人たちでさえ恐れる存在で、見つけたら相手をせず逃げることが推奨されている。しかし、非常に凶暴なその獣は獲物を簡単に逃がすことはなく、標的と見なされた時点で死は決まっているようなものである。
いつものコウならば腰を抜かして立てなくなるところだ。しかし今のコウは違った。
──やれる。僕は、こいつをコ■すことができる。
コウは槍を持ち、獣に襲いかかった。
獣も負けじと牙を剥き、飛びかかる。コウは身軽に躱してみせる。獣が体勢を崩したその一瞬の隙をつき、喉元に槍を突き立てる。
獣がけたたましい鳴き声を上げ、血を噴き出しながら地面を転げ回った。コウは獣の上に跨り、何度もその体に槍を突き刺した。
やがて、獣は完全に動かなくなった。
「僕が……僕が、やったんだ」
コウは興奮を抑えることができなかった。大人ですら相手にできないような猛獣を、自分一人で狩ったのだ。
笑い出したい衝動をぐっと堪えて、コウは獣を背負い、集落へと戻った。自分の体よりも一回り以上大きなその獣は、重さもあるはずだが、コウは不思議とそれを感じなかった。
「コウ、それ、お前が狩ったのか」
父が驚きを隠せない様子で言った。父だけではない。母も、集落も他の人たちも、信じられないといった様子でコウを見ている。
「そうだよ。僕がやったんだ。お父さん、すごい?」
「すごいなんてものじゃないさ。集落の大人でも手こずるのに、こんなでかいものを……。偶然だとしてもすごいぞ。こいつ一匹で十人は食える」
父親はコウがたまたまこの獣を仕留められたと思っているようだった。無理もない。こんな小さく臆病な少年が森の主とも言える猛獣を仕留めたなど、偶然でなければなんだというのか。
コウは大人たちの態度が不服だったが、何も言わなかった。また狩ればいいだけだと思っていたのだ。毎日毎日大物を狩れば、誰も偶然だとは言わなくなるだろう。
コウはそれから毎日、大物を狩ってきた。あの巨大猫をはじめ、熊や狼など、多くの猛獣を狩った。小さな体に大きな獲物を背負って帰ってくる姿に、集落の人々は驚き、そして彼を褒めそやした。
「コウは集落の希望だ」
誰かがそう言って、皆がそれに同調した。食料の不足にあえぐ小さな集落にとって、コウの存在はまさに救世主であった。
そしてコウはいつしか、集落の長よりも強い影響力を持つようになった。