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純然たる驕傲編 最終話

著者:雪路よだか 様(ココナラ

企画・原案:mirai(mirama)

 コウは叫び続けた。強い力を。もっと強い力を。人も自然も、何もかも支配できるような力を。

 木々が揺れ、小さな動物や虫が驚いて飛び出していく。そんな中、逃げることなくコウに近づいていく複数の影があった。

 肉食獣の群れだった。今年の冬はひどく寒かったから、十分に食糧が得られず腹を空かせている。一匹あたりの大きさは大したことはないが、数が多かった。

 ――僕なら、こいつらにだって負けない。

 コウは獣の爪が届くまでの一瞬で、そう考えた。本心からそう思っていたのかは分からない。意地だったのかもしれない。この獣の群れを一人で倒せば、きっと自分はまたやり直せる。そんな気がしたのだった。

 もう二度と、やり直すことなどできないというのに。

 コウは襲い来る獣をまず一匹、懐に忍ばせた刀で殺した。続いてもう一匹の牙を躱し、胸を一突き。

 しかしコウは、その獣の後ろに、別の一匹が潜んでいることに気づくことができなかった。

 不意の一撃をコウは躱せなかった。爪が肩に食い込み、首筋に牙が立てられた。

「――!」

 コウは叫ぼうとしたが、喉をやられてしまっていて、ひゅー、ひゅーと息の洩れるような間抜けな音しか出すことができなかった。

 飢えた獣は人の気持ちなどまるで考えてはくれない。コウがもがいている間にも、他の獣たちがまた襲ってくる。腕を噛まれ、足を噛まれる。肉を噛み千切られ、血を飲まれる。猛烈な獣臭さを感じていたはずなのに、いつの間にか感じなくなった。自分の血の臭いも。そこでコウは初めて、己の鼻がもうなくなってしまっていることに気づいた。

 いつの間にか、痛みももう感じなくなってしまっていた。薄れゆく意識の中、走馬灯のように――いや、これは紛れもなく走馬灯なのだ――これまでの記憶が次々とコウの頭に蘇っていく。

 あの日、朱い蝶に導かれ、コウは朱い石を見つけた。

 その石を拾うと、途端に強くなったような気がして……勇気が湧いてきた。あんなに怯えていた狩りもまったく怖くなくなって、大人顔負けの大きな獣を一人で狩った。

 それからは人々に羨まれ、憧れられ……己が王になったようで、誇らしかった。

 本当に王になるまでは、良かったのだ。

 コウの頭に浮かぶのは後悔ばかりだった。妻と娘を大切にしていれば。ジュウとレイと協力していれば。

 純然たる驕傲に、溺れなければ……。

 コウの頬を一筋の涙が伝った。それから、コウの意識は急激に遠のいていく。


 ふと、一つの紅い光が現れた。それはあの日コウが見た朱い蝶だった。

 コウはもう、その朱い蝶を見ることはできない。それを知ってか知らずか、朱い蝶はコウの周りを飛び回る。まるで、コウの死を見届けるかのように。

 舞い疲れたのか、やがて蝶は飛び立った。それを合図とするかのように、コウの意識も途切れた。

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