放って どうぞ 好きなところへ
この場所では皆
白い服を着る決まりなのです
ある日
白い服を着た
初老のお偉い女の方が
人工的な笑みを浮かべ
皆を講堂に集め
言いました
「神であるあの方に
愛の手紙を書きましょう」
と
「神の使いである伝書鳩が
あなた方の愛を
あの方に届けてくださるから」
と
私は慄きで身体が
震え上がるのを感じました
常日頃から思っていました
何をもってあの方を神だと
皆は嬉々として
便箋にペンを
走らせていましたが
私の
強制的に
書かされた
愛の手紙は
白紙のままです
私は白紙のまま
便箋を封筒に入れました
どこから集めてきたのでしょう
おびただしい数の鳩を
白い服を着た男達が
籠に入れ
持ってきました
鳩はけたたましく
鳴いています
私は
沢山の愛の手紙とやらを
届けにきた鳩達に囲まれ
自分を神だと
思いこんでいる
あの方を
想像すると
ゾッと身震いがしました
鳩は何をするのか
わかっているのか
わかっていないのか
けたたましく
鳴いています
私は1羽の
静かに佇む
無機質な瞳をした鳩と
目が合いました
便箋を封筒に入れる
手が震えました
その手紙を
目が合った伝書鳩に
渡します
伝書鳩に私の手の振動は
伝わったでしょうか
伝書鳩はガラス玉のような
赤い瞳で
無言のまま
ひとしきり
私を見つめたあと
目にも止まらぬ速さで
飛び立ちました
伝書鳩よ
あの方に届けずに
そのまま
どうぞ
好きなところへ
果てない海へでも
深い森へでも
透き通る湖にでも
白紙の愛の手紙を
放って
どうぞ
好きなところへ
お読みくださりありがとうございました。




