プロローグ 虫
目線「ノミト」
ノミトが生まれ落ちた時、彼の母リカコは自分が生んだ子供にこう言った。
「まるで虫のように目障りな存在だ」と。
ノミトの母親は虫が嫌いで、潔癖症であった。
部屋の中で見かけると、鬼のような形相をしながら、叩き潰す事がよくあった。
虫が入らないように蚊取り線香を焚いているが、それはなぜか効果がなかった。
だから、家の中はいつもその匂いでじゅうまんしていた。
虫を潰すたびにリカコはノミトに言った。
「お前は虫のように要らない存在だ」、と。
だからノミトは気配を殺すようにして、ずっと生きてきた。
父は母程存在感がなくて、たまにしか家にいない。
そのため、リカコにはいないような扱いをされていたから、それを参考にしたのかもしれない。
そんなノミトが、異世界召喚を経て誰からも見えなくなるのは皮肉以外の何物でもなかった。
けれど、クラスメイト達は優しく、決してノミトをいないものとして扱ったりはしなかった。
そんな彼らのためになろうと思ったノミトは命をとして邪神と戦い、そして勝利の一つとして戦いに貢献した。
ノミトとしてはあの戦いで命を落としたとしても後悔はないつもりで、生き残る事などは眼中になかった。
だから平和になった世界でやりたい事など思い浮かばず、ただ勇者という役割を果たし、求めに応じるまま生き続けている。
そのため、帰還の方法が分かった時、元の世界に帰る理由のないノミトは、異世界に残ったのだった。




