第6話 国王の決定
突然現れた少年にその場は騒然となった。
一番混乱したのは、私とオスカーだ。
8年前に行方不明になったアイオン王子が突然現れたのだ。
私は『処刑エンド』を思い出した衝撃の後に……。
愛しいアイオン王子が戻って来たことに頭がいっぱいになった。
大好きだった。
優しいスカイブルーの瞳はそのままに凛々しく成長している。
私は彼がそこに居るだけで、たまらない気持ちになった。
私は彼が好きで、本当に好きで……。
私は泣き出した。
アイオンがハンカチで優しく目元を押さえてくれる。
「泣かないで、ティアラ」
幼い時よりも低くなった声で、優しく私の名前を呼ぶ。
本当に帰って来たんだ。
私は、嬉しくてはらはらと泣き続けた。
その後、最初に混乱から回復したオスカーが手配をして、私とアイオンとオスカーの三人は学校から城に移動した。
アイオンは、魔物に襲われたショックで記憶喪失になっていたらしい。
親切な夫婦に助けられてその家の子どもとして育ったが、突然思い出した。
そして、学校の制服はオスカーのものを借りたのだと言う。
確かに、オスカーのクローゼットから一式無くなっていたらしい。
なぜ城ではなく学校に現れたのかと、オスカーがアイオンに聞いた。
「ティアラに会いたくて……」
ティアラを見て微笑んだ。
ずきゅーん!
何て愛しい笑顔なんだろう!!
アイオンもまだ私の事が好きなのだ!
私は舞い上がった。
そして、その時はもうアイオンの事しか考えられなくなっていた。
だがその後、アイオンとオスカーの父であるルーカス国王と、私の父であるロッシーニ公爵が話をして決めた内容に……私たち三人は青ざめた。
ルーカス国王は言ったのだ、オスカーは次期国王に決定しているのだと。
だから、いまアイオン王子が戻ってきても国王にはなれない。
アイオンは青ざめた。
アイオンが国王になるはずだった。
王位継承権はアイオンが一番上のはずだ。
アイオンが理由を求めた。
まず、1つ目にアイオンは王になる教育を受けていない。
平民に育てられたアイオンが優秀なオスカーよりも成績をあげられるとは思えない。
だから王には相応しくない。
もう1つの理由が、オスカーはガンダルン国のエマ姫と婚約していることだ。
ガンダルンは今の第1王妃が聖女で、その『聖女の能力を受け継いだ姫』を戦えない国スライシアは絶対に王妃に迎えなければならない。
エマはオスカーが気に入っているらしい。
この国の婚姻は女性の意見が尊重されやすい。
だから、エマが結婚しないと言えば『聖女の能力を受け継いだ姫』は別の国や別の人間に嫁いでしまうかもしれないのだ。
だから、エマに気に入られ、エマと婚約しているオスカーが次期国王であることは覆せない。
国王の話を聞いたオスカーは、ガンダルンのエマ姫ではなく、マリアと結婚したいのだとうったえた。
「その娘は平民だから王妃ではなく、側室でいいだろう。お前は王族なのだ」
国王が厳しい顔で言った。
オスカーは青くなりだまりこんだ。
私はゲームの内容と違う展開にびっくりした。
マリアは王妃になって、幸せに暮らしたのだ。
つまり、ハッピーエンドだったはずだ。
側室になった訳ではなかったはずだ。
なんかゲームのシナリオと違う??
では、私は王妃になれなくていいので、アイオンと結婚したいと言った。
そうすれば『処刑エンド』は回避できるし、私はアイオンと結婚できる。
だが、私の父が言ったのだ。
公爵家の娘で、王妃になる教育を受けているティアラが一番我が国の王妃に相応しいと。
私は心の中で父に『ハゲろ!』っと悪態をついた。
我が父親は娘の気持ちよりも、家の繁栄を望むらしい。
エマ姫が第1王妃でティアラは第2王妃にしたいと言うのだ。
私は青くなった。
私はアイオンが好きなのだ。