第5話 僕のティアラ
(アイオン視点)
僕は王都に戻るとまず、城に向かった。
現状を確認するためだ。
『存在を消す魔方陣』を使って城に入るとまず、王妃の私室に向かった。
だが、僕はそこで力が抜けた。
僕の母を殺した第1王妃だったローレアはそこには居なかったのだ。
調べるとローレアは流行り病で亡くなっていた。
スライシア人はとある流行り病で命を落とす者が多い。
その流行り病だと気がついた時には、薬が不足していて間に合わないことがよくあるのだ。
因果応報だ。
僕の母を殺した女はもうここにはいない。
僕の復讐は相手が死んでしまっていた為に、気持ちが宙に浮いてしまった。
今さら王子として城に戻る理由もない。
『魔物の森』に帰ろうか……。
僕は、婚約者だったティアラが幸せに暮らしている事を確認して森に帰る事にした。
ティアラの屋敷は昔と同じ場所にあった。
『存在を消す魔方陣』を使ってティアラの私室に忍び込んだ。
彼女は美しく成長していた。
サラサラの長い髪は美しいブロンド。
意志の強そうな凛とした青い目。
そして美しい立ち振舞い。
僕はもう1度彼女に恋をした。
彼女に触れたくてしょうがなかったが、触れれば『存在を消す魔方陣』が解除されてしまう。
僕はしばらく彼女を眺めていた。
彼女は毎日学校に行っていて、ほとんど家には居なかった。
僕は学校にも行きたかったが、学校は人が多い。
誤って人に触れると『存在を消す魔方陣』が解除されてしまう。
だから、学校に居ても不自然ではないように城の弟の私室から予備の制服を借りた。
そして、左ポケットに仕込んだ『存在を消す魔方陣』を発動してティアラと一緒に学校に行ったのだ。
僕は、最初は突然はじまったティアラとオスカーの言い争いに呆然としていた。
そして、ティアラが言ったのだ。
「でも! その子の家柄は王妃にはふさわしくないわ! 私は貴方の婚約者なのよ!」
僕はがく然とした。
僕のティアラが弟オスカーの婚約者!
考えてみれば、自分が16才ならティアラも16才なのだ……ティアラに婚約者が居ないはずがない。
だが、まさかオスカーがティアラの婚約者だとは思わなかったのだ。
そしてオスカーは言った。
「ティアラは王妃になりたいだけで、俺を見ない。アイオンの幻ばかりを俺に追い求める! うんざりなんだよ! だったら、さっさと婚約を解消すれば良かったんだ!」
オスカーの言葉で僕は、ティアラはまだ僕の事が好きで、王妃になりたくて、オスカーとの結婚は望んではいないのだということを理解したのだ。
僕は決意した。
それなら僕は、僕のティアラの為に王になろう。
そして、ティアラを王妃にしてあげるんだ。
オスカーがティアラに歩みより肩をつかんだ。
僕は『僕のティアラ』に触れるその手が許せなかった。
僕は、ポケットの右側にある『解除して風で相手を吹き飛ばす魔方陣』を起動して、オスカーをはね飛ばす。
そして『存在を消す魔方陣』を解除して叫んだ。
「ティアラは僕の王妃だ!」