第3話 森の家2
(アイオン視点)
僕は成人になる年に戻り、ティアラと結婚してスライシア国王になるんだ。
それまでに戦えるようになる。
父さんは魔方陣を教えてくれると言った。
僕は城の神官でさえ魔方陣を使っているところをみたことがない。
父さんは本当にすごい人だ。
僕は必死で父さんから魔方陣を習った。
8才で森に来て、16才の誕生日には森をでるのだから8年しかない。
僕が父さんから習った魔方陣はふたつ。
①『解除して風で相手を吹き飛ばす魔方陣』。
もし捕まってたら『解除』で相手は力が抜けて手を離す。
『吹き飛ばす』のは軽く押されてよろけるくらいの力だ。……殺傷能力はない。
②『存在を消す魔方陣』。
自分が自分以外の人や魔物に認識されなくなる。
ただし起動時に触れている人間は一緒に存在が消える。
実行後に人間や魔物に触れると効果が終了する。
つまり①②と続けて使って、相手を吹き飛ばして、存在を消して逃げるという逃走用の魔法陣だ。
この二つだけでも複雑で僕が間違えずに複写できるようになるのに5年以上掛かった。
少しでも違うと発動しない。
僕は頭を抱えた……これでは何もできない。
魔方陣は僕が思うよりも複雑だった。
魔方陣は紙に書いて持ち歩き、魔方陣に魔力を通して起動する。
父さんは『魔方陣の本』を常時ポーションポーチに入れている。
手の平大の小さな厚い冊子だ。
最初はあれを貰えばいいのだと思った。
だか、読めないのだ。
父さんの魔方陣は起動条件があったり、使い方が特殊で読めないなら全部記憶するしかない。
さらに何度か起動すると部分が消えたりして、起動しなくなるらしい。
だから読めるようになり、複写できるようにならないとほとんど使えないのだそうだ。
そもそも、父さんは僕に攻撃魔法を教えるつもりはないみたいだ。
結局、父さんから教えて貰えた魔方陣は二つだけだったが、普通の魔法はかなり使える様になった。
癒しも使えるからスライシアでは神官なみだ。
しかも、おまけだと言って父さんが『癒しの魔方陣』を描いたものをくれた。
魔法の癒しよりも効果が高く、欠損以外はほとんど治せるらしい。
その魔方陣は最初に習った2つの魔方陣よりも大きく更に複雑だった。
複写できるようになるまで何年掛かるだろう……。
そうこうしてるうちに、僕は森をでることになった。
僕は、この8年間父さんが結界を張っている家と庭、畑以外の場所に行ってない。
だから8年ぶりに外にでたのだ。
しかも、一瞬でスライシア王都の外壁の前に立っていた時にはびっくりした。
父さんは『魔物の森の家の存在』『魔方陣について』『セレナとリッカルドについて』は誰にも言わないで欲しいと言った。
「行っておいで」
「でも僕、王都の許可証をもってない……」
王都に入るには許可証が必要だ。
「ばかだな『存在を消す魔方陣』を使えばいいんだよ」
父さんはにやりと笑った。
逃走用以外の使い方があるらしい!
あれはセットで使って逃走用だと教えられたから、1つで使えると思ってなかった。
そして、いつも母さんがやるみたいにぎゅっと抱きしめられた。
「こっそり行って、街に家族が誰も居なかったら帰っておいで。うまく街に戻れてもそのうち報告においで」
『転送魔方陣』の紙をくれた。
それはこの場所から『魔物の森の家』に跳ぶ魔方陣だ。
僕は鼻の奥がつーんとした。
泣きそうだ。
「父さんありがとう・・・行ってくるね」
僕は手を振って、マントの左側に仕込んだ『存在を消す魔方陣』を起動した。