第2話 森の家1
(アイオン視点)
「ライアン、いってくるね!」
母さんが僕をぎゅっと抱きしめる。
これは母の国の挨拶なのだろう。
いつも狩りに出かける前後にする。
いつも父さんと母さんは、昼間は狩りにでていてほとんど家に居なかった。
母さんは『セレナ』という名前だ。
燃える様に赤い髪をした、ガンダルン人。
ライアンと言うのは、彼女の子どもの名前で、ここには居ないので多分亡くなったのだろう。
母さんは亡くなった自分の息子に似ているから僕を拾ったのだ。
あの時、僕は死ぬんだと思った。
手首、足首を拘束され、更に腕を腰に固定する縄がかかっていた。
馬から落ちてあちこちが痛かった。
僕を抱えて一人馬で移動していたガンダルン人の男は、熊の様な魔物と移動しながら戦闘している。
僕を抱えたままでは邪魔だったのだろう。
僕を馬から落としたのだ。
かなり苦戦しているようで、戦闘している音が段々遠ざかる。
僕は今のうちに逃げようと思い、縄を外そうともがいていた。
狼型の魔物が木の影から数ひき現れた。
そして、2匹が同時に僕に食らいついた。
僕は何かを叫んだ。
生きたまま食べられるのだ。
ざしゅっと音がして僕に食らいついていた狼は僕に食らいついたクビだけはそのままに絶命していた。
痛い!痛い!痛い!
のたうち回る僕をみてその人は嬉しそうに言った。
「ちっちゃいライアンが居る!」
あとから来た父さんが癒しをかけてくれて、僕は2人の家に運ばれた。
「子どもがなんでこんなところにいたんだ?」
父さんに聞かれた。
「母が殺されて、自分も殺されかけた……。」
父さんは家まで送ろうと言ったが、僕は帰れないと言った。
城に戻れば、母という後だてを失った僕はまた殺されるだろうと思った。
僕は、詳しくは話さなかった。
父さんも母さんも詳しくは聞かなかった。
父さんは名前を『リッカルド』といった。
父さんはたぶん僕と同じスライシア民だ。
華奢で綺麗な顔。
長い銀髪を一つに三つ編みにしている。
ガンダルン人とスライシア人が夫婦なのは珍しい。
そして、父さんはスライシア人なのに魔物の森で暮らしているのだ。
スライシア人は戦闘種族のガンダルン人と違って魔物と戦えない。
普通ならば、魔物の森に入ることさえできない。
だから、僕はお願いしたんだ。
「僕は、母(第二王妃)を殺した人間に復讐がしたい。だから、戦い方を教えて欲しい」
だけど、父さんはクビを振って言った。
「復讐しても何も得られるものはないよ……それに子どもではあの男に勝てないだろう?」
父は、熊と戦っていたガンダルンの男を見たらしい。
ガンダルン民は戦闘種族だから身体が大きく、力も強い。
確かに今は勝てないだろう……。
だけど僕が復讐したいのは、殺害を実行した男じゃない。
王妃の部屋にあの男を案内した第1王妃のメイドでもない。
それを命じた第1王妃だ。
僕は『僕とティアラ』を守りたい。
「守りたい女の子がいるから……」
そういったら、父さんが成人まではここに居て、守れる様になればいいと言った。
「私をお母さんだと思っていいよ!」
ぎゅうっとセレナに抱き締められた。
そうして僕はここで暮らすことになった。
名前も名乗らなかった。
だから、『ライアン』と呼ばれている。
そして、僕は『魔物の森に住む賢者』の弟子になった。