第17話 王妃
家に帰るとすでに2人は起きていた。
母さんが僕をぎゅっと抱きしめた。
「おかえり!ライアン!」
満面の笑みで抱きしめられて、僕は懐かしさに泣きそうになった。
まだ1年もたっていないのに、長い時間がたったような気がした。
「おかえり」
父さんにもぎゅっとされた。
そして、僕は父さんに尋ねた。
「ここからガンダルン王都へ魔方陣で移動することはできる?」
父さんは、ちょっと考えたあとうなずいた。
「できる。……だがあの男はもう死んでいる」
あの男とは……僕の母を殺したガンダルン人の事だった。
父さんは僕があの男に復讐に行きたいのだと思ったらしい。
父さんはあのガンダルン人に印をつけておいたと言った。
そして、あの男はあの後、魔物の森から再度スライシアに戻り、しばらくは動いていたが、今は多分死んでいるだろうと父さんは言った。
その『印をつける魔方陣』は動力源が対象の体温で、対象が生きていれば位置が特定できるらしい。
対象が死ぬと動力源を失い印も消える。
普段は気になる魔物に使用するものらしい。
父さんは……相変わらずすごい人だ……。
僕はスライシアの王子で、アイオンという名前であること、助けられた時にすぐに戻らなかった理由、戻ってからの話を2人にした。
父さんは難しい顔で話を聞き、母さんは笑って話を聞いてくれた。
「アイオンはスライシア国王になりたいのか?」
父さんは聞いた。
「なりたい」
僕はうなずいた。
なってティアラを王妃にしたい。
「その女の子が居なくても?」
僕は首を横に振った。
「ティアラが居なければ国王になる意味がないから……」
父さんはうーんと難しい顔でうなった。
「女の子の為にスライシアの王として国を背負っていくつもりなのか?」
父さんに聞かれて僕の目的はティアラを王妃にすることであって、僕が王になることではないと気がついた。
「その子、王妃になりたいとか変わってるよね~私は頼まれてもなりたくなかったけどな」
母さんが言って、父さんが慌てた。
王妃にと請われたことがあるみたいな……。
そして僕は気がついた。
ガンダルンでは『セレナ』も『リッカルド』も創世記にでてくる神様の名前だからポピュラーな名前ではある。
ただ……『ライアン』は珍しい名前なのだ。
『ライアン』という王子の母が『セレナ』というガンダルン王族に僕は心辺りがあった。
確か前の聖女の孫で、当時国最強の騎士だった。
赤い髪のセレナ王妃……。
僕は驚いて母さんをしげしげと見た。
つまり『ライアン』はガンダルンの王子で、今はガンダルン王都にいて、母さんと離れて暮らしているということらしい。
「……まぁ、だからガンダルン王族に伝手が無いわけじゃないんだが……。」
父さんが難しい顔でため息をついた。
「えっ!?本当に?」
僕は驚いて叫んだ。
実際、ガンダルン王都に行けたとして、エマ姫とは面識がないのだ。
ほぼ不可能な事をしようとしていた自覚がある。
だがガンダルン王族に伝手があれば紹介してもらえるかもしれない。
「でも、好きな子の為にエマ姫に好かれようっていうのがなぁ……ダメだろうな」
僕は落ち込んだ。
「その子に王妃をあきらめてもらった方が早くないか?」
「ティアラに王妃をあきらめてと言ったら、僕の父と……たぶん彼女は現スライシア国王と結婚してしまうと思う」
三人でうーんと唸りながら考えた。
「とりあえず、たぶらかすのは駄目だけどエマ姫に会いに行く?たぶらかさなくても、気にいられるかもしれないし」
母さんが気がるに言った。
父さんはまだうーんと唸っていた




