第1話 幼少期
「僕、ティアラをお嫁さんにしたい」
お城の中庭でアイオン王子が私にプロポーズしてくれた。
アイオン王子の綺麗なスカイブルーの目は真剣だ。
差し出された薔薇の花を私は受け取って微笑んだ。
「私がんばってスライシアの王妃になるわ」
アイオンはユリオックのアメリア姫を母にもつ王子だ。
ゆくゆくはこの国スライシアの国王になる。
私は王妃になってアイオンを支えて行こう。
私はその時大好きなアイオンの為に、頑張ると決心したのだ。
ティアラはスライシアの公爵家の娘だ。
家柄は問題ない。
アイオンの父であるルーカス国王も認めてくれて、2人は五歳で婚約したのだった。
アイオン王子と私が16才になれば結婚ができる。
私は王妃になるための準備をはじめた。
礼儀作法、ダンス、知識……。
『アイオンと結婚して、王妃になること』が私の夢だった。
ところが私の夢は叶わなくなってしまった。
その朝、メイドが亡くなっている第二王妃アメリアを見て悲鳴をあげた。
そして、アイオン王子はこつぜんと姿を消したのだ。
ずいぶんあとに捕まった、そのガンダルンの男は言ったのだ。
王子は『魔物の森』におとしたと。
スライシアから逃げる為に、『魔物の森』を抜けてガンダルンに戻ろうとしたらしい。
アイオン王子を殺すつもりは無かったが、魔物に襲われて戦闘になり、縛り上げて運んでいた王子を落としたのだという。
戦闘が終わり、その場に戻ると王子を縛っていた縄と血痕だけが残っていた。
魔物はその場で王子を喰ったのだろう。
男はすぐにあきらめてスライシアに戻った。
そして捕まり処刑された。
誰の指示だったのかは言わないままに……。
8才のアイオン王子が『魔物の森』で生存しているとは誰も思わなかった。
私は生きていると信じていた訳ではなかったが、そのまま王妃になる教育を何も考えず受けて居た。
そして10才を過ぎて、父からアイオンの弟であるオスカーとの婚約を告げられた時は、私はそんなつもりはない!と泣いた。
オスカーは私の二つ年下で、アイオンが居ない今は次期国王だ。
父は私の夢は『王妃になること』だと、都合のいいように解釈していたらしい。
だが、アイオンが居ないなら誰と結婚しても一緒だろう。
私は11才でオスカーと婚約した。
オスカーは第一王妃でスライシア貴族サイトリック伯爵の娘ローレアが母だ。
第二王妃である隣の国ユリオックの姫アメリアを母にもつアイオンとは異母兄弟になる。
彼は、容姿も性格も愛しいアイオンとは真逆だった。
アイオンは青みがかった黒髪だったが、オスカーはスライシアの母ローレアに似た金髪で美しい容姿をした少年だった。
私はオスカーが昔からあまり好きではなかった。
彼は記憶力がよく、私とアイオンが必死で覚えた文字や国の歴史を二才下なのに先に覚えて、私たちをせせら笑ったのだ。
そのくせ、努力が嫌いですぐ勉強から逃げ出していた。
オスカーはそんな王子だった。