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4. 使者と従者

共和国サイドです。

「一体何が起こったのか……」


 父である元首の伝令を受けて、パリックス家の長男であるレックスは議事堂の廊下を急いでいた。普段なら、父に直接呼び出される事は無い。というか、ここ数年公務以外で会う事など無かった。

 

 今夜は弟の通う国立高等学院で、卒業記念ダンスパーティーが行われているはずだった。どうもそこで弟がやらかしたらしい。詳しい内容はまだ聞いていないが、伝令を伝えて来た騎士の様子からは、只ならぬ様子が伺えた。


 パリックス家には5人の子供がいる。双子の長女と次女、その下に長男である自分と次男のハインツ。一番下にはまだ幼い妹がいた。双子の姉達は二人共フレンド共和国の議員を務めている。パリックスの女傑と評判の優秀な姉達だ。きっと彼女等にも伝令は行っているのだろう。

 レックスはハインツとは久しく会っていなかったかが、嫌な予感で一杯だった。





「レックスです。只今参りました」


 元首の執務室にはすでに双子の姉達、カレンとローズの二人が揃っていた。パリックス家の特徴である金色の髪だ。ただ、双子姉の髪はハインツと同じ緩い癖が入っているが、レックスは癖の無い真っ直ぐな金髪だ。家を離れてから伸ばしたままの髪は、すでに腰下まで長く伸びている。そして双子姉とレックスの瞳は、母親と同じ灰色がかった緑色だった。フレンド共和国の社交界では、美形一族としての誉れも高ったが、そう言う世界と離れたレックスには寝耳に水の話だった。


「遅いわよ」


 腕組みをしてソファに座っているのが長女のカレン。迫力が圧となって凄い。


「お久し振りね、レックス」


 ドアを開けて招き入れてくれたのが次女のローズだ。こちらは表面上は柔らかく見えるが、喰え無さ一杯だ。


「申し訳ありません。これでも精一杯急いできたのですが。父上、お久し振りです」


 カレンに目線で示されたソファに座ると、オーエンが憔悴した表情を隠そうともせずに三人の顔を見廻した。


「ハインツが、煌々姫様との婚約を勝手に破棄してしまった。それを煌々姫様は承知して、璃国へお帰りになってしまった」


 深い溜息と共にオーエンがそう告げると、カレンの目がかっと見開かれた。


「婚約破棄? 今日は卒業記念のダンスパーティーが行われたはずですよね? そんな日にハインツは婚約破棄をしたのですか!? パートナーでしょうに!?」


「したのだ。それも広間の真ん中で、来賓や学生達がいる公衆の面前でだ」


「「はいっ!?」」


 姉二人の声が被った。


「だから、ハインツは公衆の面前で煌々姫様に、婚約破棄を言ったのだ。それも、別の少女を腕に抱いて、煌々姫様がその娘を虐めたとかを理由にな。婚約には最初から乗り気でなかったとか、言い腐ったようだ」


「んまあ! 煌々姫様に何て事を!! 馬鹿な子ほど可愛いと思っていたけど、本当の大馬鹿者だったのね!!」


 カレンが額を押さえ、ソファに崩れるように身を埋めた。


「そ、それで煌々姫様はそれを受け入れてしまわれたのですか? って言うか、ハインツの馬鹿はどこにいるんですか!?」


 ローズも血の気の失せた顔で問いただす。


「煌々姫様は、受け入れてしまわれた。すでにダンスパーティーの会場から竜人と共に飛び立ってしまった……ハインツは別室に控えさせている。事の大きさに驚いているようだ」


「……やっぱり、ハインツには荷が重かったのでしょうか。今となっては後悔ばかりですけど……」


 カレンとローズの二人がチラリとレックスを見た。ほんの一瞬だけだったが。


「ハインツの事は今更どうでも良い。問題はその後だ。煌々姫様は去り際にこうおっしゃった。『開戦』と。煌々姫様は、フレンド共和国に開戦を宣言されて璃国に向かわれた。このままでは、璃国と戦争になってしまう。何とか回避しなければならない」


「レックス。お前が璃国への使者となってくれ。パリックス家として責任を取らねばならない。親書を持って開戦を阻止してくれ。璃国が本気になれば、このフレンド共和国は終わりだ」


 三人の視線がレックスを見詰めている。さすがに不肖の弟がしでかした事が国の存亡にかかわる事になるのなら、何とかしなければならないが……


「私が、ですか?」


「そうだ。お前だ、レックス」


「……承知しました」


 断れない圧と、自身の責任感からレックスは頷くとソファから立ち上がった。


「璃国に向かう準備をします」









 レックス・ジェスト・パリックスは、フレンド王国の名門パリックス家の長男に生まれ、女傑と評判の姉達に可愛がられて育った。本来であればパリックス家を継承する跡取り息子として、政の世界に生きるはずであった。


「因果なものだな」


 レックスは準備をする為、元居た場所に急いでいた。長い廊下をたった一人で歩んでいるとポロリと独り言が零れた。




 


「レックス様!」


 議事堂の廊下を抜けて、最奥にある白亜の神殿に向かった。高い階段の上にそびえる神殿は、月夜に照らされて神秘的に見える。

 神殿の階段中腹に座り込んでいた少年が、レックスの姿を認めて立ち上がって声を上げた。白銀に輝く髪に、琥珀色の瞳が美しい少年だった。勢いよく立ち上がったせいで、長い三つ編みの髪が大きく跳ね上がった。そしてその勢いのまま、彼はレックスの傍に駆け下りて来た。


「イン。璃国に向かうことになった。支度をして直ぐに出るが、君も一緒に行ってくれるかい?」


 レックスがインと呼んだ少年の頭を撫でて言った。


「レックス? 貴方は僕の主でしょ。一緒に来いと命令してくれれば良いだけだよ?」


「うん。でも、ほらやっぱり君にも関係あるし、行ったらなかなか帰れないと思うから念のため」


 インが目を細めてレックスを見詰める。その瞳は月明かりを映すと、鎌の様に細く収縮した。まるで猫の瞳にも、爬虫類の瞳ともどちらともいえない不思議な瞳だった。


「レックス。貴方はこの神殿の聖魔術師で、フレンド共和国一番の魔力持ちでしょ? 貴方が璃国に行くというのなら、当然僕も一緒に行くよ。だって、貴方の傍が気持ちが良いから離れるなんて考えられないしね?」


 レックスはフレンド共和国の神殿を預かる聖魔術師だった。幼い頃に魔力持ちであることが判明し、すでに共和国で希少となった魔力持ちの一人として神殿仕えになったのだ。本来ならばパリックス家の長男としての役割を全うしなければならない立場であったが、二人の姉が政に優秀であった事と、衰えつつあった共和国の存亡を食い止めるため、家名を捨てて神職に身を投じたのだ。随分昔の事だったが。





「ところで、随分前から()()の気配がしないんだけど。関係ある?」


 歩くレックスの腕に掴まりながら、インは楽しそうに上目遣いにレックスを見た。


「ああ。道中詳しく話すが、煌々姫様が竜人二人と共に璃国にお帰りになってしまった。このままでは戦争になるかもしれない。それを止めるために璃国に行く」


 足早に歩くレックスの腕が急に軽くなった。インが彼の腕から手を離し、少し後ろで立ち止まっていた。


「イン?」


 レックスが振り返ってインを見た。


「それって……すっごく、ヤバイんじゃない。何をヤラカシちゃったの?」


 インが顔を(しか)めて、レックスの隣を静かに歩く。さっきまでの明るい様子は影を潜め、何か思案している様に見える。


「すでに煌々姫様は、竜人の背に乗ってここを飛び立っている。すぐに出発しなければならないが、イン、頼むが一緒に彼等を追ってくれないか?」


「……それは、命令?」


「……お願いだ。今の僕には、君の力が必要だ」


 レックスは一瞬だけ立ち止まり、インの不思議な瞳を見詰めて言った。


「だ・か・ら、命令しろ。()に」



 妙に張り詰めた空気になった。レックスは小さく溜息を吐いて口を開いた。


「イン。私を璃国に連れて行け」





『承知』




 インがそう答えたと同時に、まるで水蒸気の様な煙が立ち上った。そして、一陣の風と共に空間が小刻みに揺らいでパチパチと放電が起きた。






『レックスよ。早う、乗れ』





 そこには、銀色の鱗が眩い竜が翼を広げて現れた。





ブックマーク、誤字脱字報告、ありがとうございます。

感想なども頂けると嬉しいです。

評価ボタンの★も頂けちゃうと、頑張るパワーになります。


金髪ロン毛のお兄様と美・少年の竜の登場です。


もしかして、5話じゃ終わらないかも。

おかしいです。もう4話ですよね?

少しだけ話数が増えるかもです。


楽しんで頂けたら嬉しいです。

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