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5-4 抱いたことの無い違和感

 レッドたちが辿り着くと、そこはひどい惨状となっていた。グリーンたちとトワイライトの戦闘跡が、至る所へ刻まれている。

 頭を掻きながら、レッドが言う。


「これはどういうことだ?」

「……トワイライトが来たんだよねー」


 いつもと同じ口調だが、グリーンは口を尖らせている。

 負けたわけではないが、勝ったわけでもない。非常に機嫌が悪かった。


 あまり話したく無さそうな彼女に代わり、皆月が説明をする。もちろん、少女のこともだ。

 それを聞いたレッドは、トワイライトの殺し方について悩んでいたが、皆月の背負っている少女を見て目を見開いた。


「……なんだ、そいつは」

「さっき言った通りに、保護した少女です」

「少女?」

 誰が見ても少女だ。目を覚ましたらしく、怯えた表情をしている。

 だが、レッドにはただの少女には見えなかった。

 言い表せない違和感に、レッドは困惑する。彼にしては珍しいことであり、それに気付いた上杉が眉根を寄せた。


「どうしたんですか?」

「……よく分からないが、そいつは殺したほうがいい。嫌な予感がする」

「ちょ、なにを言っているんですか!? よく分からずに殺すなんてダメですよ!」


 レッドは気に入らない相手を躊躇わず殺す。だが、それは気に入らないという理由があり、自身が納得してのことだ。

 しかし、今は違う。ただの直感であり、しかも殺さなければならないという感情と、放置しても良いという感情が半々であった。

 だからだろう、皆月の反論へ強く言い返せない。確固たるものが自分の中に無ければ、それを通すことは難しかった。


「とりあえず、レッドさんの直感も、皆月さんの意見も無碍にはできません。なにか起きるまでは、このまま保護するしかないでしょう」


 上杉の折衷案に、皆月は何度も頷く。レッドも不承不承だが頷いた。



 部屋へと戻った皆月は、とても納得がいっていなかった。


「あの、分かるんですよ。この子を保護したのはわたしです。守りたいと言ったのもわたしです。……でも、どうしてうちで匿うんですか!? 本部でいいですよね!?」


 全く持ってその通りなのだが、聞く耳をもつ人はいない。

 両方の情報をすり合わせた結果、少女はハローワールドの精製方法を知っており、トワイライトが取り戻しに来た。そこまでは間違いない。


 だが、本部の牢へ入れることは、上からの指示で拒否されていた。

 本部もバカでは無い。クイーンが襲来した後から、徹底的に本部の強化と、戦力を集め直している。そんな中で、エクスタシーの幹部が狙っている少女を匿ったらどうなるか?

 最悪の場合、エクスタシーが全軍で襲来する可能性すらあるだろう。


 よって、その最悪を受け入れることはできない。できる限りの力は貸すし、ハローワールドの精製方法は知りたい。だが、改装中の本部で匿うくらいならば、渡してしまえばいい、というのが上の方針だった。


 その話を上杉から聞いてなお、皆月は納得できないのだ。子供も守れない大人なんて、恥ずかしくないのかと、彼女は心の底から思っていた。

 皆月が憤る中、上杉は少女へ問う。


「それで、あなたはどうやって逃げて来たんですか?」

「……あの、あたしはハローワールドの精製方法を知っていて、これ以上広めたらいけないと思ったから」

「違います、逃げて来た理由ではありません。どうやって、エクスタシーから逃げ切ったのかを聞いているんです」


 少女が特別な能力を有してでもいない限り、協力者無くして逃げ切ることは不可能だろう。だから、まず知るべきはそこだと上杉は判断していた。

 狼狽えながら少女が答える。


「……アンダーにある、エクスタシーの工場が襲われました。顔は隠していて分からなかったんですが、襲撃者の誰かが、あたしを連れて逃げ出しました。それで、その、飛行機に乗って……」


 この情報に、上杉は眉根を寄せる。アンダーにあるエクスタシーの工場が襲われたのは数日前。そして、その情報は上杉も得ていた。

 少女は嘘をついていない。だが、襲撃者とは誰なのか? ハローワールドの工場を襲撃するということは、周到な計画の元に行われたことだろう。三大派閥であるエクスタシーにそんなことができるのは、同じ三大派閥以外にあり得ない。


 ――敵対した? なぜ? このタイミングで?


 上杉は考える。

 三大派閥は内密に協定を結んでおり、小規模な争いこそは続いているものの、全面戦争は行わないと定められている。それを破ったとなれば、ただごとではない。数億の人が死ぬ戦争になるだろう。


 しかし、上杉の元に、アンダー内で大規模な戦闘が起きているという情報は入っていない。もしそうなっているのだとすれば、あの人工島アンダーは、焼け野原となっているはずであり、本土にも影響が出ている。その情報が入らないはずがない。


 チラリと、上杉はレッドを見る。だが彼は真っ直ぐに少女を見続けていた。


「どう思いますか?」

分からない(・・・・・)


 話の最中も、レッドは少女のことを観察し続けていた。

 歳の割には聡い少女だと思う。薬の精製に携わっていたとしても不思議ではない。

 しかし、なにかが腑に落ちない。その違和感が拭えず、レッドは珍しく頭を悩ませていた。


「……名前は」


 レッドの問いに、少女はおどおどしながら答える。


「ア、アイマ」

 少し悩むも、その名に聞き覚えは無い。エクスタシーは他の派閥と違い、幹部がコロコロと変わる。だからこそ、幹部だと言われれば、そうなのだろうとしか言えなかった。


「珍しいですね」


 皆月の言葉に、レッドが眉根を寄せる。


「なにがだ?」

「いつものレッドさんなら、とりあえず殺そうとするじゃないですか。あ、もちろん止めますよ? でも、そうやって悩んでいるのは珍しいなぁって」

「……」


 それを聞き、レッドも自分がおかしいことに気付く。大抵のことを受け入れられるはずなのに、なぜアイマの存在を受け入れられないのか、と。

 つまり、レッドの範疇外にいる存在なのだ。過去に経験した覚えのない、異質な存在。

それがようやく分かり、レッドは少しずつ理解し始めた。


「ガキなのにガキじゃない。いや、ガキじゃないのにガキなのか?」

「レッド? なにを訳の分からないことを言ってるのさー」


 なにか答えが出そうではあったのだが、そこから先の材料が足りなかったのだろう。レッドは頭を掻き、首を横に振った。


「ダメだ、分かるようで分からねぇ」


 この分からないということが、レッドを非常に苛立たせる。喉の奥に小骨が刺さっているような違和感が、取りされぬまま残り続けていた。

 直感では、始末するべきだと思っている。だが同じくらい、放っておいても良い気がしていた。


 しかし、悩むような時間は与えられない。窓ガラスが割れ、鉄を捻じ曲げて作ったような鳥が、机の上で止まった。


「わ、わたしの部屋の窓がああああああああああ!」


 トワイライトの能力であろう金属の鳥どころではない。部屋の窓が割れた以上、ここは吹きっさらしということになる。ガラスの片付けだって行わなければならない。その事実が、皆月を暗くする。

 金属の鳥が大きく嘴を開く。


「その少女、アイマを、こちらに、渡せ。場所は、指定、する」


 喉の奥にスピーカーが見えている。あそこから音声を発しているのだろう。

 時間、場所を伝えた鳥は、カカカカッと笑う。それを見て、皆月は鬱憤を晴らすように能力を発動させた。

 鳥を象っていたものは、ただの鉄くずへ変わる。


「……あっ」


 声を上げたのはグリーンだ。

 鳥が鉄くずに戻ったことや、先日のヘブンズドアを解いたときのことを思い出し、一つの対抗策を思いついていた。


 大したことではない。トワイライトのどちらかを殺した瞬間、皆月に能力を発動させる。それだけの単純な策だ。

 しかし、そもそもの話だが、皆月という存在がチートなのだ。彼女の存在が、能力がなければ、このような作戦は成り立たたない。あらゆる組織が、彼女に目を付けるのは自然なことだった。


 あの気に入らない双子の鼻を明かせるかもしれないと、グリーンはイシシと笑う。

 それに気付かぬ皆月は、一人ガラスを拾い集めるのだった。

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