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第一章 「マミエ・アイン」 その1

私、マミエ・アインは幼いころから「()()()()()()()()」と自覚しながら生きてきた。



本当に、物心ついたときからずっとそう、だったと思う。

乙女ゲーム『アデルの光』のヒロイン。



『アデルの光』は、まあ、平民ヒロイン(私)が貴族や王子、一般に格式のある家柄とみなされる子息達が通うアデル王国学園を舞台に、身分差や周りからの嫉妬、性格の悪い悪役令嬢だとかその取り巻きだとか攻略対象の幼馴染キャラとかにいぢめられ(笑)ながら、それでもなお咲き誇る美しい愛を攻略対象の男子生徒達と育んで最終的に幸せに暮らすというよくある典型的な乙女ゲームだ。

詳しい設定は自分でもよく分かっていない。だからそんなに丁寧に設定が作られた媒体じゃないんだと思う。


それでも、ヒロインとしての自覚は、しっかり持っているつもりだ。自分の立っている舞台がどんなに粗雑で適当に消費されるものだったとしても、そんな粗悪な世界を回せるのは私だけだ。

私みたいなヒロインって自然に生まれるものじゃなく、誰かに作為的に作られて生まれてくるものでしょ?選ばれしものは、選ばれることを拒めないから。





特に「私ってもうヒロインから逃げられないなぁ」と思ったのは、10年前のとある夜、国家間の紛争によって夜間に城下町に火の矢が放たれ、敵国の兵士が混乱に乗じてなだれ込んできた時。


市中が火の海になり、平民の総数の半分が死に絶えたが―


その日、両親が目の前で惨殺された瞬間に、私のヒロインとしての自意識は確立された気がする。




父親は、火を放たれた家から私と母を逃がして崩れた家屋に取り残された。

焼けこげて崩れていく父親の顔を鮮明に覚えている…と言いたいところだが、当時7歳の私は炭に代わってゆく父親を直視し、見届ける好奇心や勇気、もしくは慈悲など持ち合わせておらず、そんな場面は記憶にない。


母親は…というと、私をよく日曜日に家族で行っていた小さな教会の裏庭の井戸の中へ隠すと、

「絶対に音を出しては駄目、呼ばれても返事をしては駄目、寒いかもしれないけど夜の間は絶対にここから出ては駄目。きっと迎えに来るから」みたいなことを鬼の形相で言い残し、それからもう戻ってこなかった。


それから夜が明け、私は教会…『()()()()()()()()()()()』のシスターに発見・保護され、今に至るのだが、

これを聞いた人々は大抵「かわいそう…」とか「悲しい過去持ち、支えてあげたい」とか思うでしょ?

だから、これこそ私をヒロインたらしめる原因の一つ、「悲しい過去持ち属性」。






そんな過去を思い返して悲しくなるかどうか、と聞かれると、少し考え込んでしまう。そりゃ7年間も生まれてから共に生き、育ててくれた両親には感謝をしているが…、どちらかというと「申し訳ないな」という言葉が合うのではないか。


だってヒロインで両親と関係良好なパターンの方が珍しいじゃない?テンプレートでこういうお話のヒロインの両親は命を失うから、両親の事では、そんな私のヒロインの呪いにて殺された被害者のように感じてしまって変な気持ちになってしまう。




そうして今朝もヒロインすべく、登校にてミステリアス貴族イメージカラー白の「ユキ・サナトリー」様との会話イベントを発生させていたが…、そろそろ学園に着く。校門を彩る季節の花はアジサイ。6月のじめっとした空気を纏った、陰鬱な紫色である。



そうして視界の端に入った植物に対して小さく悪態をついていると、

「あのさ…」と、普段は声をかけてこないので会話のネタをふるのに苦労しているユキ様に話しかけられた。

思わず起こった出来事に内心小躍りしながら、「は、はい!」と精一杯の誠意で答える。



「最近さ…。僕、月曜日って嫌いなんだけど…。

 マミエちゃんが一緒に学校まで行ってくれるから、頑張るかな…って、思える。だから…」

ふわふわの前髪で目元は軽くかくれ、私と同じくらい白い肌を赤らめて、斜め下45°に顔をそむけるユキ様。







あ…、これ、照れる時のユキ様立ち絵だ!やった!見たことない!


ほくそ笑む私の心が踊りまくり。こういう成果が出た時、本当にテンションあがる!イエーイ!!!

会話を進めようとしない人種で、頑張って話題ふっても「…うん」みたいなことしか言わなくて気疲れ凄くて、話してても会話成立しないから、まるでこっちはボール投げてるのに相手は微動だにせず、そのまま落ちていくのをまた自分で拾いに行くみたいな地獄のキャッチボール頑張ってて良かった~~~!!


…心の中で咳払いした後、会話を続ける。耳に髪をかけつつ顔を伏せ、こちらも相手の雰囲気に合わせてみる。

「だ…だから?」

「…これからも、よろしくね」





イベント完遂。これで「()()()()()」くらいにはなっただろうか。


学園内につくとユキ様は多学級の教室へ向かっていったので、見送る為廊下を歩いていく背中を見つめていると、ふっと振り返り、私の方へ一度だけ手を振った。

にこ、という擬音を意識した笑みを浮かべつつ、こちらは大げさに手を振り返す。

あのユキ・サナトリー様から信頼を得た、という事実は何度反芻しても気持ちがいいものだ。今朝はいい朝だったな…♪







さて。



そんな私の上機嫌な気持ちは、この後のHRにてぶっ壊されることになる。

それは、今までの人生では経験したことのない『不意打ち』。


例えるなら『呼んでない悪魔』、『正規ストーリーぶち壊し要員』、

『神が悪意で生み出した負の産物』。






そう。

『転生悪役令嬢』のお出ましである。


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