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苦手な方はご注意ください。

声劇台本【好奇心は天使を殺す】

作者: 銀狼

自由に演じて下さって大丈夫です。

あなたが感じた世界で、何にも囚われずに──


タイトル:好奇心は天使を殺す

作:銀狼


声劇台本 ♂ 1:♀ 1

時間:50~60分


・天使      

・高橋 大空そら


────────────


・天使(♀):

・高橋(♂):


────────────


天使N「『天使』:寿命を終えた人間の魂を天界に導くのが使命であり、魂からその人間の人生、死後直前の感情等を読む事が出来る」


SE:着信音


高橋「はい、もしもし。はい。…え?美咲が?そんな!!…はい…分かりました。すぐ病院に向かいます」



天使M「私は病気で寿命を終えた『山口やまぐち 美咲みさき』の魂と出会った」


SE:走る音


高橋「先生!!……ありがとうございました。あ、お義父さん、お義母さん…」



天使M「不器用な父親と、いつも笑っている母親に沢山の愛情を注いで貰いながら育った彼女は幼少期から病弱で入院生活が多かった」



高橋「美咲……美咲美咲美咲!!…いつまで寝てるんだ?驚かせようとしてんだろ?本当は…本当は…」


◇高橋:その場に崩れ落ちる


天使M「そんな彼女を両親と一緒に支えていたのが、幼馴染であり恋人の『高橋たかはし 大空そら』」



高橋「嘘であってくれよ。頼むから…!」



天使M「彼女の魂はとても綺麗で幸せに満ちていた。特に高橋大空との思い出が多く、彼への愛を胸に抱き、寿命を終えた」



高橋「…美咲。…おやすみ」



天使M「私は高橋の事が気になった。どんな人間なのか、最愛の彼女を失いこれからどう生きていくのか」



高橋「あいしてるよ」



天使M「だから私は──」





◇高橋:棚の上に置いてある美咲の写真を見つめる


高橋「おはよ。…今日は君が眠ってから一年が経ったよ。…俺、仕事辞めてきた。君が居なくても頑張ろうとしたけど、無理だった。……友達から早く立ち直れって合コンに誘われるんだ。けど、君以外を好きになれる訳なかった。俺には君しかいない。…もう疲れたよ。君のもとに行っても良いかな」


◇高橋:ベランダに立つ


高橋「美咲…今行くよ」


天使『死んでも彼女とは会えないわよ』


高橋「だ、誰だ!?」


天使『私達は寿命を終えた魂を天界に導くのが仕事。けど、自殺は寿命を終えたとは言わないわ』


高橋「どこから聞こえてるんだ…」


天使『その行為は命を捨てるという事。だから、その魂が迎える予定だった寿命を終えるまで、導くことが出来ない。それまで、この世を彷徨うのよ』


高橋「意味が分かんねぇよ。お前は誰だ!!」


SE:翼の音


◇天使:高橋の前に姿を現す


天使「自殺なんてやめなさい。そんな事しても彼女には会えないし、喜ばないわ」


高橋「うわぁぁ!?」


天使「初めまして、高橋 大空」


高橋「だ、誰だよ!?…どこから…」


天使「私は……天使よ」


高橋「て、天使?何を言って」


天使「高橋 大空、寿命を終えるまで生きなさい」


高橋「はぁ?さっきから本当に何言ってるんだよ!」


天使「そうすれば、彼女に会えるわ」


高橋「美咲に…?」


天使「えぇ」


高橋「…だからと言って、はい。そうですかって納得出来る訳ないだろ!」


天使「貴方が会いたがっている彼女に会えるのよ?」


高橋「……だったら…今すぐ会わせてくれよ」


天使「それは無理よ。寿命を終えるまで生きなさい」


高橋「生きろって…じゃぁ!俺は後どれくらい生きれば良いんだよ!!」


天使「それを教える事は出来ないわ。けど、まだまだ先ね」


高橋「そんなの!…そんなのただの拷問でしかないじゃないか…」


天使「この世に居ないんだから、いつまでも囚われずに生きたら良いじゃない」


高橋「なぁ…美咲と…美咲と会わせてくれ!!天使なら出来るだろ!?」


天使「死者と会わせる事は出来ないわ。諦めなさい」


高橋「じゃぁ、なんで…なんで俺の前に現れたんだ!!」


天使「彼女が死んでからずっと貴方を見ていたけど、分からないことがあるわ。なぜ、ずっと彼女を引きずるの?」


高橋「なぜって…昔からずっと美咲だけを見てきた。幼い時から一人だった美咲が退屈しないように、寂しくないようにずっと一緒にいた。長期入院を繰り返して、しんどいはずなのに一言も弱音を吐かない美咲を、ずっと支え続けてきた。一時帰宅の度、行きたい場所に連れて行って、食べたがってたもの一緒に食べて…美咲の笑顔が見れれば幸せだった」


天使「貴方の人生は誰のものでもない、貴方のものよ。彼女は帰ってこない。なのに、後悔してどうなるの?それはただの自己満足よ。いくら後悔しても彼女には伝わらない。この世に居ないんだから」


高橋「そんなの分かってるよ…突然現れて!お前に何が分かるっていうんだ!!」


天使「何も分からないわ。けど、貴方達がどれほど愛し合ってたかは知ってる。彼女の魂には貴方との思い出が沢山詰まってた。とても貴方を愛してた。とても幸せだった」


高橋「…俺、ちゃんと幸せになんか」


天使「死ぬ時、貴方に感謝してたわ。こんな私を愛してくれてありがとう。とても幸せだったって。だから、幸せになって欲しいって…」


高橋「そんな事言われても…」


天使「幸せだったからこそ、貴女の幸せを願っている。それが彼女の死ぬ前の願い。それを無下にして良いの?」


高橋「俺に…どうしろっていうんだよ…どうしろっていうんだよ!!」


天使「もう一度言うわよ。寿命を終えるまで生きなさい。そうすれば、彼女に会えるわ」


高橋「…美咲…美咲ぃ…会いたいよ…」


◇高橋:泣き崩れる


(だんだんフェイドアウト)





天使「すっきりした?」


高橋「…はい」


天使「なら、良かったわ」


高橋「…えっと……本当に、天使なのか?」


天使「えぇ。天使よ」


高橋「まだ…信じられない」


天使「仕方ないわ」


高橋「…これ、夢だったりは?」


天使「しないわ」


高橋「…本気で死ぬつもりだった」


天使「そうね」


高橋「何が現実で何が夢なのか分からなくなってきた」


天使「私達が人間の前に姿を現す事は無いから。受け入れるのが難しいのは当然だと思う」


高橋「…なんで…その、現実だとして、俺なんかの前に現れたんだ?」


天使「そうね…好奇心かしら」


高橋「好奇心?」


天使「えぇ。私は山口美咲が亡くなった日から貴方の事を見てた」


高橋「見てた…?」


天使「私達は死者の魂を天界に導くのが仕事なのだけど、死者の魂から人生や、死ぬ最後の願い、感情を知る事が出来るの。彼女の魂は今までに見たことないくらいに綺麗で、幸せに満ちてた。貴方の事で一杯だった。だから、どんな人間なのか気になって見てたの」


高橋「そっか。…けど、やっぱ夢を見てるみたいだ。天使が俺の目の前に現れて…美咲の話をされて…」


天使「無理に信じろとは言わないわ」


高橋「いや…信じるよ」


天使「あら、さっきは信じられないって言ってたのに」


高橋「目の前にいるのに否定しても仕方ないだろ」


天使「嬉しいわね」


高橋「けど…好奇心か」


天使「えぇ。だから、聞きたい事や知りたい事が沢山あるわ」


高橋「俺も色々と聞きたいことが」


天使「ねぇ、貴方は彼女のどういう所が好きだったの?」


高橋「えっ…」


天使「彼女の好きな所よ。好きになったきっかけとかは?」


高橋「なんでそんな事聞くんだよ」


天使「貴方達の始まりを知りたいの」


高橋「…嫌だ」


天使「なぜ?」


高橋「…嫌だから」


天使「もしかして…ないの?覚えてないの?」


高橋「そんな訳無いだろ!(ため息)…好きな所は沢山あるけど、好きになったきっかけは笑顔かな」


天使「あら、素敵」


高橋「…どうなんだろうな。…美咲は体が弱かったから。肌が白くて、美咲が初めて俺に笑いかけた時、お人形さんみたいで綺麗って思ったんだ」


天使「そこで一目惚れしたの?」


高橋「…そうだな。一目惚れだったと思う。」


天使「とても素敵じゃない」


高橋「その日から毎日、美咲の病室に通ったんだ。あまり外に出る事が出来ない美咲のために、外の写真を撮って話し聞かせてさ」


天使「うん」


高橋「そしたら、その写真をアルバムにしてまるで自分が行ったかのように嬉しそうに話すんだ」


天使「それほど嬉しかった」


高橋「けど、虫を捕まえて持って行った時は大変だったな」


天使「看護師には怒られるし、虫は病室で逃げ飛び回るし」


高橋「なんでそれを…」


天使「言ったでしょ?死者の魂から人生を知る事が出来るの。だから、彼女が生まれてから死ぬまでどんな風に生きてきたか知ってるし、彼女の記憶は全て私の頭に入ってる」


高橋「全て…」


天使「天使はね、今まで導いた魂、全ての記憶を覚えているの」


高橋「なんで?」


天使「なんでって言われると困るわね。そうねー…私達が生きた証を残す為、かな」


高橋「生きた証を残す?」


天使「えぇ。死んでも私達天使が覚えている限り、記憶の中でその人間は、その人として生き続けるの」


高橋「死んでも生き続ける、か。なんか変な話だな」


天使「けど、私がそう思っているだけで本当はちゃんとした理由があると思うわ」


高橋「ちゃんとした理由は知らないんだな」


天使「そうね、知らないわ。そもそも理由を考えたことが無かったわ」


高橋「不思議に思ったり、嫌だとか思わないのか?」


天使「思ったことないわね。だって、私達は使命を持って生まれてくるから。これが当たり前なの」


高橋「そうなんだな」


天使「むしろ、魂からその人の人生を見るのは楽しいわ。楽しい事や嬉しい事、悲しい事や悔しい事、怒りに憎しみ。人間は様々な感情を持ち、色々な考え方を持っている。だから、一人ひとり全く違った生き方をしているの」


高橋「天使は違うのか?俺と同じ人の姿をしてるし、こうやって会話もしてる」


天使「私って凄い綺麗よね?」


高橋「え…そりゃあ天使だし綺麗だよ」


天使「それは違うわ。だって、この姿は元は人間だもの」


高橋「それはどういう意味だ?」


天使「私達は実体を持たないの。だから、自分の中にある人間の記憶から姿を真似ているの」


高橋「じゃぁ、その姿をした人が生きてたってことか?」


天使「えぇ。私達は記憶からあらゆる姿になれるの。ほら、若くなれるし、老いることも出来るの」


◇天使:顔が色々な顔に変わる


高橋「凄いな…」


天使「貴方が愛した彼女にも」


◇天使:顔が美咲の顔に変わる


高橋「み…さき…?」


天使「姿だけじゃなくて、その人間の記憶をもとに話し方や行動も真似するんだよ。そっちの方が人間らしいでしょ?中身は私のままで変わらないけどね」


高橋「…」


天使「あれ?どうしたの?」


高橋「…み、美咲が目の前にいて…美咲が、喋ってる」


天使「そうだね。けど、美咲じゃないよ?」


高橋「けど…けど…」


天使「(悪戯に笑う)…大空」


高橋「美咲…美咲!!」


◇高橋:天使を抱きしめる


天使「ちょっ」


高橋「ずっと…こうやって…もう一度抱きしめたかった」


天使「……人間ってこんなにも温かいんだね」


高橋「美咲…美咲…会いたかった。会いたかった…」


天使「けど、姿は美咲でも中身は違うよ」


高橋「分かってる。分かってるけど…少しだけ、このままで居てくれ」


天使「…昔から何かあると、こうやって抱きしめる所。変わらないね。だから彼女はいつもこうやって、よしよしをした」


高橋「ハハッ…そうなんだよな。本当は俺がしっかりしなくちゃなのに…いつも甘えてて…」


天使「けど、そういう所も好きだった」


高橋「でも、反省はしてたんだ。だからお詫びにいつも美咲の好きなシュークリームを買って帰った」


天使「駅前のケーキ屋さんだよね?あそこのシュークリームはどこのシュークリームよりも美味しくて大好きだった」


高橋「幸せそうに食べるから、つい駅前のを買ってきちゃって…」


天使「けど、大空の手料理が何よりも大好きだった」


高橋「え。そう、なのか…?知らなかった」


天使「変な所で恥ずかしがり屋だったから、秘密にしてた」


高橋「そうなんだ…そうだ。なんか作るから、一緒にご飯を食べよう!ちょっと冷蔵庫見てくるから、待ってて」


天使「えっ!けど私…」


◇高橋:キッチンへ


天使「本当に仕方ない人」


天使「……けど、凄いな。彼女の記憶から彼が溢れてくる。愛してたのが伝わる。大空も本当に彼女を愛してて…」


◇天使:自分を抱きしめる


高橋「美咲!今からオムライスを作るよ!」


天使「えっ、あ、うん。…おむらいす?…あっ!黄色と赤の食べ物ね!」


高橋「(笑う)黄色と赤の食べ物ってなんだよ。今から作るから待ってろ」


天使「うん。……オムライス」



天使M「オムライスで美咲の記憶を辿ると、大空の後ろ姿が出てくる。美咲よりも大きな体はテキパキと調理をしていき、美味しそうな匂いにお腹を鳴らす。慌ててお腹を押さえるが、更にお腹が鳴ってしまう。すると大空が振り向き笑う」



高橋『あともう少しで出来るから待ってろ』



天使M「美咲は頷き、そわそわしながら椅子で待つ。とても幸せだった」



◇天使:キッチンに向かい、後ろから高橋を見る



天使M「天使に空腹というものはないが、お腹が鳴った気がした」



◇高橋:振り返る


高橋「あと、もう少し待ってろ」


天使「あっ…うん」


◇天使:椅子に座る


天使「…えへへ……あれ、なんで私笑ったんだろ」


高橋「お待たせ。これがオムライスだよ」


◇高橋:皿を置く


天使「わぁ…これがオムライス」


高橋「えっと、スプーンで食べるのは分かるか?」


天使「うん。…いただきます」


高橋「…どうだ?」


天使「うん。凄い美味しい」


高橋「そっか。なら、良かった。ほら、もっと食べろよ。おかわりも作れるからさ」



天使M「初めて食べたオムライスは懐かしい味がした」



高橋「こうやって美咲にご飯食べてもらうの、久しぶりだな…凄い、嬉しい」


天使「やっぱり、大空の手料理が一番美味しい」


高橋「っ…あぁ。そうだろ?…美咲の口からそれが聞けて満足だ」



天使M「自然と口に出た言葉に自分自身驚いていた」



SE:鐘の音


天使「あっ」


◇天使:立ち上がる


天使「行かなくちゃ」


高橋「えっ」


天使「ごめん。私には天使としての使命があるから」


高橋「ま、待ってくれ!!」


天使「…また来るから。約束。ね?」


高橋「美咲…」


SE:翼の音


◇天使:姿を消す

 高橋:その場に崩れ落ちる





天使M「私は知ってしまった。人間の愛というものを。人間のぬくもりを。人間の作る料理の味を。今まで知らなかった事を。もっと知りたい」





◇高橋:椅子に座り美咲の写真を見つめる


SE:翼の音


◇天使:ベランダに舞い降り、部屋に入る


天使「お久しぶりね」


高橋「美咲!!…じゃない」


天使「美咲じゃなくて悪かったわね」


高橋「あ…いや、申し訳ない」


◇天使:美咲の顔になり微笑む


天使「大空」


高橋「美咲」


天使「会いに来たよ」


高橋「あぁ…美咲。美咲。もう会えないと思ってた」


天使「また来るって約束したでしょ?天使は嘘をつかないの」


高橋「けど、やっぱり夢だったんじゃないかって。だから、もう会えないんじゃないかって不安になって…だから、本当に良かった」


天使「…ごめんね。よしよし」


高橋「美咲」


天使「けど、私は美咲じゃない。天使だから…それを忘れないで」


高橋「…あぁ。分かってるよ。けど…」


◇高橋:天使を抱きしめる


高橋「今だけ美咲だと思わせてくれ」


天使「…うん」


高橋「ありがとう」


天使「良いんだよ」


高橋「なぁ、美咲の記憶はあるんだよな?」


天使「うん」


高橋「じゃぁ思い出話をしよう」


◇高橋:天使の手を掴みソファーに


天使「思い出話?」


高橋「あぁ。その…なんだ。美咲はいつ俺を好きになったんだ?」


天使「んー…いつからって言われたら難しいんだけど…自覚したのは中学二年生の時だったかな」


高橋「中学二年生…確か、クラスが一緒の時だったな」


天使「うん。で、私にとって初めての体育祭でさ。その時、大空はクラス対抗リレーのアンカーだったでしょ?」


高橋「うん」


天使「大空は覚えてないかもだけど「俺、絶対一位取るから。美咲に一位を取ってくるから約束」って言って指切りげんまんしたんだよ。そしたら、先頭を走る人をドンドン抜いて一位になって…凄いかっこいいなって思ったし、そこで好きだなって思った」


高橋「そうなんだ…全然覚えてないな。けど、こう聞くと凄く恥ずかしいな…」


天使「私の最初で最後に愛した人だよ。大空は」


高橋「っ…俺も、美咲が初恋の相手で、俺が愛してるのは美咲だけだよ…」


天使「うん。よしよし」


高橋「なぁ、高2の花火大会覚えてるか?」


天使「うん。大空の為に浴衣を着たら、知らない男からナンパをされて怖い思いをしたから」


高橋「俺もびっくりしたよ、あの時は」


天使「(笑う)けど「俺の彼女に何か用ですか?」って間に入ってくれたでしょ?」


高橋「けど、怖かったんだぞ?」


天使「知ってる。声震えてたから」


高橋「嘘!?震えてたか!?」


天使「(笑う)喧嘩なんて出来ないし、臆病なところがあるの知ってたから、凄く嬉しかった」


高橋「(唸る)かっこ悪いな…」


天使「大空はいつでもかっこいいよ。…今も」


高橋「え?」


天使「えっ」


高橋「ありがとう。嬉しい」


天使「あ、うん」


(沈黙)


天使「私、戻るね」


高橋「もう行くのか?…いかないでくれ」


◇高橋:天使を抱きしめる


天使「…だめ。私は美咲じゃない。天使なんだよ」


◇天使:優しく高橋を離し、元の姿に戻る


高橋「…分かってるよ」


◇天使:立ち上がりベランダへ

 高橋:座ったままで天使に見向きもしない


天使「……また、来るわ」


SE:翼の音





天使M「人間のぬくもりに触れる度、その温かさに溶けそうになる。彼女の記憶を知れば知るほど、嬉しくて、悲しくて、寂しくて、楽しくて、大空という人間が大好きで、もっと触れたくなる。もっともっと知りたい。」





SE:翼の音


◇天使:美咲の姿でベランダに舞い降り、部屋に入る


天使「大空……あれ?大空?」


◇天使:部屋の中を見回し、寝室のドアを開ける

 高橋:ベットで静かに眠っている


天使「こんな時間まで寝て…仕方ない人」


◇天使:ベットの端に座り高橋の寝顔を見つめ微笑む


天使「ぐっすり寝れるようになったんだね」


◇天使:立ち上がろうとする


高橋「み…さき」


◇高橋:天使の手を掴み自分の方へ引っ張る


天使「!?」


◇天使:高橋の隣に倒れる

 高橋:天使を抱きしめる


高橋「おはよ」


天使「お、起きてたの…?」


高橋「みさきがいるきがして…おきたら、ほんとうにいた」


天使「…まだ眠いでしょ?寝ていいよ?」


高橋「うん…みさき、たいようのにおいがする」


天使「太陽の匂い?」


高橋「うん。おちつく」


天使「…おやすみ」


高橋「…うん」


SE:寝息


◇天使:そっと高橋の腕から抜け、部屋から出る


天使「…んー。部屋、散らかってる」


◇リビングには服や書類等が散乱している


天使「こんな人じゃなかったのに。仕方ない。掃除するか」


◇天使:掃除を始める


天使「(鼻歌)」


天使「掃除って結構大変だね。けど、少しずつ綺麗になってきたかな?うん。前みたいに綺麗にするぞー」


天使「(鼻歌)」


天使「っ!…これ、婚姻届……」


◇死んだ美咲が天使の目の前に現れる

 天使:元の姿に戻る


☆文字だけのセリフ【】読まず、貴女だけに見えている美咲と会話をしてください


美咲【私とっても幸せだった。でも、ひとつわがままを言うなら…結婚したかった】


天使「結婚…もしも彼女がまだ生きれたら…」


美咲【結婚しても私と大空の生活はあんまり変わらないだろうなぁ。でも、私は世界で一番幸せな人になれたのかな】


天使「ごめんなさい」


美咲【大空の重荷にはなりたくない。けど、私も一人の女性だから。大空にとって、たった一人の人になりたかった】


天使「貴女は今も彼の一番よ」


美咲【けど私は傍に居ない。ずっと一番は無理だよ。大空が前に進めない】


天使「彼はずっと貴女を愛してるわ」


美咲【……死にたくなかった。まだ生きたかった。まだ大空と居たかった】


天使「何も出来なくてごめんなさい。私は導く事しか出来ないの。命を延ばす事なんて出来ないの」


美咲【まだ一緒にやりたい事あった。まだ言いたい事があった。まだ大空の手料理を食べたかった】


天使「貴女は未練をこんなにも残して寿命を終えた」


美咲【でも…でも…幸せだった。大空と出会えて良かった。生まれてきて良かった】


天使「けど、今まで導いた者たちは皆そうだった!皆なにかしら未練を残していた。なのに…!」


美咲【愛してる。大空。】


天使「っ!!…ごめんなさい…」


美咲【愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。】


天使「ごめんなさい!ごめんなさい!!」


美咲【大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。愛してる。大空。】


天使「あ い し て る。 そ ら」


高橋「みさき?」


◇美咲の姿が消える

 高橋:寝室から寝ぼけながら出てくる

 天使:高橋の方を振り向く


高橋「…ないてるのか?」


◇天使:何も言わず姿を消す


SE:翼の音


高橋「……へや、綺麗にしてくれたんだな」


◇高橋:落ちている婚約届を手に取る


高橋「…これ…婚姻届……みさき。愛してる」





天使M「大空。大空。大空。大空。大空。………愛してる」





SE:翼の音


◇天使:美咲の姿でベランダに舞い降り、部屋に入る

 高橋:ソファーで本を読んでいる


天使「大空」


高橋「美咲。おかえり」


天使「…ただいま」


高橋「…おかえり。おかえり!」


◇高橋:天使を抱きしめる

 天使:ゆっくりと抱きしめ返す


天使「ただいま」


高橋「嬉しいな」


天使「なにが?」


高橋「ただいまって言ってくれた。ただいまがこんなにも嬉しいなんて思わなかった」


天使「うん」


高橋「今日は何しようか」


天使「…手料理」


高橋「手料理?」


天使「うん。また大空の手料理が食べたい」


高橋「分かった。冷蔵庫に入ってるので何か作れるかな…ちょっと見てくるよ」


天使「うん」


◇高橋:キッチンへ

 天使:読みかけの本を手に取る


天使「転職の面接マニュアル…そっか。少しずつ歩き始めたんだ」


◇天使:パラパラと本をめくる


高橋「ロールキャベツ作ろうと思うんだけど、どう…あ、それ…」


天使「社会復帰するんだね」


高橋「うん。美咲の為にまた頑張ろうと思って」


天使「うん。頑張って」


高橋「ありがとう。あ、でさロールキャベツでも良い?」


天使「楽しみ」


高橋「分かった。待ってて」


◇天使:ソファーに座る


天使「うん!…んー…なにしよう。部屋、掃除してから綺麗にしてるみたいだし…」


◇天使:キッチンへ


天使「大空」


高橋「どうした?」


天使「一緒に作ってもいい?」


高橋「え…?」


天使「あっ…やっぱり何でもない」


高橋「いや!ごめん。びっくりして…一緒に作ろう」


天使「良いの?」


高橋「当たり前だろ?」


天使「じゃぁ…えっと…何したらいい?」


高橋「そうだな。じゃぁ、ひき肉をこねて欲しい」


天使「うん。……えっと、確か……どうやってこねたら良い?」


高橋「え…(笑う)やっぱ、そこからか」


天使「な、なんで笑うの…」


高橋「料理してる姿を見たことなかったから、もしかしてって思ったけど本当にそうだった」


天使「そうだよ。料理してる所は見てたけど、作ったことはないよ…」


高橋「(笑う)」


天使「けど、ずっと一緒に作ってみたかったの…」


高橋「笑ってごめん。凄く嬉しいよ」



天使M「彼女がしたかった事を一緒にしている」



高橋「俺のを見ながら、キャベツを巻いてみて」


天使「こう?」


高橋「(笑う)下手くそだな」


天使「うるさい」


高橋「ここをもっとグッと寄せて巻くんだ」


天使「グッと…」


高橋「そうそう。じゃぁもう一個巻いてみて」


天使「うん…ここを、グッと…どう?」


高橋「さっきよりは綺麗に巻けてる」


天使「なんだか夫婦みたいで楽しいね」


高橋「あぁ。そうだな」



天使M「彼女が望み描いた光景に美咲として大空と一緒に立っている」



高橋「後は煮込むだけだ」


天使「もう良い匂いがしてる」


高橋「食べるのが楽しみだな」


天使「うん」


高橋「待ってる間ソファーに座ろうか」


天使「その…煮込むの見ててもいい?」


高橋「見てても、早くは出来上がらないぞ?」


天使「分かってるよ?けど、初めてのお料理だから…」


高橋「(息を吐く)本当に…可愛い」


◇高橋:天使を抱きしめる


天使「なになに」


高橋「可愛すぎだよ…本当に」


天使「なんか…恥ずかしい」


高橋「あーもう…愛してる」


天使「私も…愛してる」


高橋「美咲。美咲」


天使「大空…大空。大空。大空」


高橋「なに?どうした?」


天使「愛してる。誰よりも愛してる」


高橋「俺も愛してるよ。美咲だけを愛してる」



天使M「彼女が言いたかった事を私が口にする」



高橋「あ…そろそろロールキャベツが出来そうだね」


天使「凄い良い匂いがしてる」


高橋「蓋を開けるから気を付けろ?」


天使「うん。…わぁー凄い。凄く美味しそう」


高橋「良い感じ。椅子に座って待ってて。お皿に盛りつけて持っていくから」


天使「うん」


◇天使:椅子に座る


高橋「本当に美味しそうだな」


◇高橋:皿を置く


天使「ロールキャベツ」


高橋「じゃっ…いただきます」


天使「いただきます」


高橋「熱いから気をつけろよ?」


天使「分かってるよ。フーッフーッ…あっつ…」


高橋「だから言っただろ。水持ってくる」


天使「ありがとう…フーッフーッ…んっ…美味しい」


高橋「はい、水。美味しいか?」


天使「うん。凄く美味しい」


高橋「良かった。俺も…あつつ…ん…美味しいな」



天使M「彼女が食べたかった手料理を食べている」



高橋「本当に、夢みたいだな…こうやって美咲といるのが」


天使「そうだね」


高橋「まるで夫婦だな」


天使「結婚…したかった」


高橋「美咲……渡したいものがある」


天使「渡したいもの?」


◇高橋:棚の引き出しから何か取り出す


高橋「……これ。君に渡せなかった結婚指輪」


天使「これ…」


高橋「退院したら結婚しよって約束しただろ?だから」


天使「受け取れない」


高橋「美咲に受け取ってほしい。俺と結婚しよう」


天使「だめ…」



天使M「彼女が大空から一番欲しかったもの。彼女の一番願い。大空と結婚したかった。大空と結婚したかった。大空と結婚したかった。大空と…結婚したい」



高橋「なんでダメなんだ。美咲」


天使「美咲じゃないから!!!!」


高橋「美咲…」


天使「私は…美咲じゃないから…私は…美咲じゃないの」


高橋「…なら、受け取るだけでいい」


天使「なんで…」


高橋「俺の自己満足だから…美咲に渡したかったから。代わりに受け取ってくれ」


天使「…分かった」


高橋「ありがとう」


天使「…綺麗ね」


高橋「オーダーメイドでルビーを入れたんだ。宝石には石言葉があってさ、ルビーは情熱、愛の炎。美咲を愛してます。そして、これからも愛し続けますっていう意味を込めて選んだ」



天使M「彼女が欲しかったものを私が受け取った。彼女の代わりに大空の気持ちを受け止めている。嬉しい。悲しい。寂しい。苦しい。あらゆる感情が私の中でぐるぐると渦巻いて、私は、私は私は私は……私は美咲」



高橋「美咲。愛してる」


天使「違う…違うの!!」


高橋「え…?」


天使「私は…違うの。違うの」


高橋「美咲」


天使「だめ。帰る」


高橋「美咲。待ってくれ…どうしたんだ」


天使「違うの…大空…愛してる」


高橋「美咲…?」


SE:翼の音

◇天使:姿を消す





天使M「大空。大空。大空。愛してる。愛してる。


違う違う違う。私は美咲じゃないわ。私は美咲ではないの。違う違う違う。


私は山口美咲。大空。大空。大空。大空。好き。好き。好き。大好き。愛してる。ずっと愛してる。誰よりも愛してる。ずっと居たい。結婚したい。永遠を誓いたい。死にたくない死にたくない死にたくない。……大空、幸せになって。誰よりも大空を愛してるからこそ、幸せになって欲しい。私は幸せだったから。生きて。新しい人生を歩んで……でも、一つわがままを言うなら、私を忘れないで。忘れちゃ嫌…大空。大空。大空。


…違う!!これは美咲であって私じゃない!!……お別れを言わなくちゃ。離れなくちゃ。これ以上、人間に干渉してはいけない。感情移入などしてはいけない。私は人間の魂を天界に導くのが使命。そのために生まれてきたんだから。私は人間ではない。天使だから」





◇高橋:美咲との写真を見つめている


高橋「…美咲」


SE:翼の音


◇高橋:ベランダの方を見る


高橋「おかえり、美咲」

 

◇天使:初めの姿で立っている


天使「私は美咲ではないわ」


高橋「…あぁ。分かってるよ」


天使「いいえ。貴方は分かってないわ」


高橋「急にどうしたんだよ…なんか、変だぞ?」


天使「私は一人の人間に対して干渉し過ぎた。だから、別れを言いに来たの。もう貴方の前に姿を現さないわ」


高橋「な、なんでだよ…」


天使「人間である貴方に干渉し過ぎた。だから、私の事は忘れなさい」


高橋「そんなこと、出来る訳無いだろ!?美咲…また、居なくなるのか…?」


天使「大空ボソッ…っ!!…私は美咲じゃないの。顔が美咲なだけで、中身は別人。いい加減にしなさい。それとも、貴方は顔だけが好きだったの?」


高橋「そんな訳無いだろ!けど…優しく微笑んでくれて、沢山昔のことを話して、料理を美味しいって言ってくれて、一緒に料理を作って…美咲が生き返ったみたいで…美咲とまた一緒の時間を過ごせて…嬉しかった。幸せだった。なぁ、美咲。愛してる」


天使「私は!…私は…」


◇天使:涙が溢れる


天使「あれ…何故私が泣いているの」


高橋「…美咲」


◇高橋:天使を強く抱きしめる


天使「私は美咲ではない。私は…私は…」


◇天使:顔が美咲に変わる


天使「大空…嫌だ。嫌だよ」


高橋「嫌ならずっと傍に居ろよ…」


天使「大空と一緒に居たい」


天使「違う、私は美咲じゃない!」


天使「大空、離さないで」


天使「私を離して!!」


高橋「どうしたって言うんだよ…しっかりしろ!」


天使「消えなさい!!私は美咲じゃないんだから!!」


天使「私の名前は山口 美咲。君の名前は?」


天使「私の使命は人間の魂を天界に導くこと。そのために生まれてきたの!!」


天使「イチゴクレープいいなぁ。一口あげるから、一口頂戴?」


高橋「美咲…俺はどうしたら…」


天使「私の事を忘れて!!」


天使「大空、私の事忘れないで…」


高橋「俺は」


天使「近づかないで!!私に触れないで!!」


天使「大空、寒いから温めて?」


高橋「美咲」


天使「嫌!嫌!嫌!嫌!!」


高橋「俺が悪いのか…?俺が苦しませてるのか…?」


天使「大空…傍に居て。大空、私の翼をもぎ取って」


高橋「え…」


天使「やめて!!私に触れないで!!あ…あぁ…頭が痛い。頭が割れる…!!」


高橋「…その翼を無くせば、そんな苦しまずに済むのか…?これからずっと一緒に居れるのか…?」


天使「大空。愛してるよ」


高橋「美咲…美咲、美咲!!俺も愛してるから!!…だから…少しだけ我慢してくれ」


◇高橋:天使の翼を掴む


天使「嫌…嫌嫌嫌嫌!やめて!!やめて!!」


高橋「っ!!ごめん!!」


◇高橋:天使の翼をもぎ取る


天使「(絶叫)痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいい!!」


◇絶叫が響き渡り、白い羽が舞う


天使「殺して殺して殺して殺してえええええ!!!」


◇生々しい音とともに白い翼が赤く染まる


◇天使:倒れる

 高橋:もぎ取った翼を持ったまま呆然としている


高橋「……み、みさき?」


天使「…そ…ら…」


高橋「美咲!!ごめんごめんごめん…大丈夫か?今すぐ病院に行こう」


◇高橋:天使を抱きかかえる


天使「そ、ら…きらい」


高橋「え…?」


天使「大空…嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い」


高橋「みさき…?」


天使「嫌い。だから……幸せになって。大空。お願い。幸せになって」


◇天使:ひびが入り、砂のように崩れる


高橋「え……なんで……あれ?……みさき?……あれ……あれ…なんで、なんで、なんで!!美咲!!美咲いいいいい!!!」


高橋「……美咲…どこ行ったんだよ。…まったく困った彼女だ。待ってろ。一人にしないからさ」


◇高橋:ふらっと立ち上がり、ベランダから飛び降りる


SE:人の悲鳴

SE:サイレンの音


(フェイドアウト)



END

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@ginngorou023

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