えんぴつ公園
翌週の土曜日、二回戦が行われた。二回戦といってもリーグ内に八チームしかない為、準決勝にあたる試合である。今日勝った二チームは明日の日曜、決勝に進出する。また、負けた二チームは明日三位決定戦を行う。くじ運も悪いのか、今日は高学年も低学年も練習試合で負けているAKキッズである。高学年も低学年も三年以上AKキッズには勝っていないらしい。
練習試合では高学年は完敗した。低学年は勇気の初ヒットなるか? という惜しい振り遅れファールもあったが一点差で惜敗した。
この日、高学年チームも低学年チームもAKキッズに力及ばず負けてしまった。高学年は三対二、低学年は五対四。二試合とも一点差で惜敗。田中英人の風邪も治り帰ってきたので勇気の出番はなかった。
父兄含めチーム関係者全員がかなり落胆していた。しかし勇介は三浦昴の投球内容に光を見出していた。今日、昴がきっちり捕えられた打球は一本だけ。その他、ポテンヒットや内野安打、ボテボテのゴロがセンター前に転がったヒット。計四本だけだった。
春先、初めて昴に会った頃は高めに浮く事も多く制球に不安があった。しかし今日は自分でしっかり修正できていた。高めに浮く度に首を振り「いかんいかん」という表情を見せたが浮き球が二球続く事はなかった。低め低めの意識をしっかり持ちながら投げている。プロの投手でも一度浮きだしたら修正できない場面をたくさん見てきている。しかし昴にはその修正能力がある。六年生にしては背は高くない。しかし三浦コーチは百八十センチの高身長。昴もこれから伸びる可能性は充分ある。
――磨けば光る――
勇介は確信していた。ただ指導者として初心者の勇介が磨いて伸びるかどうかの確信はもちろんない。
試合後、後藤監督が全員を集めて話しだした。
「今日は両チームとも惜しかったですね。しかしあのAKさんを最後まで苦しめてエースを引きずり降ろし最後まで頑張ってくれました。よく頑張りました。明日は両チームとも三位決定戦があります。なんとしても三位に入って銅メダルをもらいましょう。今日はお家に帰ってからゲーム禁止ですよー。早く寝てくださいね」
「えー」
「無理ー」
「やだー」
子ども達から様々なブーイングが飛んだ。
帰り道、勇介は嫌な予感がしていた。
「ねえねえ、パパ」
やっぱりきた。
「どうしたの? 栞那」
「あのね、今日ね、なんでお兄ちゃん出られなかったの? お兄ちゃん出てれば勝ってたかもしれないじゃん。ねえねえ、なんで?」
今日はご馳走が食べられないことを認識している栞那がまくしたててくる。
勇介も博美も返す言葉が見つからない。
「じゃあ明日勝ってやるよ」
と、勇気から頼もしい言葉。
「お兄ちゃん、ほんと? 約束だよ。約束だからね。ヤッター!」
「どんだけ食いしん坊やねん。フウ」
勇介がボソッとつぶやく。
「パパ? 何か言った?」
「いえ。何も言っておりません。栞那様」
「なら、よろしい」
既に機嫌は直り、ルンルンである。
数分で家に到着した時、辺りは暗くなっていた。
翌日の日曜、高学年も低学年も三位決定戦が行われた。どちらの試合も午前十一時試合開始。同じグランドだが高学年はA面、低学年はB面で行われる。
後藤監督が勇介に近づいてきた。
「困りましたねえ。高学年の試合と低学年の試合の時間が被っちゃいましたね。金子ヘッド、申し訳ないですが高学年のベンチに入ってもらえませんか?」
勇気が出るなら低学年の試合のベンチに入りたいところだが出るかどうかも分からない。チーム全体のヘッドを任されている以上、断る訳にもいかない。
「分かりました。高学年のベンチに入ります」
A面B面ほぼ同時に試合が始まった。
このグランドは千葉県市川市の行徳南駅から徒歩三分程の場所に位置する広い公園で、週末は市川市から葛南リーグの野球連盟に貸し出されている。二十年ほど前まで、この公園の片隅に「鉛筆」の形をした塔が立っていたようで昔から地元の人達は「えんぴつ公園」と呼んでいたようだ。
近所の住民は地元の野球少年の元気な声に、
「我々も元気をもらえる。プロ野球選手目指して頑張って欲しい」と協力的な意見も多いが、中には「週末は野球をやっているので公園を歩くことすらできない。市民の為の公園なのに市民が歩くこともできない公園」と批判の声もある。
試合は両チームとも勝利した。全員銅メダルを首から提げ嬉しそうに帰って行った。
その後、夏の市川大会、秋の春季リーグ共にイーグルスは過去最高の記録を残した。