神剣の賢者とその弟子たちの後のこと
「神剣の賢者イーズィー! あなたとの婚約は解消させていただきます!」
「そう、お前に相応しいのは彼女ではない!!」
なにそれどういう事なの?
俺ことイーズィーは、魔王討伐成功の祝賀会の最中で放り込まれた婚約者であるフランシア姫の爆弾発言に目を白黒させた。
フランシア姫の隣には、魔王討伐を成した勇者であり、俺が10年間付きっ切りで師事していた弟子であり、隣国の皇子、ルシアスが俺を睨んでいた。
とりあえずアレよね。俺は魔王討伐をなしたらフランシア姫と結婚するご予定であったのだ。
正確には魔王討伐を成したなら……この祝賀会にて正式に発表する予定だったのだが、婚約披露パーティーが婚約破棄パーティーになったぞぅ? どういうことなの?
「……国王陛下。これはあなたもご存知なので?」
愛娘の爆弾発言に、国王陛下は青い顔をしてヒゲをぷるぷると震わせていらっしゃる。ああそう。知らんのね。
俺は肩に杖を乗せて、嘆息を漏らした。
「ルシアス皇子! これはどういう事なのですかっ!!」
「さ、左様です。わたくし達は全員イーズィー先生の指示の元戦ってきた仲間ではありませんか」
「あんただってフランシア様と師匠の婚約は知ってたろうに、酷い裏切りじゃないのよ!!」
俺の弁護をしてくれるのはアレキサンドラ、ノイエ、セリカの、俺が手塩にかけて育てた弟子軍団の三名。
全員が全員隣国の要人の娘であり、聖騎士、大神官、大魔術師というクラスへと至り、魔王討伐に尽力してくれた弟子たちである。
彼女たちは口々に、婚約者である姫を寝取った勇者であるルシアスを避難するが……ルシアスはニヤニヤと笑いを浮かべたまま。
「ふんっ。そんな平凡で面白みのない顔の賢者に、姫はもったいないじゃないか。相応しいのはこの僕だ!!」
皇子はいじわるそうに笑いながら言う始末。
否定はせん。確かに俺はいかにも平々凡々な顔立ちだ。それこそ絶世の美少年であるルシアスには顔面偏差値で勝てる見込みはなかろう。
「はぁ……」
しかし参った。
前世で最後まで行きつくことの出来なかったエンディングが……まさか、こんなオチだったとは……。
俺はこの世界を前世で遊んだゲームという形で知っている。
ゲームとしての名前は『成長ファンタジア』。
そのまま成長を主軸としたゲームだった。
ストーリーはベタに、世界を滅ぼす邪悪なる魔王が姿を現す。
プレイヤーが操る主人公は、かつて魔王を倒したパーティーの中から一人を選ぶのだ。
『剣士』『魔術師』『僧侶』。
そしてその三つで一度も仲間を死なさずにクリアした先に選択できる、勇者が己が神剣を託すに相応しいものを導くために選んだ『神剣の賢者』というクラスであった。
ゲームシステムは戦術シミュレーション系でやりこみ要素は深い。
面白かったのは、このゲームは主人公一人だけならほぼすべてのステージを単独でクリア可能ということ。
なにせ主人公は前回の魔王を倒した最強パーティーの一員。能力のすべてが極まっており一人で敵陣に突撃しても無双できるほどの戦闘力を誇る。
ただし……このゲームの最終面はステージ全体を破壊しつくすマップ兵器を連発する魔王が出てくる。
そこにもやしっ子も同然の、レベル1+初期装備の弟子軍団を連れていくと、確実に弟子は死ぬ。
オマケに魔王は『新世代の勇者パーティーでしかダメージを与えられない』という設定なので、主人公にできるのは基本弟子たちの応援のみ。
主人公が魔王軍四天王を一撃で倒せるほどに能力を極めても、魔王本体にはノーダメージなのだ。納得いかねぇ!!
一応それを解除するアイテムもあるのだが、主人公が魔王を倒しても、レベル差的に弟子はみんな死ぬので最後はバッドエンドとして陰気な音楽のままエピローグを迎えることになる。
だからこそ……このゲームは弟子を鍛えねばならない。
だが……勇者を初めとする他のメンバー、弟子軍団はひよっこもいいところ。
魔王軍の雑魚の攻撃一発で半死半生になる。
『頼むからもう少し基礎力を鍛えてから来てくれよ!!』と言いたくなるほどの軟弱さ加減で素晴らしく足を引っ張るのだ。
ソレに対してプレイヤーは必死に弟子たちを守るシステムとなっている。
プレイヤーが剣士系キャラを選んだ場合、『庇う』コマンドを駆使して弟子たちを守り、スキル『てかげん』を用いて全体攻撃スキル『剣嵐』で程よく弱らせた雑魚を狩らせる。
魔術師系キャラを選んだ場合、全体マップの敵を半死半生にする広範囲、(敵の雑魚が死なないよう適度に抑えられた)高威力魔術で敵の雑魚をぼろぼろにして弟子に狩らせたり、また強力な弱体化魔術を使用して狩らせる。
掲示板で『一番楽だが、考えてみると一番むごい』と評判の僧侶は、強力無比な回復魔術で弟子たちを回復させたりできる。
死亡? もちろん重ね掛けした強制蘇生魔術で一発だよ?! ゲームじゃなくてリアルで考えると、死んでも死んでも蘇らされ、怪物に何度も殺されるとかトラウマもんやん! とは思ったが。
そんな中、『神剣の賢者』クラスは強化、弱体化に加えて壁役のゴーレム大量召還、一時的に神剣を使えるようになる『救世の代行者』スキルに加え、『剣士』『魔術師』『僧侶』などの美味しいとこどりスキルや魔術を使いつつ、弟子たちをバリバリに強くして戦う事ができる最高に楽な職業である。
その中でも特筆に価する最強のスキルが『神剣授与』。これは弟子の一人を『勇者』として認め、神剣を与えることができるのだ。
装備した勇者のいるパーティーに能力値上昇やら経験値取得率アップやら。その上『神剣の賢者』のかける支援魔法の効果が300パーセント強化とかで、『神剣授与』したキャラとプレイヤーの『神剣の賢者』二人で魔王さえも倒せるほどのバランスブレイカーなのであった。
もっとも――。
「文句がありそうな顔をしているな、先生。……良いんだぞ? 武に訴えても。
とはいえ……この無敵の『神剣』を手にした僕に勝てると思うのならな」
その最強の神剣は――今や俺から婚約者を寝取った小憎らしい弟子であり……今代の勇者、ルシアス皇子の手の中にあるわけなのだが。