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役割って大事だよねェ…

「ねーねー、この明らかに毒々しい色の木の実って食べられると思うー?」

「明らかに毒々しいならやめようね?」

「いや、実はめちゃくちゃうまいって可能性もっ…」

「死んでもいいなら食えば?」

「リキヤくん毒味してね」

「それ死んでねって言ってる?」

「おーい!あっちにいい感じの洞窟ありましたよー!」

「さっすがユウトさん!イカすー!!」


 どうもみなさん。はじめまして。治癒系支援担当のいけちゃんこと池野いけのユリアです。只今、日の沈み始めた薄暗い森の中で絶賛野宿の準備中です。


 え?それにしてはなんだか賑やか過ぎる、って?


 はははっ!実はそれが私たちのいいところ!ギルドの依頼が終わっていざ帰還しようとしたら(何故か)道に迷って街に帰れなくなって、仕方なく野宿する羽目になって、しかも夜な夜な人が消えると噂のこの森で一晩を過ごすなんて無理無理死んじゃうッ!なんて動揺を隠す為に敢えてやかましくしているわけではないよ!けっして!!


 まぁ何はともあれ、今はユウトさんが見つけたっていう洞窟に向かうとしよう。話はそれからだなー。




***




「にしても…どこで道を間違えたんだろうねー」

「いや、どう考えても最初からだよ。リカちゃんが木の枝で進む方向を決めるって言い始めたあの時からだよ」

「ユウトさん、見つけた洞窟って遠いの?」

「いや!割とすぐそこです!」

「おー!よかった!」

「ちょいちょいちょい!そこの2人!速いッ!速いからッ!進むの速いからッ!迷子になった元凶のリカちゃん置いて先に進んだらもう後に残るの絶望の二文字だけだからッ!」

「リキヤくん置いていくよー?」

「って、リカちゃん歩くの速ッ!?」


 どうもみなさま。はじめまして、こんにちは。防御系支援担当の小木こぎリキヤです。普段はボケもツッコミも両方やる系男子ですが、只今現在進行形で全力でツッコミかましてます。


 え?理由?…えー、それ聞いちゃう?


 まぁ簡単に言えば…


「全員、現実逃避し過ぎだよッ!!!!!」


 ってことです。まぁオレもこんな薄気味悪い森で魔物に喰い殺されるとか勘弁なんで、取り敢えずはユウトさんが見つけたらしい洞窟に向かいます。話はそれからでしょ…




***




「そういば、いい感じの食料ゲットできました?」

「うん!このヤバイ感じの木の実とかっ!」

「ながりん、それは死んじゃうからやめようね?」

「いけちゃんがそう言うならやめるー」

「あれ?俺もさっき止めたよね?」

「あっ!ユウトさんが見つけた洞窟ってあれ!?」

「無視かーーーい」

「リキヤさんちょっとうるさいですね」


 みなさま、こんにちは。お初にお目にかかります。佐々ささやまユウトです。前衛系攻撃担当してます。実はこの4人の中で一番年上だったりします。でも何故かみんなに敬語を使ってしまうのが最近の悩みです。なんでだ?


 え?それが大人の余裕ってやつじゃないですか、だって?


 いやー、あははははっ!そうだったらどんなによかったか!!実際、余裕ある大人の男感出したくていつも澄ました顔でいたら、気付いたら前衛ですよ!前衛ッ!!ある意味、余裕のあるかっこいい男作戦(既にダセェ)が成功したわけですが、武器を片手に毎回一番最初に突っ込んで行くわけですよ!!ここだけの話、「やっべ、コレ死ぬかも」ってしょっちゅう思ってます!☆


 と、まぁ…いろいろ語りましたけど、なんだかんだでみんなとの冒険は正直メチャクチャ楽しいので、ボクが偶然見つけたこの洞窟でも何かあれば楽しいな〜(フラグ)と思ってます。話はそれからですね…




***




「うへぇ…思ったより暗いね〜」

「あ、ながりん!そこの足元気をつけてね!」

「ありがとう!いけちゃんイケメン!!」

「あ、ユウトさん、そこの足元」

「えッ!あ、うんっ!ありがとうございます!リキヤさん!」

「いや、特に何もないです」

「ねぇのかよッ!?今のボクの感動を返してくださいよッ!?」

「いいじゃないですかー…ヒルの1匹や2匹ー」

「ってヒルいるじゃねぇかよッ!?特に何もねぇとか嘘かよッ!?!?」


 みなさん、どうもはじめましてッ!魔法系攻撃担当の永田ながたリカです!いけちゃんからは“ながりん”と呼ばれていまっす!現在、ユウトさんの発見した洞窟に足を踏み入れたところです!めちゃくちゃ暗いです!寒いです!不気味です!帰りたいですッ!


 え?そもそもお前のせいで野宿してんだろ!って?


 ひぇええ…だって、ふざけて提案したら、まさかのみんなノリノリだったんだもんんんんん!!ウチのせいだけじゃないやいッ!………にしても本当に不気味だよぉ…なんか嫌な予感するよぉ…


 でもまぁ、なんだかんだ紳士な男2人が先頭を歩いててくれるし…ウチはいけちゃんにくっついてれば大丈夫だよねッ!だから早くご飯にしよう…話はそれからでも大丈夫だよねッ…




***




「ここら辺なら外からの風も入ってこないよねー」

「そうだね!じゃあここら辺で焚き火にしよう!」


 リキヤくんの一言に頷いたウチら一行は、それぞれ荷物を辺りに降ろすと、焚き火を準備したり、夕飯の支度をしたり、寝床の設置をし始めた。

 リキヤくんが火を付ける為にカチッカチッと鳴らす火打ち石の音が洞窟内に木霊する。器用な彼によってすぐに生み出された炎は、そのまま積み上げられた木の枝の山に放り出されて、みるみると大きな炎へと変化した。

 相変わらず手馴れてるなぁ、と感心しつつ目を隣に向けると、ウチの横でいけちゃんは黙々と食料箱の中を漁っていた。保存魔法の効いたその箱から次々と取り出される食材を見る限り、今晩のメニューはすでに決まっているらしい。

 その様子を見て、料理は嫌いじゃないけどいけちゃんには敵わないなぁ…と思って、他にやることがないか辺りをキョロキョロ見渡した。すると、焚き火の向こうでせっせと寝床を整えているユウトさんが目に入った。男は寝袋で、対する女は簡易型魔法ベット。その差に申し訳ねぇ、と心が痛んだが、同時にありがてぇ、と感激した。


 そしてここでウチは気付いたのである。


「やることねぇッ!!!」


 そう、それ以上でも以下でもない。やることがないのである。

 思わず叫んだウチにみんなの視線が集まる。


「え?リカちゃん役立たずなの?」

「おい、ぶっ飛ばすぞ」

「リカさん、ご飯できるまで寝てます?」

「あん?邪魔だから寝てろってか?」

「「その通り」」

「表出ろテメェらッ!?」


 レディに対してなんとも失礼な野郎2人にロッドを向ける。けれども、リキヤくんもユウトさんも特に相手にしないと言うように既に視線をウチからそれぞれの手元へと戻していた。


「(クッソォ…!どいつもこいつもバカにしやがってェッ…!!)」


 ギリィッ…、と人知れず拳を握る。

 無視してんじゃねぇッ!?と、怒鳴りたい心境ではあったが、リキヤくんもユウトさんもウチらの為にせっせと支度を進めてくれているので、特にやることもなく暇を持て余しているウチには何かを言える権利などない。

 そしてその虚しさがさらに悔しさを煽る。


「あー…完璧、悪循環だわぁ…」


 思わずボソリッと独り言が溢れる。


 リキヤくんも、ユウトさんも、いけちゃんも、みんな優しい。得意なこととか、日常の何気ないこと…気付いたら誰に言うでもなく率先してこなしてくれる。とても大助かりだ。本当に本当に感謝している。

 でも、だからこそ、ウチの心の中では罪悪感みたいなものが目立つ。


 苦手なことを無理にやって、みんなに迷惑かけるよりは、最初から得意な人に頼んでやってもらう方が、時間的にも効率的にもいい。

 わかってはいる。わかってはいるのだけども…


「(さすがにタダ飯は申し訳ない…)」


 はぁ…、と再び溜息が溢れた。


 そんな時ーーー


「なーがりん!」

「?」


 隣で黙々と料理を作っていたいけちゃんから声がかかった。


「どうかした?いけちゃん」

「あのねー、もしながりんの手が空いてたら手伝ってほしいことがあるんだけど…」

「!!」


 これぞまさに鶴の一声!

 タダ飯の罪悪感に押しつぶされそうになっていたウチに、いけちゃんからお手伝いのお誘いがきた!


「オッケー!オッケー!任せてッ!」


 焚き火と寝床の準備が終わって向こうで呑気にトランプを始めたクソ野郎共が思わず振り向くくらいの大声で返事をすると、ウチはいけちゃんが「こっちこっち!」と手招きする反対側へと駆け寄った。


「なんだい!いけちゃん!なんでも任せておくれ!!」

「ありがとー!助かるよ!…じゃあ、コレとコレと…あとコレを混ぜてソースを作ってくれる?」

「うむ!分量はどれくらい?」

「全部大さじ2くらいで大丈夫だよ!後は味見をして何か足りなかったらながりんの好みに微調整しちゃってオッケーだから!」

「はーい!了解しました!」


 ウチでも簡単にできるくらい優しいレシピを教えて貰って、さっそく材料を混ぜていく。

 液体状の調味料、粉末状の調味料、他にも色々な調味料を巧みに使いこなすいけちゃんの料理はいつも絶品だ!


「え?うそ?リカちゃんが料理してる?」

「え?マジですか?リキヤさん」

「へへーん!料理の一つや二つ、ウチの手にかかれば朝飯前ですぅ!」

「いやいやいや、無理無理無理ッ!」

「まだ死にたくないッ!!」

「あ゛あ゛ぁ ん ッ!?」


 料理をするいけちゃんとウチの周りにワラワラと群がってきたと思いきや、ウチの手元に視線を落とすと途端に青ざめる野郎2人。

 先ほどといいズケズケと失礼なことを言ってくる。


 というか…ーーー


「そもそも2人ともウチの手料理食ったことねぇだろッ!?」


 そうだよ、そうだったよ!

 なんだかんだで街以外でのご飯は、ほぼ、いけちゃんに任せてたから、この2人はウチの手料理知らねぇじゃんッ!!!


 重要なことを思い出したウチは、威嚇をするように2人を睨みつける。

 なのに、この2人ときたら…


「いや…ねぇ?」

「ねぇ?」

「???」

「「明らかに料理できなそうな顔してるから」」

「真面目な顔して言ってんじゃねぇッ!腹立つッ!!」


 たしかにいけちゃんよりは味は落ちるけれども!

 これでも一般的な料理の一つや二つできるわッ!!


 そう怒りのままに告げると、2人は「まさかぁ?」と言いたげに鼻で笑っていた。

 そんなクソ野郎2人に、今度こそブチッと何かが切れたウチは、ロッドを高々と掲げると無表情で魔法詠唱を始めた。


「げぇッ!?」

「ちょっ、リカさん!一旦落ち着きましょうッ!?」

「そうだよ!さすがにここでぶっ放されると無事な自信ないッ!!」

「奇跡的に無事だったとしても洞窟崩れてどっちにしろエンドコースッ!!」


 ぎゃいぎゃい、と洞窟内にウチらのバカみたいな声が反響する。


 死に晒せェエエエエッ!!!!


 と言わんばかりにウチが魔法をぶちかまそうとした、まさにその時ーーー



「もーーッ!!みんなあんまりうるさいと晩御飯ナシだからねッ!?!?」

「「「ごめんなさいッ!!!」」」



 我らが胃袋の神、いけちゃん様からの一声により、今日もウチらのバカ騒ぎが幕を閉じたのであった…

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