カップル遊戯
東聖紅緑学園シリーズの四作目であり、『野良猫が乙女ゲームの世界に転生しちゃった?!』の続編になります。
私が乙女ゲームの世界に転生してから三か月が経過した。
来週の土曜日には東聖紅緑学園一大イベント『カップル遊戯』が開催される。男女一組で参加し、様々なゲームを行うイベントらしい。男女であればカップルでなくても良いとのことだ。
私は赤崎と参加することになった。勿論カップルとしてだ。二ケ月前から赤崎と付き合っている。まだ手しか繋いだことがなく、キスはしていない。
周りのカップルは初日にキスを済ませたらしいが、そんなに早めにするものなのだろうか? 付き合うのは初めてだから何とも言えないが、いつかはできればいいなとは思っている。
どんなゲームを行うのかはわからないが、赤崎と一緒なら楽しめるだろう。
来週の土曜日が楽しみだ。
☆☆
ついに『カップル遊戯』の日がやってきた。
私たち参加者は体操服に着替え、実況席に設けられた控室で待機していた。
「今年もやってまいりました! 東聖紅緑学園一大イベント『カップル遊戯』の季節です! 司会進行役は水面里香が務めさせていただきます」
水面は実況席から立ち上がり、深々と頭を下げた。
「まずは参加者の紹介です! エントリーナンバー①番は猫舐猫子&加上健太郎ペア!」
猫舐と加上は盛大な拍手に出迎えられ、入場した。
「エントリーナンバー②番は霧吹麗華&東雲海斗ペア!」
霧吹と東雲も盛大な拍手で出迎えられ、入場する。
「エントリーナンバー③番は野良猫香&赤崎悟ペア!」
私は赤崎の手をギュッと握り、盛大な拍手に出迎えられ、入場する。
大勢の観客が見に来ていた。イベントというのはこんなにも人が集まるものなのか? 何だか急に緊張してきた。私の緊張が伝わったのか、赤崎は手を強く握りしめてくれた。そのおかげか、少し緊張が和らいだ。
その後も次々と参加者が紹介され、入場してくる。計10組のペアが『カップル遊戯』に参加する。一大イベントにしては参加ペアが少ない気がするが、恥ずかしいのかもしれない。手を繋いで入場しなければいけないから。
「第一ゲームは『わさび入りパン早食い対決』! パンを両側から食べていくだけですが、わさびが入っているので鼻の奥にツンと来るかもしれませんから、注意してください。一位は100ポイント、二位は80ポイント、三位は60ポイント、四位は40ポイント、五位は30ポイント、六位は25ポイント、七位は20ポイント、八位は15ポイント、九位は10ポイント、十位は0ポイントとなっています」
校庭に十個のわさび入りパンが運ばれてくる。何の変哲もないパンに見えるけれど、鼻の奥にツンと来るとはどういうことだろうか? わさびを食べたことがないからよくわからない。
多少不安に駆られながらも、私はパンを挟んで赤崎と向かい合った。
「それではよーいスタート!」
水面が笛を鳴らす。
私はパンを食べた。その瞬間、鼻の奥に刺激を感じた。これまでに感じたことのない感覚だった。これがツンと来るということなのだろうか?
赤崎も辛そうな表情をしている。私が元猫だからではなく、人間にとっても辛いようだ。
私は刺激を堪えながら、パンを食べ進めようとする。しかし、刺激が強すぎて食べ進めることができなかった。赤崎はもう半分近くも食べ進めているというのに、私は何の戦力にもなっていない。
悪戦苦闘していると、赤崎の顔が目の前まで迫っていた。私はドキリとした。そして赤崎の唇が私の唇に触れて終了した。結果は五位。私がパンを食べ進めてさえいれば、一位になることだってできたかもしれない。
一位は猫舐&加上ペアだった。
「すまない。刺激が強くて食べられなかった。私のせいで赤崎に負担をかけてしまった。本当にすまない」
私は自分の不甲斐なさにあきれ果てながらも、赤崎に謝った。しかし、赤崎は怒るどころか私を優しく抱きしめてくれた。
「何も謝ることないだろ。30ポイントは手に入ったんだから、気にすることないよ」
「……ありがとう」
私は嬉しくて赤崎の背中に手をまわした。周りからひゅーひゅーと聞こえてくる。公衆の面前でやることではなかったかもしれないが、良しとする。
「続いてのゲームは『お姫様抱っこ100M走』です。男子が女子をお姫様抱っこして100M走るだけですが、人を抱えての走りなのできついかもしれません。ポイントの振り分けは第一ゲームと同じです」
赤崎は私をお姫様抱っこし、第三コースで待機する。コースはエントリーナンバー順となっている。
「それではよーいスタート!」
水面が笛を鳴らしたと同時に赤崎は走り出した。
お姫様抱っこをされるのは恥ずかしいが、嬉しくもある。赤崎にお姫様抱っこされてると思うと、体が火照ってくる。
私は視線を動かし、周りを伺う。猫舐&加上ペアと霧吹&東雲ペアがわずかに一歩リードしている。
私は心の中で赤崎を精一杯応援する。その思いが通じたのか、赤崎はスピードを上げ、一位に躍り出た。
赤崎はリードを保ったまま、一位でゴールした。合計130ポイントになった。しかし、猫舐&加上ペアが二位でゴールしているから、合計180ポイントだ。その差は50ポイントもある。
それに霧吹&東雲ペアは三位でゴールしているし、第一ゲームは二位だったから合計140ポイント。10ポイントの差ならすぐに追い抜けるかもしれないが、今のところ全体では三位にとどまっている。
「続いてのゲームは『二人羽織相撲』です。男子が女子をおんぶし、羽織をしてもらいます。その際に女子は顔を伏せて、周りが見えないようにしてください。その状態で相撲をしてもらいます。白い枠から出たら負けです。勝ったペアは50ポイント、負けたペアは0ポイントです」
第一回戦は猫舐&加上ペアVS霧吹&東雲ペアだ。
加上は猫舐を、東雲は霧吹をおんぶした。猫舐と霧吹は羽織に腕を通し、顔を伏せて準備を終える。
「それでは始め!」
開始と同時に加上と東雲は互いに詰めよっていく。しかし、猫舐と霧吹は手を振り回すも空振っていた。開始してから数十秒後にようやく組むことができていた。
猫舐と霧吹は両手でがっしりと組み合い、相手を押していく。霧吹&東雲ペアが徐々に押されていき、白い枠を出てしまい、敗北する。
「勝者は猫舐猫子&加上健太郎ペア! 第二回戦は野良猫香&赤崎悟ペアVS三和穂香&斎藤健一ペアです」
私は赤崎におんぶしてもらい、羽織に腕を通す。それから顔を伏せて準備を終えた。
「それでは始め!」
開始と同時に私は両手を振り回した。しかし、何の手ごたえも感じられず、空を切っただけだった。それでもめげずに振り回していたら、相手の腕を捉えた。
私は両手に力を込めてグッと押した。相手も押し返してきたが、それ以上の力で押しまくった。
「勝者は野良猫香&赤崎悟ペア!」
水面の声が聞こえ、私はホッとした。勝つことができて良かった。これで50ポイントが追加され、合計180ポイントになった。霧吹&東雲ペアを抜いて二位になった。
三回戦、四回戦、五回戦と順調に進み、『二人羽織相撲』は終わった。
「いよいよ最終ゲームとなりました。最後は『二人六脚』です。互いの手足を紐で結び、四つん這いで進んでもらいます。ポイントの振り分けは第一ゲームと同じです」
私は自分の手足と赤崎の手足を紐で結び、四つん這いの体勢で待機した。この体勢になるのは久しぶりだ。転生してからは四足歩行で移動したことはないから、あまり自信はない。猫時代の本領を発揮できればいいけど。
「頑張ろうな」
赤崎がニッコリと微笑んでくる。私はドキドキが止まらなかった。
「うん」
私も微笑み返した。
「それではよーいスタート!」
水面が笛を鳴らしたと同時に前進する。
私たちは息の合ったコンビネーションでスムーズに進むことができた。最近はご無沙汰とはいえ、四足歩行に慣れているということもあるかもしれない。
私たちは他のペアと大差をつけ、ゴールした。合計280ポイントとなった。
二位でゴールしたのは猫舐&加上ペアだった。合計310ポイント。惜しくも届かなかった。
優勝は猫舐&加上ペアで、私たちは二位だった。一位になれなかったのは残念だが、最初の30ポイントからよくここまで追い上げたと思う。
「どうだ、猫香? 楽しかったか?」
赤崎が私の肩に手を回して聞いてくる。
「うん、とっても楽しかった」
「それは良かった」
私と赤崎は見つめ合い、どちらからともなくキスをした。
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