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誇るべきシステム

 この草臥れたような病院にも、誇るべきシステムというものが一つは存在している。

 その名も『シャンク』。

 人類が掌握していると言っても過言ではない宇宙、その中で最も優れた――

「――アンドロイドですよ。あんまり素敵じゃないですけどね」

「たしかに、名前は素敵じゃないな――だが、大事なのは本質だ――素敵かどうかは自分で決めたいものだね。特に、君の眼力は偏見が強く出るからね」

 いけ好かない看護婦から、――もう耳にタコが出来るくらい聴いたな――「マア」などと声が上がる。「なんて失礼ですこと」

「君の愚痴に比べたら……」

「愚痴に失礼も何も無いわよ!」

 肩を竦めつつ、「まったくその通りでしたな」と、手を広げては降参の意思表示をした。

「まあ……閑話休題しよう」興奮頻りの看護婦を宥めるようにして、自らも気持ちを切り替えるようにする。「――そのアンドロイドとやらは、ならば根本的には機械なのだね?」

 戯言には違いないが、けれども返答を期待していないわけでもないので、看護婦の言葉を待っているのだが――未だ不機嫌そうにする看護婦は(どうして女性というものは決まって気持ちの切り替えが愚鈍なのだろうか。日常会話をするのも一苦労だ)、しばらく焦らすような無言の姿勢を取ってから、ゆっくりと喋り始めた。

「正確にはアンドロイドじゃないらしいですけれどね。えーと……たしか、『第三生命特殊体』みたいな、そんなものでしたね。……なに? その顔?」

「いや……」まさか、そんな形式ばった用語を、このじゃじゃ馬である看護婦の口から聴けるものだとは……まるで思いもしていなかった。おかげで、不覚にも盛大な驚愕の表情を作っては披露してしまった。

 酷く驚いてしまっている私を見た看護婦は、不機嫌さをさらに増幅させていく。

 急いで表情をクールなものへと戻し、軽く咳払いをして、「ということは、見た目からして人の形を成していないのかい?」と、話の続きを催促するように言った。

「さあ、どうでしたかね!」

 取り付く島もないままに――看護婦は病室を出て行く。

 彼女の背に対して、呆気の表情をする私。これだけ表情が変わる日は、きっと向こう十年は無いだろう。

 決して飽きることのないファンタスティックな病院に入れて幸せ者だな、と、酷い虚言を吐いてから――またもや気持ちの切り替えを行って――枕元の本を手に取った。

「……どこまで読んだかな……」

 不幸にも栞を失くしているので、前回に閉じたページがどこであるのか、それがわからない。頼りは脳髄に宿る記憶のみとなってしまっている。

 五分も掛けてようやく目当てのページを開いて、見覚えのある文章から見覚えの無い文章へと視線を移し、静かに読書を開始した。

「…………――」

 ひとときのしじまが、この賑やかな病院にも、あるいは現存するのだと、私は僅かながらも感じては噛みしめていた。


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