専属スミス
WOOには大勢のNPCが住んでいる。
NPCはこの世界の住人であり。プレイヤーにとっても重要な存在だ。道具屋や宿屋等は現状NPCのものしか存在しないし、ゲーム的なご都合主義が少ないように作られているこのゲームではNPCが農業や産業を行ってくれないと酒場での食事や、アイテムの流通などが止まってしまうのだ。
NPCには一人一人に記憶や感情があり、毎日声をかけたり、店を利用したりすると親しくなれたり、現実にいるような普通の友人のようになれたりもする。
コロナは2週間の間、見かける度にナハトに声をかけていたので覚えていて貰えたが、ほとんどのプレイヤーは最初に案内してくれたNPCに覚えてもらえてなかったりするのだ。
ステータスとしての善悪システムはないので、窃盗等の犯罪を行っても誰にも気づかれないが、1度でもバレると頭上のアイコンが赤く変わり、全ての人(PCもNPCも関係なく)に犯罪者だと知られてしまう。
もとに戻すにはどうすればいいかというと、裁判を受けてから奉仕活動を行わなければならず、これは『罪によって定められた分の経験値・お金を全て国に寄付する』というシステムである。
この奉仕活動については案内役の兵士が絶対に伝える内容らしく、ナハトを質問攻めにしたコロナ以外のプレイヤーも全て知っているので、現在犯罪プレイヤーは未だに出現していないらしい。
プレイヤーと同じ成長システムを有する彼らには冒険者も存在しており、店などで見かけるとプレイヤーかNPCかなど見た目では判断できない。ただ同じ成長システムでも成長速度が異なるうえに、死亡すると復活も出来ないので上位プレイヤー程の強さになるNPCはほとんどいない。
それでもスキルを使わない武器の単純な技術などはプレイヤーよりも上な場合があり、上位ギルド等では技術指南役としてNPCを雇っているところもあるようだ。
コロナもNPCの重要性には早くから気付いていたので、腕が良さそうな鍛冶屋を選び、頻繁に足を運んでいた。腕はもちろんのこと、店主が頑固そうなところが気に入ったのだ。
「親父さん、また修理してくれ」
いつものように店の奥に向かって声をかけると聞きなれない声が返ってきた。
「師匠は今買い出し中よ」
そういって奥から出てきたのは長い黒髪の女性だった。
「それより今修理って言ったよね? 師匠から修理依頼は任せるって言われてるんだ。貸してみて」
そういって手を出す女性
「そうか、ならお願いしよう」
少し疑問に思いながらも装備を渡すコロナ、女性が嬉しそうに装備を奥に持っていこうとした時だった。
「勝手になァーにをしとるんだ?」
入り口の方からドスの利いた声が店内に響く……
結果さっきの言葉は嘘で、この後無茶苦茶怒られたとだけ記しておく。
「私は“ユキメ”、あなたと同じプレイヤーよ」
親父さんが修理してくれている間商品を磨くように言われたユキメと話すコロナ。
「なんで俺がプレイヤーだと?」
「知らないの?この前のゴブリンキング戦の動画が出回っててあの8人はもう有名人よ。」
「なるほど」
呆れたように言うユキメにそうとだけ答えるコロナ。実際ここ数日やけに見られている感覚はあったのだ。おおかたキングの素材を使った親父さんの一品物の盾が目立っているのか位にしか思ってなかったが。
「それにしてもプレイヤーの弟子って珍しいな。NPCは何人か見たんだが」
コロナの素朴な疑問に一瞬思案するユキメ
「まぁどうせすぐにばれるし教えてもいいわ。生産スキルってね、独学だと絶望的に伸びないのよね。」
ユキメの話では料理スキルをあげていた友人が仲良くなったNPCに教わった時に気付いたんだという。
「NPCに教わる、それ生産だけじゃないかもな……」
「結構重要な情報だったでしょ。」
あぁと上の空で答えるコロナ、しめたとばかりに意味ありげな笑顔で詰め寄るユキメ。
コロナがヤバイと思った時にはもう手遅れで
「じゃあ情報料としてあなたの贔屓な職人の座私が貰ったから。」
巷で噂の[ソロのくせにトップギルド<ブラックトライデント>の誘いを断った一匹狼コロナ]にお抱え職人が出来た瞬間だった。