第4話
渡された地図にしたがって歩いていた隆也は、目的地に到着するなり立ち尽くす。
「……あれ? 俺、どこか途中で曲がるところ間違えたっけ?」
そうつぶやいて、これまでの道中を思い起こした。
「えーと、店を出て、商店街をまっすぐ歩いて、大通りに出たあと右に曲がって……。噴水を過ぎてそのまままっすぐ……の突き当たり」
何度思い返しても地図通り歩いてきたようだった。
地図に書かれた通り歩いて到着した場所。そこには白みがかった灰色の建物がそびえ立っている。
荘厳な雰囲気の建物は周囲をぐるりと堀に囲まれ、唯一の入口である正面には跳ね橋が架けられていた。跳ね橋の手前には簡易鎧に身を包んだ屈強な男が腰に剣をさげ、右手に槍を持って直立している。
異世界の基準ではどうだか知らないが、隆也は地球的価値観を以てその建物を改めて見あげてみる。
どう見ても城だった。
王都と呼ばれる街にある城。ということはこの城は王城である可能性が高い。
「可能性がどうとかいうレベルじゃないよな。街の真ん中にあって、大通りの終着点にある城って……、ほぼ確定だよな。っていうかこれで王城じゃなかったら逆にびっくりだわ」
「おい! そこの貴様! そこで何をしている!」
引きついた笑いを浮かべる隆也に、不審な気配を感じた衛兵が詰問する。
「ひいっ!」
何も悪いことをしていないのに突然お巡りさんに呼び止められたような気分である。
「動くな! そこで何をしていた!」
槍の穂先を突きつけられ、背中に冷たい汗をたっぷりとかいたまま、うわずった声で隆也は答える。
「はひっ! い、依頼を受けてきたんですが! なんか、ち、地図が間違っているらしくって……!」
「依頼だと? ……何の依頼だ?」
「に、荷物を運ぶ仕事をしています!」
それを聞いた衛兵の眉がぴくりと動く。
「貴様の名は?」
「時森、時森隆也です!」
「トキモリ……?」
隆也が名乗ると、衛兵は意外そうな表情を見せる。一瞬で自分を取りもどした衛兵はすぐさま槍を引き、かかとを打ち鳴らして直立不動の姿勢を取った。
「ひ、ひいい!」
衛兵が見せた思いもよらぬ機敏な動きに、頭を抱えて隆也は縮こまる。
「失礼いたしました!」
「へ?」
「トキモリ殿ご来城のお話はうかがっております! 職務上のこととはいえ、ご無礼の程、どうかご容赦ください!」
「え……?」
先ほどまでとは態度の豹変した衛兵に戸惑う隆也。
「すぐに案内の者を呼びますゆえ、しばらくお待ちいただきたい!」
呆然とする隆也をよそに、衛兵は詰め所にいる同僚へ声をかけると、駆け足で城の中に入っていった。
「あれ? あれえ?」
そして今、隆也は案内の文官に連れられて城内の廊下を歩いている。
自分の置かれた状況をうまく受け入れることが出来ない隆也は、しきりと疑問符の付いたつぶやきをこぼしながら、先導する文官の後ろをついて行った。
「申し訳ありませんでした。トキモリ殿がおいでになることは衛兵達にも伝えてあったのですが、彼らもまさか熟練の運び屋があなたのようにお若い方だとは思わなかったのでしょう。彼らのご無礼をお許しください」
やわらかな表情で青年文官が謝罪を口にする。どうやら何かの間違いや勘違いではなく、本当に隆也はこの城に呼ばれていたということらしい。
依頼人について何も言わなかった雑貨屋の店主に対して、隆也は心の中だけで恨み言を吐いた。だがそれを言うなら、店主に何も確認をせずさっさと店を後にした隆也にも責任の一端はある。
「こちらです」
頭の中で店主へぶつける苦情の言葉を選別していた隆也は、青年文官の声に現実へと引き戻された。どうやら依頼人の元へついたようだ。
シンプルながらも高級感漂う金属製の扉が隆也の目前にある。その扉を挟むようにして武装した衛兵が二人。どうやら中にいる人物は護衛をされるような立場の人間のらしい。
「お役目ご苦労様です。トキモリ殿をお連れいたしました」
「は!」
衛兵は短い返事をすると、扉をノックして大声で部屋の中へ告げる。
「トキモリ殿がお見えになりました!」
二、三十秒は待たされただろうか、思いのほか時間が経った後、部屋の中から声が返ってくる。
「入れ」
少々老いを感じさせる男性の声だった。その声を聞いて衛兵が隆也に向けて声をかける。
「よろしいですか?」
「え? は、はい」
本当はよろしくも何ともないのだが、雰囲気にのまれて反射的に返事をしてしまったのも仕方がないことだろう。第一「いいえ」と答えたところで状況が何か変わるわけでもない。
「失礼いたします!」
衛兵が扉を開いて先に部屋へ入り、閉まらないように抑えとなる。先導してきた青年文官の後ろに続いて、隆也も部屋の中へと入った。
部屋は誰かの執務室のようだ。入口から正面にあたる位置へ大きな机が配され、その横には書類の棚が並んでいる。よけいな装飾などはされておらず、至って実用的な雰囲気だった。
だが棚ひとつとっても非常に洗練されたデザインであり、おそらく高級な品物であることが大企業の社屋へ頻繁に出入りしている隆也だからこそ分かった。
部屋にいた人物は五名。
まず正面に位置する机の向こうで椅子に座っている中年の男性。ゆったりとした服に身を包み、素朴な印象を受けるが、隆也を見つめる目からはただ者ではない光がうかがえる。きっとこの中で一番身分が上の人なのだろう。
次に机の横に立つ初老の男性。身なりは文官風であった。先ほど部屋の中から聞こえた声はこの人物だろうと、隆也は当たりをつける。
中年男性を挟んで、初老の男性と反対側にいるのは意外なことに若い女の子だった。華やかなすみれ色のドレスに身を包んだ、いかにも貴族令嬢といった雰囲気である。
年の頃は隆也と同じくらい。わずかに赤みがかったストロベリーブロンドの髪は丁寧に手入れされているらしく、少しの歪みも見せずに背中へと長く伸びている。整った顔立ちと育ちの良さから来る品の良さは、微笑む様子を動画サイトにアップロードすれば『閲覧回数三百万回は堅い』と隆也に思わせた。
初老の男性と女の子のさらに横へ、それぞれひとりずつの武装した男性が立っている。ふたりとも熟練の騎士といった印象を与えるいでたちと鋭い眼光を持っていた。心なしかふたりともこちらをにらみつけているように見えるのが隆也は気になった。
そしてその五人の他には、いましがた隆也を案内してきた青年文官と隆也。合わせて七人が部屋の中にいる全てだった。衛兵は扉を閉めるのにあわせてすでに退出している。
「トキモリ殿をお連れいたしました」
青年文官が椅子に座った人物へ向けて報告する。それに対して言葉を返したのは本人ではなく、横に立つ初老の男性だ。
「うむ、ご苦労。さがってよいぞ」
「はい」
短いやりとりを経て、隆也を案内してくれた青年文官は部屋を出て行った。残されたのはもともと部屋にいた五人と隆也の合計六人。
未だこの状況に狼狽を隠せない隆也が、脳内で混乱と手を取り合いマイムマイムを踊っていると、まずは初老の男性が口火を切った。
「わしはこの国の宰を預かっておるタユマじゃ。そなた、トキモリ殿で間違いはあるまいな」
「は、はひい!」
誰何すると言うよりも、確認のために訊ねたという感じだ。
「そうか、間違い無いのだな……。まさかここまで若いとは思わなかったが……」
「宰相殿! 本当にこのような小僧に大事なお役目を任されるおつもりか!?」
「そうだ! このようにどこの馬の骨ともつかぬ怪しい者へ任せずとも、我々騎士団の精鋭がいるではないか! 第一臣民の礼も取らぬような無礼者だぞ!」
苦笑するタユマに突然ふたりの騎士が食ってかかる。相変わらず状況がさっぱりつかめない隆也は、ただただ嫌な汗を背中でかくだけであった。
「御前で騒ぎたてまつるな! 確かに若い。それはわしも予想外だった。だが運び屋としての実績が比類ないものであることも確かだぞ。報告によればオクタルからこの王都まで、三日で荷物を届けたとある。それも一度や二度ではなく、この半年間に八回もだ」
「な……! オクタルから三日で……!?」
「馬鹿な! アルトリア山脈を越えでもせねば、三日で踏破できるわけがない! いや、越えたとしても三日は無理だ!」
「だが実際に何度もそれを実行している。トキモリ殿、念のために確認するが、オクタルからここまで急げば三日でやって来られるのだな?」
前半は騎士達に向けて、後半は隆也に向けてタユマが言う。通常オクタルから王都までの旅は、旅慣れた者でも三週間、武装した軍隊なら一ヶ月以上はかかる行程だ。
「え? そ、そうですね……」
言いながら隆也は懐から手帳を取り出そうとする。だがその動作を見たふたりの騎士がすぐさま剣に手をかける。
「貴様! 何をするつもりだ!」
「え? ええ!? いや、あ、手帳を……出そうかと」
「見苦しいことをするでない! 武器の類いを所持しておらぬ事は、既に確認済みだ!」
慌てて弁解する隆也を睨んだままの騎士達と、それを叱責する宰相。
この場合、本来は不用意に懐へ手を入れた隆也の方により大きな責任があるのだが、宰相に咎められてしまっては騎士達もそれ以上言い立てることが出来なかった。
「すまぬな。構わぬから手帳を取り出すが良い」
「は、はい」
隆也はおそるおそる懐から手帳を取り出す。
相変わらずふたりの騎士から向けられる視線は怖いが、どうやら宰相がそれを抑えてくれるらしく、そのことが隆也の気持ちをほんの少しだけ落ち着かせてくれた。
「えーと……、オクタルからですと……」
つぶやきながら手帳をめくる。
オクタルというのは雑貨屋へ荷物を出している送り主のいる街だ。ついさっき雑貨屋へ届けた荷物もオクタルからのものである。
頻繁に運んでいるルートなので、一応ポイントは憶えているが、なんせこの状況だ。万が一にも間違えるわけにはいかず、慎重に手帳のメモを確認していった。
「最短で一日半……、いや二日あれば届けられると思います」
荷物を預かる時間帯にもよるのだが、実際には丸一日あれば余裕である。
だがオクタルで荷物を受け取った時間が地球での深夜だとか、あるいは翌日が地球での平日である場合、移動するための交通機関が動いていない可能性や、隆也自身が学校に時間をとられてしまうことがある。そのため隆也は半日の余裕を持たせて二日と答えた。
幸い明後日は平日だが学校は終業式のみで午後からは動けるようになる上、その翌日からは夏休みに突入するため、スケジュール的にはわりと余裕がある。加えて半日分のバッファを持たせたのだ。多少のトラブルが発生しても何とかなる日程だった。
だがその答えですらも宰相達の想像をはるかに超えた短さだった。
「ふ、二日……?」
宰相は言葉を詰まらせる。
「でたらめだ!」
「そのような世迷い言、信じられるか! この詐欺師め!」
ふたりの騎士からは予想通りの罵声が飛ぶ。
「ですが、それはあくまでも他の依頼を受けていない場合です。他の依頼を放り出すわけにはいきませんので、通常は三日の猶予をいただいて依頼を受けています」
「ふむ……」
何やら考え込んだ後、宰相が口を開く。
「優先して運んでもらうわけにはいかんのかね? 無論報酬はそれなりの金額を支払うが」
「お金の問題ではないんです。他の人たちはどうなのか知りませんが、うちは依頼人との約束を何より優先しています」
隆也は即答した。
「せっかくの儲け話が目の前に転がっておってもか?」
「例え一時的に赤字になっても、です。依頼人の大事な荷物を預かるという職務上、信用を失ったら先はありません」
ここは日本ではない。通信技術も発達しておらず、犯罪捜査の国際協力も確立していない世界では、見知らぬ他人に荷物を預けて届けてもらうというのは一種博打のようなものである。通常、そういった配送は顔見知りのキャラバンや旅人に託し、代金は着払いというのが主流だ。
そんな中、赤の他人である隆也に荷物を預けてくれるというのはつまり、それだけ隆也を信用してくれているからに他ならない。
確かに配送の優先順位を入れ替えるだけなら、荷物は多少遅れても届く。だから「その程度なら良いじゃないか」という考え方もあるだろう。しかし、そういった「その程度」こそが信用を積み重ねるための大事な要素であることを、隆也はこの一年間で学んでいた。
だから隆也は顧客と交わした約束を最優先に行動する。例えそれで利益がなくなろうが、休みが減ろうが、幼なじみの亜美に謝罪代わりの服をねだられようが、だ。
「お客様からの信用が何よりも優先する。それが我が時森配送の絶対的方針です」
先ほどの怯えた様子とはうって変わって、堂々たる態度で隆也が答える。
それを見た宰相は軽くうなずくと、本題を切り出した。
「わかった。ではそれを踏まえた上で、これからの話を聞いて欲しい」
「宰相殿!」
慌てて口を挟む騎士達をひと睨みして黙らせると、宰相は続きを口にする。
「実はトキモリ殿の腕を見込んで、ひとつ依頼をしたいのだ」
「お届け物の依頼ですか?」
「そうだ」
「承れる依頼かどうか、詳しいお話しをうかがってからのお返事になりますが、よろしいですか?」
「それは駄目だ。話を聞くからには必ず請け負ってもらわねば困る」
隆也にとって予想通りの答えが返ってきた。
王国の権力者から受ける依頼。当然運ぶのもただの品ではないだろう。騎士達の反応を見ても、国にとって非常に重要なものに違いない。となれば、話だけ聞いて「やっぱり辞退します」というわけにいかないのは当然考えられる話だ。
「では承るわけにはまいりません。確実にお届け出来る保証もなければ、配達日数もお約束できませんので。約束を必ず守るという、うちの方針に反します」
「例え失敗してもそなたの責任は問わぬ。報酬も前払いで全額出そう。期限も特に設けぬ。それならば良いか?」
「は?」
きっぱりと断る隆也に、宰相はとんでもない条件で依頼をしてきた。金は先に渡すから、好きな時に配達しろ。荷物を紛失しても破損しても責任は問わないと言っているのだ。
これにはさすがの隆也も思わず間抜けな声が出てしまう。
「タユマ」
お互いに口をつぐんで固まったふたりに横やりを入れたのは、これまで一言も発することなく椅子に腰掛けていた中年男性だった。
「ここから先はわしが直接話そう。お主は席を外しておれ。将軍達もだ」
「陛下!」
ふたりの騎士――どうやら将軍らしい――はもとより、宰相すらも反対の声をあげる。
「命である。席を外すがよい」
「……は」
三者三様、それぞれの不満を顔に浮かべながらも、渋々と言葉に従って部屋を出て行く。
「エルシリアは残っておれ」
「はい」
ストロベリーブロンドの少女が初めて口を開いた。エルシリアというのが少女の名前なのだろう。やがて部屋に三人だけが残されると、おもむろに中年男性が話し始める。
「トキモリ殿、だったな」
「はい、時森隆也と申します」
「トキモリリューヤ? トキモリという名ではないのか?」
「ええと……、時森が家名で、隆也が個人名です」
それを聞いて中年男性が驚きに目を見張る。見れば少女も目を丸くしていた。
「なんと……、氏持ちであったか。いったいどこの……、いや、余計な詮索はすまい」
異世界において一般市民はファーストネームしか持たない。家名を持っているのは王族や貴族といった支配階級だけだ。おそらく隆也が家名を名乗ったことから、いずこかの貴族に連なる者とでも勘違いしたのだろう。
「わしはウォレス・カサリア・フォーランド。この国の王だ」
予想通りの展開に、隆也の動揺はこの日最高潮を迎えた。
タユマが自らを宰相と名乗り、その宰相よりもおそらく身分が上であろう人物。そして全身からあふれ出る風格。極めつけにさっき宰相や将軍達が口にした
「陛下」という尊称だ。
おそらくそうだろうと思ってはいたが、実際に本人の口から明かされると、やはり平然としてはいられない。国の最高権力者とこうして直接会話することになるとは、つい数時間前の隆也には思いもよらなかっただろう。
「こちらはわしの娘、エルシリアだ」
「エルシリア・カレリア・フォーランドと申します。お見知りおきを」
スカートの裾をつまんで軽くひざを曲げ、少女が優雅に挨拶をする。
国王の娘ということは、つまり王女ということである。貴族の娘がどうこうの話どころではなかった。
「さて、挨拶もすんだところで本題だ。先ほどタユマが言った通り、そなたに仕事を依頼したい」
「えと、その……、陛下。俺、いや私は礼儀作法とか分からなくて――」
「良い。今回は不問にするゆえ、気にするでない」
「ありがとうございます。では……、先ほど申し上げました通り、約束の出来ない依頼は受けたくないのです。依頼人からの信頼を損なうくらいなら、最初から依頼を受けない方がまだマシですから」
「さきほどタユマが言った条件でもか? 依頼が失敗したとてそなたに責任は問わぬ。報酬は十分な額を前払いで支払おう。無論依頼失敗の際も返す必要はない。期限も設けぬが、それでも受けてはくれぬか」
あまりにも虫が良すぎる内容に、かえって隆也の警戒心が強くなる。確かに話を額面通りに受け取ればおいしい依頼である。だが権力者が絡むと、余計なトラブルを抱え込むことになりかねない。少なくともマンガや小説ではそれがよくあるテンプレ展開だ。
やっぱり断ろう。そう隆也が思った矢先だった。
「頼む。この通りだ」
そう言って目の前で国王が頭を深々と下げた。
「え! な! お、王様!?」
「わたくしからもこの通りお願い申し上げます。なにとぞお力をお貸しください」
次いで王女までもが深々と頭を下げる。隆也は全身から嫌な汗があふれ出るのを感じた。
国王と王女の二人に頭を下げさせておいて、依頼を断るなんて事が果たして出来るのだろうか? 楽観的に考えれば、この国王もタユマという宰相も、話が分かる人のようだから、納得してくれるかもしれない。
だが他の人たちはどうだろう?
特にあのふたりの将軍達は国王と王女に頭を下げさせたと聞けば、それだけで怒り狂って斬りかかってきそうである。ましてこちらに都合の良い条件しかない依頼を断るとあれば、彼ら以外の者とて黙っていないだろう。
逃げ場がない。
隆也はその時初めて気がついた。権力者の手が届く範囲にノコノコやってきた時点で負けが決まっていたのだ。
「……わかりました。依頼を受けますから、どうか頭を上げてください」
観念した隆也が弱々しく敗北を告げる。確かに条件自体は異常なほど隆也に有利なのだ。どうせ逃げられないのなら、そうして自分を慰めるほかなかった。
「すまぬ。感謝する」
「ありがとうございます」
頭を上げたふたりがそれぞれの言葉で謝意を示す。不思議なことに、ふたりそろってあからさまな安堵の表情を見せていた。
「それで、詳しい話をうかがいたいのですが。とりあえずはお届け先の場所と運ぶ荷物の内容を……って、そうそう。手に持てる大きさでないと運べませんよ?」
「手に持つ? ふむ……、持てぬ事はないと思うが……」
そう言ってなぜか国王が王女の方へ視線を向ける。
「陛下。なにやら失礼なことをお考えではございませぬか?」
対する王女は気分を害したように国王へ言葉を返す。わけがわからないのは隆也ただひとりだ。
「えーと……。どういうことでしょうか?」
「手に持たずともついて行くゆえ、それは気にせずともよい」
「ついてくる?」
「そなたに運んで欲しいのは、この子、エルシリアだ」
「え……?」
何の気なしといった風に国王の口から放たれた言葉は、隆也を驚愕させるに十分な内容だった。
「な、なんですとおおおおお!?」
2021/04/04 ルビ不備修正 一種博打 → 一種博打
※ご指摘ありがとうございます。