24:超越のキラリVS四天王ルーフヴェンジ
「キラリ! 強いドロップス反応……来るっプル!」
「うん!」
通称「プルバイザー」の視界には、街を囲む高い壁と破壊された門が見えた。その向こう側から真っ赤な光点が近づいてきているのが分かる。
敵のボス級は全部獲で3体。壁の向こうに侵入し暴れていたようだ。
キラリは身構えると、頭上の超高温プラズマボールと、馬車の周囲に張り巡らせた防御シールド――ビーム・ジャケット――の維持から意識を切り離した。
後は惰性で、今まで注ぎ込んだエネルギーが尽きるまで動作し続けるはずだ。
周囲の敵は大方片付いたが時折、豚人間が接近してきては、プラズマの矢で胸を射抜かれて爆発を起こしている。
包囲網突破作戦の目的は、無事にミュウやアークリート、そしてリーナカインを都市国家ベイラ・リュウガインに送り届けることだ。
それが、人類にとっての反撃の火蓋を切る、希望の種火となるはずだからだ。
ここから南門までには僅か100メートル足らず。だが、このまま進んでは敵のボスと鉢合わせする事になるだろう。
「カイン、速度を落として! 中からボス級が三匹飛び出してくる! 僕が引きうけるから皆はタイミングを合わせて門から街の中へ!」
「一人でだと!? キラリ! 何をカッコつけてるんだ!」
アークリートが屋根の上に立つキラリに向かって叫んだ。
「アークリートは弓と剣を構えて。馬車に敵を近づけないで」
「わ、分かってるが……!」
「カイン! ミュウを……頼みます」
「うん! けれどキミもエネルギー残量には気をつけて!」
と、その時。壁を破壊しながら、信じられないほどに巨大な化け物が飛び出してきた。
「でかっ!?」
「想像以上っプルー!?」
『貴様ガァアアア! 人間の……異種ゥウウッ!』
それは全長10メートルにも達する巨大な狼人間、筋肉の塊のような怪物だった。
手に持った鉄の棒を振り回し、運悪く壁の上で矢を構えていた人間の兵士二人を瞬殺、そしてこちらに向かってくる。
その胸には、見たこともないほどに巨大な赤いドロップスが光っていた。
――人狼の真祖、ルーフヴェンジ
さらにもう一匹。
『どんなヤツかと思えば……ガキじゃぁああないかッ!?』
「蛇……人間!?」
――万毒の蛇人間、イグネーク
青い皮膚をした人間の女の上半身に、タコのように蠢く無数に生えた脚。それはよく見ると全てが巨大な蛇だ。
振り乱した髪の毛も全てが蛇、蛇、蛇。
おぞましい神話世界の怪物がそこに居た。
おそらくはドロップスの力で蛇を寄せ集め、一体化した怪物だ。
脚の一本が咥えていた人間の髑髏を、無造作に地面へと投げつけた。それは戦っていたであろう街の兵士の骸だった。
肉が解け白煙を上げている。肉を溶かす毒を使う恐ろしい相手のようだ。
そして3匹目が姿を現した。
『見せてもらいましょうか、力を持つ人間とやらの実力を!』
ブァアア! とそれは宙を舞い、急上昇すると巨大な羽を左右に広げて空中停止をして見せた。
鋭い目でキラリを睨みつける。
猛禽類のような顔、腕全体が翼。脚には鋭い鍵爪を持った鳥人間だ。
特筆すべきは全身の随所で光る宝石だろう。
装飾具のようにさえ見えるそれは、無数のドロップスだ。その数は100を超えている。
――百の魔石を持つ有翼人、フラッズウル
三体全てが、豚人間の王ハーグ・ヴァーグと同格かそれ以上の力を持つ、「四天王」と称される最上位の存在だ。
「名前と識別コードは適当につけたップル! 手ごわそうっプルよ」
「みたいだね」
馬車の屋根の上で、キラリは僅かに唇を噛んで立ちあがった。
手を水平に差し向けて、光を手のひらに収斂させてゆく。
「先手必勝、いけキラリ!」
アークリートが叫んだ、次の瞬間。
ビシュゥ! と鋭い音を立て、イオン化した空気が白い軌跡を刻んだ。
一条の高エネルギーのビームが、真正面から突進する狼人間、ルーフヴェンジの身体を直撃する。
が――。
コォオオン! と鋭い金属音を発し、ビームが幾筋にも四散、周囲の地面で細かな爆発を引き起こした。
「――!?」
「弾いた!?」
リーナカインが驚愕する。
キラリのビーム照射を防いだ敵は、今まで皆無だったのだ。
「ドロップスの波動でビームを拡散させたップル! 周囲に力場を張っていのと同じっプル!」
「……なるほど」
『――笑止! この程度か貴様の力はァアアアッ!』
ルーフヴェンジが耳まで裂けた口から赤い舌を覗かせて、更に接近の速度を上げた。足元で土ぼこりと白い骨が飛び散る。
手に持った巨大な金属の塊で攻撃されれば、馬車ごと粉微塵になるだろう。
キラリは冷静に状況を判断する。
数週間、キラリは幾度となく戦い、学んできた。
無数の戦闘経験で得たもの。それは、自分に出来ること、出来ない事。そして……力の使い方だ。
馬車は時速20キロそこそこで進んでいる。
狼人間との距離は既に30メートル。
蛇人間との距離はおよそ60メートル。その歩みは遅く、突出する狼人間の半分ほどの速度に過ぎない。
鳥人間との距離は80メートル。滞空したまま様子を窺っていて襲ってくる気配は無い。
「なら、狼人間から倒す!」
キラリは脚部、腰、胸に腕と、ビームジャケットを全身を包み込むように展開すると、全身を白く輝く金属質のスーツのように覆った。
そして、馬車の屋根を軽く蹴って跳躍する。まるで重力さえ中和したかのような軽やかな飛翔をみせると、馬車のおよそ10メートル先に軽やかに着地する。
「ビームジャケット・フルアーマーっプル!」
「制御は神経直結、大分慣れたよ」
これは、伸縮差のあるビームジャケットの薄膜を幾重にも重ね、低温プラズマによる強化外骨格を形成したのだ。
衝撃、熱、エネルギー攻撃にさえ耐えうる、それはキラリの「光の鎧」だった。
「は……ッ!」
キラリは地面を蹴った。地面が背後でドゥッ! と、爆発したように土ぼこりをあげた。そして、超人的な速さで疾駆する。
「なんだあの少年は!?」
「は、早い!」
壁の上から矢を射り、門の周囲の豚人間を牽制していた兵士達から、どよめきと驚きの声が起こりはじめた。
それもそのはずで、キラリの速度は馬車の二倍も出ているだろう。
『な……なにィ!?』
瞬きほどの時間で、真正面から向かってくる少年に、狼人間ルーフヴェンジが咄嗟に剣を振り上げた。
3メートルもあろうかと言う長剣をキラリにむけて振り下ろすが剣は空を切り、地面を穿つ。
その瞬間、ビキシュッ! と白い半月のような光が幾筋も瞬き、狼人間の巨体を通り抜けた。
キラリは超高速で巨体の脇腹を潜り抜けると、10メートル先で両足を踏ん張って勢いを相殺する。 ズッシャァアア! と足元で地面が悲鳴をあげ、盛大な土埃が吹き上がった。
黒髪が鋭い眼光を隠すが、目線はルーフヴェンジを捉えたままだ。
「零距離での直接斬撃……、防げる?」
身体をひねりながら右手を地面につき、身を低くして停止すると、キラリは狼人間を睨みつつ言い放った。
その手には輝く「光の剣」が二本、握られていた。
『ばっ……か……ナッ!?』
目を見開き、後ろを振り向いた狼人間の首が、斜めにズッ……! と傾いた。そして、そのまま地面に落下--。
巨漢の狼人間は、盛大に真っ赤な体液を噴出しながら、両腕、胸、両足と胴体とバラバラに崩れ落ち、地面へと倒れ肉片へと姿を変えた。
「お、ぉおおおおおお!?」
「いっ、一瞬で!?」
「あの化け物を……」
「倒しただぁあああああ!?」
ドッ! と歓声とどよめきが兵士たちの間に広がった。
だが、キラリはそのまま立ち上がると上空に手を掲げ、僅かに気合を入れた。
1秒もたたぬうちに頭上に赤々としたズラズマの球体が生み出される。
その温度は、数万度に達するだろうか。
『ンン~……! ゆ だ ん したぁあああ! ゲフゲフ……! こんなぁああ程度でぇえええ』
「動いたぁあああ!?」
「化け物が!」
アークリートとリーナカインが叫んだ。
首だけになった狼人間はギロリを目を見開くと、バラバラになった肉片から無数の血管のような肉の触手が伸び、絡み合いはじめた。
『楽勝おぉで、再生ィイイ、いい――――ッ!? モッゲェエエエエエアアアアアアア!』
次の瞬間――。
眩い太陽のような光球が肉片の上に落下、全てを包み込んだ。
焼き尽くすというレベルを遥かに凌駕した超熱攻撃により、原子の状態にまで還元された狼人間は、ドロップスもろとも完全に実体を失い文字通り「消滅」してゆく。
後に残ったのは半球状にえぐれ、赤々と融解した地面と立ち昇る青白い煙だけだ。
「……お前たちの手の内なんて、お見通しだよ」
キラリは息も乱さずにそう言うと、一瞥もくれずに背後を振り返った。
そこには、目前に迫る蛇人間そして、キラリ目掛けて急降下を開始した鳥人間、二体の怪物が迫っていた。
「キラリ! 二体同時に挟撃するつもりっプル!」
「うん……! 大丈夫」
『きっ様ぁああああああ!?』
『人間風情が! 我ら……偉大なる種族ニィイイイイッ!』
<つづく!>




