彼女はチョコが欲しいかと聞いてくる。
「さて信二お前はチョコが欲しいか?」
彼女であるミサキは大真面目に聞いてきたので、それに対して彼氏である僕は答えないといけない。
欲しいと本能のまま答えるのが正解なのか、それともこれまでの付き合いの仲から学んで答えを先送りにしたほうがいいのかと悩む。
ミサキはイベントに踊らされている風潮が嫌いなのか、それともただ単に照れ隠しでひねくれているのか素直にこういったイベントでプレゼントをあげるという事はなかなかしてくれない。
「えっなんでそんな事を聞くの?」
「うむ、チョコが欲しいならバレンタインにあげようかと思うのだがチョコ欲しいか?」
念をおして聞いてくるということになにやら不安しか感じない。
「バレンタインチョコをあげたくないという事なの?」
「いやあげたくないというか、あげていいものかということで疑問がでてな」
「どんな疑問」
「ふむ、例えばの話だが手作りチョコレートのほうがありがたいよな」
「もらえる分にはかわらないけど手作りのほうがいいかな」
「そうか手作りと言うと私は何を入れるのか想像してそれを望むのか」
何を入れる気なんだ。
「手作りというと聞こえはいいが品質は保証しないぞということでもある」
「確かにそのチョコに対して何をいれるかはミサキの自由だけどさ安全は保障しようよ」
「いや保障したら手作り感がなくなると思う」
本当に何を入れる気だ。
「食べるのは恋人の僕だよね」
「信二のために作るのだからお前以外だれが食べるんだ」
「そうだよね、何をいれるの」
「愛情を込める」
「実際にあるもので」
「愛情はあるぞ愛している」
「うんありがとう、僕も愛しているそうじゃなくてチョコに入れるもの」
「手作りチョコなんだからサプライズを込めよう」
そのサプライズというのはなんだろうか?
「食べれるよね」
「チョコを食べるのは信二だからな、チョコ食べれるかどうかは信二しだいだ」
僕しだいか、いやまぁ不味かろうがおいしかろうが食べきるかどうかは確かに僕しだいだけど。
そもそも安全を保障しない愛情ってなんだろうか?
「その愛情と言うのは安全かな?」
「愛は時に燃え上がるものだからね、燃え上がっているものは安全じゃないかもね」
そうだね燃え上がっているあいだは何をしているか分からない人達っているよね。
「さてここまで踏まえたうえでもう一度聞こうチョコ欲しいか」
「チョコは市販品がいいのでください」
「なるほど、あぁそうだ信二例えばの話だが恋人が手作りしたものと市販品で愛はこもっていないものどちらが恋人として受け取るのが正解だと思うかな」
市販品という逃げ道が途絶えた。
恋人としては前者が正解以外ありえないだろう。
「まぁ一般的には当然手作りだね」
「そうだな、手作りだな愛情がこもっているのだから当然だ」
「当然だね」
「さてもう一つ例えばの話だが、恋人が愛情を込めて作ったものを捨てるそういう奴はどう思う」
「それは最低といわれてもしょうがないよね」
暗に手作りチョコをもらっておいて捨てるとはどういう事だということだろうというか捨てるのは許さないということだろう。
それはそうだ、女の子しかも恋人である可愛い彼女が作ったものを捨てるという選択肢はない。
「私の恋人は最低な人間ではない事を信じている」
「そうだね、信じてくれていいよ」
「裏切らないと信じている」
「うん」
「これで最後のたとえ話だが、愛情と言うのはプレゼントを贈らないと確かめられないものだろうか」
「そんな事はないと思う」
チョコというプレゼントをもらわなくても、愛情を確かめられないそんなことはないだろう。
「さて、もう一度聞こう信二お前はチョコが欲しいか?」
「いらないかな」
あんな話の後で素直に欲しいといえるわけもなく、断念せざるをえない。
「分かった、いやぁしょうがないよな信二がいらないというんだからしょうがないよな」
「そうだねしょうがないね」
「うんしょうがない」
ミサキは実にわざとらしく笑いながらしょうがないと連呼した。
「あぁでも手作りチョコはなくても愛しているぞ信二」
「うんありがとう」
素直に愛情を込めたチョコをもらえる日は遠いらしい。