嘘つき
あなたは最後の最後まで嘘つきだった。
人を楽しませる嘘をたくさんついた。
でも――人を傷つける嘘もたくさんついた。
逢う約束をして、遅れてくればまだいいほうってほどの、ドタキャンの数で、もうしないなんて、大嘘もいいところ。いろんな女の子にかまってるのを、冷ややかに見てることに気がつけば、「おまえだけ」で「もうしない」とか言って、次の瞬間にはもう――って感じ。
だけど、別にそんなのはいいんだ。だって、私は彼女でもなんでもない。クラスメイト以上友達未満だから。ただ、嘘につきあっていただけ。
そう、それこそが1番大きな嘘。高校を卒業するまで、最後の最後まで、あなたがつきつづけた嘘だ。
――私のことが好き――
嘘つきね・・・・・・。あなたが好きなのはお姉ちゃんでしょ?
私が好きなのは――あなただったけど・・・・・・。
私も嘘つきです。
大嫌いなんて大嘘だったから・・・・・・。
永遠に本当になることのない嘘。
あなたと過ごした3年間は嘘ばかりでした。
* * * * * * *
3月1日の卒業式から、1月経つ。今日はエイプリルフール。
彼からメールが届いた。
――会いに行く
と・・・・・・。
だから、私は嘘をつく。
――家にいる
と・・・・・・。
だって、きっと嘘。そんなのを、期待して待ってなんかいられない。
だから、出かけよう。いろんなところに。
* * * * *
夕方、5時をまわる頃、ここにはもう来ることはないのだと、高校を訪ねた。
とはいえ、中に入ることはしなかった。それどころか、いつも裏口から出入りしてたので、裏口の前につっ立っていただけ。
ぼーっとしてた。だから、肩を叩かれれば、当然驚いた。しかも、あなたがいたのだから・・・・・・。
「逢いに来た」
そう微笑んでるあなたがいたのだから・・・・・・。
かわいくない私は「嘘じゃなかったんだ」と淡々とした感じで言った。
「嘘ついたのは、おまえだろ」
「エイプリルフールなんだから、いいじゃない」
「まーね。ああ、だからさ、逢いに来たんだ」
「は?」
「とっておきの嘘をついてもらおうと想って」
「はあ!?」
彼はにこにこしながら言った。
「聞かせてよ。俺をどう想ってるか」
「――なにそれ。意味わかんない」
「なにってそのままだけど? 言ってよ」
「どうしてよ!」
「わかんないか? 俺は嘘でいいから聞きたい」
――好きって言えってこと? 嘘でいいから? 嘘で好きって・・・・・・言えばいいの? 嘘ってことで好きって――
「・・・・・・大嫌い」
言えるわけない。嘘なんかにして、本当の気持ちなんか言えるわけない。
「嫌い。大っ嫌いよ!」
「――今日はエイプリルフールなんだけど」
私はおもわず睨みつける。
「気づけ! ばか!! 大っ嫌い!」
涙があふれてきた。望んでもいないのに・・・・・・。
「――大嫌いよ・・・・・・」
こんなふうにぶちまけるつもりなんかなかったのに・・・・・・。告うつもりなんかなかったのに・・・・・・。
「もう、やだぁ――・・・・・・」
私は顔を両手で覆う。彼の顔なんて見れるわけがなかった。
ぺしっ。
!? 軽く頭を叩かれて、おもわず顔をあげて、彼を見る。驚いて、涙もとまり、怒るのも忘れ、ぽかんとなる。正直、むこうのが、不機嫌そうな顔だった。
「なんだ、その告白は」
「・・・・・・」
「俺はずっと好きだって言ってたよな? どっかの誰かさんはずっと信じてなかったってわかったけど」
「――え? だって、お姉ちゃん・・・・・・」
彼はため息をつく。
「いいか。とりあえず、今日がエイプリルフールだってことは忘れろ」
「俺は先輩を好きだったことなんか一度もない。俺は最初からおまえが好きだった。つーか、俺、先輩に協力してもらってたんですけど?」
!
「嘘――」
どうしてもこの言葉が、こぼれ落ちる。
彼は不機嫌そうな顔を見せる。
「だから、今日がエイプリルフールだってこと忘れろ、言っただろうが!!」
彼はガーっと怒鳴ったかと想えば、突然頭を抱えしゃがみこんで、じっと私を見つめた。
「なあ、どうしたら信じる?」
どうしたらって・・・・・・。そんなの信じられるわけ・・・・・・。
私がぐるぐると考えていると、彼はすくっと立ち上がり、じっと私を見つめた。真摯なまなざしで、心がぎゅっと掴まれる。
目がそらせない――。
「な、に・・・・・・?」
!
突然抱きしめられた。
「おまえなんか大嫌いだ」
――――あ。
今、わかった。あなたの心が・・・・・・。
あなたが微笑んで私を見る。私も微笑む。
「エイプリルフールだものね。でも――」
私は少し間をあける。
「でも、今だけは忘れてくれない?」
・・・・・・・・・・・・
「いいよ」
私はほっと息をつき、笑った。
「あなたのことが大好きです」
彼は満足そうに笑って、ひょいっと私を抱き上げた。
「な、なにするの!?」
私が抗議の声をあげると、それを無視し、うれしそうな微笑みを見せたまま言いました。
「俺も。俺もおまえのことが大好きだ!」
* * * * * * *
あなたについていた嘘はもう二度とつきません。あなたの最大の嘘は本当だって信じれます。
私はあなたが大好きです。
あなたは私が大好きです。
修正をしようと思いつつ、結局そのままとなってしまいました
色々と気になる背景ですが、そこはそこと流していただけると助かります
当時勢いで書いて、季節感もまったくなかった話