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くじ引き

 公園内に設置された無数のスピーカーから、太鼓の音が轟いた。

 ステージでの演奏をそのまま流しているのだろう。彼ら彼女らの奏でる演奏は熱気や気迫まで、鼓膜を通してぼくのこころのなかまで伝わってくるような気がした。

 ぼくは黒塗りの空を眺めた。

 祭りが終わる頃、横浜の夜空に無数の花火が咲き、太鼓のような音を発するんだ。そう思うと、気分は童心に返ったようだった。

 ぼくは女の子と手を繋ぎながら、露店が連なる道をゆったりとしたペースで歩いていた。

 華やかな祭りのなかでは夏の茹だる様な暑さが、不思議と気にならなかった。

 時折周囲で沸き立つ歓声も、ぼく達には無縁のことのように思えた。こんなに沢山の人達と一緒の時間を共有しているというのに、ぼくは今、彼女と二人だけしかいない世界に浸っていた。


「くじ、やりたい」

「えー、まだやるの?」


 そろそろ迷子捜しをしたいというのに。

 少女は不意に立ち止まると、思い出したようにそんなことを言ってぼくを困らせた。

 ぼくの言葉に込められた負のニュアンスに彼女の気が障ったらしく、眉と眉の間に可愛らしい小さな皺を寄せた。

 彼女の唇が尖り出す前に、ぼくはさっさと列に並ぶ。すると彼女は打って変わって大人しくなる。なんというか、現金な子どもだ。


「でも、そろそろ圭くん探しを始めないと……」


 そう言った途端、握り返す力がぐっと強くなった。

 ぼくが思わず彼女の顔を見ようとした。しかし、少女は顔を俯けてしまって、なかなか目を合わせてくれなかった。


「大丈夫」


 かなり間が開いた後の言葉だった。だから、彼女が何に対して「大丈夫」なのか、ぼくには最初見当がつかなかった。


「……えっと、何が?」

「圭くんのこと」


 ぼくは顔から困惑を消した。

 この子はひょっとして、芦名圭くんの迷子に関して、なにか心当たりがあるんじゃないのか。

 そう問おうとしたけど、彼女は年相応に小さくて細い掌をぼくの眼前に差し出した。


「小銭貸して」

「うん?」

「銀の目隠し削るから、小銭貸して」


 そう言う彼女の手には、トランプくらいの大きさのくじが握られていた。

 カードゲームの手札みたいに、結構な枚数を扇状にしていて、頭の血の気がさっと引いて行く思いだった。


「あのぅ、そこのお兄さん」


 ぼくと同い年くらいの女の子が困った笑みを浮かべながら言った。


「あ、はい」

「えっとぉ、お会計なんですけどぉ……」

「ですよねぇ」


 いくら瀬奈さんのためとはいえ、さすがにこの出費は財布に厳しかった。

 町内会費の必要経費で落とせないだろうか、これ。

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