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 復路は、行きの二倍以上の時間がかかった。

 その頃には、すでに古くなった本部の仮設テントはなくなっていた。明日も引き続き祭りは行われるが不審火や悪戯を警戒して、使われない時は折り畳んで収納しておく決まりになっているからだ。

 慌ただしく後片付けに追われていたはずの、老若男女の町内会の面々の姿は、すでにそこにはなかった。

 ぼくは誰もいない広大な空き地となった会場に、一人ぽつねんと佇んでいた。


「……ちょっと、大丈夫ですか?」


 場違いな声だと思った。

 物陰からそっと姿を表した瀬奈さんは、濡れ鼠のぼくを見かねてタオルを差し出してくれた。


「ずぶ濡れじゃないですか。一体どうしたんです?」


 ぼくはよろよろと首を左右に振った。

 そうしてだんまりを決めているぼくに、瀬奈さんは珍しく苛立ちを露わにした。


「そんなっ!? それじゃ何が言いたいのか、わからないじゃないですか!」


 瀬奈さんはらしくもなく声を張り上げた。

 そして、迫るようにぼくとの間合いを詰めた。

 あの子のことで一杯になってしまい、これ以上深く考えられないと思った。

 ぼくは、事の顛末を全て瀬奈さんに話した。

 話し終えると、ぼくはその場に座り込んだ。足から力が抜けてしまって、もう立っていられなかった。


「ごめんなさい」


 彼女は視線を落とした。


「わたしがしっかりしていれば、こんなことには……」

「いえ、こればっかりはぼくのせいです」


 もし、ぼくがどこかで彼女こそが芦名圭だと気が付いていれば。

 いや。そもそも、帯を解いた時、身体の傷についてもっと真剣に取り合っていれば、彼女はどこかに行ってしまうことはなかったんだ。

 そう思うと、ぼくは身を切られる思いだった。

 身体に切り傷や痣を作って、何もない訳がなかったんだ。

 夏祭りのちょっとした出来事を、今までの人生で一番だなんて言った時、ぼくは彼女にしっかりと向き合っていなければならなかったんだ。

 こみ上げてくる嗚咽を、必死に堪えた。

 そうやって自分を責めながらも、心のどこかではわかっていた。

 ぼくはただの一七歳の、ちっぽけな何もできない高校生で、あの子に向き合ったところで、できることには限りがあったんだ。

 彼女を引き取り一緒に生活することなんてできやしない。彼女の親を法廷に引きずり出すことも、警察に突き出すこともできない。

 いや。そもそも、そんな面倒事が嫌いだったから、ぼくは彼女を改札で見送ってしまったんじゃなかったのか。

 そして、ここでへらへらと開き直れないことを、自分が一番よく知っている。だから、せめて自分で自分自身を責めて自己満足に浸っているだけなんだ。

 そう思うと辛くて、涙が溢れてきた。

 それは拭っても拭っても、止め処なく流れてきて、枯れることがなかった。

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