第八話
ふぅ、今回は難産だったかも……
「さぁ、どちらが此処の聖遺物をにするための試練を受けるか選びなさい!」
そう言って白銀の輝きを放つ剣と漆黒の刀身を持つ細く反り返った剣、いや刀だろう。それも日本刀だ。
「それじゃあ僕がその試練を受けます。お願いします」
「そう……じゃあ決闘の舞台へ移動しましょう」
真羅さんは指を鳴らす。彼女の背後を中心に黒い煙のようなものが広がり僕の後ろで合わさり二人だけしか残されてない空間ができる。
周囲は真っ暗で結香の姿ですら確認できない。
「ここは私の持つ次元属性の魔法が作り出した異空間。ここで起きたことは外に一切の影響が出ないわ。安心して極大魔法を使いなさい」
「そうですか、じゃあ最善を尽くさせてもらいますっ!」
そして僕はかつて真に神童と呼ばれた者との世紀の決闘が始まった。
◇◆◇◆
「放てっ!『新風圧砲!!』」
「無駄よ」
さっきから僕が魔法を撃って、真羅さんがそれを人たちで切り捨てるという攻防の繰り返し。
それよりも魔法を切り捨てるって人外すぎて笑えないんだけど……
「まさかこれで打ち止めなんて言わないでしょうね」
「ならこれでどうですか――」
黒の魔神を満身創痍にまで追い込んだあの魔法なら行けるはず。
「天空を焦がす古の炎、あらゆる物質を残さず。万象一切を灰燼と化せ『古代の業火』!!」
黒かった世界が赤に染まる、あの時起きた現象がまたこの場に具現する。
僕はすぐに屈み眼をとじ耳を塞ぐ。
「ふぅ~ん天災魔法をイメージと詠唱で発動させるなんて「あの子」ほどの規格外ね。でも私には遠く及ばないわ」
真羅さんが何をしたかは分からないけど、そう言った後に何かを呟いたように聞こえた。その瞬間に目を閉じていてもわかる閃光が走る。
音も感じることができずに全ての感覚が戻ったのを確認した僕は眼を開けて状況を確認する。そこには信じられない光景が広がっていた。
「うそ……でしょ……」
僕は間違いなく天災魔法を発動させたはず、なのに魔法は消え真羅さんは服の解れ一つない美しい姿だけが残っていた。
「あら、意外かしら?魔力の少ない私に魔法への抵抗力は皆無だもの、だからこそ剣で抵抗するの。私の手にかかればこの程度の事は息をするくらいに容易いことだわ」
天災魔法を切ってそれが容易い?理解できない。こんなの魔神以上だ。
「理解が追い付いてないようね、それじゃあもう一度だけチャンスを上げるわ『絶対氷結の千年牢獄』を使いなさい。その上で貴方を倒すわ」
完全に舐められている。けどやるしかない、今の僕にある切り札はそれだけなのだから。
「完全なる氷獄、千年の時を止め生けとし生命を奪いし絶対零度。それは全ての終焉、そして一つの始まりとなる、我が真名において具現せよ!『絶対氷結の千年牢獄』!!」
次はすべてが停止する氷結世界、僕も例外なく凍り付く。
そんな時間が止まったかのような世界でたった一つだけ、いやそもそも彼女しかいないのだ、なのに何故に彼女は動ける?何故何もせずに立っていられる?
「凄いわね、天災を使っておきながらさらなる天災を発動させるなんて。でも、どうやら私の異能の前では無力ね、終わりにしましょう――『絶対なる勝利の聖剣』」
一瞬の閃光、僕の見る世界が白に包まれる。
◇◆◇◆
「卅麻!?」
黒い球体が消えると卅麻はうつ伏せで気を失って倒れていた。
その姿を見た結香は悲鳴のような声で彼の名前を呼ぶ。
「安心しなさい、気を失っているだけよ。魔力枯渇と強い衝撃で倒れたのね」
そう冷静に分析するのは先ほどまで異空間で戦っていた真羅である。
特に外傷はなく穏やかに呼吸をしている所から本当のようだが心配なのか結香は気にすることなく卅麻を抱きかかえる。
「今日はもう休みなさい、明日ならまた相手してあげるわ。『ノア』、彼女たちを客室に案内してあげなさい」
ノアと呼ばれたのは先ほど卅麻と結香を彼女の元に案内した少女であった。
華奢な体に見合わない力で自分より重い卅麻を背負って「こちらです」と案内を始めた。
「頑張ってね」
真羅は去りゆく二人にひらひらと手を振りながら見送った。
先ほどの部屋と真逆の位置にある部屋に通された結香はベッドで気を失っている卅麻を心配そうに見つめる。
「何があったのか気がついたら聞かなきゃ」
そう一人ごちた結香は真羅が何者なのか巫女の記憶から探るために意識を集中させるのであった。
一方、二人が去った後、真羅は椅子に深くもたれ掛かり自らの思考に耽る。
「彼は天災魔法を二度も使用した、しかも威力が高い本当の最上級のものを……まさか私がカリバーンの本気を使うまでさせるなんて。今回の救世主はあなた以上かもよ刃……」
◇◆◇◆
すっかり日が落ち夜の帳が落ちたころ、卅麻はようやく目を覚ました。
「う……あれ?」
「卅麻!起きたのね!」
ようやく目の覚ました卅麻に安堵して息を吐く。
どうやら僕はよく眠っていたらしい。
決闘の後に何があったのか結香に一通り聞いた僕は逆に結香にどんな戦いをしたのかを聞かれた。
有ったことをありのままに話したら信じられないような表情をした。
「天災魔法を受け付けないってどういうこと!?」
「僕に聞かれたって分からないけど、異能がどうとか言っていた気がした」
「異能?」
それを聞いた結香は一度考え込み何か心当たりがあるのか、いきなりハッと顔をあげた。そして僕に天災魔法が聞かなかった理由を説明してくれた。
「彼女は『神の異能』と呼ばれるものを持っているんだわ」
「神の異能?何それ凄そう」
「凄そう何じゃなくて凄いのよ、神の異能とはとあることに多大な功績を上げた人に神が祝福として、その人に能力を与えることに手に入るものよ。私たち人間の間では異能を持った人は体のどこかに紋章が刻まれることから『メダリオン』と呼んでいるわ。どういった能力が存在しているのかは巫女の記憶の中になかったわ」
とりあえずそのメダリオンって能力が僕の『絶対氷結の千年牢獄』から真羅さんを守ったってことだな。
だとするとそれを突破するために何か手段を考えないと、今の僕の手札は天災魔法が三種類、上級魔法が五種類、中級と下級が多数と手に持った剣一本。
僕の剣の腕で同行できる相手ではないのは確か、何せ彼女は『天災魔法を剣で切った』のだから。
「あぁ~!どうやったってそんな人に勝てるわけないじゃない!」
「何か一撃浴びせる方法があるはずなんだけど、僕の手札じゃ作戦が少なすぎる」
三つ目の天災魔法は正直言って使いたくない、むしろ使いにくすぎる。『絶対氷結の千年牢獄』は発動する前に体を魔力で覆えば自分への影響は最小限に抑えることができるけど、三つ目の天災魔法はあまりにも被害範囲の広さ、対象の制限ができない不器用さが使いにくい、僕への被害を省みなければ使う価値があるのだが、真羅さんを倒すには本当に最後の手段として取っておくしかない。
あるいは新しい魔法を作り出すしかない、できるかは分からないけど可能ならそれしかない。
「ねぇ結香」
「何?」
結香は小首を傾げて聞き返してきた。
「新しい魔法を作ることができないかな?」
「どうしたのいきなり?」
まぁ言いたいことが分からない訳ではない。
今も魔法は色々と研究され新しい魔法の研究も進められている。もし可能ならここで真羅さんを倒す為の新しい魔法を作り、それで試してみるしかない。
「新しい魔法があれば手札が増えて戦略の幅が広がるからさ、できるならやりたいなぁって」
「まぁ無理じゃないけど、でも期待しないほうがいいわよ」
こうして僕は結香に新しい魔法の製作の為に久々の授業をお願いしたのでのだ。
まず魔法を作るのに必要なことは魔法陣を描く環境と魔法陣の意味を理解している自らの記憶らしい。
魔法陣は分解すると一つ一つの絵のようなものになっており、細かくなるほど色々な情報を書きこまれていてそれらが合わさることで一つの魔法陣になる。
そして魔法陣に描ける絵は大きく分けて三つ。
一つは属性。二つ目はどういう事象を起こすのか、炎なら魔法陣から発射されるのかとか、指定した場所で燃え上がるのかなど……三つ目は発動するためのキーワード、僕が魔法に付けられた名称を言うのはこの条件を満たす為である。
これらを合わせて一つの魔法となるが、そこに「どんな特殊能力を付けるか」「どれほどの被害範囲を出すか」などの設定を付け加えていくことでさらに威力をはじめ、見栄えや魔力の消費量が左右される。
そこまで理解したら後は絵を描くだけ、絵に絵を重ねてまるで幾何学模様のようにする、あと魔法陣は最終的に円を描くようにするので丸くなるように絵を書きこんで行く。なぜ円を作るのかと言うと、魔法陣に流れる魔力の伝達を良くするためであり。別段四角でも三角でも大丈夫である。
ちなみに魔法陣に描かれた事象を現す絵は、少しばかりなら無視することができる。例えば魔法陣から炎の弾を発射するように描いたのに指定した場所から発射するということも可能である。
「よしこれで完成だ」
「何属性の魔法なのこれ?」
「う~ん、色々な属性を混ぜたからどうなるか分からないや」
あ、結香に「こいつ馬鹿だろ」って顔された。
でもこういう不確定要素じゃないと勝てない気がする。
「名づけるなら『勝負は時の運』かな」
「はぁ……呆れてものも言えないわ」
「うわ!ひどい!これでもかなり真面目に考えたのに!!」
でもこの魔法陣がどんな結果を呼ぶのか僕にも分からないんだよね。なんせ事象を現す部分をわざと欠損させているんだから。
しかし、この魔法が後にとんでもないことを引き起こすとは今の僕には知る由もなかった。
また戦闘シーンはざっくりになってしまった。
もっと勉強する必要がありますね。
でも、真羅の実力を少しでも表現できたと思います。
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