第六話
第六話完成です。
意識が戻り、周囲の状況を確認するために瞼を開ける。
最初に映ったものは洞窟の天井ではなくこの世の物ではない『色』をしたものであった。
「ここは一体?」
「これより汝に試練を与える」
僕の問いを無視して何処からか先程まで頭から響いて居た声が耳から聞こえてくる。
僕は上体を起こし正面を向くと身体中を騎士のような鎧で包まれ腰に西洋剣を帯剣した者が綺麗な立ち姿を晒して居た。
「試練よりここが何処か聞いてもいい?」
「ここは汝の精神世界、汝らが魂と呼ぶ物だけを起こし、肉体を眠らせることによって作り出した汝の中にある世界である」
よく分からないけど夢みたいなものだね、誰が話しているのか分からないがおそらく目の前に居る騎士なのだろうと判断付けて僕はさらに質問をする。
「今ここに居る間に現実の方はどうなっているの?」
「汝と寄り添っていた少女は我によってつくられた特殊な結界に閉じ込められ、時間が停止している状態だ」
と、言うことは起きたら結香にとっては『僕が試練を受けた』と言う情報がない状態なんだな。
そこまで聞いて僕は本題を聞き出す。
「で、試練って何をすればいいの?」
「実に簡単なことよ、今ここに居る夢想世界の我を斃してみせよ、案ずるなここで汝が死しても現実には何ら影響はない、しかし二度と試練を受けれなくなることは忘れるな」
つまり死にはしない戦いだけど負けたら聖遺物を手にする機会を一生失うのか。
かなりきつい試練だな、相手の力量は分からないしどんな手を使うのかも分からない――剣を持っていてもあくまで防御に使い近距離からの下級魔法で攻めるというスタイルの人もいると聞いた――それに魔法が聞かない、または使えない可能性も存在する。
「なるほど、負けたら世界を救うどころじゃなくなるな……これは今まで以上に真剣かつ慎重にやらないと」
何せ今までは一緒に戦ってくれる結香がいたけど、今回は完全に一対一勝負だ、剣の腕前が初心者に毛が生えた程度の僕と明らかに剣で戦う騎士が相手では近接戦闘は不利を通り越して無謀過ぎる。かといって距離を開けさせてもらえるかも怪しい所だ、今回ばかりは魔力も酷使せざる得ないかもしれない。
「それじゃあ、早速始めようじゃないか」
「汝が覚悟、見せてもらおう」
僕は背負った剣を抜き中段に構えて呼吸を整える。
騎士は腰の剣を抜き片手で持つだけで構えを取らない。
「いざ、押して参る」
その言葉が決闘の開幕となった。
◇◆◇◆
決闘の内容はいたって予想通りであった。
相手の隙のない太刀筋をオリハルコンの持つ金色の輝きを放つ鎧となんとか身につけた感覚で凌ぐ。
あまりにも止まることのない猛攻によって魔法を放つための集中ができない。
「くそっ、これじゃあ防戦一方などころかじり貧だ!」
僕は悪態をつきながら相手の剣をなんとか否していく。
しかしながら徐々に相手の攻撃に余裕を持って見切れるようになってきた、きっとランナーズハイってやつだね――走ってはないけど――それと同時に魔法を発動させるための余裕もできて来た。これなら魔法を撃つ余裕もできるかもしれない。
ひとまず僕は魔法が効くか試す為に下級の中でもそこそこ威力のある魔法を撃ってみた。
「そこだっ!『火炎弾』!!」
銃弾のような細く鋭い炎の珠が騎士の腹部あたりに当たり鎧を溶かしながら貫通していった。
「よし、魔法は通用する!これなら行ける!」
後は僕の土俵に持ち込めば勝てるかもしれない。しかしまだ油断はできないなぜなら相手はまだ剣で袈裟斬りしかしてないのだ、ここで魔法や特殊な剣技を使われたら対応しきれずに潰される。
「まずは魔法陣だ、でもここはただの空間で魔法陣を描ける場所がない……できるか分からないけどやるしかないか……」
一度だけ距離を取ってこちらの様子を窺うかのように騎士は静かに佇んでいる。僕は知りうる魔法で最高の威力を持つ魔法陣をイメージする、発現する事象は大気が全て凍り付きあらゆる生命が凍結され停止してしまうそんな世界。
「完全なる氷獄、千年の時を止め生けとし生命を奪う絶対零度――」
僕の詠唱を聞いて騎士はすぐに走り出した、だがすでに手遅れである。これは普通の上級魔法ではなく竜王様にいただいた魔法書に乗っていた『たった一つだけ存在していた氷結属性の魔法』であり『過去にも後にも一つだけ禁忌とされた最大の天災魔法』とされ歴史の闇に隠された最悪の魔法である。
なぜ禁忌とされたのか、それは詠唱を行うと術者を飲み込むように分厚い氷が徐々に出現して術者を最終的には完全に覆う為である。
要するに術者の生命と仇名す敵を全て凍らせる天災なのだ。
「それは全ての終焉、そして一つの始まりとなる、我が真名において具現せよ!『絶対氷結の千年牢獄』!!」
魔法が発動すると後は一瞬の出来事であった、僕を含めたすべてが止まった騎士も完全に止まってしまった。しかしそんな事を気にすることがないような声が響く。
「お見事、禁忌とされたかの魔法を発動させるその魔力、さらにそれを受けつつも未だ停止すること無い魂、そして自らを犠牲にしても守るべきものを守ろうとするその強き決意。しかとこの身に刻みこんだ、汝にかの力を手にするための祝福を授けよう」
それを聞いた僕は今すぐにでも喜びを爆発させたかったのだが、何分体中が凍り付いて動くことすら許されないため、心のうちでガッツポーズを決めた。
その後急に意識が遠くなり眼を覚ますと、僕の顔を覗きこんで大粒の涙を流している結香の顔が映った。
「結香、ただいま」
「っ!卅麻!大丈夫!?」
勢いに任せて「ただいま」なんて言ったけど何があったのか分かってないんだよね。
今はとりあえず結香を落ち着くのを待った。
◇◆◇◆
泣き止んだ結香に僕はあったことを全てありのままに説明した。
「じゃあ聖遺物の試練じゃなくて、それを手にするための事前テストってこと?」
「そう言うことだと思う。だから竜王様は僕たちをここに行くように言ったんだと思うよ」
とりあえず合点が行ったのか結香は「私もその試練に受ける」と言い始めた。止めてほしいけど実際のところやるだけならタダだから声を大にして止める必要もないと思った。
祠の前に立った結香は僕と同じように頭を抱えて蹲った――たぶん僕と同じ不快感を受けてるんだと思う、あれってちょっと頭に痛みがあるしね――その後何とはいえぬ違和感を持った後に結香は晴々しい表情をしていた。
「聞くまでもないと思うけど、結果は?」
「大勝利!」
嬉しそうに言った結香は右手の人差指と中指でVサインを作った。
そのまま上機嫌になった彼女と僕は来た道を戻り王宮に戻ってきた。
王宮の入口には我らの竜王様ことティアマト様がいた。
「おお!帰ってきたか卅麻、結香!」
「ただいま戻りました、無事に試練は越えました」
「いやぁ危なかったですけどなんとか終わりましたよ」
「うむそれは何よりだ、しかし立ち話もなんだ、昨日の部屋へ案内しよう」
竜王様直々に案内って恐縮すぎます……
と言ってもこの王様は一度言ったら聞く耳持たなそうだから素直に案内される。
部屋へと向かっている最中にすれ違った人たちが驚きで目を見開いていた。
「好きに座るといい、おい!茶請けと茶を持ってこい!!客の分も忘れるなよ!」
そこまで言った後にワンオクターブ低い声で「忘れたら処刑する」と言い放った。
部屋の外から「ただいま!」と返答と同時にバタバタと急いで走って行く音が響いた。
「全く、何度言えば分かるのだ」
「あまりお気になさらなくても……」
「そう遠慮するな結香よ、主らは我ら竜の国へ訪れた客人、そして我の命を救った恩人だぞ」
そんな大したことはしてないけど……と言ってもきっと切り捨てられるんだろうなぁ
本来はVIPルームなのか以前はベッドと高そうな椅子に装飾が数点のみあっただけの部屋だけど、今はテーブルに加えて超高級そうな調度品の数々が並べられていた。
テーブルのサイズは少し大きめのちゃぶ台ほどの広さで、今僕たちが座っている椅子とセットになっているのかデザインも近い。
「さて、無事に聖遺物の試練を受ける権利を与えられたようだが、聖遺物のもとへ行かねばならぬな」
「はい。そこで竜王様にお記憶の中で聖遺物の眠っている場所を教えていただきたいのです」
僕はこういうのが苦手みたいだから結香にお願いしよう。丁度茶請けのクッキーと紅茶も出てきたし。
「貴様、遅かったから処刑だ」
うわっ!理不尽すぎるでしょ!?持ってきた男の人も「そんな理不尽な!?」と言わんばかりの表情をしてますよ。
「さて、聖遺物の場所だが我が記憶しているのはクラウエデンの街から東に行った所にある『神童の遺跡』と言う場所の最深部と、イーフォンの海域のどこかにある海底神殿にあると記憶しておるぞ」
「海底神殿……『空気箱』を使わないと駄目ね……魔法なら卅麻がいるから大丈夫ね(たぶん)」
おい、そこの幼馴染、人を頼っておきながら「たぶん」ってなんだ。
しかし、神童の遺跡ってホント何かありそうな名前だね。
「一応言っておくが、転移魔法で他の国に送ることは国の間で禁止されておるから、山の麓までは送ってやるがそこからは歩いてもらうぞ」
「大丈夫です。情報を頂けただけで結構です。本当にお世話になりました」
「気にするな、我も主らと共に居れて楽しかったからの。また近くに来たら寄ると良い、主らの為の部屋はいつでも用意しておこう」
おお!!竜王様から自由な出入りの許可を頂いたぞ!!
それからは僕も参加して他愛ない会話をして夕食をご馳走になって一夜を過ごした。
おい!またベッドが一つしかないぞ!?
いやあ戦闘シーンがざっくりしすぎた感じがしますが気にすると負けた気がする。
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