第五話
何とか6000文字以内で終わったぜ。
第五話です。
その日の目覚めは爆発音で始まった。
突如とした爆音に僕とその隣で眠っていた結香は飛び起きた。
「何!?」
「かなり近いわね、行ってみよ」
寝ていたせいで皺くちゃになってしまった衣服をそのままに僕たちは部屋を出た。
目的の場所はすぐに見つかった、何せ扉が木っ端微塵に吹き飛ばされてモクモクと黒い煙が出ている部屋が一つだけあったのだから。
「何があったの?」
「私に聞かれても……」
とりあえず部屋の内部は無事で、扉があった場所から真正面に一つのベッドがあった。
盛り上がっているところから誰か寝ているのだろう、僕たちが現場の検証を行っている間に続々と王宮に仕える人たちが集まってきた。
「はぁ……また扉を直さなければならぬ……」
深いため息をついて肩を落としているのは一人の男であった、たぶんこの王宮に勤めているということは人化した竜だろう。
容姿はきりっと鋭い印象を受ける整った眉と切れ長の目、瞳はサファイアの如く深いブルーにしっかりとセットしているのだろう寝癖ではなく全体的に跳ねたツンツン頭、髪色は白く雪のような透き通った白だ。
身長もかなり高く一八〇センチはゆうに越えているだろうかなりの美青年である。
その青年に結香は恐る恐ると言った感じに聞いた。
「あの、『また』と言うのは?」
「ああ、済まない聞こえてしまったようですね、ここは竜王様の寝室でして今朝の爆発音は竜王様が寝言で魔法を発動させた為ですね。最近になって壊さなくなったので治ったのだと思ったのですが、どうやら未だ寝相の悪さは健在のようです……はぁ……」
その青年はとても憂鬱そうにもう一度だけため息を吐くと集まってきた人たちに持ち場に戻るように指示すると、竜王様の寝室に入って行って彼女の頭があるであろう位置に手刀を喰らわせた、振り下ろされた手刀が何かにゴッと音を立てて止まるとそれと同時に「ぷぎゃ」と意味不明な悲鳴が上がった。
すぐに彼が手を後ろに組むために引くと、昨日の絶世の美女こと竜王ティアマトが目をこすりながら起き上がった。
「誰だ朝から手刀を喰らわせる命知らずは……ふわぁ~」
結構恐ろしいことを言っているけど最後の欠伸で雰囲気もあったものではない。
「おはようございます竜王様、早速ですが貴女様に悲報をお伝えに来ました」
「何だ?申してみよ」
「では僭越ながらまずは……」
そこで青年は一度言葉を切り、(きっと)鬼の形相をして怒鳴り付けた。
「扉を壊すなってつってんだろぉぉぉぉ!!」
同時にストレートに突き出された拳が竜王様の顔面を捉えた。
「ふごぉっ!?」
見事にクリティカルヒットしたストレートは竜王様を部屋の向こう側まで吹っ飛ばした。
一国の王でしかも美女がそんな悲鳴を上げるのはどうかと思う……
ストレートを喰らった竜王様は少しだけピクッと痙攣した後にガバッと立ち上がり涙目で訴えた。
「いきなり何をするのだ「バハムート」!!我の美貌に傷がついたらどうしてくれるのだ!!」
えっ!?バハムート?
あの青年はバハムートって言うの!?
でもバハムートって巨大な獣だったと思うけど?
まぁそんなことは置いておいて、竜王様の訴えをさらりと無視したバハムートさんはさらに追い打ちをかけた。
「今月のお小遣いは扉の修理代に使いますので無いと思ってください」
「なっ!?そんな殺生なっ!?」
とどめの「お小遣いあげません」は見事に竜王様の息の根を止めた(精神的に)
よよよと泣き崩れた竜王様を後目にバハムートさんはこちらに向き直って美しい最敬礼をしながら謝罪の言葉を口にした。
「我らが竜王の愚行によってお休みを邪魔してしまい申し訳ございません」
「いやいや、ちょっとびっくりしたけど僕たちは気にしてないから!」
いきなりそんなことを言われてしまったから慌ててしまったよ。
彼はもう一度だけ謝罪の言葉を言った後に魔法で――物体の時間を巻き戻す魔法によって――木っ端微塵になってしまった扉の修理をしていた。
その一部始終を見た僕たちは一度、泊めてもらっている部屋に戻り旅の準備に取り掛かった。
朝食は王宮側から用意してくれてとても優雅な朝を過ごした。
昨夜貰ったオリハルコンの鎧を着て、魔法書をリュックにしまうと結香も準備ができたのか、昨日は着ていなかったロングコートを上に着て僕に視線で準備が終わったことを伝えた。
先ほどのバハムートさんに案内してもらい聖王の祠がある北側にある王宮の裏口から外へと出た、空は清々しいほどの青をしており、少し視線を下げれば僕たちの位置より低い所に白い雲があった。
ドラゴネスの城下町周辺は特殊な魔法陣によって空気を発生させているため息苦しくならないと彼から聞いた。
「ここら一帯には魔物は出ないのでご安心ください、しかし聖王の祠の中には古代の守護兵器が存在しているので用心ください」
「ありがとうございます、良い結果を報告できるように頑張ります」
「ご武運を、無事に帰って来れればまたここにお立ち寄りください」
案内してくれたバハムートさんに「行ってきます」と言って僕と結香は北を目指した。
ふと振り返り王宮を見るとどこかの部屋のバルコニーから竜王様が元気よく手を振っていた、同時に何かを言っていたけど聞こえないから戻ってきたら聞いてみよう。
◇◆◇◆
言われたとおり魔物は出ないし、凶暴な生物に襲われることはなかったため僕が予想していたよりも簡単に聖王の祠へと辿り着いた。
祠って言われているけど外から見た感じはただの洞窟で、中は非常に暗かった。
「卅麻、最初に教えた光属性の魔法陣を展開して、この洞窟がどれくらい深いかは分からないけど、卅麻の適正と魔力量なら食料が先に無くなるから明かりには問題ないはずよ」
「了解だよ、『ライト』」
結香に言われ僕は手を前に突き出してヘッドライトをイメージしながら発動の呪文を唱える。
そう言えば後から竜王様に聞いたことだけど、魔法の発動に詠唱が必要になるのは一般的に広範囲に被害を及ぼす中級魔法と上級魔法全般であって、それ以外の魔法で詠唱が必要になるのは努力して覚えない人ぐらいらしい。
一応だけど詠唱が必要になる範囲には適正も関係しているんだけどそれは何でかと聞かれると、詠唱をせずに魔法を発動させる技術を「詠唱破棄」と呼ぶらしいんだけどそれを成立させるには、発動させようとしている魔法に必要となる魔力が詠唱破棄の技術によって増えてしまうからで、詠唱をして発動させれば本来の消費量で同じ効力の魔法を発動できるので、素早く発動できるか、数が撃てるかの差でしかない。
蛇足になるけど、詠唱破棄とは稀代の大魔法使いと名高い女性が編み出した技術で、その魔法の発現する事象と魔法陣に描かれている意味を正しく理解しイメージすることによって、詠唱その物を無視して魔法を発現させる技能として世界に広まった。
今では人はもちろんのこと、竜や魔法を最初に編み出した魔族ですら使用している技術である。
閑話休憩
僕が魔法で自分の頭上にテニスボールほどの光の玉が浮かび上がったのを確認して洞窟に入る。
魔法で作った光を元に二人で横に並んで進んで行く、二〇分ほど歩いたところで少し開けた場所に出た。
二人で警戒しながら広場の中央まで移動する、広場の形は正方形で部屋の四隅には石で出来た高さ四メートルほどの巨大な人形が仁王立ちしていた。
「あの人形は?」
「先代の記憶が正しければ――」
そこで結香の台詞を遮るように轟音が部屋中に響き渡る。
それに合わせて四体の人形が動き出した。
「えっ!?まじで!?」
「あぁ~あ、動いちゃった……あれは古代兵器のゴーレムよ、たぶん以前にこの洞窟に住んでいた人か、聖遺物に関する何かを守護するために神が用意したものでしょうね」
結香が肩を落としながらそう説明してくれた、ゴーレムの形は普通の人間と同じ形なのだが腕が地面すれすれまで伸びていて丸太のように太い、脚ははっきり言って短足もいいところ正直言ってよくあれで歩けるなと思う。
「ゴーレムを破壊するには顔面に位置する部位を木っ端微塵に吹き飛ばせば終わるはずよ、水属性の中級魔法にある『高圧水流砲』で狙えば壊せると思う」
「了解、じゃあ結香は防御結界をお願い」
「分かったわ、物理用の結界を張るけど長くは持たないからさっさと倒してね」
その言葉を最後に僕たちはそれどれの行動に出る、結香がゴーレムの強烈なパンチを結界で受け止め、僕が素早く詠唱破棄でさっき結香が言っていた魔法を同時に二発発現させ打ち出す、正面にかざした掌から水色の魔法陣が現れそこから大量の高圧水流が消防車の放水の如く打ち出されゴーレムの頭部を打ち砕いた。
「どうだ!」
「ぼさっとしないで!こっちはもう限界なんだから!!」
「ご、ごめんなさ~い!」
結香に叱咤され同じ魔法を残り二体のゴーレムに打ち出す、先ほどと同じように頭部を破壊されたゴーレムは機能を停止させて体が崩れ落ちた。
「壊しちゃったけどいいの?」
「時間が経てば復活するって記憶にあるわ、たぶん年単位で掛かるはずだから私たちが帰るまでは安全なはずよ」
「そうなんだ、じゃあ先に進もう」
◇◆◇◆
先ほどの広場からもうすでに休憩も含め三時間も歩き続けた、すでに僕も結香もくたくたに疲れてしまっているが僕の頭上で輝いている魔法の光は未だに元気よく輝いて僕たちの行く道と足元を照らしてくれている。
移動中の狭い通路でゴーレムに何度も襲われたけど相変わらず同じ魔法で頭を吹っ飛ばして簡単に処理して何もなかったかのように進み続けていた。
「やっぱり卅麻の適性は異常だわ、これだけ中級魔法を詠唱なしで打ち続けたら本来はもう魔力が枯渇して動けなくなるはずなんだけど……」
「そうなの?歩き疲れてはいるけど、魔力がなくなったような感じはしないなぁ」
「うん、保有する魔力も異常なんだね、きっと日々増え続けているのかも……でも確証がないから推測の域は出ないけど」
魔力が減った気がしないけど大分歩くのは疲れたよ、そうそう魔力がなくなると疲れるって言うか脱力するんだよね、こう「へなっ」となってしまった体から力が抜けるんだよね。
「まぁ、そのおかげで戦闘が捗っているんだし問題ないでしょ」
「そうね、おっともうお昼だね」
結香に言われて僕も彼女が持つ時計を覗きこむとすでに一二時を回っておりそれを確認した僕たちはその場で携帯食品を取り出して腹ごしらえをする。
携帯食品といってもただの乾パンと塩で味付けされた干し肉で、ネフェルで旅立つ前に買っておいた金属製のコップに魔法で飲み水を作りだして押し流すようなものだ。
食べている間に僕は結香にささやかな質問をした。
「そういえば最初に魔法の属性を教えてくれたけど、氷や電気と言った属性はないの?」
「あぁ~それなら『複合魔術』って言うこれまた詠唱破棄を作った人が編み出した『二種類以上の属性の魔法陣を合成することでその効力を掛け合わせた魔法を発現させる』って言う技術があるんだけど、それ以外で氷や電気を作り出す魔法は存在しないかな、でもこれは過去の初代巫女から今現在の私が持っている記憶の中であって過去に公表はされなかったけどその属性の魔法へ適性を持った人がいたかもしれないから一概には『いない』とは言い切れないかな」
と、結香は補足してくれた。
さらに彼女は『複合魔術』と言うものに対して詳しい説明をしてくれた。
『複合魔術』とはさっきの話のように二つ以上の魔法を同時に準備してその魔法陣を一つに合体させて、効果をかけ合わせるという技術でその分だけ大量の魔力を消耗するしコントロールも難しいとあって、上位の魔法使いには浸透しているものの適性の低い魔法使いには無縁の産物であると言った。
ちなみに僕は魔法を使うなら全てにおいて理想の存在らしく複合魔術もマスターすれば一人で戦争ができるのだとか、うん予想以上に救世主って言うのが異常なのか分かった気がする。
「あと、複合魔術には二種類以上の属性に対する適性がないと使えないから私には使えないから、私の適性は瞳と髪に現れているけど赤だから火属性だけだから」
「え、茶色っぽいからそれなら地属性も使えないの?」
「あぁ~そこの説明をしてなかったわね、相手の適性を見抜くには瞳か髪を見れば大まかに判断できるんだけど、適性が高すぎると表面に現れないんだよね、私の髪がほんのり赤っぽい茶色なのは『火属性への適性が非常に高い』という記しで茶色は地毛なの、父と母が茶髪でね遺伝なんだ、ちなみに卅麻に色が出ないのはおそらく適性が常識外れに高い上に全ての属性に対しての適性を持つから、髪も瞳も真っ黒なんだと思う、それでね色によって属性を見極められるんだけど「赤は火」「青は水」「黄土色は地」「緑は風」「黄色は光」「黒に近い紫は闇」と言った感じに分かれているの、それに加えて二種類以上の適性があると髪と瞳に別々の色彩を持つからそこで判断可能だよ」
僕は結香の一通りの説明を受けて「なるほど」と頷いた。
僕が説明を理解したのを確認した結香は「それじゃあ進もう!」と元気よく立ち上がる、それに続いて僕も立ち上がり辺りを片づけてから二人で並んで歩き始める。
◇◆◇◆
休憩から歩き始めてものの数分で約六畳ほどの部屋に出た、部屋の中央には木で作られた祠が鎮座していた。
二人で周囲に危険がないか確認した後に祠へと近づく。
『汝、真に力を求めるか?』
祠の前に立つと僕の頭の中に感情のない声が響いた。
すぐに僕の異常に気付いたのか結香が気遣いの言葉をかけてくれるがあまりの不快感に頭を抱えて蹲る。
「何……これ……?」
『我は聖遺物の守護者、我の与えし試練を乗り越えせし者にかの物を手にする権利を与えん』
どうやら結香には聞こえてないのかずっと心配そうに僕の背中をさすってくれている。
とりあえず返答しよう。
「その……試練を……越えれば、聖遺物をっ、もらえるの……?」
『それは違う、我が与えるのは聖遺物の試練を受けるための権利である、我の試練を受けるか、否か?』
なるほど、どうやらこれを越えなきゃどの聖遺物も手にすることができないってわけね、だったら受けるしかないでしょ。
『汝の意志、確かに確認した今より汝に試練を与えん』
その瞬間、僕は意識を失った。
かなり説明で相当な文字数を取られました。
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