第四話
ふう、疲れたけどなんとか四話目投稿です。
「新しいおもちゃが欲しくなったから!」
その年相応の思いはおそらく竜王の事だったのだろう。
今は救世主の少年、つまり僕のことだろう。
「ねぇねぇ!お兄ちゃんは私のおもちゃにならない?」
元気よくそう問われても答えは一つだ。
「僕にはやることがあるから、君のおもちゃにはなれないなぁ」
「ぶ~!ケチ~!」
いや、ケチって言われても君のお願いには答えられないよ。
「じゃあさ!お兄ちゃんに勝ったらおもちゃにしていい?」
「嫌だ――「小僧、手を貸せ」えぇ~!?」
「よし!じゃあけってぇ~! そっちは三人でいいよ!」
ちょっと!?竜王様!?
てか魔神もやる気満々じゃん!?
「卅麻、覚悟した方がいいわ竜王様もやる気だし、私たちもやるしかないわ」
「うぅ……わかったよ……」
これってゲームならレベル二十ぐらいで隠しボスとやるぐらい無謀な状況じゃない?
「小僧、貴様の活躍次第では願いの一つや二つを叶えてやろう」
「竜王様、その前に回復します」
結香が竜王の体に触れて魔法を発動させる、薄い緑色のオーラが竜王を包んだ後、彼(彼女?)の体は完全に治っていた。
「ほう『高位治療術』かその年で体得してるとは、さすがは巫女だな」
「しかし、もう使えないのでお怪我に気をつけてください」
「承知した」
なんか僕は蚊帳の外にいるけど、魔法で上手く援護していこう。
「それじゃあ!いくよぉ!」
あどけない声が響くと同時に竜王と魔神が動き出した。
どちらも眼で追えないほどの速度で打ち合っている。
「卅麻!竜王様を魔法の影響を受けないように魔法陣を組むから、全力で魔力を注いで!」
「分かった」
時々、竜王のブレスが空を焼いたり、魔神の拳が振り抜かれた勢いから暴風が吹き荒れたりする中、結香は複雑な魔法陣を書きあげた。
「最上級火属性の魔法だよ!卅麻の全力で発動すれば魔神であってもただじゃ済まないはず」
「魔法の発動キーワードは?」
結香はこっちを向いて不敵な笑みを浮かべて僕に囁いた。
◇◆◇◆
結香に呪文を教わっているその頃、竜王は己の持てる力の全てをかけて魔神を攻めた。
「ダメだよ~ブレスも魔法も私には効かないよぉ~」
「くっ、実に厄介な魔眼だ、その目玉がなければ今頃我が業火に焼かれていた分際でっ!」
竜王はその強靭な尻尾を振りまわし魔神を攻撃するが、それを容易く片手で受け止める。
魔眼とは魔族の血を引くものが極稀に覚醒する能力をもった瞳である。
黒の魔神にはあらゆる力――竜のブレスを含め魔法や魔族の能力――を静める能力が与えられている。
「でもでも、これも私たち魔族の特権だもんねっ!」
尻尾をそのまま振り回して竜王を投げ飛ばす。
高速で飛び空気に打ちつけられた体をなんとか体制を立て直す。
◇◆◇◆
卅麻は二体の頂上決戦をしり目に結香の教えた呪文を口にしている。
「天空を焦がす古の炎、あらゆる物質を残さず――」
僕はその呪文を唱え魔法を完成させるために意識を集中させていた。
結香が隣で何か言っているけどたぶん「早くして!」とかそんなことだろう。
だけどまだ、魔力が流し切ってないんだよね。
「万象一切を灰燼と化せ、『古代の業火』!!」
魔法陣の起動ワードを宣言した瞬間、体内の魔力が全て魔法陣に流れ込み眩く輝き始めた。
「やった!これで終わりよ!」
結香のその歓喜の声と同時に世界が赤に染まった、空も、森も、山も全てが赤に染まる。
強烈な熱気が吹き寄せた後、魔神の頭上に世界を覆い尽くすほどの炎の塊がゆっくりと落ちてくる。
「これは!?」
魔神もどうやら圧倒的な熱量を前に動揺を隠せないらしい。
僕ってすごくない!?
「ほう、失われた天災魔法とはよく気づいたな巫女よ、それにあれを発動させた適正と魔力を持つ救世主よさすがだ」
やったよ!竜王様に褒められたよ!
そうこうしているうちに景色が一変した、結香の「伏せて!」の一言に合わせて僕は丸くなり眼をきつく閉じ、耳を塞ぐように頭を抱えた。
その後、しばらくの間何の音もしない時間が過ぎる。
感覚が戻り辺りを確認すると……
「すごいや……」
「ふむ、これほどの火力は我も初めて目にするぞ」
「森が半分ほど焼け野原になっている……」
ただただ圧巻であった、周囲は森と緑豊かな草むらだったはずなのに、今は禿げて焼け野原となっていた。
そんな中一つの影が動いた。
「くっ!天災魔法を喰らってまだ立つか!」
「うそ!?あれで倒し切れてないの!?」
「僕もう動けないよぉ……」
あれだけの魔法をくらってもまで生きてるなんて常識から外れすぎだよ……
でもずいぶんと体を揺らして立ち上がっている。
「すごいなぁ、もう魔法陣の書き上げが不可能とされた天災魔法を書きあげるなんて」
相変わらず子供っぽい喋り方だけど元気がないね。
「もう終りだ、今退けば生かしておいてやろう」
「あはは!おまえだけでも殺しておこうと思ったけど、今は大人しく帰るよ、バイバイ、救世主のお兄ちゃんと巫女のお姉ちゃん、次あった時は本気で殺すから」
魔神の最後の台詞は底冷えするほどの冷たく放たれた。
その後、魔神の姿は黒い液体となって消えてなくなった。
「ふぅ~助かったぁ~」
「救世主よ、今回は助けられた礼を言おう」
竜王様はその長い首を地面すれすれにまで下げて頭を垂れた。
「いえ、困った時はお互い様ですので当然のことをしたまでです」
「はっはっは、そう謙遜するな、私だけでは間違いなく追い払うことなどできなかった、約束通りそなたの望みを叶えよう、とその前に我の姿をお前たちに合わせよう」
僕たちの目の前で竜王様は人の姿へと変わった。
とても美しい金髪を揺らし、ルビーのような真っ赤な瞳が力強くこちらを見据え、白い肌がまぶしい……ってめっちゃ美人の女性になったんだけど!?
「む、どうした?」
「竜王様……その……なぜそのお姿なのですか……?」
ほぼ放心状態の結香が竜王様に問うと帰ってきた返答は。
「我は人間で言えば女だぞ、故に人化すれば至極当然の姿だと判断するが?」
「なるほど……」
あぁ~要するに竜その物に性別はないけど、心は性別があるんだね……たぶん……
とりあえず、竜王様が転移の魔法でドラゴネスへと案内してくれるらしく、今は竜王様の住む王宮の個室へと移動した。
◇◆◇◆
ひとまず魔力が枯渇した体を休ませながら竜王様と色々と話をした。
「まずは自己紹介させていただきます、私は現代の巫女を担当させていただいてます藤木結香と申します。こちらは当代の救世主、宮流卅麻です」
「うむ、すでに知っておると思うが我こそが竜国ドラゴネスの王「ティアマト」だ」
ティアマトってあれだよね!?
竜の母として様々な竜や蛇、蜥蜴などを生み出した竜だよね!?
竜が勇者に倒される話が多いのもティアマトの話が元になっているからなんだって!!
そんなことよりこのやたらでかいベッドや超高価そうな調度品の数々に僕はさっきからびくびくしてるんですが。
「卅麻よ、そう硬くなる必要はないぞ。ここのものは壊れても三千万ガクで買い直せるからの」
それってかなりの金額じゃないですかぁー!!
「わ、分かりました、丁重に扱います……」
「はっはっは!面白い奴だの」
「竜王様、そろそろ本題に入ってもよろしいですか?」
結香の恐る恐るの問いに気分よくティアマト様は「良いぞ」と答えてくれた。
「あの、私たちは聖遺物を探しているんですが、所在を存じてませんか?」
「ほう、あれを探しているとはな、我の所に来たのは聖遺物の場所を聞くためにかえ?」
「はい、貴女様でしたら知っているのではと思いまして」
「ふむ」とティアマト様は腕を組みながら少し考えながらこちらを見て。
「確かに知らぬ事はないが、そなたたちが選ばれるとは限らんぞ?」
「それでも試す価値はあるはずです、破壊神討伐には聖遺物の力なくしては不可能です」
「それもそうだな、ならばここから北に位置する『聖王の祠』と我らが呼ぶ場所へと向かうと良い、あと、卅麻よ何か欲しい物があれば好きに申せ、用意できるものならすぐに用意してやろう」
っていきなり言われてもなぁ……お金はギルドで稼げるから防具かな?
「何か身を守るための防具か強力な魔法が載っている魔法書をお願いします」
結構後者はよくが漏れているけどいいのかな?
「あい分かった、おい!聞いてだろ!すぐにオリハルコンの鎧と最古の魔法書を持ってこい!」
え?オリハルコンって?
あの神の鉱石と呼ばれるオリハルコンのこと?
「オ、オリハルコンって!?国宝級の鉱石ですよ!?」
「ふむ確かに一キロもあれば国が買えるほどの鉱石だが、我らは鎧必要としないのでな人に与えた方が有効的に使ってくれよう」
「すげぇ、竜王様って超太っ腹……」
僕の発言に「はっはっは」と笑って返す竜王様を見て結香がよよよと崩れてしまった。
「もう意味分かんない……どうにでもなれ……」
なんか呪詛を唱えているけど気にしないでおこう。
たぶん桁が違いすぎる話で精神が追い付いていないんだ……
僕もそうだから。疲れたよ……
頼んだものが届くまで三人で夕食を済ませ談笑していた所に頼んだものが届いたようだ。
「さて、サイズは合っているはずだが一度着てみよ」
「了解です」
黄金色のいかにも重そうな鎧だが、持ってみると。
「あれ?軽いって言うか重さを感じない?」
「当り前であろう、オリハルコンは神の鉱石と呼ばれ圧倒的な強度を誇ると同時にほとんど重さを持たない鉱石なのだ、それでいて柔軟性もあり動きを一切邪魔しない、まさに奇跡の物質よ」
僕は「なるほど」と頷きながら鎧を服に袖を通す感じに着た。
言われたとおり、重さを感じないどころか体をいくら動かしても鎧独特の動きにくさがなく非常に軽い。
しかもサイズが本当にぴったりであった。
「すごい、着ていることすら分からないくらいに軽い……」
「ふむ、気に言ってもらえてようで何よりだ、それとこっちは古代に失われたとされる魔法が記された書物になるの、これを読んでもっと精進するとよい」
「ありがとうございます!」
すごく古びた本を渡された厚さ的に学校の教科書程度、大きさは約B5サイズのノートぐらいだろう。
その魔法書を大事に脇に抱えながら僕は礼を言う。
「それともう遅い、今日はここに寝泊まりするとよい」
「なにから何までありがとうございます」
「何、この命を助けてもらった礼だ、安いものよ」
竜王様は去り際に「ゆっくりしていくとよい」と言って部屋を出ていった。
僕と呪詛吐き続けていた結香は本日の疲れを癒す為にすぐにベッドに横になった。
あれ?この部屋にベッドがひとつしかないんだけどっ!?
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