第二話
急ピッチで作業していたらなんか二話めできていた……
僕のその日の朝は見慣れない木造の天井を見ることから始まった。
そうか、ここは僕の家じゃなくて異世界にある宿屋さんだ……
そう思うとなんだか寂しい感じがしたけど、でもそれもすぐに消えた。
「卅麻様、お目覚めでしょうか?」
ドアの向こうから聞こえてきたのは僕を異世界へと連れてきてくれた鉄也さんだ。
「はい、今起きました、今開けますね」
僕はベッドから飛び降りて鍵を開けてドアを開く、そこには昨日と同じ格好をした鉄也さんが立っていた。
「おはようございます、今日は先刻申し上げた通り、魔法の知識と武器の選定に向かいます」
「はい、では少し待って下さい、着替えてきますので」
鉄也さんは「了解しました」と言って部屋の並ぶ廊下を歩いて行った。
僕はささっと服を着替えて鉄也さんのもとへと向かった。
宿屋の主人に出かける旨を伝えると、鉄也さんに並んで宿を出る。
彼が向かう武器屋に向かう前に朝食にいろいろな食べ物を買い食いしていたら、食べ終わる頃に武器屋に到着した。
「ここでご自分に合った武器を選んでください、お代は私が持ってきているのでお好きなものを選んでください。」
「なんか世話になりっぱなしですね」
「お気になさらず、貴方様が頑張って下さらなければ世界が滅びるのです。この程度の出費など滅びに比べれば些細なものです」
すげぇ、この人言い切ったよ、僕ならその後の事が怖くて予算とか設定してしまいそうなのに。
とりあえず武器屋に入店すると、店員の明るい「いらっしゃいませ」の挨拶を貰い僕は店内の武器を見て回る。
「う~ん実際に振ってみないとやっぱりわからないなぁ……」
「ならば手にとって振ると良い、自分の命を守る武器が自らの手に合わなければ宝の持ち腐れだ」
横からそう言ってきたのは僕より一五㎝ほど高い身長を持った頭からフードで顔を隠し、全身をマントで
隠した冒険者風の恰好をした青年である。
「いいんですかね?」
「おや、武器屋を利用するのは初めてなのかな?」
「恥ずかしながら……」
まぁ武器屋なんて使うことありえない世界から来たしね。
「自分の体に合っているかもわからずに買うのは自殺行為だから、全ての武器屋では軽い素振り程度なら店の商品を振り回してもいいことになっている」
「へぇ~でもどういったものが僕に合うのか分からないからなぁ……」
「なら、俺が選んでやるか? これでも長いこと剣を振り回しているからな、センスには自信があるけど」
「本当ですか!? じゃあ折角なのでお願いします!」
分からないものを悩み続けるより、頼れる人に頼った方が絶対に良いはずだ。
「あ、僕は宮流卅麻って言います、よろしくお願いします」
「あぁ、俺は雨条刃、世界を旅してまわるしがないの剣士だ」
刃さんはそう言って一本の剣を手に取り虚空に振り回したあと、鞘に剣を戻して僕に手渡した。
「こいつを振ってみろ」
僕はそう言われて剣を抜いて両手でしっかりと握って軽く振る、違和感もなければ自分が振り回されることもない。
「すごい、使いやすい」
「そうか、そりゃあ良かった、じゃあ機会があればまた会おう」
それだけ言い残して刃さんは武器屋を出て行った、僕は選んでもらった剣を持って鉄也さんにお代を払ってもらった。
その後、鉄也さんに連れられ町はずれの草原に移動した。
「ではここで稽古を始めたいと思います。では卅麻様に稽古をつけてくださる方を紹介しましょう」
そう言って鉄也さんは後ろを向いて一本の木の方を向いた。
その木の蔭から一人の少女姿を現した。
「え……なんで、結香がここにいるの……?」
そこに現れたのは僕の幼馴染である、藤木結香その人であった。
◇◆◇◆
それは卅麻がネクルへと旅立った時のこと
「私も使命を果たさないとダメかな……?」
卅麻の姿が消えた後に結香は自分の家へと戻ってきた。
結香は自室のカーペットをめくるとそこには、床いっぱいに描かれた幾何学模様が姿を現した。
彼女は小さく呪文を唱えると幾何学模様が輝き始め、その輝きが収まったと同時に彼女の姿は消えていた。
その後、卅麻に見つからないように彼の後ろをついて歩いていたのだが、武器屋に訪れて剣を買っている間に鉄也に見つかってしまったのだ
◇◆◇◆
「それで私が鉄也さんに卅麻を鍛えてくれって頼まれたの」
「でも何で結香がここに来れたの?」
僕の疑問に答えたのは結香ではなく鉄也さんであった。
「彼女は現代の巫女です。生まれながらに先代の巫女たちの記憶を引き継ぎ、救世主を補佐する使命を持って生まれて来た者です」
簡単に巫女について説明すると、巫女はいわば転生者のようなもので先代の巫女の記憶や力量を引き継いで生まれるらしい。
結香も五歳の時に全ての記憶を思い出し、いつでもネクルに帰れるように転世の魔法陣を部屋に描いたとの事、そして生後間もない僕と結香はその時起きた戦争から逃れるために地球へと送られたと言うこと。
「じゃあ結香も僕と同じ元はこの世界の住人ってこと?」
「そうなるね、でも卅麻と違ってどうして向こうへと行ったのか、この世界ではどんな事があったのか等、全て記憶しているわ」
「故に、彼女ほど貴方様を鍛えるのに適した方がいらっしゃらなかったのです」
その言葉に僕は「なるほど」と頷いて一言、結香に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
結香も笑顔で頷いてくれた、鉄也さんは何やら仕事があるとかで王都に戻って行った。
「さて、卅麻が選んだのは剣ってことだけど、私も剣の振り方なんて基本しか知らないからさらっと流して、魔法の練習に入ろう」
「そうだね、剣術は実践あるのみだね」
と、言うことで結香監修の元、ひたすら素振りをした。
一度、昼食を食べた後に魔法の連勝を始めた。
「まずは魔法の基本知識として属性を把握してね」
「はーい」
先生と生徒のような感じで言葉を交わす。
さて魔法の説明入るけど、これはあくまで魔法を使う上での基本なのでもっと奥深いところまで掘り下げないと到底破壊神には勝てないらしい。
まず魔法には「火」「水」「風」「地」の基本となる四大魔素と呼ばれるものに加えて、「光」「闇」の二属性が魔法の基本的な属性となる。
さらに詳しく説明すると魔法には下級、中級、上級の三段階の属性にわかれており。
下級に上記の四大魔素、中級に「光」と「闇」、上級には現在は存在しないされている「次元」や「消滅」と言った属性があるらしい。
さらに最近になり作られた属性も存在するとか。
そして、魔法を発現させるには魔法陣を物理的に描くか脳内でイメージするかして描き、自分の保有する魔力と呼ばれるエネルギーを流し込み、発動の呪文を唱えることで起動する。
しかし、魔法陣の意味と発言する事象をしっかりと理解していないと魔法は放つことはできないとのこと。
魔法を打つための魔力は空気中に存在する魔素と呼ばれる、いわば魔力の分子を体内に取り込むことで回復できる。
要するに呼吸することで微量ながら魔力を回復できるとのこと。
しかし、戦闘中にそんな悠長なことはできないのでかなりの荒技ではあるが、「魔素は術者の精神力に反応する」と言う特性を利用して魔力として溜めずに周囲の魔素に対し精神的に呼びかけ直接魔法陣に流し込み、無理やり魔法陣を起動させる方法も存在するらしい。
「とまぁ、蛇足も含めて魔法の基礎知識はざっとこんなもんね」
「じゃあ今ここで魔法陣を描けば僕もすぐに魔法を使えるかもしれないんだね」
「そうなんだけど、個人によって属性との相性があるの簡単に説明するとね、私は火の属性は得意だけど、それ以外の魔法はほとんど使えないの、物理的に描いた魔法陣を用いても本来出せる威力の二割程度の威力しか出せないの」
「それじゃあ僕もどれか一つの属性しか使えないの?」
少しがっかりだ、魔法があれば飲み水と火と電気は苦労しないと思ったのに……
と消沈していた僕の様子を見て結香がすぐに補足してくれた。
個人おいて属性との相性があるものの、中には二属性や三属性も操れる人もいれば、初代救世主とその兄弟には全ての属性を操る天才もいたらしい。
もしかしたら僕も全ての属性が使えるかもしれないし、逆に魔法そのものが使えないかもしれないとのこと。
つまるところ、一通り魔法を使ってみないと何とも言えないらしい。
「と、言うことで現存する初歩的な魔法陣を全部描くから私の説明通りにイメージしてやってみて」
そう言って結香は呪文を唱えると草原が突如出現した炎に焼かれ六つの幾何学模様を残して燃え尽きた。
「卅麻から見て左から、火、水、風、地、光、闇の順番で魔法陣が形成されているから、それぞれの属性にあったイメージを持って電気を流すような感じに魔法陣に触れて見て、あとは勝手に魔力が反応して卅麻のイメージしたとおりに魔法が発動するはずだから。」
そう言われて火の魔法陣にはライターが点火するようなイメージを持って触れてみると。
「わぁ!何もないのに火がついた!」
「そう、これが魔法ね、容量がわかったと思うからどんどんやってみて」
「分かった!」
楽しくなり、僕は魔法が発動する度に歓声を上げた。
傍から見るととても恥ずかしい姿かもしれない……
とりあえず、適性検査(勝手に僕が命名した)を一通り終えたところ結果として。
「すごい……私の感覚に間違いなければ卅麻はこの六属性全てに最高レベルの適性を持っていることになるわ……」
「それ本当!?」
「ええ……魔法への適性はすなわち、その魔法の威力は勿論のこと、その魔法の発動に必要となる魔力の燃費にも直結するの、でもこの下級魔法陣で卅麻はほとんど魔力を消耗していない、しかも威力はこの魔法陣で出せる最高の火力を持っているわ、それに六属性全ての魔法を使えばそれなりに疲労するはずなのに、その様子もないことから国に召し抱えられてもおかしくないほどの適正なはずよ」
それを聞いた僕はその場で激しく喜びを爆発させた。
その後はひたすらに結香が描いてくれた魔法陣を使って魔法を発動させ続けた、結香の魔力が切れてようやく魔法の練習は終了した。
練習が終わったころには日がどっぷりと沈んで辺りが暗くなってきていた。
その晩、結香は僕と同じ部屋で寝泊まりすることになり、僕に対して「なんて魔力量なのよ……普通なら卅麻のほうが先に枯渇するはずなのに」と悪態をついていた。
◇◆◇◆
「へぇ、今回の救世主は魔法が得意なのか」
そう呟いたのはフードで顔をマントで全身を隠した青年である。
そして彼の横で跪いている一人の人間離れした美貌を持った銀色の長髪をした女性が居る。
「それでも主には遠く及ばないかと」
「それは今の段階でのことだよ、少ししたら手に負えなくなるかもな」
そう言った青年はニヤリと口を歪めた。
「将来が楽しみだ、行こうか」
「御意……」
女性の返答と同時に二人の姿はふわっと消えた。
と言うことで、魔法使い型主人公の誕生です。
まだまだ魔法に関しては深い設定がありますが、それはストーリーが進むにつれて追々説明しようかと思います。
では誤字、脱字の報告などあればよろしくお願い致します。