第十話
祝十話達成。
遺跡に入ってからもう体感で二時間は経っただろう、僕の感覚に間違いなければもう外は夕日に染まっている時間だ。
しかし僕にはそれを確認する手はない、時計は持ってないしここは人の手で作られた地下深くの遺跡だ、外を見ることは叶わない。
「はぁ、毎度の如くアンデット系の魔物とゴーレムばかりで飽きてきたな」
僕の行く手を阻むのは死んだ人間の馴れの果てと古代に作られた兵器ばかり。
確かアンデットは死体に大量の魔素と少なからずの瘴気によって誕生するって最初に来た時の本に載っていたな。後、瘴気は魔界から風に乗って少なからず流れてくるそうで、耐性の低い小動物はそれだけで魔物になってしまうことがあるとか、生物の死体は時間が経つと瘴気に近いものを発生させるんだとか。
まぁそんな豆知識は脇に置いておいて、僕は今四角に切られた石でできた薄暗い遺跡――たぶん石を組み立てて作ったんだろう建物――を進んでいた。
「はい『高圧水流砲』」
正面から少し上に掲げられた掌から魔法陣が出現して、消防車のホースから放たれたかの如く水が打ち出される。ゴーレムの頭を粉砕して例の如くゴーレムは崩れ落ちた。
「それ『光衝破』」
次は僕の頭上で輝いている『ライト』の魔法が普段より猛烈に輝く。アンデット恒例のスケルトン――見た目はただの人骨――を焼き殺した。
全く、敵が多い上に道が入り組んでいていつになったら聖遺物と対面出来るのか分かったものではない。
「魔力はまだまだあるみたいだし、このまま天災魔法で周囲を更地に……いやダメだ条件が微妙に噛み合ってない」
そう言えば今まで普通に使っていたけど実は天災魔法には特定の条件があるらしく、炎の天災魔法には『一定の熱と酸素、燃え続ける可燃物』が条件らしく、黒の魔神戦で使った『古代の業火』は太陽の熱、空気中の酸素、周辺の木々が条件を満たしたために発動した。祠の試練で使った『絶対氷結の千年牢獄』は『熱を持った対象が複数いて、水分が多量にある』と言うのが条件みたい。あの時はきっと僕の精神世界だから問答無用で使えたんだと思う――真羅さんと戦った時は両方とも条件が噛み合ってない気がしたけど何故か発動した。
ここはあまり熱があるわけではないみたいだし、酸素もあまりない――風の魔法で空気を発生させてるから僕が息をする分には平気――燃え続ける物体は残念ながら持ち合わせてない。と言うことで天災魔法は今現在は使用できないのだ。
「はぁ……いつになったら着くのやら……」
本当に飽きて来たよ、景色はほとんど変わらないしね。
◇◆◇◆
卅麻が遺跡に潜ってから真羅と結香は優雅に紅茶を飲みながら時間をつぶしていた。
「卅麻、大丈夫かな……」
「ふふふ、心配なのかな?」
「なっ!いや……そりゃあ、幼馴染だから心配ですけど……」
真羅の言葉に顔を真っ赤に染めた結香の言葉は尻すぼみになりながら消えて行った。
「あらあら若いわね」
「見た目と精神年齢なら真羅さんだって若いです」
「貴女よりは大人だと思うわ」
そりゃあ四〇〇〇年も生きてりゃ大人だろうよ。と内では思ったものの口にはしない結香である。
「そう言えば真羅さんは好きな男性っているんですか?」
「唐突ね、まぁ答えるけど……そう言う風に思っている人なら一人いるわよ。どこで何をしているのかは全くわからないけど」
そこまで言って真羅はカップに口をつける、心なしか頬が赤くなっている気がするが夕日によってそう見えるだけであろうと結香は判断付ける。
「ちなみにどんな人なのかお聞きしても?」
「そうね、名前は敢えて言わないけど見た目だけなら教えようかしら」
真羅の言った人の特徴は身長は一七〇センチ代で体格は細身で黒い髪と黒い瞳した青年だとか。
それだけじゃ特定できない、などと結香は思ったが本人は本気で教えるつもりはないそうだ。
「それにしても彼、遅いわね」
「卅麻のことだから『飽きた』とか思いながら進んでるんでしょう」
「あら、死ぬって考えはないのね」
「あいつ、しぶとさだけならゴキブリですら足元に及ばないかも知れませんので」
◇◆◇◆
「へっくち!くそぉ~誰か噂してるなぁ」
噂してるのは間違いないが若干だが侮辱もされていた卅麻は遺跡内部にある大部屋へと到着していた。
「さて、敵は大型のゴーレムが三体と中型が八体に小型が十体とやけに多いな」
大型は祠でも戦ったしここまで来るのにも出てきたが中型と小型はここに来て初めての相手だ。中型は大型と同じ形をしているが身長は一五〇センチほど、小型は一二〇センチと一気に縮んだ。
「う~んこういう殲滅に使える魔法はないかな?」
大部屋の入口にあった柱に隠れながら僕は竜王様から頂いた魔法書を読む。
水属性で広範囲を攻撃できる魔法かぁ、おっと雨を降らせる上級魔法ってあるんだ。あ、屋内じゃ使用不可能だ。天災魔法はほとんど条件が合わないから使えないし。仕方ない『勝負は時の運』を使おう、何が起きるか分からないけどここら一帯が消し飛ぶことはないだろう。
思ったら即実行、僕は脳内で魔法陣を作成して発動する。
正面にかざされた手から黒い球体が出現する。
「あ、やば、ブラックホールだ……」
気づいた時にはすでに大惨事となっていた、とてつもない引力によって大型のゴーレムですら引き寄せられ吸い込まれていった。
魔法を発動してから約一分、ようやく大惨事の原因となったブラックホールは消滅した。
「あわぁ、綺麗さっぱりとゴーレムが消えたなぁ」
約二一体もいたゴーレムは跡形もなく消えていた。そのまま奥へと進み扉を開く。
その先あったのは僕が持っている剣とほぼ同じ大きさで柄から剣先まで真黒な剣が刺さった台座と、その周囲を照らす松明の火であった。
「これはが聖遺物?」
『左様、それこそがこの地に眠りし聖遺物、「王剣デュランダル」だ』
おおう、祠で聞いたあの声が頭の中で響く。少し痛いけど気がついたら慣れていた。
「じゃあ、僕があの剣を持って行っていいの?」
『もちろん、これは汝が自らの力によってここまで辿り着いた故に手に入るのだ』
「それじゃあ遠慮なく」
あの声に言われたとおりデュランダルの元へと寄りその柄を握る。後は力いっぱいに台座から引き抜いた。
「うわぁ!?」
簡単に抜けたせいで勢いによって尻もちをついてしまった。
黒く輝く刀身を眺めているとあることに気がついた。
「すごい軽い……それに昔から使っていたかのように手に馴染む」
立ち上がって僕はデュランダルを一振りする。
ヒュンと風を斬る音が鳴る、ひどく軽いだけではなく振った時の風の抵抗も全く感じない。いつもの剣なら少しばかりだが振り難さがあるのにこの剣ならそれもない。
「あ、鞘ってどうするんだろう?」
『汝が願えば形を成すぞ』
「分かった」
声に言われたとおりに背負う感じに剣をしまうとカチンと鞘に収まる音が響いた。
「おお!」
『これより汝を「絶対なる勝利と栄光を授ける宝剣」の主として認めよう。その力、正しく扱うのだぞ』
「気を付けます!!」
とうとう聖遺物を手に入れたぞ!――ゲームのテロップのような感覚――
さて、面倒だけどまた戻るか。
◇◆◇◆
デュランダルを背負って入口まで帰ってきましたが、入口が塞がれていて帰れません。
「デュランダルなら切れるかな?」
そう思って僕は背中のデュランダルを抜いて入口を塞いでいる物に二閃の斬撃を繰り出す。
ヒュンヒュンと二回ほど風を切る音が鳴ると、塞いでいた物がすっぱりと切断されて崩れ落ちた。
「すげぇ……こんなものまで切れるなんてカッコよすぎ。ここまで来る間にアンデットやらゴーレムやらも斬りおとしたし斬れないものないんじゃない?」
帰り道にまた襲われたがデュランダルの一太刀で全て両断できるのだ。しかも最初は気がつかなかったけど僕の身体能力も強化されているみたいだ。
「あらあら、派手に壊してくれたわね」
「うわっ!真羅さんっ!?あ、ごめんなさいっ!」
戻ってきたのを分かっていたのか真羅さんと鉢合わせしてしまった。
「まぁいいわ、それより王剣デュランダルとの契約おめでとう」
あ、許してくれた。
とりあえず祝いの言葉を貰ったからちゃんとお礼を言った。
それにしても帰ってきたらもうすでに夜だったんだ。どうりでお腹が減ったわけだ。
「ふふふ、夕食なら食堂に用意してるわ、彼女なら客室で休んでいるから後でもいいから会いに行ってあげなさいね」
「ありがとうございます。しかし、結香とは幼馴染ってだけです」
「あらあら、二人して同じこと言ってるわ。じゃあね」
同じことって?聞く前に真羅さんが去ってしまったから聞けなかった。
まぁいいや、とりあえず食堂で夕食を食べよう。
ささっと食べ終えて僕は客室の前にきた。とりあえず結香が着替えとかしてたらヤバいからノックをしよう。
「はい?」
「僕だよ」
「卅麻!?」
誰が来たのか分かった結香はバタバタと慌てながらドアを勢いよく開けた。
「帰ってきたのね!!聖遺物は?」
「ばっちり、王剣デュランダルを手に入れたよ」
その報告を聞いた結香が僕に抱きついてきた。あまり気にしたこと無いけど僕より五センチほど低い身長の割に胸は大きいんだね。
あ、そこを強く締めたら……
「やったわ!これで破壊神を倒せる!!」
「ゆい、かっ……ぐるじい。はなじでっ!!」
「はっ! ごめん!!」
はぁ……はぁ……死ぬかと思った。こう見えて結構力あるんだね。
「とりあえず、今日はもう休もう。さすがに歩き続けたし魔法使い続けたせいで疲れたよ」
「そうね、お休みなさい」
◇◆◇◆
「それで、救世主は無事に聖遺物を?」
「えぇ、ちゃんと入手したわ、それに私をしっかり倒したし。あれに見合う人材よ」
明かりのない部屋に佇む二人の女性の影が向き合っていた。
「ならば問題ない、私は主の元へと戻ろう」
「その前に聞いてもいいかしら?」
「なんだ?」
「あの子は今どこにいるのかしら?」
その問いにしばしの沈黙が流れる。
考えた後にその答えが返ってきた。
「王都だ、今年の『武闘会』に出場する予定だ」
「そう、ありがとう」
そう言って一人の女性は姿を消した。
「まだ会いに来てくれないのね、女を待たせるなんて罪な男ね」
女性の呟きは虚空へと消えて行った。
強引に文字数を伸ばした感があるかもしれないけど気にしない。