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其の十

 情けないいつきの期待に応えるべく、両腕を胸の前で組み、うーんと唸りながら考え込むこずえ


 生まれ育った家とは言えど、日下部家を守るため多忙に過ごす樹が、日々家事をそつなくこなしながら、広すぎる敷地と古く大きすぎる家屋を手入れしてきた梢では、家に関しての情報ではもう敵わないのだった。

 両目を瞑り、唸りながら首を捻る梢は、首を捻りすぎて姿勢がおかしくなっている。そんな妻の姿を期待を込めた視線で両手を握りしめて見守る樹。

「梢ちゃん、頑張れ」


 二人が以前から直そうと努力している呼び名。梢ちゃんといっちゃん。仲がいいのは結構だが、さすがに高校生にもなった息子の前では口にしないよう気を付けているようだった。当のヒロはそれほど気になってはいないのだが、二人にとっては未だに気を抜けば出てしまう長年の習慣のようだった。

 そんな二人を、お茶を啜りながらニコニコと見守る少女。

(一番危険な人が一番緊張感がないんだよな……)


 相変わらず首を傾げ、唸る母を待っているだけなのが落ち着かず、席を立つヒロ。

柊兎ひろと? 何処に行くんだい?」

「とりあえず古い道具が入ってる物置を探してるよ」

 うんうん、と二度頷いて立ち上がり、一緒についてくる少女。

「いや、座っててくれても……」

 ヒロは言いかけるが、少女はさっさと座敷の入り口へ向かい、ヒロを持っている。


 ヒロを待つ少女の表情は、早く自分の大事な物を探したいという願望はあまり感じない。どちらかと言うと退屈しのぎに着いてくるというような気楽さをが見え、緊張感のなさにヒロを困惑させる。


 仕方なく少女を伴い、中庭を望む長い廊下を渡り、使われていないたくさんの部屋を通り抜け、小さな閂のかけられた扉の前に辿り着く。

 閂に手をかけ外すヒロを期待の眼差しで見守る少女。やはり、『早く団扇を見つけなければ』というような切羽詰った雰囲気はなく、単純に中に興味があるという感じだった。


 日頃の梢の掃除が行き届いているせいだろうか、暗い物置の中はそれほど埃っぽくはなく、左右の壁に備えられた棚に、整然と整理された様々な大きさの箱が並んでいる。


 少女は目を輝かせ、奥へ入って行く。ヒロはその後ろを歩き、『それっぽいもの』を探す。物置にはあまり入ったことがないヒロだったが、見覚えのある物や、居間でもたまに使うような物は入り口付近にあるはずだ。物置の奥にある、見覚えのない『それっぽいもの』。漠然としすぎているが、今はそれを探す以外にはない。


 気になった箱を片っ端から棚から降ろし、中を確認するヒロ。手際よく進めたいと思ったはいるのだが、箱をかける度に傍らにしゃがみこんだ少女から、これは何に使うものだ、もっとよく見せろと注文が絶えず、なかなか進まない。特に、ヒロが昔使っていたおもちゃの類には興味津々で、遊び方を教えろとしつこいくらいだった。殆どの物は電池がないと動かない物ばかりだったが、それでもスイッチを入れてみたり振り回したりと楽しそうにしている。

(本当に緊張感がないな。自分の身が危ない自覚はないのかよ)

 ヒロは次第にイライラしてしまい、そんな風にも感じるのだが、それを口にしてみたところで何の解決にもなりそうにはなく、楽しそうに遊ぶ少女に水を差すのも嫌だと思い、一人捜索を続けた。


 しかし箱を開けても開けても目当ての『それっぽいもの』は見つからず、見渡せば圧倒的なな物量に気が遠くなってくる。

 焦るヒロの耳に、不意に遠くから廊下を走ってくる足音が近づいてくる。

 顔を出し、ヒロが物置から廊下を伺うと、梢が長い廊下の向こうからこちらに向かっていた。

「母さん、何かわかった?」

「さっぱりよ。でも家の中は大体見当がつくから、蔵を調べることになったわ」


 敷地にある屋外に建てられた蔵。

 ヒロも殆ど入ったことがない。というか、あまりにも立ち入ったことがないため、その存在すら忘れていた。

(ああ、そんなのあったな)

 とはいえ未知数なだけに、ここを当てもなく探し続けるよりは可能性がありそうな気もする。

「今、いっちゃんが蔵を開けているから、あんたも手伝いなさい」

「わかった。すぐ行くよ」

 それだけ言うと梢は踵を返し、廊下を戻って行く。先に玄関に向かうようだ。


 ヒロは物置に戻り少女を連れて行くため姿を探すと、昔好きだった変身ヒーローのベルトや武器を身に付けた少女が見えない何かと戦っているのが見える。

「何やってるんだよ。それ置いてこっちに来て!」

 えー……、と不満を漏らしながら仕方なそうに変身を解除する少女。

 名残惜しそうに振り返る少女の手を引き、蔵を目指して玄関に向かう。


 玄関から近道をするするため、家屋と塀の間の小さな道を早足に歩くヒロと少女。

 家屋を囲む塀の一部に作られた小さな扉は開け放たれていた。

 先を行った樹と梢が通ったのだろうと考えながら、ヒロは身を屈めてその小さな扉をくぐり、庭と呼ぶには広すぎる敷地に出て少女が出てくるのを待つ。

 扉から出た少女は、扉の向こうにある、手入れされた木々や花壇、池の周りに置かれた庭石に興味を示すが、先を急ぐヒロに手を引かれてゆっくり見る事もできずに再び不満を漏らす。

「見つけた後で、いくらでも案内するから」

 少女の反応に困ったヒロは宥めながら先を急ぐ。


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