ハリネズミと私と彼女
ハリネズミと私と彼女
「ねぇ、知ってる?ハリネズミって、ネズミよりもモグラに近いんだよ。ま、眼的にはモグラよりも見えてるんだけど。」
私の友人が突然言い出した。言った本人、有子は理科の先生を小学校でしている。しかし、そんなことは関係なく彼女の唐突な言葉に唖然とするのには何年友人をやっていても慣れるものではない。
私は一息置いてから言う。
「…。いや、知らなかった。知らなかったんだけど、なぜケーキを食べながら、ハリネズミの話が出てきたのかな?」
有子は丸いケーキをざくざく半分に割りながら話した。
「いや、これ見てたら急に昔の絵本を思い出して。」
「絵本?」
「そう。タイトルも内容もぼんやりしか思い出せないんだけど、絵がかわいいイメージがあるんだよね。」
「で?ハリネズミが出てくるの?」
私は話を促した。
「いやぁ、主人公じゃなかったような気がするんだけど。要するに、動物のケーキ屋さんの話で、買いに来るのも動物で。その相手そっくりにケーキを作るのが、自慢の店、みたいな話だった気がするんだよね。」
「へぇ。」
「その中に、ハリネズミの針をチョコレートで作る、みたいな一文があった気がする。」
「ああ。」
やっと私の中でケーキとハリネズミがつながった。有子はケーキに乗っているチョコレートの丸めたものをパリパリ食べている。
「モグラねぇ……。」
「ま、日本人の場合、モグラよりもネズミのほうがいいイメージがあるよね?」
「ああ、有名なネズミも……。」
「いや、それもだけど!干支とか、カピパラとか、ハムスターとか。全部ネズミだし。昔のアニメでもネズミが主人公ってあるよね。」
「まぁねぇ。」
「あたしには実験動物なんだけど。」
「うっ。うーん。」
有子は、二つ目のケーキに取り掛かった。今度のはイチゴが乗っているタルトだ。同じだけ食べても有子は平気だが、私は太る。私は紅茶を注いだ。
「イチゴも美味し。でさ、話はハリネズミがなんだけど。」
内心、まだ続くのかと思いつつ、聞く。
「うん。」
「歌詞にたまに使われているのよ。」
「へぇ。」
歌に詳しくない私は、相槌を打つ。
「算数の先生がこの間、カラオケで歌っていたのよねぇ。あの歌手、音程が難しいもんだから、歌がうまくないと歌えないんだけど、これがまたうまいんだ!」
いつの間にか、算数の先生とカラオケに行くほど仲良くなったのだろうか?
「傷つきやすいやすいけど、恋をしたい、けど、相手を傷つけるみたいな?わがままな話だよね!」
「いや、歌詞に文句を言ってもさ。」
「そうなんだけど!いいじゃない!難しくて、あたしには歌えないのよ!どうせあたしは、音痴よ!」
どうやら、仲良くなっているわけではないようだ。私はちょっと笑う。
「私がハリネズミで思い出すのは漫画かな?」
「漫画?」
「そう、たしかねぇ。ハリネズミが温めあうにはどうしたらいいか、それはお互いに立ち上がって抱き合えばいいってセリフが……あったような、なかったような?」
「はっきり覚えてないわけね。」
「有子の絵本と一緒。」
私は言い返した。
「ちぇー。あ、国語の先生と昔読んだ絵本の話でもしようかなぁ。」
有子は、同じ小学校の国語の先生を想っている。
「やめときなさい。」
私は静かに言った。
「なんで?」
「よっぽど有名な絵本なら読んでいる可能性があるけど、そうじゃないと、なかなか絵本はかぶらないよ?んで、そんなに有名な本なら国語の先生じゃなくても、みんなが読んでるって。」
「そうかなぁ?」
「そう。気が合いますねぇ、運命ですねぇっていうのは言いにくい。」
「そっかぁ。」
有子はため息をついて、メニューを引っ張り出した。私は目を丸くする。
「まだ食べるの?」
「今度はパンケーキ。」
なんの絵本を思い出したか、私には見当がついた。