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第六話「初バトル」


 いくら広いこの学校の体育館でもここにいる全員でフィールドを展開させるのは無理だ。ということで、体育館と一~五階までを各クラスに一階ずつ割り当てることになった。

 決め方はくじ引き。で、代表で出た北川が引いたくじは体育館。ラッキーだ。これで伸び伸びと試合が出来る。

 全クラスが確定してから早々、それぞれが割り当てられた場所に向かっていった為、もう既にこの体育館内にはBクラスの連中しかいない。だからあとやることは、適当に相手を見つけるだけだ。

 まあそれも、問題ないが。


「なあ、憧。一緒にやろうぜ」


 やっぱり慣れない内は知り合いの方が気持ち的にもやりやすいだろうし、一番気心が知れた仲である憧が適任だろう。何よりすぐ隣にいたからな。


「えっ! ……あっ、うん。勿論いいよ!」


「んっ!? 何だ、今の反応?」


「いや。私も誘おうとしたところだったからさ。まさか、叡から誘ってくるとは思わなかったな」


 偶然が余程嬉しいのか、笑顔で答える憧。


「まあ、お前が一番やりやすいだろうからな。さて、早速始めようぜ」


「うん!」


 嬉しそうに力強い返事が返ってきた。さっきから何が嬉しいのか今一分からないが、まあいいや。さっさと始めるか。


「じゃあ、俺がボタンを――」


 ドタタタタ!


 ――ドタタタタ? 何だ? どこかから固まった音が……って、うおっ!


「どけやがれ! お前らは引っ込んでな!」


「お前が引っ込んでろ! 夢美谷さんとバトルするのは俺だ!」


「いいや、違うね! その役は僕が生まれた時から決まっていたものだ!」


 びっ、びっくりしたー! 音が段々近付いてきたかと思ったら、何故かどこからか突然やって来た男子五人に弾き飛ばされた。

 なんだ、なんだ!? 憧にバトル!? 何言ってんだ、こいつら……って、はあー! 憧とバトル!? もう既に俺が先約してるっつうの!


「ちょっと待て、お前ら! 憧は既に俺と――」


『黙ってろ、零点ヤロー!』


 また、弾き飛ばされた。

 なんて、理不尽なんだこいつら!


「夢美谷さん、俺とバトルしてください」


「バトルしてください」


「バトルしてください」


「バトルしてください」


「付き合ってください」


 憧の前に横に一列に並んだかと思うと、右から一人ずつ言葉と共に右手を前に出していく。

 なんでこんな、一斉告白っぽくバトルの依頼をしているのだろうか。ていうか、最後のは完全に告白だし。

 憧は完全に困惑している。さしものあいつも五人一斉の集団告白は経験が無いのだろう。


「あの、えっと……」


 明らかに困惑している憧は、最後の希望にすがるかのように、涙の溜まった目で俺に救助を求めてくる。

 くっ、こいつら相手に助けろだと! んな、無茶な。

 しかも憧の視線に気付いた奴等がすげぇー、睨んできてるよ。告白してた奴に至っては、目に血貯めて睨んでるよ。

 ハァ……でも、あんな目されたら無視も出来ねえしな。しょうがねえか。


「お前ら、すまん。こいつ俺ともう約束してたから」


 憧と五人の間に割り込んでから言う。

 勿論五人は不服そうだ。


『はあっ! お前何言って――』


「あの……ごめんなさい。私、本当に約束してたので。終わってまだ時間あったらお願いします」


 ペコリと頭を下げる憧。

 憧に、振られ? ガーンという擬音語が聞こえてきそうな程、落ち込みながら、そして俺に憎しみの目を向けながら、五人は去っていく。告白してた奴に至っては、唇から血が出るくらい噛み締めながら睨んでいた。

 ふぅ……やっと終わったか。


「ありがとうね、叡」


 憧はふうっと一度安堵の息を吐いてから、スマイルで礼を述べる。

 

「まあ、気にするな。お前こういうの昔から苦手だしな。――しっかし、入学して約一週間で告白されるとは流石だな。まあ、相変わらず断ってたが」


 そう、この端正な顔をした幼なじみ、俺は未だに経験ゼロだというのに、昔からもう既に記憶出来ない程の数の告白を受けてきたようだ。

 しかし、それでもこいつは何故か一人もOKは出さない。だから、未だに交際経験は無い。

 中学の時なんか、学校一と言われていたイケメン先輩に告白されたのにも関わらず、断ったという武勇伝を噂づてに聞いた程だ。

 理由は本人が教えてくれないこともあって、幼なじみの俺でも未だ不明。訳ありなのは確実だと思うんだが。


「えっ、告白って、誰が?」


 そう言う憧の顔は純粋な疑問顔だ。真面目に何を聞いてるんだ、この幼なじみは。


「おいおい。誰がって、五人目の奴付き合ってくださいって言ってたじゃねえか」


「えっ、あれ!? 実戦に付き合ってくださいって意味じゃなかったの!?」


 これはまた凄い勘違いだ。というか、逆によくあんなストレートな台詞をそんな受け取り方出来たな。


「お前、本当に鈍感だな」


「その台詞、絶対に叡にだけは言われたく無かったんだけど」


 少し不機嫌そうに憧が言う。

 鈍感と言われるのは嫌なのだろうか? しかしそれなら俺だけには言われたく無いってのは、どういうことだ?


「――きっ、貴様ー!」


 突如左手から聞こえてきた、怒気を含む大音量な声。俺は反射的に声の発信元に目を移動させてしまう。


「ハァ……」


「ちょっと、なんなんだ。その、僕を見てから溜め息までの音速も霞む程の異様な早さは!」


 キラリと光を反射させている知的な感じを受ける眼鏡にクセっ毛が目立つ髪、なんというか顔から出来るイメージ通りの細長い体。さっきの五人目だった。告白失敗してどこかに行ったと思ったら、再び戻ってきたようだ。

 また面倒くさそうな奴に絡まれてしまった。


「何で、戻ってきたんだよ。さっきのでもう諦めたんじゃないのか」


「ああ、諦めたよ。だからあの後、北川さんや西蓮寺さんのところにも行ったんだ。だけど、北川さんには点数言ったら他の者ごと断られるし、西蓮寺さんには相手にもされなかった……」


 周囲を見回してみると、なんというか言葉通り人目を引く雰囲気を持つ北川はすぐに見つかった。何も無い周囲もあいつがいるだけで色鮮やかに装飾されているようだ。下手な電飾なんかよりもよっぽど効果はあるのではないだろうか。

 今は相手を見付けたようで男子とバトルを始めている為近くに誰もいないが、悪い意味の熱烈な視線をその男子に送っている男子生徒もちらほら見受けるので、こいつの話は嘘ではないだろう。

 だが、もう一人の西蓮寺さんって誰だ? 聞いたこと無い名前だ。こいつが誘ったんだから女子で間違いはないんだが。自己紹介の時にも聞いた記憶はない。


「で、仕方なく他に良い相手を探していたら……貴様、夢美谷さんと公衆の面前でイチャつきやかって……!」


「さっきのあれがイチャイチャしてるように見えたなら、眼科に行くことをオススメするよ」


 よく分からん勘違いでご立腹されている。

 第一、仮に、万が一イチャイチャしていたとしても他人にどうこう言われる筋合いは無いと思うんだが。


「大体、君は夢美谷さんの一体何なんだ!? いっつも一緒にいやがって! 羨ましいんだよ!」


「いや、知らねえよ!」


 そんな本音言われても。


「もしや、彼氏じゃないだろうな!?」


「何でだよ。俺達のどこを見たらそうなんだ。全然そんなんじゃねえよ。なあ、憧」


「……。……うん、そうだね、叡!」


 なっ、憧のやつここで名前を強調して呼んできやがった! しかもよく見たら、憧が苛立っている時に毎回見せるあの笑顔だ。

 何で怒ってんだよ! ただでさえ面倒くさいのに、余計面倒くせえな。


「そうだ。なにが彼氏じゃないだ! じゃあ何で名前で呼びあってるんだよ!?」


「何でって……俺と憧は小学生の時からの幼なじみだからだよ」


「夢美谷さんと幼なじみ、だと!?」


「うん。昔から学校外でも大体毎日会ってるよね」


「なん……だと……!」


「憧、お前余計なこというなよ! てかそれ、お前が勝手に俺の家来てただけじゃねえか!」


「なん……だと……!」


「だって、毎日会いたいのに叡から来てくれないから」


「なん……だと……!」


「お前、さっきから同じ台詞ばっかうるさいんだよ! それから、憧! 変なことばっか言ってんじゃねえ!」


 ったく、告白男を刺激するようなことばかり言いやがって。何がそんなに気に食わなかったんだよ。


「ごめん、ごめん。じゃあ、あの……夜のことは言わない方が良いよね?」


「憧ー! ――って、うおっ!」


 告白男がドロップキックをかましてきたので、ギリギリで横にかわす。あっ、危ねえー!


「ちっ!」


「急に、何すんだよ!?」


「貴様、ふざけるなよ! どんだけ羨ましい生活送ってるんだよ! もう、代われよ! 幼なじみ代われよ!」


「おいっ、最早お前言ってることがおかしいことに気付け! 幼なじみは変われないぞ! それに大体な、幼なじみなんて実際いても特に何もねえもんなんだよ」


 言った途端、急に俺の周囲だけ沈黙が訪れる。

 なんだ!? 憧と告白男が急に何も喋らなくなったかと思ったら、どちらも顔を伏せて体を震えさせている。どうしたんだ?


「きっ、き――」


 き? なんだ? 告白男は何を言いたいんだ?


「貴様、全国のモテない男に謝れー!」


「わっ! 危ねえー!」


 また、ドロップキックが腹めがけて向かってきたので、紙一重でかわす。あらかじめ警戒していたからなんとかかわせたが、さっきより確実にスピードが上がってやがった! そして、第三撃に備えやがった。


「お前、良い加減にしろよ! ――おいっ、憧! お前からも幼なじみなんて別になんでもないってことを教えてやってくれよ」


 もう、俺じゃ何を言っても無駄っぽいからな。


「うん。あのね、斎藤君。斎藤君が考えてる程、幼なじみなんて良いもんじゃないらしいよ。幼なじみなんて――」


 告白男の名前は斎藤というのか。それは知らなかった。

 だがまあ、


「これでなんとか無事終わ――」


「所詮、たまに一緒にお風呂に入るぐらいの仲だよ」


「憧さーん!」


「!☆♪▲〒●%っ!!」


「最早何言ってるのか分からねえよ! ――って、ぐはっ!」


 翻訳不可能な言語で文句? を言われながら、隙を突かれてドロップキックをかまされた。

 はっ、反応出来なかっただと! 奴め、俺の反射を越えるスピードを出すなんて人間じゃねえ!


「貴様、これで済むと思うなよ! 全非モテ男の宿敵となった貴様は最早この程度ではすまさぬ! 今ここで厳正に殺害してやる」


「厳正の使い方間違えてないか!」


 というか、何で俺がこいつに殺されなきゃいけないんだ!?


「だが、しょうがない。せめてもの情けで死に方ぐらい、自分で選ばせてやろう」


「そんな情けより、今目の前からお前が消える選択肢が欲しいです!」

「貴様は男子にしか興味ないという噂と彼女は六歳の幼女という噂、どっちを流して欲しい?」


「殺害って社会的地位の抹殺かよ! ていうか、その二つに大した差異はねえよ! どっちも充分過ぎるよ!」


 どちらにしろ俺の望む楽しい快適学園生活の破壊には充分だろう。


「まあ、確かにな。今のは我ながら残虐過ぎだったと反省している。だから、しょうがない――システムで決着を着けてやろう! 貴様、僕とバトルしろ!」


 あんな恐ろしい計画の後に何を提案してくるのかと思ったら、システムバトルだと!?

 ――なんだそれ。面白そうじゃねえか。


「その提案なら乗ったぜ。お前が俺の最初の相手だ」


「ふっ。貴様を夢美谷さんの前で完膚無きまでにぶちのめして、恥をかかせてやる!」


「そんな上手くいくかっつうの。初戦は勝利で飾ってやるよ」


「今の内にほざいときな。じゃあ、行くぞ!」


 宣言と共に斎藤がボタンを押す。

 ――来た! バトルの申請メッセージだ。俺もボタンを押し返し、直後に床から出現した光の膜が周囲十メートルを囲った。

 とりあえず、最初にやることは相手の情報取得。まあ、つまりは点数確認だ。俺は急いで青いボタンを押す。

 えっと、何々……


my point:0


your point:779


 ほぉ……。豪語するだけあって、なかなか点数が高いな。平均点より約五十点も上回っている。やはり、流石この学校に入れただけはあるな。変人だが見た目通り勉強は並み以上には出来るようだ。


「この圧倒的点差! 正に俺の勝利に揺らぎなし! ――おっと、降参は許さないぜ」


 俺の点数は知ってる筈なので、一応だろうか。相手も点数の確認をしたようで、ディスプレイから相手に向き直した時に言われた。

 それにしてもあいつ、なんて一級品の敗北フラグ建築してやがるんだ!


「こんな点差丁度良いハンデだよ!」


「おっ、言うね! じゃあ、早速ぶっ倒させてもらうとしますかな」


 相変わらずフラグ建築に勤しむ相手は、右手を動かし左手首に付いているスマートギアのボタンを押す。

 見えはしなかったが、何を押したかは分かる。

 緑のボタン――魔法発動だ。


「ハアァァァー!」


 目を瞑った相手が発した力強いその声と共に、相手の手の周囲に十センチ程の円形の光が現れる。その光は横に、縦に広がり、徐々に形が変化していく。そしてそんな行程はたったの五秒後には全て終わったようだ。最早円形の光は完全に姿を変え、その形は――


「これが僕の魔法、銃召喚だ!」


 そういえば入学初日の自己紹介でこの魔法を使っていた奴がいたのは覚えていたが、まさかこいつだったか。

 だが、魔法がなんであろうと関係ない。

 何故なら――


「これでさっさと仕留めてやる! ――って、何ー!」


「お前、隙作りすぎ。これで終わりだよ」


 相手が目を瞑っている間に接近しといた。たった五秒もこのシステムだとされど五秒だ。この程度の広さのフィールドなら五秒は接近には充分過ぎる。更にその上、敵前で集中しながら目を瞑るなんて愚行までしてくれた。お陰で瀬良のようにスピードがある訳でも無い俺でも余裕で接近することが出来た。

 ということで俺の右手を相手のスマートギア目掛けて打ち込む。


「ちょっ、待てー!」


 叫ばれてももう遅い。既に前方に動き出していた俺の右手は止めれず、意表を突かれ全く反応出来なかった相手のスマートギアにヒットした。

 こっちの腕も痛むくらいなかなかの力で殴ったんだ。もう充分だろう。

 果たして俺の予想は当たり、直後に先程聞いたブザー音が鳴り響きつつフィールドは消滅していった。ディスプレイの方には、先程見た物とは違う『WIN』の文字。

 ――つまり、


「俺の勝利だな」


 突然過ぎる事態に思考が追い付かないのかボーとしている斎藤を尻目に、俺は素直に嬉しい為顔をにやけさせてしまう。

 これは単純に相手が相手なだけで、誇れる勝ち方では無いが、まあ勝ちは勝ちだ。普通に喜ぼう。

 

「ちょっと待ったー!」


 どうやら斎藤は、流転している事態にようやく思考が追い付いたようで、騒々しい声で俺のそんな喜びに水を差してきた。

 まさか、今のはなしとか言い出す気か?


「えっと……何ですか?」


「その急な他人行儀はやめてくれないか!? 大体、なんだ今の決着!? 納得いくか!」


 そんなこと言われても。


「何が納得行かないんだよ?」


「僕が貴様ごときに負けたという事実に決まってるだろ!?」


 未だかつてここまで自分主義な主張を俺は聞いたことがない。


「いや、認めろよ」


「認められるか! 大体魔法の扱いに慣れる戦いで魔法を使わずに勝つって何だよ。そりゃ、真面目に魔法を使おうとしてる僕の方が負けてしまうのは当然じゃないか」


「一見もっともらしいこと言ってるようだけど、その実はとんでもなく理不尽な批判だな」


 別に魔法使わなくても問題はないし、第一俺は使えないからしょうがない。

 それに大体、一番の敗因は敵前で五秒も目を瞑るなど、降参も同義な愚行をしたお前の所為だろ。あんなもん、戦地の真ん中で棒立ちしてるようなもんだ。


「うるさい。うるさい! 本当に魔法同士なら勝てるんだ! ということで、魔法で勝負だ! 批判は認めない!」


 なんかよく分からん根拠でまた勝負を申し込まれたな。

 こっちだってやれるもんならやりたいが、


「勝負ったって、俺は零点だから魔法使えないぜ。どうすんだよ?」


「うわっ、そうだった。なんで零点なんか取ってるんだよ、貴様は」


「別に取りたくて取った訳じゃねえよ」


 しかし、さてどうしたものか。ここは勝負を断って憧と試合をやるか。でも、今のこいつは放してくれそうにないな。


「あっ! じゃあ、夢美谷さんに借りるっていうのはどうだ?」


「えっ、私の!?」


 眼鏡がキランと光った、ような気がしたのは気の所為だろうが、斎藤が提案してくる。

 憧に借りるね……。


「お前はそれで良いのか? 憧は点数お前よりも高いぞ。それに第一、他人のスマートギア借りて魔法使えるか分からないだろう」


 まさか、教頭もそんな事態は想定していなかっただろうから、説明してなかったしな。


「構わないさ。どうせ貴様ごときじゃ、その高い点数を扱えないだろうからね。それに分からないからこそ、実験してみる価値がある」


「まあ、お前が良いなら良いけど……憧、スマートギア貸してくれるか?」


「うん、分かった!」


 手首から外して、はいっとスマートギアを渡してくる憧。それをすぐに左手首に付ける。


「貴様、なにっ、夢美谷さんのスマートギア付けてるんだ! ずるいじゃないか!」


「お前が借りろって言ったんだろ!」


 面倒という言葉を擬人化させたような奴だな、こいつ。


「まあ、ありがとうな、憧」


「うっ、うん」


 エヘヘっと照れも混ざった笑いをする憧。


「じゃあ、またバトル始めるか。まず俺が申請するぜ」


 再びバトル再開。いつも通りフィールドが展開され、俺達はお互いにボタンを押す。

 俺は両方の点数を知っているので緑のマジックモードのボタンを押したが、相手は憧の点数を知らない筈だから、点数確認だろうな。

 その後、俺の予想は辺りのようで、相手はディスプレイに一瞬目をやった時にハッキリ驚いていた。

 八百点以上、しかも悪くはない自分の点数より五十点差以上ついてるからな。そりゃ、驚くだろう。その反応を見ると、憧に教えた俺としても少し嬉しい気持ちがある。

 閑話休題。相手はさっきのこともあってかなり警戒しているようで、こちらに注意を払いつつボタンを押す。これだとさっきのように簡単に接近することは出来ない。と言っても、憧の点数と魔法なら大して近付く意義が無いのだが。

 それにそれより問題なのは、既に相手はマジックモードに入った筈だということだ。普通なら、召喚、攻撃と二度手間の相手より直接手から水の出せる俺の方がタイミング的には有利だ。ただ、それも俺が相手より早く行動出来た場合だ。俺が奴より後手に回ったら結局タイミング的には同時。優位性が無くなってしまう。もたもたする訳には行かない。先制は俺がする。

 俺は両手を前に突きだして、そのまま脳内で自分の手から水が噴射されてるイメージを作る。

 そんな俺の姿を注視していた相手も急いだ様子で、今度はしっかり目を開いて銃の召喚を始める。

 焦るな。じっくりだ。イメージを保って……


「はぁー!」


 力強い呼吸にも似た言葉を発し、


「よしっ、召喚完了――って、えー!」


 滝の勢いにも劣らない、という表現もあながち間違いではない程の破壊力を持った水が俺の両手から放射された。よしっ、発動した! これで他人のスマートギアでも魔法が使えることは立証された訳だ。

 俺の手から放射されたその水は威力が落ちることなく重力に逆らって真っ直ぐ進み、一秒も充たないで命中した。

 ――相手の左横を過ぎ去って壁に。

 壁に当たり分散した水は、それだけでもダメージ判定があるんじゃないかというぐらいの勢いを持つ飛沫になって床や壁を濡らしていく(勿論実際は濡れてないが)。

 なるほどな。確かに難しいな。手から出てると言っても、それは視覚のみの情報だ。触感や水を発しているという実感がまるで無い。これを初めてでコントロールしろという方が無理だろう。


「だが、やはりその点数をコントロール出来ないようだな――って、だから危ねえっつうの!」


 俺はそこから、両手をそのまま薙ぎ払うように相手のいる右側に向かって移動させていくが、瞬時に屈んだ相手には当たることなく、右奥の壁に当たった所で止め、攻撃を中止する。一旦、落ち着いた方が良いと判断したからだ。

 だが相手はその期を逃さず、俺の放射が終了したと見るや屈んだ状態から急いで銃口をこちらに向け、直後にバンッ! という爆発音が響いた。

 ――と共に後ろのフィールドから聞こえてくる、ジジジという電気音。

 これは、外れたのか?


「くっ、外れたか。スマートギアを狙い過ぎちゃったな」


「今のは危なかった……」


 やはり外れていたようだ。だが、流石に今のはひやっとした……。

 銃弾など躱しようがない。もし相手が扱いに慣れていたら点数を下げられていた危険性が高かっただろう。

「ということで、第二撃だ。今度こそ決める」


 相手は次の攻撃に備える。こちらに銃を向けてから照準を合わせ……


 ――腹部を水の棒に撃ち抜かれ、驚きの表情を見せる。


「よし、攻撃成功っと」


「なん……だと……!」


 相手は驚きの顔から変化が無い。

 俺は相手が攻撃する寸前を狙って水を放射した。攻撃を仕掛けようとした直前に逆に攻撃を受けたんだからその反応は普通だろう。

 にしても、攻撃を受けた腹の辺りを何か確めるように擦っているのは何故だろうか。攻撃といってもビジョンだから痛みはない筈だが、何か違和感でも感じるのか?

 それと、相変わらず驚きの台詞にボキャブラリー無いな。


「何でなんだ!? 貴様、さっきはなかなかの外しっぷりだったじゃないか。何で、今のは的確に俺を狙えたんだ!?」


「んっ!? ああ、まあ単純にもう慣れたからな」


「慣れた……だと……!?」


 驚きつつも訝しげな顔で言う斎藤。

 まあ、確かにさっきのあんなノーコンを見た後にすぐ合わせたとなると驚くのも普通だと思うが、本当に慣れてしまったのだから仕方がない。

 少しコツがあって難しいが、昔から俺は一度やったことなら大抵こなしてしまうからな。


「ああ。信じられないなら、証拠見せてやるよ。攻撃してきな」


「なっ、ふざけるな! くそっ、やってやる!」


 驚愕から怒気を含んだ顔に変え、銃口をこちらに向ける斎藤。そして、そのまま引き金に手をかける。

 俺は急いで屈む。


「体を狭めても無駄だ。今度はスマートギアとは言わない。ともかく体に当てて、ダメージを与えてやる!」


 言うや否や相手が引き金を引く。

 途端にフィールド中に響く銃声。

 相手の攻撃は確かにヒットした。

 よしっ!


「――貴様、なんなんだ、それは!」


 相手は俺の作ったそれを見て、完全に目を見開いている。

 思った通りに出来た。


「もう扱いは完璧に理解したからな。試してみたらこんなことも出来ちまったよ」


「本当に一回でかよ!?」


 相手が引き金に手をかけた瞬間。そのタイミングで俺は屈みつつ、左膝と両の手のひらを床に着けた。

 そこから水を床下を伝わせ、俺のすぐ前で上方に向けて放出させるイメージを作った。その結果、間欠泉の如き水の柱が床から放出され、相手の攻撃を防御したという訳だ。

 俺に向かって発射された銃弾は勿論俺の目の前に立たせた柱に当たった訳だが、となると元々憧より低い上に攻撃を受けて点数ごと威力が下がっている相手の攻撃に劣る筈が無い。銃弾など見える筈がない為どうなったかは分からないが、おそらくこのとんでもない水圧によって破壊されただろう。

 ――おっと、そういえばまだ見てなかったな。

 俺は一旦床から手を離し、水の柱を消す。

 それから青いボタンを押して点数を確める。


your point:350


 おお、こりゃまた随分下がってたな。いや、この威力の水を直撃させたのに半減じゃ、まだまだか。俺も慣れたつもりでいたが、まだ完全には生かしきれていないということか。


「くっ! こうなったら水で防御された後に接近して、水の影から本体を狙うしか……」


 かなり動揺しているのだろう。わざわざ作戦を聞こえる声で喋ってくださっている。


「よし、んじゃ――」


「くっ! また来るかっ! 何度もくらってたまるか!」


「おいおい。何、勘違いしてんだよ。俺が狙うのはお前じゃないぜ」


「えっ……!?」


 俺は右手を前に出し、また水を出す。ただし攻撃は相手本体ではない――相手の手に握られている銃だ。

 俺の人体ポンプによって攻撃された銃は爆発音を残しつつ粉々に散布された。


「あー! 俺の銃……」


「ドンマイ。気にしないでいこう」


「何だ、そのいっそ清々しい程の他人事アピール! やったの貴様じゃないか! というか、何で僕を狙わないで銃を狙ったんだよ!」


 何で? そんなの決まっている。


「そりゃ、相手の勝機を潰えさせ、絶望に陥いれた方が楽に決めれるからに決まってるだろ」


「鬼畜めー!」


 最早狼狽の域に達している斎藤。

 しょうがない。


「んじゃ、さっさと決着を着けてやるか」


「ンぎゃー!」


 相手の叫び声が木霊する中、俺の手のひらから放出された水は何の妨害もなく相手の顔にヒットした。


  ☆★☆★☆★☆


「凄かったね、叡!」


 バトルが終了しフィールドが消えてから一番に憧が近寄ってきた。


「相変わらず、大抵のことは一回やればこなしちゃうね。もう完璧に使えてたじゃん! 私の魔法なのにいきなり私より使いこなしてたのは、複雑だけど……」


「いや、まだ完璧って訳では無いぜ。まあ、でも良い練習にはなったけどな。ありがとうよ、憧。これ、返すわ」


「あっ、うん。――って、あっ。温かい」


 スマートギアを両手で包みこんだまま動かない憧。

 というか、何故微妙に顔が赤っぽくなってるのだろうか。


「……何やってんだ、憧?」


「ハウッ! 何でもない! ちょっと熱を確かめてただけだよ!」


 憧は大げさに驚いて、一歩後退る。

 いや、その必要性が全く分からないんだが。


「さっさと腕に掛けては?」


「えっ、良いの!?」


「逆に何で駄目なんだよ……」


 別に俺は憧の私物所有権は持ってないしな。

 俺の了承を得た憧は未だに顔を紅潮させながら、何故かおそるおそるスマートギアを腕に掛ける。


「ったく、相変わらずイチャつきやがって」


 あっ、復活したのか。

 決着後、大の字に倒れたまま呆然としていた斎藤だが、いつの間にか起き上がって、俺に話しかけてきた。


「えっと、ここら辺なら三原眼科が安くて――」


「本当に眼科を紹介するな! 僕の目は別におかしくない! というか、誰が見てもイチャついてるように見えるからな、言っとくけど」


「えっと、山下脳外科医は――」


「脳もおかしくない!」


 なら、精神に異常を来しているのか。


「ふんっ。本当に腹が立つが、僕は負けたからな。今日のところはおとなしく引き下がってやろう」


「そりゃどうも」


 というかこいつ、勝手に絡んできて勝手に去っていくだけだな。


「まっ、でも……楽しかったよ。少し気に食わない部分もあったけど、色々見れたし初めてが貴様で……良かったかもね。まあ、その……腹立つのは相変わらずだけど――えっと、同じクラスになった縁ということで、これからもよろしくってことで」


 言いながら斎藤が手を差し出してくる。

 意外だな。変なところばかりの奴かと思ったら、案外良いところもあるようだ。

 

「ああ、こっちもよろしく――」


『おいっ、あれやばくないか』


『ああっ。あいつかなり動いてるから、スカートの中見えそうになってたよな』


「なんだと! (シュバッ)」


「――な。って、なにー! もういない!」


 俺も手を出した時にはもういなかった。速い。全く見えなかった。なんという、異性に対しての行動力なんだ、あの男は!


「斎藤君、色々忙しそうだね」


 苦笑いしながら憧が言う。


「ああ、全くだ。……っと、じゃあ約束通りさっきの続きやるか」


「オッケー! ようやくだね」


「ああ、待たせたな。じゃあ――」


「吉野君」


「んっ!?」


 後ろから名前が呼ばれたので反射的に振り返る。

 今日はやたらと話かけられるな。まあ、その内の一人は変態な上貴様呼ばわりだった訳だが。

 で、今回は誰なのだろうか。


「私と相手してもらえないかしら?」


 そこにはクールな雰囲気に威圧的な目が特徴的なツインテール美人、北川が凛とした態度で立っていた。



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