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プロローグ(バカと天才は紙一重)


 この世界はつまらない。


 それに気付き始めたのは、中学に入って最初の夏辺りだった気がする。中三の頃には、それをもう確信していた。

 小学生の時は、どんな些細なことにも興味を惹かれ、純粋に楽しめていた。

 自分は特別な力に目覚める。そして、世界はもうじき、ある組織によって壊滅に陥る。だから、それを阻止する為に自分は奮闘する。

 なんてことにも本気で期待したし、そこまでスケールが大きく無くても、あるマフィアに追われて困っている少女を自分が助け、そのまま二人恋に落ちるなんてことがあり得るんじゃないか、と本気で思っていた。

 でも、中学生になって……成長していく度に現実はそんなことは起こり得ないと知っていった。何も無い日常がただ続いていくだけだということを知った。

 でも……だからこそ、俺は望んでいた。この世界が変わることを。

 いや、その中学三年間で気付いていた。このまま受け身になっていても、世界は変わらない。このつまらない世界は続いていく。

 だから、自分で変えることを選択した。俺は、自分から楽しい世界を手に入れに行く。

 その為に、入ることを決めた。


 ――光誠学園に。


 今その光誠学園から、茶色い角型封筒と手サイズの白い箱が一つずつ届いた。

 封筒に貼られているシールには、「吉野叡」(よしのとおる)という俺の名前と家の住所に学校の住所、そして入学案内という文字が書かれている。

 早速、部屋に戻って回転式の椅子に座ってから封筒を開けてみると、二枚の紙が入っていたのでそれを取り出し、前に来ていた方の紙を見る。

 春暖の候から始まり、堅苦しいマニュアル的な挨拶を少し続けた後に、一週間後の入学式開始の時間、必要物、心構え、それと学校内の簡略的な地図が書かれていた。どうやら当日はこれを見ながら教室に迎えということらしい。

 だがまあ、はっきり言えば、そんなことはどうでもいい。俺が知りたいのは、他にある。視線を徐々に下に移動させる。

 そして、止まる。

 あった。

 一番下に書いてあった。

 『スマートギア』について。

 詳しくはもう一枚の導入されている紙に書いているということなので、今見ている紙を後ろに移動させ、もう一枚の方を見る。


「なになに……ハロー、エヴィリワン! って、なんかいきなり陽気になったな」


 何このカルチャーショック。

 十秒前のお堅い感じは、ミンチにされてどこかに消えていってしまった。


『私は、光誠学園の学園長をやっている高橋英雄?だ』


「自分の名前聞いてくんなよ」


 聞かれても、そうじゃない? としか答えれない。


『この旅は入学おめでとう』


「字、間違えてんぞ」


『あっ、字間違えた!』


「気付いてたのかよ!」


『まっ、いいや』


「良くねえよ!」


 なに、この友達感覚の手紙。

 この人が本当に、スマートギアを作った高橋学園長なのか? 学校パンフで写真を見た時は、知的で生粋な科学者顔してると思ったんだが……わずか三行で二つの誤字って、逆に凄いだろ。しかも、自分の名前忘れてるし。

 何だろう……この学校、急にすげえ心配になってきた。

 そんなことを思惟しながらも、視線を先に進ませる。


『この紙には、封筒と一緒に皆さんにプレゼントしたスマートギアについて、重要なことを記しておきました。しっかり読んでください』


 封筒と一緒にって、この箱か。

 高校生男子平均並の俺の手サイズのその箱を開けてみると中には、黒色の腕時計の形をした何かが入っていた。真ん中には五センチ程の円形の液晶ディスプレイと、それぞれ色が違う四個の豆粒サイズのボタンがそのディスプレイをダイヤ型に囲むようにセットされている。

 ――これが、スマートギアか。

 確かに胸が高鳴るのを感じた。

 と言っても、今ディスプレイに写っているのは俺の顔。このままじゃ、ただの腕時計以下だ。

 俺はスマートギアから、紙に視線を戻す。


『まず、ベルトを一般の腕時計の要領でセット。その後、赤のボタンを長押しします。そうすれば、電源が着いたと思います』


 やってみる。

 

「おおっ!」


 思わず感嘆の声を挙げてしまう。

 ウィーンという、ミニサイズだがパソコンのファンが回るような音がし出したと思ったら、『POWER ON』の表示が出てきた。


『POWER ON表示の後に五秒程経ってから、日時が表示されたと思います。それがデフォルトです。唯一、戦う時は点数表示に出来ますが、そっちは光誠学園内以外では使用不可になっています。なので、それ以上のことは、学校で説明することになります』


 少し落胆してしまう。

 確かに、見た目や電源を付ける時の動作からは、この機械が優れているというのは感じなくは無かったのだが、これだけじゃ正直まだ物足りない。やはり、システムを使いたいな。

 まあ、楽しみが出来たと考えれば、良いのかもしれないが。


『ちなみに、電源ボタンを再び長押しすることで、電源を消すことが出来ます。ただし、入学式の日まで電源は入れ続けておき、なるべく肌身離さず持ち続けてください。授業で必要になります。――あっ、今、一週間ずっとって電池持つ訳無いじゃんとか思ったっしょ? ところが、残念。ソーラー電池は勿論完備な上、これに使っている電池は特製の超長持ち電池なんで切れないんだなー、これが』


「学園長、急に馴れ馴れしい!?」


 思わず、声を上げてしまった。

 この人、生徒目線になりすぎだろっ!

 っていうのはもうこの際置いておくとして、一週間付けっぱなしなのが、授業に必要ね……。

 もしかして、そうすることで何か起こったり?


『あっ、言い忘れていましたが、なるべく液体には近付けないでください。防水機能は付けていますが、一応壊れたら弁償代として数十……おっと、これ以上は言えないぜ』


 いやっ、書けよ! そこまで、書いたら隠すなよ! ていうか、何これっ!? 壊したら数十万すんの! まさか、数十円な訳無えし。

 ……数十万×千ではあるまいな。

 ともかく丁重に扱わなくては。


『では、来週学校で会いましょう。あっ、学校にはスマートギア、絶対に忘れないでくださいね。もし、忘れたら……おっと、これ以上は言えないぜ!』


 またかよっ! 何だ。何が起きるっていうんだ!? 

 ……学園長、結局最後まで掴みどころ無かったな。

 本当にここ選んで良かったんだよな?

 少し、いやかなり心配になってきた。


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