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クロス・ロード  作者: lot
第一章:親衛騎士と見習い騎士
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第三部:親衛騎士の嗜み

もう一回だけロアのターン・・・。もうすぐ物語として動き出す・・・はずです。

 グレイスと別れた後、クラウンから部屋に呼ばれた。

 親衛騎士として呼ばれたのは最初になるので、いったい何なのだろう、と広すぎる王宮内を歩く。

 グレイスによればこのエルメリア王国は大いで最も大きく、このグラン・ディアの中でも二番目に大きい国らしい。

 騎士も魔法に白兵戦にと両方に長け、戦力はこれでも強いほうらしい。最も世界基準がロアからすれば低いような気がしないでもないのだが。


 訓練場から王族の住む最上階まではかなり距離がある。それをゆっくりと歩いていく。

 途中で何人かの侍女や騎士とすれ違ったが、誰もが好奇の目でロアのことを見ていた。


 最上階まで上るとそこは王族の部屋が集まったフロアだ。自然と身が引き締まる。

 クラウンの部屋の前まで来ると服装に乱れがないかを確認して、ドアをノックする。


「どうぞ」


 中からクラウンではない声で返事があった。おそらくアリアだろう。


「失礼します」


 一礼して中に入る。

 部屋には予想通りクラウンとアリアがいた。


「ロア、突然呼んでごめんなさいね」


 親衛騎士となった瞬間からクラウンがロアを呼ぶ際の敬称が外れた。臣下となったのだから当然ではあるのだが。


「いえ、私も特にすることがあったわけではないですから。」


 緊張からかあまり声が出ない。そんな様子をクラウンは笑ってみていた。


「別にそんなに気にすることじゃないのに。これからは呼ぶことも当たり前になるんだから」


 親衛騎士になった、と言う自覚のないロアには気にするなと言うほうが無茶な気はしていた。

 そもそもこの世界に来たのが昨日なのだ。いろいろと違う点が多いことになれるほうが先なような気すらしている。


「そうですね。これから自覚を持っていこうと思っています」

 

 とりあえず主を困惑させないようにそう答えておいた。


「それでね、私が呼んだのはそういったことなのだけれど、今日の夕刻にはフラメル公国からの使者が来ることになってるの。そのときに親衛騎士としてのちゃんとした振る舞いを覚えてもらおうと思って。ロアは冒険者だったからこういう王宮での社交辞令には疎いと思って……」


 どうやらクラウンには何の勝手もわかっていないことはばれていたようだ。極力礼儀よくしていたつもりなのだが、やはり親衛騎士としての嗜みというのは別のもののようだ。


「親衛騎士とは主である王族に仕え、直接の命令を受け、そして王族を守る護衛と直属の部下のようなものなのです。当然王族に直接仕えるわけですから、ちゃんとした作法をわかっていただけなければ主であるクラウン様の名前に傷をつけると言うことはわかっておいてください」


 付け加えて説明してくれたのはアリアだ。アリアも昨日の時点で同じ地位と言うことになり、普通の話し言葉で話しても問題はないのだが、そこはきっちりするようだ。


「なるほど。それは確かに迂闊な事は出来ないですね。クラウン様が私が無作法ものであると言うことを承知してくださっていて助かりました」


 そんな無作法者が親衛騎士で申し訳なく思う。クラウンが任命したので申し訳なく思うのは周りに対してと言う意味合いが強いのだが。


「最初に、親衛騎士は宴や他国の王族との対面の場では基本的には私の隣にいるようにしてもらうの。そして私が自己紹介をするときや挨拶をするときにはロアは私の挨拶の後に続いてしっかりと私の親衛騎士であることと名前を言うのよ。ただフラメル公国の王族なら私は面識があるから自己紹介ではなく挨拶と言う形になると思うわ」


 つまり常にクラウンのそばにいて、王族の親衛騎士であるということをほかの人間にもしっかり伝えなければならないわけか。

 大雑把だが今の話を要約した結果そうなった。


「それと、フラメル公国は昔からの友好国で私が親衛騎士を取ることを嫌がっていたことを知っているから、ロアのことはまったく知らないと思うの。だからと言って昨日出会って昨日任命されました、なんてことは言わないようにしてね?それだけでロアの身分について疑問に思われるだろうし、何より親衛騎士の制度はどの国にもあるのだからそんな選び方をして良いのか、なんて言われるかもしれないし。私、そんなことを咎められるのは嫌だから……」


 ロアはまず親衛騎士の制度がほかの国でもあると言うことに驚いた。てっきりこの国だけの制度だと思っていたからだ。

 親衛騎士を知らなかったロアへの配慮で教えてくれたのだろう。

 昨日や今日この場で話していて、クラウンはとても気配りの利く女性だと思った。


 昨日も出会ったばかりだというのに城で御礼をすると言ってくれたり、アリアに衣服の手配をするように言ったのはクラウンだと言う。

 一国の王女でありながら周りへの気配りが出来ると言うことに感心したのだ。


 それに加えてもうひとつ思ったのは堅苦しい言葉をやめたクラウンは意外にも年齢相応の女の子、と言った印象だということだ。

 当然不満もあるし、わがままも言うし、何より感情表現がそれとなく女の子らしい用に思えた。



「あ、後相手の国の親衛騎士との挨拶も忘れないようにね。まぁとりあえずそんなところよ。使者といってもおそらく王族の誰かでしょうし、ちゃんとした挨拶はしとかないとね。何か質問はある?」


 とりあえず把握はしたので特に質問はないことを伝えるとアリアとクラウンは立ち上がった。


「クラウン様、そろそろ到着される予定の時刻のようですので支度を始めてください」


「そうね。着替えて謁見の間へ行かないと。ロアは少し廊下で待っててもらえる?」


 親衛騎士だからといって女性の着替えに立ち会うわけには行かない。ロアはその気配りが出来なかったことを少し恥じながら廊下へと出た。

 
















 それから数十分後、謁見の間にフラメル公国の使者とその護衛である兵士およそ数十名が到着した。

 その報告を受けて王宮内の高い立場の人間が全員集まった。

 王族やグレイスなどがいることは当然だと思ったのだが、その中にゼノがいることには少しばかり驚いた。


「ウラヴィス陛下、お元気そうで何よりでございます。私はフラメル公国第二王子であるディビット・ヴァン・フラメルでございます」


 深々と頭を下げ挨拶をする使者はクラウンの言うとおり王族のものだったようだ。


「ふむ、ディビットよ、久しぶりだな。そなたのほうも変わらぬ様子で安心した。少しばかり大きくなったようだがな」


 まるで父親のような眼差しでディビットを見ている国王はどこかうれしそうだ。


「陛下はディビット様の幼少時代からよくお会いになっていて、陛下が気に入ってらっしゃるのです」


 こっそりアリアが事情を教えてくれた。隣国とは言えそんなことがあるのか、とここでもロアは驚きを覚えた。


「さて、本来ならここで我が一族や家臣たちに挨拶をさせるのだが、もう時間も遅くそなたも疲れているであろう。まずは夕食としたいと思うが、よいか?」

「陛下の配慮、恐れ入ります。謹んでお受けしたいと思います」


 こうして一同は謁見の間から大広間へと移動することになった。





 大広間にはすでに食事の準備が整っていて、各人がテーブルに着く。

 席は国王が正面に座り、そこから第一王子、第二王子、第一王女が座った後で第二王女であるクラウンが席につく。

 ロアの席はその隣に用意されていた。どうやら食事も一緒のようだ。

 目の前には昨日ロアが食べた以上に豪勢な物が用意されていた。こちらの食材などはあまりわからないが、それでも高級な雰囲気をかもし出していた。


「では一同、乾杯!」


 国王の合図でいっせいに乾杯をするのを見てロアもしっかり参加する。

 料理はやはりおいしかった。野菜は新鮮で何もつけなくともおいしいし、肉は何肉か判断できなかったが、口の中でとろけるように消えて行った。

 当然飲み物もすばらしく、途中で出てきた果実のジュースは今まで経験したことのないような風味と後味が気に入った。




 ある程度食も進み、今からデザートと移ろうとしたときに不意にディビットから質問が飛んできた。


「ところで、クラウン様はようやく親衛騎士をお付けになられたのですね。ずっと拒んでいたと聞いていたのですが」


 その質問に王族の人間の顔が曇る。深く聞かれても具体的な質問はクラウンにしか出来ないからだ。


「ええ。ほんのつい最近任命したのですが、優秀な騎士なのです。ロア、ディビット様に挨拶を」


 クラウンに促されて立ち上がって挨拶をすることになる。

 立ち上がって周りを見ると誰もがきちんと親衛騎士としての嗜みにのっとった挨拶が出来るか心配だ、と言う顔つきをしている。

 これはへまが出来ないな、とロアは思った。


「エルメリア王国第二王女であるクラウン様の親衛騎士の任についたロア・ヴァムアスというものです。本当につい最近任されたばかりなので不慣れなことも多く、気になることもあるかと存じ上げますが、以後お見知りおき下さい」


 挨拶を終え、席に着くと国王のほっとした顔がみえた。どうやら問題はなかったようだ。

 クラウンも「流石は私の親衛騎士ね」と表情で語っていた。


 初めてにして最大の山場をロアは何とか乗り切ったのであった。

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