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クロス・ロード  作者: lot
第一章:親衛騎士と見習い騎士
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第二部:親衛騎士と騎士団長と不良騎士と

タイトルは単語ひとつだけというわけではないのです。

「グレイスさんはオレが親衛騎士になることに反対ではなかったのですね」


 ただの冒険者から親衛騎士に一日で昇格したロアは王に正式な任命を受け、周りからの羨望の眼差しに堪えながら一夜を過ごした。

 親衛騎士になったことでたいていの王宮内の人間は自分より地位が下になったり、王宮を自由に出入りすることを許可されたり、騎士たちに剣術を教える約束を取り付けられたり、目まぐるしい事態になっていたが、一日経てば王宮内は落ち着き始めた。


 今は先輩騎士であり、エルメリア王国最強の騎士と謳われるグレイスとたまたま訓練場の入り口で一緒になり、そのまま話をしていた。

 どうやらグレイスはロアと地位的には同じらしく、それがより話しやすさを引き出していた。

 おかげで本来の話し方に近い言葉でしゃべることが出来て解放感にあふれている。

 

「ああ。私はあまり身分などは気にしない主義だからな。実力があるのなら取り立てればいいし、何よりクラウン様が御所望とあればほかの貴族共が止める道理はないからな。」


 若いながらもきっちりと自分の考えに基づいて動いているらしいグレイスは立派だと思った。


「そういうグレイスさんもかなりの実力を持っていると聞きました。いつか手合わせ願いたいのですが……」


 本心から最強である騎士と戦ってみたいと思っていた。昨日の模擬戦の相手である二人はあまりにも手ごたえがなかったため、この国の騎士団は相当もろいのではないか、と心配したのだが、実際にはもうアルフレッドのほうは年から衰えてきているし、ゴルベスはどちらかというと豊富に持ち合わせているスキルを扱う情報戦が得意だという。

 その代わりに名前が挙がったのがグレイスだ。実力、地位、評判とどれをとっても一流だと言う彼は騎士からも貴族からも絶大な支持を得ているようだ。


「いやたしかにロアの実力には興味あるが、私は仲間と戦うことはしない主義でね。模擬戦と言ってもだ。ほかの騎士と戦ったこともないからな」

「それは意外でした。騎士たちはもっと模擬戦などをよく行うのかと思っていたので」

「そんなことはないな、うちに騎士たちは基本的に鍛錬は個人で行っている。実践訓練は外に出てモンスター相手に行うことくらいだ」


 ロアの率直な感想はそれだ。騎士たちはお互いに模擬戦などを行うことでお互いを高めあっているものだと思っていたのだが、そうではないようだ。

 ではやはりあの二人の騎士の行動はイレギュラーなものだったのかもしれない。


「それに、だ。手を抜いてあの二人を無傷で退けるロアと私が本気になってやりあっても勝ち目はないだろうしな。クラスは《ナイト・ウォーカー》なのだろう? 神の加護を得た最上位のクラス相手ならなおさらだ」


 やはり神の加護を得た最上位のクラス、と言うのは早々いるものではないらしい。ゲームでも転職の試験が異常に難しく、暗殺者職にはなりやすくて同じ最高位の《シャドー》があったため《ナイト・ウォーカー》のクラスはロアだけだったのだが。

 ちなみに、《ナイト・ウォーカー》が加護を受けているのは死の神の加護だと言うことは黙っておいた。騎士たちや国王にも聞かれたのだが、さすがに死の神の加護を得た人間と言うのは不気味すぎるだろうから。


「それにしても暗殺者職ならあんな高位の闇系統魔法は扱えないはずだが、別で鍛錬もしていたのか?」


 高位の魔法、あの模擬戦で使ったのは威力を最小まで抑えた【シャドウフレア】と死の剣であるタナトスを人に向けるわけにもいかなかったために発動した【シャドー・イメージ】の二つのことをさすのだろう。

「そうですね。闇系統の魔法への適正が強かったので習得することができたのです」


 ゲームでは各キャラクターにランダムで各属性のうちひとつだけが適正としてどんな職業についても習得できるようにされていた。

 闇系統は非常にレアであまりいなかったらしい。


「どちらも第三位の闇系統魔法だ。よほどの修練をしたのだろうな」


 魔法は一位から十位までの十段階にその会得と使用の難易度を分けられている。

 たとえばグレイスの言うとおり【シャドウフレア】と【シャドー・イメージ】は闇系統第三位に位置する魔法で、【ブラックアイス】などは闇系統第八位に位置する魔法だ。

 確かに第三位以上は高等魔法とされ、会得難易度は格段に上がるし、魔法使いクラスでも会得で精一杯と言うものも多い。

 もっとも闇系統ならすべての魔法を使いこなせるロアにとっては第三位の魔法などごく普通の先頭手段なのだが。


「ところで、グレイスさんのクラスはなんなんですか?」


 ここまでずっとロアの事を聞かれていて、気になっていたグレイスのことをやっとのことで聞き始めた。


「【滅槍手(ランス・スレイヤー)】だよ。最高位じゃないけどたいしたものだよな」


 質問をした相手とは別の人間の声が答えてくれた。


「ゼノ……。ほんとにお前は神出鬼没だな。いるならいると言ってくれ」

「はいはい。お前はほんとに昔から変わらないな。別に部屋じゃあるまいしいるのもいないのも俺の自由だろう?」


 ボサボサの青い髪を触りながらグレイスに話しかけたのは親衛騎士を除く騎士の中で唯一どの団にも属していないゼノという騎士だった。


「【滅槍手(ランス・スレイヤー)】、もう最高位の一つ手前じゃないですか。」


 【滅槍手(ランス・スレイヤー)】は槍兵の中で二番目に高いクラスで、その上には【神殺槍(ロンギヌス)】と言うクラスがある。


「ああ。まぁグレイスは昔から努力家だったから、当然の結果と言えばそうだよな」


 ゼノはグレイスとは知り合いのようだ。とてもその不真面目さから騎士団から追放された騎士と第一騎士団団長に任命するような二人に接点はないように見えるのだが。


「お前が少しサボることが多かっただけだ。ほかの騎士だってそれなりの鍛錬をしていると言うのに、お前はサボる癖に高い能力を持っていて周りから疎まれたこと、忘れてはないんだろう?」

「はは、違いないな。でも今は自由に騎士がやれていいとは思ってるぜ? 一応陛下から命令はあるしな。それなりに仕事もあるから、回りがどうだろうと問題はないって」


 やはり全然かみ合ってないように見えるのだが、何か言葉には表れない信頼のようなものがロアには感じ取れた。


「二人は長い付き合いなんですか?」


 そんな質問が口に出たのは感じた結果だろう。二人は驚いた顔をしている。

 意外にも返事をしたのはグレイスのほうだった。


「ああ。私とゼノ、そして今は魔法局の局長を勤めているジオの三人で訓練生時代の小隊を組んでいた仲なんだ。今ではバラバラになっているが、仲自体は悪くないんだ」


 少し懐かしみを感じながらグレイスが語る。おそらくグレイスにとっては大事な人間なのだろう。


「そうそう。魔法局にこもりっきりになったジオに、第一騎士団団長になったグレイスに、騎士団を追放になった俺の三人がたまの休みに集まるなんてことがあるんだぜ? 変な話だろ? でも人間昔からの仲って言うのはなかなか離れられないものなんだよな」


 ゼノも楽しそうだ。


「ロア、君はまだ若いように見えるし、何よりクラウン様の親衛騎士にもなったのだ。一つ一つの出会いは大事だと言う教訓と思って覚えておいてくれ」


 とても騎士団長なんて地位には見えない優しい笑みを浮かべたグレイスはそう言ってくれた。

 確かにロアと言う人間は昔からあまり人との交流をしないタイプだった。当然友達と呼べる相手は少なかったし、親友なんて呼べる相手はいなかった。


 それ故になぜか今の話には惹かれることが多かったように思える。

 もしかしたら、これからこの世界で生きていくうえでそういう出会いもあるのかもしれないな、とロアは思った。


「ところでゼノはこんなところに何の用事だったんだ? あまり訓練場には寄り付かないのに」

「いや、用事があるのはお前にだ。この間庶民街に出たときに良い店見つけたんだ。今度ジオも誘ってどうかなーと思ってだな。まぁ、ジオにも伝えといてくれよ。俺は今から陛下に頼まれた仕事してくるわ」


 そう言って不良騎士と名高い自由な騎士は片手を上げて訓練場を去っていった。

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