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クロス・ロード  作者: lot
第一章:親衛騎士と見習い騎士
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第一部:サンセット

ここから明るく元気なほうの主人公の登場。堅苦いしくてぶっとび要素満載だったロアとは違ってこっちはごく普通の、ごく普通の少年・・・のつもり。

 フェミリア大陸に存在する大国、エルメリア王国。

 その王都であるエルメリア城下町の一般市民の生活する区域、庶民区の大市場から少し離れた静かな路地にその店はひっそりと存在した。

 このあたりにはあまり飲食店は存在していないのだが、一年ほど前に新しく出来たカフェ、《サンセット》はまだ幼い店主が豊富な種類の紅茶を提供する落ち着いた雰囲気の隠れ家的名店として一部の国民から人気があった。

 

 今日は隣国であるフラメル公国から使者が来る、ということで庶民区もアピールに必死になっていて、どこでもお祭りムードが繰り広げられているのだが、ここだけはいつもどおりの落ち着いた雰囲気を保っていた。

 客たちは店舗の準備や、町をアピールするための運動へ参加し、癒しを求めてこのカフェにやってきているのだ。


 今はまだ午後の三時、といったところでいつも賑わう時間ではないのだがそれでも六十席ほど用意してあった席はほぼ埋まっている。

 誰もが百種類近い種類用意されている紅茶の中からお気に入りのものを見つけてゆっくり過ぎる時間を楽しんでいた。




 そんな落ち着いた雰囲気を乱すようにあわてた様子の少年が一人店に入ってきた。

 違う空気を感知したのだろう。客は全員が少年のほうを向く。息を荒げ、明らかに一作業終えました、というような様子の少年はいつもの席であるカウンターの右端についた。


「つ……疲れた……。いくら使者が来て町の様子を観察する~なんて言われたからって出張店舗をどこも構えようとするなんて、どうかしてるだろ……。しかもほとんど力仕事を俺に押し付けるしよ……。あ、ティル、いつもと同じやつ頼む」

「それは大変だったね、って言ってあげたいところだけど、いつもと違ってこの時間はお客さんが多いんだから、そんな風に慌しく入ってくるからほかのお客さん、迷惑そうだよ?」


 この店のマスターであるティルにそう注意されては謝るしかないだろう。周りを見てみると本当に迷惑そうに顔をしかめている人が大半だったので軽く頭を下げておいた。


「やっぱりあの騒がしい雰囲気ってみんな嫌なんだなぁ……。ここは相変わらず落ち着いてるもんな」

「そうだね。僕も町のために一役買おうって言う気はないし、ここはそういうお店だから」


 そういってティルは少年らしい笑顔を見せる。温和な性格と童顔、長髪などが重なってよくティルは女の子だと間違われるのだが、れっきとした男の子だ。最近間違われるのが嫌で髪の毛を切ろうと思ってるらしいのだが、時間が取れなくて結局そのままにしているらしい。


「まぁ、そういうところがこの店が人気の理由なんだろうなー。俺も結構この店好きだし。というか毎日来てるけど」


 カイルはこの店がオープンしたときからの常連客の一人だ。そもそもティルとは幼馴染で、この店の二階にある部屋に一緒に住んでいたのだが、十五歳になった時に自分で部屋を借りて生活しだしたのだ。

 二人とも元々は孤児の出身で身寄りはなく、お互いに助け合って生きていくしか方法がなかったのだ。

 偶然空き家になっていたこの建物を返せなかったら身売りするという約束で売ってもらい、およそ六年が過ぎた。

 今はティルの開いたカフェの売上金によって全額返済することに成功し、なんとか身売りすることは避けれたのだ。


「あれ、今日はソフィアは来てないのか?」


 いまさらになって気づいたが、カイルの隣の席が空席だった。いつもはここに同じ孤児仲間だったソフィアという女の子が座っているのだが。


「ああ、ソフィアなら今日は教会のお手伝いが遅くまであるみたい。なんでもフラメル公国は信仰する宗派が同じだとかできっちり教会を整えないとだめなんだって。明日礼拝にくるらしいから」

「なんか、宗教って相変わらずめんどくさいな……」


 ソフィアは教会に住み込みしている見習いの修道女だ。幼いころから教会に通っていたのだが、十五歳になった時に修道女になることをずっとお世話になっていた神父に認められたのだ。

 その神父さんというのは三人が無茶を言って家を手に入れようとした際に保証人になってくれたとてもお世話になった人であり、カイルとティルが自立した今でも二週間に一度は顔を出すようにしているのだ。



 元々は一緒に暮らしていた三人だが、みんなが正規の仕事につける年になってばらばらになったのだが、それでも長い間一緒に暮らした仲間とは離れられず、結局このあたりに住んでは定期的にここで会うようになったのだ。

 このカウンター席はほとんどソフィアとカイルの指定席のようになっていて、仕事の愚痴や、くだらない世間話を咲かせている場でもある。


「遅くまで手伝いねぇ……。なんとも大変なことで。うーん、最近神父さんに顔を出しに行ってないしなぁ。後で手伝うついでに顔を出してくるかー」


 あまり男手のない教会だ。若くて力もあるカイルが手伝いに行くとなれば神父も大喜びだろう。


「はい、いつもの。僕も今日は早めにお店閉めないとだめだから後で様子見に行くよ」


 そういっていつもの特製ブレンドらしい紅茶を出してくれた。


「あー、やっぱうまいなー、これ。ティルが出してくれる紅茶飲んだらほかの店で飲めなくなるから困ったもんだ」


 それくらいティルの淹れる紅茶はおいしい。

 十二歳くらいのときに突然紅茶に目覚めたティルは紅茶の種類をたくさん集めてきたり、おいしいといわれる淹れ方をいろいろ試してみたりと、紅茶マニアと呼ばれるにふさわしい行動をとってきた。

 その行動が今のこの人気店の誕生につながったわけだ。

 このお店の落ち着いた雰囲気と若いマスターであるティルの用意する豊富でおいしい紅茶が常連客をたくさん呼ぶ原因となっている。

 実際にカイルは紅茶が苦手なほうなのだが、彼の入れた紅茶だけは好んで飲む。それくらいに絶妙な味なのだ。

 

 本人が言うには渋すぎず、紅茶本来の香りと風味を損なわないように淹れているらしいのだが、それを教えてくれることはない。商売道具となった今では当たり前なのだが。


 とにかくティルが紅茶にかける情熱は本物で、温度管理のために氷や火の系統の魔法を学ぶほどだった。

 なぜか魔法を学ぶことでも類まれな才能を発揮したティルはたちまち氷や火の系統の魔道書を読破した。

 カイルはあまり魔法に造詣が深いほうではないのだがそれでもティルの魔法のセンスはすごいものだと思っている。本人はあまり表立って使いだがらないが。


 一度冒険と称してフラメル公国と反対側の隣国との国境にある雪山へと三人で挑んだことがあったが、そこでの戦いでも実際にティルの魔法と、教会にいたことで学んだ治癒魔法の扱えるソフィアの存在は大きかった。反して自分は接近戦を挑んで二人に援護してもらうだけだった覚えがある。

 結果として雪山の踏破はいたらず、吹雪いて来たしモンスターも強いから帰ろう、と帰って神父さんにこっぴどく怒られたのもいい思い出だと思っている。


「さて、そろそろ手伝いに行ってくるかな」


 いろいろと思い出しているうちに紅茶を飲み終えたカイルは席を立ち隣に置いた荷物袋を取って外へ出ようとする。


「……カイル? 毎回だけど営業時間中に来たときはちゃんとお金を払う約束だよね?」


 堂々と食い逃げならぬ飲み逃げをしようとしたのだが、満面の笑みで手を出している幼馴染に食い止められてしまった。


「わかってるよ……。はい、御代。じゃぁまた後でなー」


 しっかりお金を払わされ、カイルは馴染みの場所を後にした。

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