第二部:王宮へ
圧倒的すぎる戦いを終え、後ろにいた兵士達の様子を伺うために後ろに振り返る。
下手をすればモンスター以上の化け物とみなされたかもしれない、そう思うと兵士達の表情に現れているだろうからだ。
見てみると、兵士は王女を後ろに下げ、手にした槍をこちらに向けている。
怖がられているとは考えたが、まさか警戒されるとは思っていなかったが、よくみるとまだ剣を握っていることを思い出した。
モンスターを瞬殺した人間が武器を握ったままこちらに向けば当然警戒するか、と血すらついていない黒い剣を鞘に納めた。
やはり武器を納めるというのは効果があったようだ。魔法も使えるとはいえ敵意がない事は示せたのか、兵士も構えた槍は納めてくれた。
「危ないところを助けていただき、ありがとうごさいます」
意外な事に一番最初に礼を述べたのは後ろに下がっていた少女だった。
城の庭園である森に現れた人間なのだからもう少し警戒して兵士辺りに事情を聞かれると思っていたのだが。
「いえ、この森に飛ばされて迷っていたところ、モンスターの気配を感じたもので。間に合ったようでよかったです」
「飛ばされた、ですか?」
「ええ。ガディア大陸にある迷宮に挑んでいたのですが、どうやら時空転移系のトラップにかかったようで。雰囲気やキマイラが生息している所を考えるとフェミリア大陸だと推測したので、よほど遠いところまで飛ばされたのかと考えているところです」
人とまともに話したのなんて何週間ぶりかもわからないというのに、聞かれていない事まで話すほど饒舌になっていた。
元々話すのは苦手な方だったのだが。
「色々と事情がおありのようですね。ここは仰る通りフェミリア大陸、エルメリア王城の裏に位置する森です。警備も厳しいですし、どうして人がいるのかと思ったのですが、何と無く理解致しました」
かなり兵士たちは怪訝そうな顔をしているが、それでもこちらに敵意がないのは感じ取っているようではあった。
とりあえずここがどこであるか把握できただけでも収穫だっと言えるだろう。
「なるほど、ここは王城の領域ないだったのですね。無自覚だったとはいえそのような場所への侵入、誠に失礼いたしました」
恐らく王族なのだろう少女に最敬礼で謝罪しておく。
しかしそれをみた少女は逆に申し訳なさそうな顔で
「いえ、危ないところを助けていただいたのです。その程度の問題など放免になるでしょう。申し遅れましたが、私はエルメリア王国第二王女、クラウン=フォン=エルメリアと申します。よければ貴方の名前も教えていただけないでしょうか」
やはり王族だったクラウンと名乗った少女柔らかい笑顔を浮かべている。
そこに先ほどまでの警戒心は見受けられず、感謝の念で一杯だと感じた。
何はともあれ一国の王女が名乗っているというのに名乗り返さないというのは無礼に当たるだろう。
とりあえず名乗る事にした。
「こちらこそ申し遅れました。ロア・ヴァムアスと言うものです」
再び頭を軽く下げ、こちらの敬意を示したつもりだ。
隣にいた侍女らしき女性はようやく警戒をといたのか、歩み寄ってきた。
「ロア様、我らが王女様の危機を救っていただきありがとうございます。私はクラウン様従属の侍女をさせていただいているアリアと言うものです」
恐らく自分より少し年齢が上だろう。
しかしエリートらしさが漂う風格は流石王女付きと言うだけの事はある。
「ロア様は私たちの命を救ってくださった恩人です。つきましては王城の方へ招いて正式なお礼をしたい、と思ったのですか、いかがでしようか?」
そろそろ帰り道を聞こうと思った矢先の申し出だった。
正直これにはかなりおどろいた。
どこの人間かも分からなければここに来た理由もよく分からないものだと言うのに王城へ招くと言ったのだ。
「私はただのしがない冒険者です。光栄なお誘いではありますが、王城へ招かれるような立場の人間ではありません」
本心からの言葉だったのだが、なぜかアリアもクラウンも「ご謙遜を」と笑みをこぼしていた。
「命を救ってくださった方をもてなさないと言うのは王族としてあるまじき行動です。エルメリアの国では恩を返さぬのは一生の罪、と言う言葉もあるほどです。父も歓迎して下さるでしょうし、どうかお受けいただけないでしょうか?」
そこまで言われて断ると言うのは流石に失礼だろう、と思い今度は首を縦に振って承諾する事にした。
これで森は抜けれるだろうし、もしかしたらこの世界について様々な話を聞けるかもしれない。
遠慮したい気持ちの方が大きかったのだが、ここまで来たら仕方ない、と観念する事にした。
森を抜けておよそ三十分後、ロアは謁見の間で片膝を付き、エルメリア王国の国王と面会していた。
周りには恐らく王族だろう人間達と、王宮付きの騎士が数人怪訝そうな顔でロアの事を見ている。
当然とは言えば当然だ。突然命の恩人だと言って王女がどこの誰かも分からない人間を城に通したのだ。怪しく思わないほうがおかしい。
しかし、国王はそうは思っていないようだった。
「そなたは我が娘を助けたそうだな。私からも礼を言おう」
頭を下げたままなので表情は読めなかったが、警戒している様子ではないと言う事は声からでも理解する事が出来た。
だが、やはり聞かれるだろうと思っていた質問はやって来た。
「一つ尋ねたい事があるのだが、そなたはガディア大陸の迷宮から飛ばされたと娘から聞いたのだが、これは真か?」
質問がされた瞬間、ロアはスキルの発動を感知した。
恐らくは質問に答えた人間が嘘をついているか、本当の事を言っているかを判断するスキルだろう。一度受けたことがある。
そのスキルの発動で数人の騎士がいる理由を理解した。王がこんなスキルを習得しているはずがないのだから、この質問のためにスキルを扱える騎士が呼ばれたのだろう。
「はい。その通りでございます」
だが、その質問なら嘘偽りなく肯定できる。
王と騎士が目配せしたのをロアは見逃さなかったが、問題ないと判断されたのだろう。
「ふむ…ガディアの迷宮となるとかなりの熟練者と見受けるが、そなたのクラスはなんなのだ?兵士から闇属性の魔法とかなりの剣術でキマイラを無傷で倒したと聞いたのだが」
キマイラを無傷で倒した、と言う言葉に周りが動揺している。騎士ですら驚いているようだ。
それに加え闇属性の魔法を使用したと告げられたのだ。
闇属性の魔法は適性のあるクラスがほとんど存在しない。だからこそロアのクラスを尋ねたのだ。
「私のクラスは《ナイト・ウォーカー》でございます。陛下」
それだけで周りから驚きの声が上がる。
王もロアが嘘を言っていない事を確認すると表情に驚きが生まれた。
「ナイト・ウォーカー、最高位職ではないか……ではそなたは神の加護を受けたと言うのか……?」
あのゲームでも最高位職へはクエストをこなして転職するものだった。
その過程で強敵を倒し、最後にはそのクラスを司る神の加護を得て転職する事ができると言うものだった。
その設定はこの世界ではほとんど変わらないのだろう。
ちなみに、暗殺者クラスは死の神であるデスの加護を受けるためあまり印象は良くないのだが。
「はい。その通りでございます」
流石にこれには本心から驚いたようで、なんと…と声を漏らしていた。
ロアのクラスを聞いて、何やら思案している顔だったが、はっとして言葉を続ける。
「本来ならばこの場で娘を助けたと言う功績を讃えて恩賞を与えるところなのだが、突然の事で何も用意が出来ておらんのだ。誠に申し訳ないのだが、恩賞は後日与えるゆえしばらく王宮で過ごしてもらいたいのだ。迷宮から転移したとあれば宿もないであろう。盛大にもてなす故、存分にくつろぐがよい」
どうやら恩賞は受け取らなければならないようだ。
確かに宿がないのでこの申し出は甘んじて受ける事にしよう。
こうして王宮に謎の冒険者が泊まることになると言う異例の事態が発生した。