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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第一章 ア・ボルト・フロム・ザ・ブルー 異変
8/41

第七話 クラッシュ 粉砕

 短いですけど、連続投稿。

 これで今月の更新はおしまいです。

 来月からは、他の小説も更新しつつ、ゆっくり更新していきます。

「――――小娘ガ」



 兵隊人形エキトン・ドールがそう呟くと、同時に同じ存在がコゲツを囲むように、合わせて一六体現れた。

 金属音がして、エキトン・ドールの腹から其々の得物が飛び出し、握られる。



「………………あー、鬱陶しい……………」



 命を持たない兵隊から殺気を浴びせられ、コゲツはため息をついた。

 瞬間。


 エキトン・ドールが、全員細切れにされた。

 頭、胴、腕、脚に切断カットされ、崩れ落ちる。そして、それをさらに切り刻む。


 同時にコゲツに向かい剣を高々と上げたゴリアテも、真っ二つにされる。正確には、尻尾を振った時に放たれた、水の刃によって切断されたのだが。



「――――!?」



 張り詰める空気。コゲツはくるりと振り返り、木の影を見つめた。

 そして、尻尾を伸ばした。

 超高速で。


 何てことはない。

 コゲツは唯、尻尾を振っただけなのだ。瞬時に変化を解き、尻尾を振った。それだけだ。



「――――ぐ、あああああああああああああッ!!!」



 連続した打撃音。それはまるで、マシンガンが発射されたような音だった。轟音。

 着込んでいた鎧は、まるでビスケットに手刀を振りおろしたかのように、あっけなく砕け散り、残骸が周囲に転がった。

 硬い尻尾で連続で身体を殴打され、隠れていた人形師ドール・マスターは、血を吐き散らしながら崩れ落ち――――なかった。


 其の儘尻尾が薙ぎ払われた。ドール・マスターの胴周りよりも遥かに太い尻尾の一撃は、ドール・マスターの身体を「く」の字に折らせ、吹き飛ばした。



「……調子に乗るなよ、薄汚いゴミ屑が」



 コゲツは低い声で、おどろおどろしい殺意が籠った紅い瞳で、射殺さんばかりにドール・マスターを睨みつける。はるか遠くまで吹き飛んだその男は、コゲツの人間とは比較にならない程に優れた視力によって、簡単に捕捉された。


 真っ二つにされたゴリアテがゆっくりと崩れ、地鳴りが響く。

 あまり派手にやるにも禁じられているし、基本的には正体を晒すのも禁じられている。が、コゲツの優れた感知網は、周囲に誰も、監視の目もないことは把握済みだ。


 コゲツは男を睨み、歯を食い縛る。奥歯が砕け、唇から鮮血の筋が垂れ、紅い瞳にさらに憎悪が籠る。



「我が君専用のぼくの身体を集団で視姦するなんて、何処の変態だ、ぁあ? 勢い余って殺しかけちまったじゃねェか。巫山戯ふざけんなよ、テメェ殺して重要な情報を入手し損ねたら、我が君に優しくハグしてもらえなくなるだろうが!!

 屑が調子に乗りやがって! 計画が、ぼくの計画が、我が君に抱き締められて、キスしてもらって、身体中舐めまわしてもらうための計画が、パァになるところだったじゃねェか!!!」



 叫びと同時に、強烈な水の波導が周囲を襲った。

 野営地を明るく照らしていた炎はたちまち消え、雨雲が発達し、ゴロゴロと雷が響き渡り、ポツリ、ポツリと雨が降り始めた。


 コゲツの持つ固有能力の一つ、“雨の加護”。雨が降った場合、彼女の戦闘能力は飛躍的に上昇する。その発動条件とは――――激しい怒り。


 『CC』においては、主人が危険に陥った際に発動する能力なのだが、この世界では文字通りの意味で、コゲツの怒りを発動条件にしていた。



「…………あー、ったく、巫山戯てんじゃねェよ、ほんっとによぉ……」



 徐々に豪雨に変わっていく。その雨を浴びながら、コゲツはパチン、と指を鳴らした。

 瞬時に雨水が集まり、水の糸と杭となって、空中にドール・マスターの身体を磔にしていく。

 無理矢理立たされ、身体を大の字にしたまま固定されたドール・マスターは、口から血を流し、気絶していた。



「……おい、起きろ」



 一回。コゲツはドール・マスターの元にゆっくり這い、尻尾を彼の頬に叩き付けた。閃光と破裂音。頬の肉が削がれ、周囲に血と肉片が飛び散り、ドール・マスターの意識を覚醒させる。

 そして、虚ろな瞳がコゲツを見た。



「何見てんだ、テメェ」



 二回。少しでも本気を出し、首を飛ばさぬよう真剣に力加減しながら、コゲツはさらに頬に尻尾のビンタを入れた。炸裂音と首が捩れる音と共に、また血肉が周囲に飛び散った。

 今度は辛うじて残っていた三本の歯が全て折れ、周囲に落ちた。それ以外の歯は、先程の連撃で全て折られていた。



「……ッチ…………」



 コゲツはドール・マスターの身体を見て、舌を打った。肋骨が殆ど折れている。あとで、じっくりと折っていくつもりだったというのに。

 歯も全部折ってしまっては、喋りにくくなるではないか。

 久しぶりの対人戦闘で、加減を間違えたか。


 仕方がない。

 コゲツはドール・マスターの顔に、ふっと息を吹きかけた。


 “幻術魔法ファンタジア夢幻の理想郷(フェタ・モルガナ)”。


 此の魔法はコゲツが得意とする幻術魔法の一つであり、相手の欲望を満たし、理想を叶える空間を幻として見える、というものである。本来は動きを封じたり戦闘意欲を無くすための魔法なのだが、この「満たされている」状態では、大抵の質問には正直に応えてくれるのだ。

 おまけに、「満たされている」ので痛みも感じない。


 コゲツとしては、カーキを侮辱した屑が快楽のあまりよだれを垂らしている光景など、見ていても不快感と吐き気しか沸いてこないので、なるべく使いたくないのだ。痛みを感じなくなる、というのもマイナスである。


 コゲツが聞きだすと、ドール・マスターは痛みを感じないからか、それなりに聞き取りやすい声で返した。



「お前は誰だ?」


「アロイス=エディンソン」


「所属は?」


「北軍赤い土(レッド・アース)


「北軍とは? 赤い土(レッド・アース)とは?」


「北軍は旧ウェルドリア諸侯連合を構成していた四三の諸侯領のうち、北部を中心とした二五の諸侯領で構成された軍。赤い土(レッド・アース)は、北軍の有力諸侯の軍より選抜された特殊作戦部隊」


「その任務は?」


赤い土(レッド・アース)は一人一人が選抜された優秀な兵士であり、主に単騎で敵兵力殲滅・潜入・破壊工作・対敵精鋭部隊戦・暗殺などを行う」


「お前が受けている任務は?」


「南軍の野営地の破壊、敵駐屯兵の殲滅」


「南軍は北軍と戦争をしているのか?」


「そう、南軍は南部の一八の諸侯領より構成されている」


「……そうか、では――――」






 それから約三時間、コゲツの“尋問”は続いた。

 その頃にはコゲツも冷静さを取り戻し、何時もの口調に戻っていた。



「……うん、大体聞いたかな。有難う、エディンソン」



 満足そうに頷くと、コゲツはパチン、と指を鳴らした。

 幻術が解ける。



「―――――ぐ、ああああああああッ!!!?」



 それにより、痛みが復活した。いや、前よりも悪化していた。

 何故なら――――コゲツはエディンソンが質問に応える度に、彼の骨を一本ずつ折り、皮を破り、肉を裂き、筋繊維を千切り、関節を外していたからだ。



「あ、ぐ、あ……あ!! なん、く……そ、い、い……でぇえ!! くそ……があ!!!!」



 突如襲った激痛に、エディンソンは叫ぶ。が、歯が全部折れており、しかも全身を激痛が襲っているため、うまく言葉が出てこない。オマケに口を開ける度に、口から紅い血が溢れ出た。


 それを冷酷な目で見つめ、コゲツは薄く笑う。



「……五月蠅いよ」



 瞬間、先程とはケタ違いのスピードで、往復尻尾ビンタが放たれた。ガトリング・ガンを掃射しているときのような鋭い音が響き渡り、すでにボロボロとなった顔の原形を無くしていく。往復でビンタされているため、意識が飛ぶこともない。拷問相手の気絶を許す程、コゲツは甘い存在ではない。


 三分程続けられたビンタが終わった後、エディンソンの顔は今までの三倍以上は膨れ上がり、顔色も毒々しい紫色に変わっていた。腫れあがった顔は、目も、鼻も、口も何処か分からない有様だ。

 スイカのように丸く、腫れあがったエディンソンの顔を見て、コゲツは盛大に冷笑を浮かべ、態とらしく肩をすくめた。



「喋ることは喋ったんだし、もうお前が言葉を言う必要なんてないんだよ。そんな口は……いらないだろう?」



 鋭い音と共に、尻尾が鋭い勢いでエディソンの顎の肉を削ぎ落とした。最早悲鳴を上げることもできないエディンソンは、されるままにするしかない。



「我が君を侮辱した口は、潰さないといけないね。……いや……」



 コゲツは冷笑を止めると、考え込むような表情で、相変わらず雨を降らし続けている雲を見上げた。

 雨がまだ降っている。……それは、彼女の激情が、消えたのではなく内面に引っ込んだだけということを意味していた。……つまり、彼女の怒りは、まだ鎮火していない。



「折角だ。身体ごと全部、粉々になるまで潰してあげよう。……ゴミ屑に相応しい姿にしてあげようじゃあないか」



 コゲツがそういうと、宙に磔にされていたエディンソンの身体が落ちた。

 動きたくとも動けないそれに、コゲツはゆっくりと蛇の足と胴を絡ませる。



「喜んだらどうだい? お前には、本来なら我が君専用である、ぼくのハグを与えてあげよう。まぁ、もっとも相手が我が君の場合は、こんな風に――――身体がグッシャグシャになるまで折ったりしないのだけどね?」



 蛇体に締めあげられ、エディンソンの身体は少しずつ、折れている部分を含め、さらに折られていく。

 それは例えるなら人間が、アルミ缶をリサイクルするために潰すような行為。

 廃車をスクラップにするような行為。

 すでに拷問ですらなく――――処理と化しているのだ。


 暫く太い蛇体で締め、折り続けて、コゲツはそれを離す。

 それは最早、人間だったころの面影など無い。後頭部と踵――――正確には靴の裏だが――――がくっつき、骨がいたる所から飛び出し、全身から血が流れている。まさに、血塗れの残骸スクラップと化していた。

 当然すでに、エディンソンの息はない。



「……あははっ。ゴミ屑に相応しい、憐れな最期だな」



 愛する主人を侮辱した憎むべき対象を見下し、嘲笑しながらコゲツは周囲の雨粒を集め、汚れてしまった蛇体を丁寧に洗っていく。

 その一方、使っていない腕を振ると、雨水が集まり、巨大な水のハンマーが完成する。



「さて。宣告通り、お前は粉々になって死ぬ。恨むのなら、我が君を侮辱したお前自身を恨むんだね。侮辱さえしなければ、脳味噌を抜き取った上で楽に死なせてあげたのに」


 そして、ハンマーは振りおろされる。












 コゲツはやろうと思えば相手の記憶を読み取ることも可能ですが、生理的嫌悪感が凄いので、あまり使いたがりません。よって、普通に尋問です。


 御意見御感想宜しくお願いします。

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