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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第一章 ア・ボルト・フロム・ザ・ブルー 異変
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第四話 ライン・オブ・バトルシップ 天恵

 取り敢えず、先日の深夜に書けた分も投稿しておきます。意外と反響が多かったので。


 タイトルの「ライン・オブ・バトルシップ」の意味は其の儘「戦列艦」です。

「―――――おいおい、此れはちょっと予想外だぞ」



 マナから直接聞いた報告に、僕は思わず笑いそうになった。

 まさか、海が広がっていようとは。予想外というか、想定外すぎる。いや、此の状況こそまさに想定外か。


 此れで、此処がゲームの世界ではない何処かの世界だという可能性が濃厚になった。いや、ほぼ確実だ。

 先程試してみたが、此処では食事も睡眠も排便もできた(・・・)。食事をとれば腹が膨れたし、睡眠をとれば現実と同じように目覚めを迎えた。トイレだって行けた。

……使わないのを分かっていながら、トイレを設置しておいて正解だった。こんな時、自分の凝り性に感謝したくなる。いや、出来れば感謝したくなる場面なんて、来てほしくなかったけども。


 問題は、「此の世界はどんな世界か」だ。現実世界のようにエルフのエの字もない世界だった場合、僕は街中を歩くだけで軍隊か警察か保安官か何かにとっつかまり、ヘタすれば解剖される。


 逆に、人がいない世界だったらどうか。だとしたら、此の世界は誰が支配者なのか。SFみたいに恐竜が進化した“恐竜人”みたいな連中がいるのか、それとも別の種族なのか。


 或いは人類が生まれる前とか、滅んだ後の世界とか。

 前にテレビで、人が滅んだ後に生まれてくる生物の予測を見たことがある。良く覚えていないけど、なんか莫迦でっかい海月くらげみたいなのがいた気がする。そんなのが闊歩している世界、しかも現実(・・)だなんて、心臓に悪い。


 なんか、その辺りの推測は頭に浮かべるだけで、想像力が悲鳴をあげてしまう。普段なら「阿呆らしい」の一言で済むわけだけど、此処まで来ると、もうSFじみた予想の方が現実味を増してくる。

 あぁ、こんがらがってきた。


 此処の人型の生物は何もいない、とかの予測は、ちょっとネガティブすぎる。

 人間、最悪の事について想定しておくべきだろうけど、同時に、最悪の事なんて想像したくもないものだ。

 なんて言い訳を考えながら、取り敢えず、此処がヒトとかエルフとかがいる世界だと仮定しよう。


 では、どんな世界か?


 さっき考えたように、人しかいない、モンスターも魔法も何もない現実――――失敬、僕が前にいた現実(・・・・・・・・)、即ち地球に酷似した世界、というより、そのものだった場合。

 極めてマズイ。鏡で見る限り僕はエルフのままだし、さっき試してみたけど魔法も使えた。

 NPCも、ほぼモンスターで構成されている。

 此れは、あまり考えたくない、当たってほしくない仮説だ。


 とは言え、確か『CC』の舞台設定では、神が大地を創造し、人々や生物が生きていくために魔法を生み出したということになっている。そして神の加護が続く限り、魔法の力は衰えない。

 もしここが地球の場合、設定の前提が壊れてしまう。そもそも此処が地球なら、魔法がそのまま使えるのがおかしい。神の加護が地球まで届いている、というのも無理がある。


 それに地球に、「無数の竜巻が周囲を覆っている無人島」なんて島があるとは、ちょっと思えない。


 だから、此の可能性は低いと信じたい。


 次。此処がVRMMO『CC』の世界が現実化(・・・)した世界の場合。

 これはまぁ、少しあり得る。クロノスの出入り口が街から海になったところで、全く別の世界に来た、と決めつけるのは早計だ。

 あくまで場所が違っただけで、若しかしたら『CC』世界の何処かなのかもしれない。現実化した拍子に、出入り口の場所がずれたとか。


 もっとも、僕は『CC』を始めて五年以上。『CC』の世界の中はある程度廻った。ていうか、網羅した。そうしないと、アイテムや鉱石を集め切れないからだ。

 そして僕が出向いた場所は、全て記録されており、其れは部下のNPCにも反映される。だから、マナが「何処か分からない島の近くの海上」と報告してくるのがおかしい。

 僕自身も島の様子を確認したけど、見覚えのない島だった。ていうか、こんな「ラスボス若しくは悪の幹部がいます」的な雰囲気を醸し出している海域に囲まれた島、嫌でも記憶に残るし、ゲーム内でも噂になるだろう。


 勿論、件の島が今まで秘匿されてきた隠しエリアというケースも考えられる。でも、そんな隠しエリアが、人工物の一つもない「THE 無人島」という雰囲気の自然オンリーな場所というのは、ちょっと考えにくい。


 そして最後。『CC』世界でも、地球でも地球によく似た世界でもなく、魔法が使えるファンタジーな異世界の場合。

 現状での僕の予測は、此れだ。

 一番可能性が高いのは、「『CC』と魔法などの設定が酷似しているが、別の世界」となる。此の場合、『CC』の魔法が普通に使えることと、全く見たことも聞いたこともない未知の土地に(クロノスの出入り口が)飛ばされたことの二つの事象について、ある程度納得できる。






 では、此処が「『CC』と魔法などの設定が酷似しているが、別の世界」と仮定したうえで、だ。

 此処は、はたして僕にとって住みやすい世界なのか、を考えてみよう。


 『CC』ではヒトやエルフ、ドワーフなどの様々な種族が、互いに共存しつつ生きていた。適応している環境の違いから、ヒトの街、エルフの街という風に分かれていることもあるけど、対立はなかった。寧ろ、様々な種族が雑多な感じで暮らす街の方が多かった。


 でも、もし此の世界において僕――――エルフが疫病の如く恐れられていて、魔女狩りならぬ“エルフ狩り”が行われているような世界ならば、仮に人が住む街を発見しても、いきなり拘束されてそのまま火刑、何てことになりかねない。

 それは勘弁願いたい。僕にはかのジャンヌ=ダルクのように、火刑の前でも燦然と輝ける崇高な精神など持ち合わせていないのだ。


 或いは、モンスターが蛇蝎の如く嫌われている世界だったら。

 『CC』には敵モンスターも当然いるけど、職業に関係なくモンスターを育成できるペットシステムがあったし、商いをする者たちは、重い商品の運搬に馬だけじゃあなく、モンスターを利用していた。


 でも、此の世界はどうだろうか。モンスターであることを、部下達に秘匿させた方が良いのだろうか。

 モンスター一体で街一つ滅ぼす事も不可能じゃあないだろうから(勿論『CC』ではそんなことはできないけど、イベントでモンスターが街を滅ぼしにやってくるということはある)、モンスターを恐れるのはひどく自然な話で、デリケートな問題だ。圧倒的な力を持つモノを恐れ、追い出そうとするのは当然のことと言える。


 いくら僕が、「彼らは僕の命令がない限りは人を襲いません」と言ったところで、「じゃあお前が命令すれば襲うんじゃあねェか」となるのがオチだ。そんな人たちの前にモンスターを連れ出した暁には、恐怖がメーターを振り切って敵意に変わる、つまり襲いかかられてくるかもしれない。

 そうなると、流石に僕もある程度の反撃はせざるを得なくなり、結果、街一つ滅ぼした――――何てことになりかねないし、そんな悲劇を呼び寄せるなんて、冗談じゃあない。


 しかしだからと言って、此処で一生引き籠る、というのもあんまり選びたくない。

 『CC』の設定では、エルフは数百年から数千年は生きると言われていた。此処が現実ならば(・・・・・・・・)、当然僕もエルフの身体で(・・・・・・・)老化していくだろう。しかし、その間、食料・水の問題はほぼ無限に供給されていくシステムを構築してあるから、何とかなるとは思う。


 しかし、不測の事態が起こらないとも限らないし、仮に僕があと数百年生きると仮定して、そんなにずっとクロノスで暮らす、というのは流石に気が滅入りそうだ。


 兎も角、部下達には正体の秘匿を厳にするよう命じる方が得策だろう。ついでに、僕もそうするか。

 自身の正体を分からなくさせる、或いは自身の正体を人間に見せる魔法やアイテムは、存在する。でも、そんなに数は多くなかったはずだから、ヒイロに言って量産を命じておこう。


 やっぱり、無意味じゃないかと自分でもツッコミを入れたくなる程、資源を蓄えといて正解だった。


 そして、外にあるという島。あと、軍艦。

 もしその島が何処かの国に属しているのだとしたら、転移先を変更しなければならないのかもしれない。


 何しろ、その国の為政者からすれば、突然自国領の島に謎の軍団が出現する、という異常事態になりかねない。マトモな頭を持つ為政者ならば、対策をとるだろう。

 すなわち、交渉して自国にGAを組み込むか、或いは問答無用で追いだす――――それとも、殲滅しようとするか。或いは、無理矢理隷属させるか。


 此の世界の価値観や基準が分からない以上、不用意に何処かの国に所属する、というのは避けたい。

 仮に、GAが此の世界において最強レヴェルの存在だとしたら、GAという強大な手駒を手に入れた国は、フルに使って他国を抑圧したり、侵略するようなことになるかもしれない。


 個人的には、此の世界のパワーバランスに足を突っ込み、多くの悲劇を誘発させるのは、避けたいところだ。異分子がいきなり殴り込んでも、多分碌なことにならない。


 それに、国の庇護下に入る代償だとしても、聞いたこともない国のために戦うというのもイヤだ。最悪、使い捨ての駒にされかねない。

 そもそもGAは設立するのが目的であって、其れで実際に戦争に参加する云々なんて考えたこともなかったし、誰かを殺す、なんて考えたくもない。

 それに、此処ではゲームと違って“死”の概念があってもおかしくはない。


 ゲームなら、僕自体が死亡し(オチ)てもアイテムやお金が消えるだけで復活できるし、NPCのモンスターも僕との魔力供給が続いている限り、死んでも(数日くらいかかるけど)復活するし、復活用のアイテムだって存在する(言うまでもなく、在庫も材料もたっぷりある。其れこそ、何回か軍団ごと全滅してもどうにかなるくらい)。


 でも、此の世界はどうか。モンスター、そして僕が死んだ場合、どうなるのか。勿論、試す気にはなれない。

 僕は死にたくないし、部下を失うのだってまっぴらごめんだ。戦いに参加すれば、そのリスクは自ずと増える。だったら、此処でずっと引き籠っていた方がマシかもしれない。


 いや、そもそも言葉や文字は通じるのだろうか?


 出来れば地球に帰りたいけど(勿論人間の姿で)、一先ず情報を集めなきゃいけないってのに、言語や文字が分からなかったらもうOUTだ。



「……いや、その辺りは、此の世界に人の存在、国家の存在を確認してから考えるべきだなぁ。

こういうのを、“取らぬ狸の皮算用”って言うんだっけ?……少し違うか」



 頭をリセットするために、敢えて大声で馬鹿馬鹿しい独り言を言いつつ、僕はマナから貰った軍艦の写し絵(写真の事。撮影魔法カット・ビューで撮ったのだろう。手持ちの紙に使用者の視界そのままを写す魔法だ)を見つめた。






「……確かに……軍艦だなぁ」



 件の軍艦は、もう映画かゲームくらいでしかお目にかかれない船、帆船だった。

 帆船の基準なんか知らないけど、結構な巨艦だ。マストは三本。横から見た図には、確かに大砲が幾つも見える。如何やら砲列甲板が三段あるらしく、ズラリと並んだ大砲、正確には砲口が連れなっている段が三段もある。

 当然、反対側もこうなっていると考えてよいだろうから、恐らく一〇〇門以上の砲は搭載しているだろう。


 前にトラファルガー沖の海戦をテーマにした映画を見たことがあるが、その時に登場した軍艦に似ていた。



「……そうだ、確か、“戦列艦”っていうんだっけ」



 記憶を呼び起こす。

 思い出してきた。戦列艦というのは、たくさんの大砲を装備した三本マストの大型帆船のことだ。


 そうだ、確かホレーショ=ネルソン提督が乗り込んでいた『ヴィクトリー号』という戦列艦が、一〇四門の砲を搭載していたはずだ。

 ということは、此の帆船は『ヴィクトリー号』クラスの軍艦ということだろうか?


 生憎、僕は軍艦の写真を見ただけで、その船の排水量が分かるほど詳しくないし、そもそも『ヴィクトリー号』の排水量も知らない。


 件の“戦列艦”――――取り敢えず、こう呼ぶことにしよう――――は、奇妙なことに如何やら無人らしい。まさか、あの外見でロボットが操作している無人戦闘艦、何てことはないだろうし、魔法で動かしている気配もない。


 ていうか、そもそも動いていない。完全に漂流しているらしい。



「『マリー・セレスト号』みたいだな」



 僕は、思わずそう呟いた。

 『マリー・セレスト号』。乗務員だけが忽然と姿を消し、船だげが発見された事で有名な船だ。食料も水も残され、確か、航海日誌が「我が妻マリーが」の記述で終わっていた、という話を聞いたことがある。その真相は、いまだわかっていないという。


 一〇〇門以上の砲を搭載した軍艦の乗務員が全員行方不明だなんて、幾らなんでも――――いや、僕の状況の方が何億倍もあり得ないな。


 妙に納得しつつ、僕はその軍艦の探索を、マナに命じるのだった。






 後の話だけど、ある意味、此のもぬけの殻の戦列艦が、僕達にとって最大の幸運であったことを、僕は知ることになる。






 個人的には近代軍艦の方が好みですが、帆船もかっこいいですねー。

 トラファルガー沖海戦とか、この辺りの時代についての兵器とかはあんまり詳しくないです。

 鎧を着込んだ兵士と戦列艦っておかしいだろと思うかもしれませんが、そういう世界だと思ってください。

……いや、おかしいのかどうかも自分はよくわからないのですが。


 御意見御感想宜しくお願いします。



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