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混沌より出ずる軍団  作者: 皐月二八
第四章 アーミー・コープス・ホリデー 整備
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第三九話 マヌーバー 策略

 お久しぶりです。仕事とか風邪とかで最近執筆できませんでした。

 兎にも角にも、ルカさんが作戦を話していきます。

「確認するまでもないことですが、そもそも一国家、或いは複数の国家――――兎も角、“国家”という人間の地域的統治機構を相手にしたことは、現状では未知のことです」



 ルカはおもむろに小首を傾げながら、そう続けた。



「……今まで、ボクたちが戦ってきた最大規模の集団って……」


「アレじゃなかったか? ホラ、“レメゲトン”とかいう奴ら……」


「いや、アレ悪魔デビルだの悪霊ジンだのだったろ、二万くらいの。人間じゃないからノーカン。ついでに此方には、総帥閣下の協力者の方々もいたしさ」


「じゃあ、あれは? この前決闘をした、前いた世界最大のギルド――――」


「あぁ、“富士山を愛でる会フジヤマ・ガーディアンズ”だったっけ?」


「あれは苦しい戦いだったな。最終的には第四総督が敵の首領ドンの喉笛を噛み千切って終わったんだっけ? あの首領ドン蒼山ブルーマウンテンって男、マジ強かったな。前いた世界最強の剣士ソードマンだって話、後で聞いたぜ?」


「いや、お前その前に蜂の巣になって死亡アウトしたから知らんだろうが、その前にノフレテーテさんが……」


「ハイハイ、取り敢えず黙っときなよ」


 パンパンとフローラが両の手を打ち鳴らし、再び静寂が戻った。



「……古参の者には言うまでもありませんが……主様の下僕たる我々GAも、最初から無敵の存在ではありませんでした。いえ、今でも無敵ではありません」



 この言葉に、ほぼ全員が首肯する。総督や連隊長はGAの中でも最古参クラスのメンバーであるし、大隊長も大体が古参に入る。だからこそ彼らは、カーキや自分たちが当初は低難易度ダンジョンにも苦戦続きだったし、カーキ自身の能力もそれ程ではなかったことは知っている。

 だからこそ、一部の者は外世界の殲滅を主張する。本当に無敵ならば、外の存在など歯牙にもかけなくて良いのだ。

 敵が全て消え、敵となり得る者も全て消えた世界。それこそが、最も安全な世界なのは、GAそのものの総意として、カーキを絶対に護ると断言できないからである。口惜しいことに。



「ならば、我々は必ず(・・)敵国を攻め落とせると、どうして断言できるでしょうか。……確かに集めた情報から判断すると、戦力差は圧倒的です。戦力差ならば(・・・・・・)判明している限りでは。

 ですが、未知の作戦をいきなり実行し、完遂できる程――――我々は、優れているのでしょうか」



 平淡な口調に、何時も通りの機械的とさえ比喩できる無表情。そんなルカの雰囲気が、さらに凍てついたものとなる。それがマグマのような激情を抑え込んだ故の産物であると、周囲の者は即座に悟った。



――――物事に“完璧”などない。そんなことは分かっている。しかし、そう言いきれない自分が何よりも不甲斐無い。主様にそう思われているだろうことも、何よりも情けない。

 そして、何よりも愚かしいのは……主様が心を病んでいるのは、下僕わたしたちが無敵でもなければ完璧でもないことを知っていて、その上で私たちを心配しておられるから。それに激情と同時に安堵や歓喜を覚えている自分を、隠しきれないことだ。



 ルカの態度は、そんな彼女の心境を良く現わしていた。

 その彼女の態度に、先程まで強硬論を主張していた大隊長は顔を朱に染め、目を伏せた。

 自分たちはいつの間にか、攻めれば勝てることを前提に話していた。実に愚かしいことである。


 そんな時、一人の青年が軽く手をあげた。

 黒のシルクハットに、黒を基調としたストライプのスーツ。髪は長い金髪で、切れ目の蒼い瞳も相まって顔つきはかなり美形である。但し、左頬にある逆さ十字の黒い傷が、彼の美貌を若干下げていたが。

 腰からは漆黒のナイフを何本も下げており、漆黒の手袋を付け、紅いネクタイがやけに目立つ服装である。


 GA第一空中歩兵連隊連隊長、ザラストロ。天上級ヘヴンモンスター“屍黒龍ニーズヘッグ”であり、マナの腹心の部下の一人だ。(ちなみにカーキの意図を反映して、マナ率いる第五ヘキサゴン駐屯の部隊の幹部たちは、大抵がスーツに身を包んでいる。)



「ちょっちいいかい、ルカさんよー」



 ザラストロは頭を掻き、胸ポケットから出した煙草を咥えた。



「おたくの言い分は良く分かるし、個人的には賛成だ。だが、それで演習というのも変じゃあないか?

 いや、意義は否定しない。だが、所詮は“演習”だ。実戦じゃあない。それをしたとしても、根本的な問題解決にはならないんじゃあねぇの?」



 火をつけ、ザラストロは紫煙とともに言葉を吐く。



「戦力投射……結構だ。今回の第二次調査隊派遣は、多くの戦訓を齎してくれたと俺は思う。

 何せ世界規模での同時戦力展開だ。まぁ、総数はアレだが、輸送部隊には相当の負荷がかかったと聞く。

 これはつまり、俺らの戦力投射、補給船維持の能力は決して完璧ではないってこったな。いや、おたくの輸送連隊を否定しているわけじゃねぇぜ? コホーテクさんよ」



 肩をすくめ、ザラストロは恥辱に顔を赤らめる同期の連隊長に微笑みかけた。その隣にいる連隊長が肩に手を置くが、あまり効果はなさそうである。



「つまり、コイツをまずどうにかしなきゃ、侵攻なんて夢のまた夢だ。テメェの飯も用意できずに余所様の家に土足で上がり込むわけにもいかねぇだろうよ」



「そうですね」



 ルカは認めた。彼女は改めてザラストロを見つめる。



「ですから、私はこう言いました。GA戦力整備計画の最終目的(・・・・)であると」


「……つまり、まずは輸送能力を強化するということ」



 今までずっと無言だったヒイロが、ボソリと付け足した。



「……増員でも行うのでありますか? ですが、GA人事の権限は、総帥閣下しか持たぬはずでありますが」



 今度はアタランテが疑問を挟んだ。戦力分析、調査や作戦立案については強力な権限を持つGA戦略参謀局であるが、人事についての権限は持っていない。それはGAでカーキだけが持っている権限だ。

 当然ながら、部隊の増員や削減を指示、実行する能力など無い。



「ええ。その通りです。ですが、強化が増員とイコールとは限りません。より動きを洗練させれば、効果の程はまた違ってきましょう」


「成程。訓練、訓練、訓練でありますな」



 マナの返答を受け、アタランテはポンと両手を叩いた。

 確かに今回の派遣は突発的に動いた事態に対処するために、泥縄式で行われている。それは派遣隊の選抜は勿論、輸送や支援の段取りもまた然りだ。元々GA輸送部隊の想定を遥かに超えた作戦に、何の準備期間も無しに全力投入する羽目になったのが、輸送部隊の悲劇である。

 にも拘らず、ギリギリだったとはいえ輸送が滞ったことはなく、計画された全ての物資を安全に各方面まで輸送しきったのは誇りこそすれ、恥じ入ることではない。輸送関係者が疲労困憊になりつつも、物資輸送の手違いや失敗は一度もなかったのだ。

 その意味ではGA第一輸送連隊を始めとする輸送部隊及び兵站局は、今回の任務で一番貧乏(くじ)を引いた部隊と言えなくもない。


 もっとも、それを言い出せば、GAの訓練内容は全てカーキが決めているので、カーキの責任ということになる。が、そのことでカーキを批判する気は、この場にいる誰にもない。忠誠心が高いとかそれ以前に、想定することが無茶な事態に対して想定し、きちんと長期的な訓練をさせて対応できるようにせよということは、現場レヴェルの者でさえ理性的に否定する程の難癖でしかないからだ。


 実際、関係者が疲労困憊になったのは人材不足が原因というよりかは、想定外の事態に土壇場で対処しなくてはなかったため、関係者に過度の精神的負担プレッシャーがかかったこと、失敗できない事態でありながらも、未知の領域であるが故に司令部でも現場でも、余計な(事前に想定していればする必要がなかった、という意味で)会議や検証が頻発したことによる肉体的疲労や混乱が大きい。

 つまり、現状の人数でもより効率的な輸送は不可能ではないのだ。



「今回輸送した物資は、たかだか三桁に届かない数の人員分の食料や武装、支援物資などにすぎない。しかし、輸送先が世界各地に点在していたことと、場所によっては輸送物資の中身が大きく違うことが効いていたよ」



 輸送大隊の大隊長が愚痴まじりにそう言うと、宴会場に唸り声が起こった。

 何せ調査隊は北の極寒の大地から、険しい岩山、灼熱の砂漠、大規模な軍事大国、吹けば飛ぶような小国など、様々な場所に派遣された。

 当然と言えば当然ながら、雪原に行った兵士と砂漠に行った兵士への支援物資は、「支援物資」といっても内容は全然変わってくる。

 備蓄はたっぷりとあるため資材の手配や生産における混乱こそ起こらなかったものの、輸送部門にとって相当の負担だったのは間違いない。



「すでに調査隊は役目を終え、大部分が帰還しています。輸送部門も、漸く一息つけたことでしょう」



 別の大隊長が、そんな輸送大隊のトップに目配せしながら発言した。

 それを受け無理矢理微笑みながら、輸送大隊大隊長はルカを見つめ、神妙そうに言った。



「ですが同一の場所に同一の装備でしたら、一〇〇名未満分の輸送はこれほど混乱していません。いえ、桁があと二つ増えても、完遂する自信はあります――――この期に及んで、説得力はないでしょうが――――しかし、今回のようなケースでは、総勢一〇〇名未満分の物資輸送も難しい。それはこの度証明されてしまいました。

 ですが、同じ轍は踏みません」



 その言葉に、ルカ達五総督は一斉に頷いた。

 同じことは、GA戦略参謀局や五総督にもいえる話だ。想定外の事態でさえ対処するのが、カーキの奴隷たる自分たちの役割である。いざという時、想定外のことが起こりましたので、総帥を護れなかったでは話になるならない以前の問題である。



「……先程のザラストロの指摘は重要です。そう、演習は無駄ではありませんが、根本的な解決にはならない。だからこそ、より徹底した情報収集が必要となるうえに、さらなる訓練が必要となります」



 ルカはそう言って、大きく息を吐いた。彼女のこう言う人間らしい仕種は、実はかなり珍しい。つまり、それだけ彼女の心が荒れていることを意味している。



「……そのため、私はこう考えます。より実戦的な演習(・・・・・・)が必要であると」



 そして、最後にルカは呟いた。まるで付け足すかのようなさりげない一言に、しかし、その場にいる全員(五総督除く)が寒気を覚えた。



「おわかりですか? つまり、私が理想とするのは……限りなく勝ちが見えている、実戦・・ですよ」



 そう言って、ルカは、唇を僅かに動かした。

 数瞬遅れて、全員が気付いた。



――――あぁ、あれを笑顔と呼ぶんだったっけ。






「……要するに、局地的な侵攻作戦? それも、複数の場所への?」



 イトカワが小さく呟く。その声を受け、ルカが目を細めた。



「違います。正確には、秘密裏の工作作戦です。大陸に恒久的な情報収集用拠点を構築するため、該当地域の敵を殲滅し、極秘に占領する。そして資材・人員etcを輸送し、基地を設営する……というのが、大まかな流れとなります」


「ふむ、工作能力、戦力投射能力、物資輸送能力、基地設営能力、そして設営した基地への恒久輸送を行うから、兵站能力も確認することができるというわけですな」



 アオテアロアの一言に、その場をどよめきが覆った。それはGAに今後訪れるかもしれない大規模な侵略戦争に備えて、是が非でも確認したい能力のほぼ全てが揃っていた。



「あくまで、情報収集のための拠点。何万名何千名と常駐するような土地でもなくても、占領は占領、実戦は実戦。その結果は、重要な戦訓となるわね」



 腕を組み、考え事をするようにマナが言う。



「ロードの意志に反することもないわね。情報収集のためには、どの道大陸に拠点は必要だから」


「そうだねぇ。調査隊の面々が拵えたのは、全て急ごしらえのアジト。あれじゃあ拠点と言うよりかは土竜モグラの巣だ。破棄すること前提だし……頑丈な拠点、欲しいよねぇ。金城鉄壁、金城鉄壁……」



 マナに引き続き、フローラも満足げに頷いた。

 他の面々も、次々に賛意を示す。



「……もっとも、これは私の考えた一提案ですし、即決もできませ――――」


「よーし。そんじゃあ、やっちゃうぞー」



 ルカの占めの言葉を遮り、間の延びた声が周囲を満ちた。

 全員が、声の発生源――――ラリッサを見つめた。

 ラリッサはのろのろと立ち上がり、そして、スカートのポケットから何かを取り出すと、恥を両手で摘まみ、バサリと広げた。それは、大きな長方形の布であった。



「その先鋒、ラリッサ達第一制魔大隊(イッセイダイ)がやらせて頂きます」



 その布を見て、近くにいた大隊長が飲んでいた珈琲を噴きだした。

 イトカワは立ち上がりかけて机に膝をぶつけ、フローラは両手で顔を覆った。



 その布には、月を背景に、額に宝石を埋め込まれた、イタチと狐を混ぜたような獣が天に咆哮しているイラストが描かれていた。

 それは、GA第一制魔大隊の大隊旗である。掻かれている獣はカーキがデザインした伝説の幸運を呼ぶ獣であるカーバンクルだ(『CC』にカーバンクルというモンスターは存在しない)。



「この、大隊旗にかけて」


「いや、君その表情でそんなこと言ってもねぇ……。っていうか、また大隊旗持ち歩いてんの? 君」



 相変わらずボーッとしたままの表情で、ラリッサはそんなことを言った。

 それにすかさず突っ込みながら、フローラは頭を乱暴に掻いた。

 ラリッサ、というよりラリッサとタラッサの双子姉妹の悪癖の一つ。それが大隊旗の持ち出し及び、勝手な使用である。


 凝り性のカーキが本気を出した結果と言うべきか、GA全ての連隊及び大隊には専用のシンボルマークと旗がある。それらは彼らにとっては誇りであると同時に、カーキより賜ったシンボルでもある。

 何もGAに限った話ではないが、組織においてシンボルとかマークとかはかなり重要だ。神聖視されていると言っても良い。


 そうなのではあるが、この双子はそれを勝手に持ち出し、思いついたように広げては周囲を困らせていた。しかも悪意がなく、総帥の偉大さを誇示するためだとか抜かしている分性質が悪い。

 問題行動であるのは事実だが、憲兵隊に粛清されないのは、大隊旗などの部隊旗に関する規定に、故意の破損を禁止する規定はあれど、持ち出しを禁止する規定がないためである。


 因みにこの双子がこんな事をやらかしている最大の要因は、カーキが双子の設定に、「マーク、シンボルフェチ」という阿呆な設定を面白半分で組み込んだためである。


 そして一番厄介なのは、双子が自らの隊旗にかけて「あれをやる」と言いだせば、全否定できる者は誰もいないという点である。所謂“伝家の宝刀”をあっさり持ち出せば、余程の理由がない限りは当の本人たちも引き下がらない。そして、周囲も否定しづらい。



「で、でたぁああああ! ラリッサ達イッセイダイの大隊旗! コレに誓って絶対ヤるよすぐヤるよやれヤるよぉおお!」



 タラッサはタラッサで、姉の横で鼻血を流しながら顔を輝かせている。ちなみに、二人の「マークフェチ」はどちらかというと、「自分たちのマーク大好き」と言った方が適切である。



「……はっ倒す?」


「いや、いいよ……」


「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」



 気遣ってくれたヒイロの肩に優しく手を置き、悲しげに首を振るフローラ。立ちあがって四方に深く頭を下げまくるイトカワ。上司二人を置いといて、双子姉妹は今日も平常運転である。



「……これ、ひょっとして私も関わらないと駄目なの?」



 そして今更ながら、場が混沌とし始めている要因に自分の同僚があると気付いたのは、悠然と茶を啜っていた第二制魔大隊大隊長であった。






「……未だに作戦そのものが机上のモノですが、どの部隊を送るかはわかりかねます」



 周囲の大隊長が四人がかりで双子をシバキ倒した後、ようやく落ち着きを取り戻した宴会場に、ルカの声が響いた。



「……もっとも、そうなればイッセイダイのものが出る可能性は高くなりますが」



 隣に浮かぶクリスタルから洩れた声を意図的に無視しつつ、ルカは話を続ける。



「なお、派遣先は三カ所が候補に挙がっています」


「へぇ、一体何処なんさ?」



 頬杖をして面白そうにルカを見つめるベアトリクスに応えるように、ルカは形の良い唇をさらに動かした。



「一つ目はローラム連邦共和国ワリシチェリ、二つ目は南軍領ブルックス伯爵領ショットタウン、そして三つ目は北軍領ラングレー侯爵領サミラスの森です」






 本編では触れていませんが、カーキがコゲツを向かわせてから約三週間が経過しています。

 第二次調査隊の任務期間は大体二週間前後。出発時間もバラバラですが、すでに大部分の部隊が帰還しています。


 それでコゲツですが……。

 彼女の動向については、次話以降。

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