第二七話 ドラゴン・クロウ 龍爪
ヒイロがちょっとヤンチャしちゃうお話です。
彼女だって怒る時には怒ります。
ボフン。そんな音とともに、少女の小さな身体が、雪を吹き飛ばしながら落下した。
「……ん」
くいっと顔をあげ、ヒイロは億劫そうに立ち上がる。パン、パンとマントについた雪を払い落した。
ヒュン、と音を立てて、一緒に吹き飛ばされた杖がヒイロの目の前まで飛び、空中に静止した。
「ふぅ、ブランクって厄介」
いつもより若干早口で、ヒイロは杖をとり、目の前まで迫った山のような巨体を見上げた。
――――そうそう、この感じだ。
久しく忘れていた。中途半端に強い屑クラス以上との戦いというものを。
以前の世界では、焔鉄神となってからは多い時は一日に何度も、このような連中――――最高難易度ダンジョンのフロアボスやダンジョンボスと戦っていた。
まったく、世界が違っても、このウザさは変わらない。
ダンジョン攻略にカーキや他の総督達と出向いた時も、どうせ無様に遺骸を曝け出すくせに、歯向かってくる頭の悪い連中にはイライラしたものだ。
数週間前までは、毎日のように味わっていた感覚。
何とも懐かしく、相も変わらず莫迦らしい。
「……“火葬球魔法”」
ボキュッ!!
そんな音とともに、迫ってきた巨大な竜の頭――――尻尾の方である――――が火球に包まれた。
尻尾にくっついた方の頭は暫く長い首(尻尾と言った方が良いかもしれないが)を振って悶えていたが、火球はすぐに消え、黒コゲになりつつも舌を出し、小さく唸った。
鱗に熱が阻まれたらしい。
どうやら、こんな中級魔法では通さない程度には分厚いようだ。
やはり、天上級くらいの実力がある。
「ギュアオオオオオオオオ!!」
大地を震わす咆哮とともに、黄金色の瞳でヒイロを見下ろした「エセアンフィスバエナ」は、今度は前の方にくっついた頭を大きく仰け反らせ、顔を天へと向けた。
どう見ても、タメをつくっている時のアレだ。
「……双頭竜は、猛毒の息吹を吐く――――」
小さく呟き、ヒイロは瞬時に後方へと飛び抜けた。
アレの猛毒ブレスが通常のアンフィスバエナのそれと同じだとは限らない。未知の猛毒の可能性もある以上、避けた方が賢明だろう。
瞬間、先程までヒイロが立っていた場所を、毒々しい紫色の閃光が飲み込んだ。
轟音とともに雪と紫色のブレスが混ざった煙が急速に広がっていく。
雪が吹き飛ばされ、露出した地面はどす黒い色に変色し、ドロドロになって流れていった。
腐敗タイプの毒だ。吸い込めば体内から腐っていき、身体を破壊していく。悪趣味な毒の類である。
しかし、最強クラスに相応しい様々な耐性を持つヒイロには、まったくと言って良いほど効果はない。
毒の性質はアンフィスバエナと同じのようだ。唯、思いのほか射程範囲と毒の浸食具合が違う気がする。
冷静に原形を無くしていく地面を見つめるヒイロの頭上から、またしても小柄な少女など丸のみできそうなほど巨大な口が襲いかかってきた。但し、今度の得物は、唯の小柄な少女とは別次元の存在であった。
「……おっと」
ヒイロは瞬時に杖を放り投げ、両腕を頭上に持っていく。そして、迫りくる牙を受け止めた。
「――――――!」
驚愕をヒイロが襲う。思ったよりも遥かに重い一撃だ。先程とはまったく違う衝撃に、ヒイロは僅かに小首を傾げた。
眠たげな瞳を上に向けると、鋸のような牙がびっしりと生えた口が見える。
生臭い息がモロにかかり、さしものヒイロも顔を顰めそうになった。
「――――下等な、蜥蜴が」
轟音。先程の轟音と違い、発生源はヒイロにあった。
左手で握り拳を作り、勢い良く「エセアンフィスバエナ」こと、白帝の顎を撃ち抜いたのだ。
それはまるで、最高速度のダンプカーに突進されたかのようなものだった。いや、それ以上だった。
空気が震えると同時に、白帝の口から数本の牙が弾け飛び、緑色の血が空を彩る。
山のような巨体が宙に浮き、その衝撃のあまり白帝は口から血と共に泡を吹き、黄金色の目は零れ落ちそうなほど見開かれる。
何の変哲もない、力任せのパンチは白帝の顔をも覆っていた白い鱗ごと白帝の内部を破壊した。
鱗がさながら粉雪のようにヒラヒラと舞っていく。実際は、粉雪の儚さも何もあったものではなかったが。
雪原に横倒しになっていく巨体を目で追うこともなく、ヒイロはまるで汚らわしいものに触れたとでも言いたげに左拳を見つめ、ふぅ、と息を吐いた。
「随分と、久しぶり」
肉弾戦を行ったのは随分と久しぶりだ。御蔭で呆れ果てる程に身体が鈍っているらしい。よもや、あんなに威力が落ちているとは。
帰ったら、マナでも誘って訓練しようと思いつつ、ヒイロはくるくると回転しながら戻ってきた杖を手に取った。
そして其の儘、杖を立てる。
閃光と火花。
かん高い音を立てて、杖と槍がぶつかり合った。
「――――くそっ!」
レッド・アースのリーダーであるザカリー=メイクピースは、不意を付けなかったことに舌を打った。
一方、ヒイロはまるで小蠅を見るかのように、そんなメイクピースに感情の読みとれないオッド・アイを向ける。
「何のつもりだ、化け物……何しに此処に来た!」
「…………偉大な主の御意志は、貴様程度にわかるものではない」
大きく見開かれたメイクピースの目を冷徹に見つめたヒイロの回し蹴りが、メイクピースの右頬を砕いた。
「……がぁあああ!」
「ザカリー!!」
雪原に落下する直前で、ボロボロの鎧をまとったコンラッド=ハボックによって、メイクピースの細い身体は受け止められた。
「ぬ、ぐぅ……」
激痛に呻きつつ、メイクピースは満身創痍という言葉が相応しい有様のハボックの顔を、歪めた顔で見上げた。
白帝。それはグリーン・リバーの手を持ってしても、代償も無しに制御しきれる存在ではなかった。
今もなお大きく抵抗され、躾のなっていない猛獣のように主人にも牙をむく。そんな事態に度々巻き込まれ、魔法師のガードに回っているハボックの身はボロボロだった。
「畜生、やはり“白帝”なんて手に負える存在じゃなかったんだ……。それに、そんな白帝を殴り飛ばすあの化け物は何だってんだ!! 悪夢の化身か!?」
ハボックらしからぬ、絶望と悲壮感が込められた、叫んだところで意味など無い叫びだった。
こんな時に叫んだところでエネルギーを消費するだけだということなど、歴戦の戦士であるハボックは誰よりも理解している。そんな彼が、まるで初めて戦場に立った新兵のようにがなり立てている。
「撤退するか、ザカリー……」
「…………」
メイクピースは押し黙り、白帝の隷属に己の魔力全てを注ぎ込んでいるフレデリック=ブキャナンのいるであろう場所を見つめた。
そこには一八人の魔法師が円を作るように集まり、両手をあげ、それぞれの魔法媒体を掲げ、白帝に魔力を送り続けている。
完全支配までもう少しだった。流石にこれ程の存在を支配するには、数瞬とは言えぬ時間がかかるようだ。
「我々の任務は彼らの護衛だ。撤退か否かはブキャナンに任せよう」
「じゃあ、どうするんだ? ドミニクは白帝に吹き飛ばされて何処かに行っちまったし……魔法師の連中もブキャナンは兎も角、何人かはそろそろ限界だぞ」
確かにハボックの言う通り、今にも雪が降り出しそうなほど寒い雪原に立つ魔法師のうち数人は、水分を全て排出するかのように尋常ではない汗を流し、その目は今にも永遠に閉じられそうなほど生気に欠けていた。
暴れる白帝の自我が、彼らの精神力に牙をむいているのだ。
白帝を制御下においた直後に白帝と同等かそれ以上の怪物と相対する羽目になるなど、彼らも指令書を作成させた側も誰も想定していなかった。
白帝は間違いなくクリアレッグ火山周辺地域では頂点に立つモンスターであるし、それ以上の強者がホイホイ出てくるはずがなかったのだ。
が、現実ではその出てくるはずがない化け物が出てきた。
本来なら、じっくり時間をかけて魔法を馴染ませ、恒久的な支配に繋げていくはずが、即席で支配し、それも戦闘を行わせるという無茶もいいところの状況に追い込まれていた。
ブキャナンは、己の状況判断の甘さを呪っていた。
――――莫迦だった!
白帝を復活させた直後に完全支配し、戦闘を行わせることは、彼の予想以上の難儀であり、無謀だった。
復活直後で意識が混濁した状態ならば容易に隷属させられると考えていたが、白帝はまるで数日前まで暴れていたかのように意識はクリアであり、その本能は凶悪であった。
しかし、あの敵は時間を与えてくれはしないだろう。
ブキャナンは覚悟を決め、持てる限りの魔力を白帝に注ぎ込んだ。
「やれ、白帝!」
ブキャナンの合図に従い、白帝の二つの首から紫色の光線が放たれた。
「……んっ」
見たこともない攻撃に、ヒイロは一瞬だが緊張した。
おそらく先程の猛毒ブレスとは、威力も速度も桁違いだろう。
バチバチと耳障りな音が、ヒイロの耳を震わせた。
「……あ」
ふと、気付いて天を見上げた時には、もう手遅れだった。
ブレスをヒラリと身を翻して避けたヒイロの頭上から、紫電が槌の如く降り注いだ。
轟音。
「けふっ……しまった」
煙が寒風に吹き飛ばされた後、やや煤けたマントと長い髪を風になびかせながら、ヒイロはふぅ、息を吐いた。
どうやら唯のアンフィスバエナと異なり、コイツは雷系の魔法攻撃も行うようだ。
失態に次ぐ失態に、ヒイロは唇を僅かに噛みしめた。
――――熱くなっては、まずい。
まだまだ、殺すのは早い。ヒイロは大きく息を吐き、頭を左右に振った。
戦闘モードに入ると熱くなりがちなのは、自分の悪い癖だとヒイロは考えている。
それにヒイロ自身、この手の敵との戦闘は久しぶりだ。何しろ状況が状況なだけに、前のように主が総督だけを連れだってダンジョン攻略に赴くこともなくなったし、そもそもこの世界にダンジョン、それも総督の出番がある程のものがあるかどうかも不明である。
おまけに現状、GAは嘗てない非常事態と大規模任務の真っ最中だ。正直、ヒイロがここに来ていられるのも、短期間の調査任務だとわかりきっている(若しくは割り切っている)からだ。
クロノスに戻ったとしても常に書類と格闘しつつ非常事態に備えているため、気軽に他の総督を誘って訓練もできない。
訓練相手に最適と言えば、大規模殲滅魔法を数発繰り出しても傷一つつかないような結界を構築できるルカだ。ヒイロも毎度毎度殺す気(比喩ではない)でバカスカ撃っているが、アレの結界を破壊するのは些か骨が折れる。いや、だからこそ、訓練相手には最適なのだが。
だからこそ、予想以上にヒイロの身は鈍ってしまった。少なくとも、ヒイロ自身はそう認識していた。
勘を取り戻すためにも、少々遊ぶ必要があるのかもしれない。
襲いかかってくる二つの首を躱しながら、ヒイロはそんなことを考えていた。
考えていられるだけの余裕が、彼女にはあった。
「――――“邪鮮血牙”!」
どす黒い血の色をした奔流が、メイクピースの槍先から放たれた。
「……んっ?」
槍使いとは今まで散々戦ってきた(スキルと見た目のカッコ良さもあって、『CC』においてランサーは一、二を争う人気ジョブである)ヒイロだが、見たこともない攻撃に首を傾げる。
杖をくるくると回しながら奔流を受け止める姿勢になったが、竜巻が槍となったような形状の奔流の先端が分離し、ヒイロを飲み込もうとした。
「……おっと」
予想外の弾道に虚を突かれ、ヒイロは咄嗟に身体中に魔力を込めて防御の姿勢をとる。
紅い閃光が幾つも煌めき、一拍遅れて爆裂音。
しかし、すぐに無傷のヒイロが姿を現す。
しかし、メイクピースの目は絶望に染まっていなかった。
「――――堕ちろ、化け物!」
その声とともに、ヒイロは違和感を感じ取る。
奔流をモロに受け止めた、彼女の右腕に紅く不気味に輝く線が血管のように浮きあがり、ビクン、ビクンと脈打った。ブシュ、と音を立て、ヒイロのやや青めの血が腕から噴き出した。
――――新種の、毒?
どうやら命中箇所から体内に侵入するタイプの毒のようだった。
彼女が備える対毒耐性が働きだし、肌から身体を蝕もうとする毒素を防ごうとする。
パキン、と軽快な音共に、腕が元の状態に戻る。
彼女の自前の耐性でも、抑えきれるぎりぎりの猛毒。見たことのない魔法体系の毒だった。
「……何?」
平然と空中に静止するヒイロを見て、メイクピースは焦燥感に囚われていた。
対象は限られるが、血液を侵して確実に命を奪う猛毒を放つ奥義を受けても、あの化け物は応えた様子もない。
――――アンデッドか。
あの毒が効かないのは血液(体液)が毒に染まろうがびくともせず、そもそも血液など必要としていない死者系統のモンスターくらいだ。
しかし、あの少女の姿の化け物からは、アンデッド特有の死臭を感じ取れなかった。
メイクピースがそんなことを考えているまさにその瞬間、ヒイロは別の想いに囚われていた。
「…………あ」
未だに微かに震える腕を見下ろし、ヒイロは目を大きく見開き、長い緋色の髪を掻き毟った。
「け、けが、汚された……毒で……主専用の……わた、私の、身体が…………」
ドラゴン系統のモンスターは、総じて状態異常に対して高い耐性を持つ。それは最下級の“火焔蜥蜴”も例外ではない。
彼女には、毒をくらった、正確にはくらいかけた経験が殆どなかった。
ましてや殲滅を担当する魔力タンクであるヒイロは、必然的に戦闘時は後方に下がっていた。総督達とチームを組んでも、前衛はマナやルカ、そしてアルマの役目だった。
故に、ヒイロは動揺する。
自分の身体が毒に侵されたという事実ではなく、主に創造されたこの身が汚されかけたという恐怖に。
「ど、どうしたら……そ、そうだ……」
カパッ、とヒイロは大きく口を開けた。そこには、小柄な少女の可憐な口には到底似つかわしくない、鋭すぎる白い牙が並んでいた。これもまた、ヒイロが世界を支配するに相応しい最上位のドラゴンであった名残である。
バチン!
ヒイロの口が目にもとまらぬ速度で開閉された。
骨ごと切断された毒に侵されかけた方の腕が、くるくると回転しながら雪原の空を舞った。
ブシュウ、と青みがかった鮮血が噴き出たが、直ぐにゴポゴポと音を立てて止血された。
彼女が首に幾つもぶら下げているアイテムのうち、自動回復・再生機能を持つアイテムが効力を発揮したのだ。
ヒイロは再生を始めた己の腕など気に留めることもなく、カチカチと歯を鳴らし、杖を固く握りしめた。
恐怖は徐々に収まりつつある。比例し、動揺もまた収まっていった。
それに反比例して、どす黒い感情がヒイロの胸中を満たしていく。噴火寸前の火山に溜まっていくマグマの如きそれは、憎悪であり、噴怒。
「侮ったぜ……ド畜生が」
あの「エセアンフィスバエナ」ばかりに気をとられていた。アレを操ろうとしている連中は雑魚ばかりだと思っていたし、実際に戦闘能力は隔絶とした差がある。しかし、こんな手を使われるとは想定外だった。まさか自分に効くかもしれない、未知の毒を使ってくるとは。
「…………ぶっ殺せねぇのが口惜しいが……まぁ、仕方がねぇなぁ!!」
先程とは打って変わった、感情が込められた粗暴な声。
表情を大きく歪め、オッド・アイから燃えるような眼光を放つヒイロは、杖を大きく振りかぶり、そのまま上空へと投擲した。
ミサイルのように曇り空へと飛んでいく愛杖を尻目に、ヒイロは再生中ではない方の腕を大きく振り上げ、雪原に叩きつけるように振り下ろした。
「主の持ち物を汚しかけたことを償いやがれ!!――――“部分龍化”!!!」
瞬間、山のような白帝の巨体を覆い尽くすような、緋色の鱗に覆われた超巨大な龍の腕が、鋭い爪と共に大地に叩きつけられた。
白帝の頭上へと。
「…………あーあ………しんっでぇなぁ、ホントによぉ」
粉塵が収まった時、周囲一帯の雪原を覆っていた白銀の雪は跡形もなく吹き飛び、大地は龍の爪の型をとったように大きく抉られていた。
小火山の一部も姿を消し、溶岩があちらこちらに流れ、雪をさらに溶かしていく。
「これだから、身体を剥くのは嫌なんだ。無駄に力を使うし、主には綺麗な女の姿をもっともっと見てほしい。
……でも、これが一番手加減しやすいんだよなぁ」
主人の元へと帰ってきた杖を受け止めつつ、ヒイロは紫色のフードを深く被り直した。
「感情が高ぶっている時は、魔法の威力を落とすのも一苦労だし……身体で仕留めた方が、スカッとするしなぁ」
くるくると杖を回転させながら、ヒイロの独り言は続く。
普段より遥かに饒舌ながら、気分は段々と落ち着いてきているようだ。その証拠に、口調の荒々しさも徐々に抜けていった。
ドラゴンから神と呼ばれる存在へと進化した結果として、ヒイロはドラゴンの姿になることもできる。しかし、あくまで現在のヒイロはドラゴンとは違う存在であるため、完全にドラゴンとなることはできなくなった(『CC』におけるデータの処理的な問題なのだが、ヒイロは無論知る由もない)。
その代わりとして、身体の一部をドラゴンに変化させることができる。そしてそうなれば、他のドラゴンなど比較にならない程のサイズとパワーを発揮する。こうなったヒイロは、マナにも劣らない近接格闘員となるのだ。
しかし、それは魔力を消費しない代わりに、精神力を大きく消耗し、疲労も溜まる。ある意味最終手段であり、コスト・パフォーマンスの点から見ても殲滅魔法の方が優れているため、使う機会も殆どなかった。
しかし、それでもヒイロは手加減が楽という理由で、この手段をとったのだ。
『CC』において、通常時と戦闘時では姿が違うモンスターを創造することは、それ関係のスキルを持つユーザーにとってはある種のステータスだった。「変身=カッコイイ」というイメージが付いているためであるし、そのモンスターのクリエイトには容姿データをしっかりと作成する必要があるため、高度な技術と相応のツールが求められるからだ。
要するに、格好の自慢の種であり、それはカーキも例外ではない。
もっとも、五総督で通常時と変身時の二つの姿を持つモノはヒイロだけなのだが。
「……さて、と」
何時ものように眠たげな表情に戻ったヒイロは、深く抉られた大地に横たわる体液に塗れ、身体の一部が切断されながらも驚異的な生命力を発揮している下劣な蜥蜴と、精々掠らせる程度で留めたために気を失いながらも生きている魔法師たちと戦闘員たちを見下ろした。
全部で二〇人。
「…………仕方がない」
よくよく考えれば運ぶのが無駄に面倒そうな面々にため息を吐きつつ、ヒイロは避難したワーカーたちを呼ぶために、通信石に手を伸ばした。
「でもやっと、主の元に帰れる……ヒャハハハハ」
眠たげな表情のまま口角だけ持ち上げて、焔鉄神は笑った。
雪が降り始めた雪原で、突如何かがむくりと起き上った。
白いそれは大きく震えると、中から紺色の貧相な衣服に身を包んだ小柄な少年が現れた。
「……うぉぉおうっ! 寒ッ、超寒ッ!!」
身体を丸めてガタガタ震えているのは、レッド・アースの新規加入メンバーであるドミニク=ノットだった。
「……んにしても、どういうことだよ、これ……。
白帝の尻尾でノックアウトされたと思ったら、あの馬鹿龍もリーダーも先輩も、陰気魔法師連中も、皆いなくなってるし……。置いてきぼりってわけはないよなぁ、そこまで薄情な人たちじゃあないだろうし」
ザクザクと雪を踏みながら、ノットは雪原に現れた抉れた大地を避けつつ、ふらふらと歩いていった。
相棒の魔導砲の重さを恨みながら、暫く歩いていたノットは、目の前に光る何かを見つけた。
こんな場所には到底似つかわしくない、人工物だ。
「……いや、ガンナーだって、こんな場所に似つかわしくないけどさぁ」
独り言を呟き、彼はほんのちょっと沸き起こった好奇心に従い、それを拾った。
「……瓶?」
それは、酒のボトルのような形状をしたガラス瓶だった。
回復水薬瓶に似てはいるが、こんな形の瓶は北軍でも南軍でも、一般販売されているものでも使われていない。
「……あ、あいつらか?」
そう言えば、鳥車が破壊される寸前に撃ち抜いた妙な奴の仲間(らしきもの)が、負傷したヤツにポーションらしきものを飲ませているのがチラリと見えていた。
常人を遥かに凌ぐ視力を持つノットだからこそ、視認できた光景だった。
拾った瓶をポケットに突っ込み、ノットは再び歩き出した。
本当はもっとキレまくる描写にしようかと思ったのですが、それだと本当に相手を殺さないのが不自然なため止めました。
それと、カーキとは違う現代日本人『CC』ユーザーがカーキたちが転移した世界の別の場所にほぼ同時期に転移したお話を、息抜きのつもりでちょっと書いちゃいました。
実験作のつもりで書きました。
若しかしたら投稿するかもしれません。
それでは。




