第二四話 ワズ・ショット 被弾
現在、GAの設定集を作成中です。結構長ったらしくなるので、別作品として投稿し、随時更新していこうかなと考えています。
投稿するか、まだわかりませんけど。
あと、ふと思いついたネタを少しずつ書いています。こちらも外伝集として、別作品として投稿するかもしれません。
……忙しいのに何やってんだろう私は。
馬車とは違い、鳥型のモンスターが牽引することが前提の車両を“鳥車”という。
“浮遊魔法”を固定化させた特殊な木材によって造られるそれの後部席に、二人の男性が乗り込んでいた。
一人はフワフワのブラウン・ヘアーに同色の瞳、そして片眼鏡、黒いローブを着込んだそばかすの男。痩せぎすであり、見るからに不健康そうだった。背はスラリと伸びていて、少し尖った両耳に黄金のピアスを幾つも付けている。一見、どこか教師を思わせる知的な雰囲気を放っていた。
一方もう一人、ローブ男の隣に座る男は、二メートルを超える長身にがっしりとした体形で、腕はローブ男の胴のように太い。銀色に輝く、狼の頭蓋骨のような兜で顔の上半分を覆い、鼻の一部と口しか見えない。そして同じく銀色に輝く鎧を着込んでおり、その横には紅い光が血流のように走っている不気味な黒い戦斧が置かれていた。
そんな一見、正反対とも言える外見の二人組は、空を駆ける鳥車に座り、寛いでいた。
「ザカリー、何でこの任務、俺様が駆り出されたんだ?」
狼頭の男が、ローブ男に話しかけた。その視線は、真っ直ぐに前へ向けられている。それは前方を見ているというよりは、何となく視線をそこに固定しているような感じであった。
そしてその口調は、どこか釈然としていない彼の心境を程良く表現していた。
ザカリーと呼ばれた青年、数ある北軍特殊部隊の中でも最精鋭とされる赤い土のリーダー格であるザカリー=メイクピースは読んでいた本を閉じ、視線を横の巨漢に向ける。
「連中の護衛だ、仕方がないだろう?」
「でもなぁ……何で、よりによって緑の川なんだよ」
巨漢に似合わず、何処か情けない声で愚痴を言ったレッド・アースの副リーダーであり、北軍随一の斧使いであるコンラッド=ハボックは、忌々しげに後続する鳥車を見やった。
後続する鳥車は、二人が乗り込んでいるそれと比較し大型で、一〇人は座れそうだった。
それが二両連結されている(鳥車は地上移動用に車輪が備えられているため、“台”ではなく“両”と数える)。
旧ウェルドリア諸侯連合が分裂状態になった時、旧北部がそのまま北軍を形成することになった。
そして北部は諸侯連合にとって最大の仮想敵国であるローラム連邦共和国と接している以上(もっとも、ウェルドリアとローラムが交戦状態になったことは一度もない。が、その関係は良好とも言えない)、そして元々武闘派貴族が多かった関係で、総兵力では北軍に分があった。
そして北軍は、自軍の精鋭を集めて特殊部隊の設立に動いた。規模は最大でも一個中隊に満たない程度だが、それでもエリート揃いの精鋭部隊は南軍に大きなプレッシャーを与え、同時に戦果をあげていた。
そして特殊部隊は、それぞれ特色を持っている。対応している任務が違うため、当然と言えた。
まず、最精鋭と謳われるレッド・アースは総数二〇人に満たないが、一人一人が得意分野の異なる、一騎当千の猛者を掻き集めた部隊である。それぞれ単騎で行動することが前提であり、集団戦ではかえって戦いにくいような、実力がありすぎる輩のたまり場と言えた。
これに対し、グリーン・リバーは大規模魔法儀式に従事する、選りすぐりの魔法師のみで構成されている特殊部隊だ。そのためレッド・アースと比べては秩序はあるものの、それでも魔法の世界にディープに浸かった魔法師が多く、人体実験やら生贄の儀式やら、良い噂の聞かない部隊である。
自分たちも大概だが、それでもグリーン・リバーのように陰気臭い魔法狂よりかはマシだというのがハボックの正直な感想だった。
それ以前に、「護衛」という任務自体がレッド・アースの得意分野から逸脱している。
「やむをえんよ。ボスが最近ピリピリしているのは知っているだろう?」
「あぁ。アロイスとキャリスタが行方不明だろう? 聞いた時はおったまげたぜ」
「近いうちに、戦死に昇格するだろうがな。二人揃って殉職だ」
順調な戦果をあげており、戦死者はおろか負傷者すら滅多に出さなかったレッド・アースから、立て続けに行方不明者が出た。しかも、二人ともレッド・アースに入隊してから長いヴェテランだ。
おまけにブラックウッド公爵家次女の誘拐という大任を任されたキャリスタ=ベケットは兎も角、アロイス=エディンソンは後方野営地への奇襲という(レッド・アースにとっては)なんてことのない任務に行ったきり戻ってきていない。
北軍きっての人形師をそんな任務で失うなど、命じた方も、そしてメイクピース達同僚もまったくの想定外だった。これならば、任務に嫌気がさして逃亡したと言われた方がまだ信じられそうだが、エディンソンが任務と故国(北軍領)に忠実なのは、同僚も上司もよく知っていた。
ちなみに、メイクピースはあくまでレッド・アースの纏め役であり、同僚の面々への指揮権はない。立場的には全く同格である。当然、副リーダーのハボックにも同じことが言える。
何にせよ、これらの事件は北軍内のレッド・アース及び彼らを監督する連中の立場に、少なからずの打撃を与えた。
その結果が、今回のグリーン・リバーの護衛であった。
「うちらの大将も現実が見えていない。私たちとて人間だ、疲弊もする。ベケットたちも少なからず疲弊していただろうに……それが、このざまだ。蜂も疲弊すれば、蟻の群れに喰われるぞ」
メイクピースはため息をつき、首を振った。
彼は、ベケットたちの脱落の要因が、終わりの見えない特殊作戦の積み重ねによる疲労と考えていた。
それはレッド・アースが広大な戦場で馬車馬のように酷使されている現状を考えれば、間違ってはいなかった。
メイクピースでさえ、最近は碌に同僚たちのコンディションすら確認できない程の激務に追われていた。特殊作戦部隊の出番が増える事は、あまり良い兆候とは言えない。
「如何やら、戦線は我々にとって喜ばしい状況ではなさそうだな」
その言葉に、ハボックも頷いた。
北軍司令部がバラ撒く広報誌の内容を全て鵜呑みにする程、二人は上層部を信頼していなかった。北軍が喧伝する“大戦果”が全て真実ならば、こんな内戦は何年も前にすでに終わっているだろう。
北軍領土はその殆どの地域において、軍上層部に名を連ねる有力武闘派貴族による政治が敷かれているが、領民全てが戦争に熱狂する程の思考制御の類は行われていなかった。
「しっかし、なんてぇとこだ」
窓から見える景色を一瞥して、ハボックは小さく舌打ちした。
そこには、白銀の世界が広がっていた。
空も辛気臭い曇り空に覆われ、最早空と大地の区別もよく分からないほどだった。
「よりにもよって、こんなところに来る羽目になるとはなぁ」
そして白銀の大地を、時折醜悪な姿のモンスターが徘徊しているのを確認できた。
肉食だろうが草食だろうが、万年雪に覆われた極寒の世界で一生を過ごすモンスターには強敵が多い。
空を飛んでいるからこそ安全であって、地上を馬車で進んでいれば半刻と経たぬ間に戦闘が起こっていただろう。そしてその戦闘を切りぬけたとしても、その後戦闘が起こらない保証など万が一にもないのだ。
歴戦の猛者であるハボックだからこそ、身の程をわきまえない行動はしない。自分なら、金塊を積まれても、あんなところを散歩するなど御免だった。
もっとも、空とて安全とは言い切れない。しかし、この辺りは大型の飛行モンスターはごく限られた数しかいないのも事実だ。
監視員……人間が暮らす領域に、モンスターという名の“災害”が襲来してこないか、絶えず見張っている兵士が確認している。
「もうそろそろですよ、御二人さん」
前方から聞こえてきた声に、ハボックは身を乗り出し、前の席に座り、巧みに手綱を操っている少年を見た。
そう、彼は少年と形容できる容姿をしていた。
長い前髪で左目を隠し、紺色の村人がきるようなラフな布の服を着込んでいる。その服装はシンプルにして、かなり質素だった。困窮した一般的な村人にしか見えない。
頬は若干やせており、青白い肌がますますそのイメージを強くさせていた。
背丈もかなり低く、栄養不足ではないかと思いたくなるほどだ。少年というより、子供といってもよいのかもしれない。
最近レッド・アースに加入したドミニク=ノット。一流の腕を持つ魔導砲手だ。
足元には、彼の背丈の倍はある巨木のように太い筒、携帯式の魔導砲が置かれていた。
彼は枝のように細い腕で、鳥車を動かす六体のモンスターを巧みに制御していた。
「ドミニク、今回の相棒はどんな感じだ?」
「ばっちりですよ、ハボック先輩」
ノットは笑みを浮かべ、愛おしそうに手綱で繋がったモンスターを見つめる。
それは、ライトブラウンの体毛が輝く鹿の頭を持っていた。黄金色の角から、牡鹿であることがわかる。そして、空中を駆けるように動いているのは、同じく鹿の脚。但し四本ではなく、二本だ。
そして胴体と翼は、鳥のそれだった。色は透き通るような青色で、広げられた翼は大鷲のように大きく、力強い。
中級モンスター、“牡鹿鳥”。
草食動物の頭を持つが肉食で、集団で人を襲う凶悪なモンスターではあるが、手懐けると忠実な僕となるモンスターだ。
「それにしても、本当にやるんですね……。あんな、“戦争ごっこ”好きな貴族が創った架空の戦場ゲームを」
表情を一変させ、ノットはため息をついた。その背中は、何処か煤けて見える。
「どこから、こんなになってしまったんでしょうねぇ…………」
「…………」
「…………」
少年の言葉に、年長者二人は何も言わなかった。
いや、言える資格もなかったのだ。
こんな難儀なことを、押し付ける事になってしまったのだから。
メイクピースも、ハボックも、そしてノットも、この度の任務は気が乗らなかった。勿論、気乗りするだのしないだので任務を拒否できる程、特殊部隊の隊員というのは便利な身分ではない。
しかしそれでも、文句の一つも言いたかった。
一体お偉いさんは、何がしたいのだろう。戦争のしすぎで脳が疲れたのではないかと思いたくなるほどだ。
「……そう言えば」
暫く経ち、漸く自分の言葉で鳥車内の空気が淀んだことに気付いたノットは、大袈裟に「思い出した!」と言わんばかりに声をあげた。
「リーダー、ハボック先輩、聞きました? “白雷”の話」
「あぁ」
読んでいた本から視線をあげ、メイクピースはブラウンの瞳で後輩の背中を見つめた。
「南軍に突如出現した凄腕の傭兵だろう? 一度か二度しか最前線に出ていないが……それでも、多くの被害が出たそうだな。
噂によると、グンジョウ皇国出身のヤツだとか、何だとか。……まぁ、憶測の域を出ないらしいが」
メイクピースの吐き出した情報に興味が沸いたのか、ハボックが身を乗り出した。
「あ? グンジョウ皇国っていやぁ、凄腕の剣士が多いことで有名な国じゃあねぇか。ソイツも剣士か?」
「いや、魔法師だそうだ。強力な雷系統の魔法を使いこなすうえに、身体能力が恐ろしく高いらしい。まるで雷そのもののような凶悪さだそうだ。
目撃者はごく少数だが、白い髪の女と聞いている」
それを聞き、ハボックは小さく口笛を吹いた。
「所謂女傑というヤツか。いいねぇ」
「先輩、口元がニヤけてますよ」
女癖の悪い先輩を諌め、ノットは「ヤッベ、この話題間違ったかも」と小声で独り言を呟いた。
「…………対象、視認しました。取り敢えず、あの鳥車のうち前の方の対象“レッド”、後ろの方を対象“ブルー”と命名します。……いいですかね、第四総督?」
[好きに決めてと言った。それでいく]
「……りょーかい」
四本ある腕のうち、二本で“遠視魔法”を通して映像を伝えている鏡、『覗き鏡』を抱えている“蝉型”の235号はため息をついた。
早速作戦立案を放棄している、というより押し付けている上官に心中で恨み事を吐き、彼はゴーグル越しに鏡を見下ろした。
タイプ・シギータは戦闘補助用のゴーグルを標準装備しており、その目にはズーム機能もある。デフォルトで敵を探知し、補足することが可能なのだ。
それゆえに、腹部のスピーカーから溢れる“音撃”を、まるで狙撃のように飛ばす事さえできるのである。
背中から伸びている四枚の翼と、可動式のエンジンポットを下に向け、235号は停止飛行体勢をとっていた。
その身はダークブラウンの装甲のようなものに覆われている。が、それでも戦闘用のワーカーに比べれば、気休め程度のものでしかない。
元々、ガチの殴り合いなど考慮されていないのだ。
235号はライトブラウンのウルフカットを鏡を持っていない方の両手で掻きむしり、首にぶら下げた通信石――――“伝達魔法”が込められた宝石――――に向けて話しかけた。
この手の通信は短距離しか効果がなく、加えて妨害の影響にも曝され、探知もされ得る。しかし、ごく限られた範囲での短時間での通信には極めて重宝される。
組織だった行動には、多少距離が離れていても連絡を取り合える通信環境が欠かせない。情報の共有と連携は、必勝への常道である。
しかも探知されるといっても、口で言うほど簡単ではない。常時探知し続けるなどどだい不可能であるし、探知されたところで通信内容や正確な位置が特定されるわけでもなく、「この辺りで誰かが通信し合っていた」ということが漠然とわかるだけだ。
「見た感じ、雑魚じゃあないですよ。結構やります。……ちょっと、尻込みしますね」
[そう。……いや、無理に戦闘をする必要もない……? でも……]
上司の淡々とした独り言が、235号の鼓膜を震わせた。
せめて心の中でやってくれ、と235号は泣きそうになった。
抑揚のない独り言が耳元でずっと響いているなど、寒気がして仕方がない。
[……調子に乗っているフローラにも……いや……命令は……]
「だ、第四総督?」
「正気に戻ってください」という副音声入りの呼びかけは、当然のように無視される。
本気で泣きそうになった235号などどこ吹く風で、嫌がらせのような――――間違いなくヒイロにそんなつもりはないが――――独り言は続く。
[やるか……そう……やる……]
「や、やるって何をですか?」
[…………]
しかし、かえってきたのは沈黙だった。
通信石の故障か……そう思い、通信石のチェックをしようとする235号。
いや、それは彼の願望であった。故障であってほしいと、無意識に願っていたのだ。
[………ヒャハハハ]
抑揚のない言葉の羅列。後から思いださなければ、それが笑い声だとは誰も思わないだろう。
それほどまでに平淡な、感情など一切こもっていない棒読みじみた笑い声。
それは、間違いなく先程まで会話していた、自分の上官の声だった。
ゾクリ、と。
冷汗が全身から溢れ、機械の身体を伝り落ちていく。
機械の心臓を凍った手で鷲掴みにされたような、そんな感覚が235号を襲った。
[取り敢えず、監視。こんなところで何をしているかが気になる]
「……わっかりました」
それもつかの間。今度はやけにはっきりした口調で、命令が来た。
ならば、それに従うのはGA軍団員として当然の責務だ。
恐怖のあまりどもりそうになるのを堪え、235号は同僚に告げる。
「236号、237号、聞こえるか? 一先ず俺が様子見するから、俺がやられたらサポートしてくれ」
[見捨てちゃあ駄目だっけ? 総帥閣下に怒られるのは御免だし……え~と、戦っていいかい?]
「止めといた方がいいぜ。多分勝てない」
[……だよね]
[おう、わかった。回復水薬は十分あるから、無茶しても多少は問題ないけどな。特攻は駄目だろ?]
「論外だ」
GAメンバーは、死を恐れない。しかし、死にたいとも思わない。
カーキのために殉死するのはGA軍団員の本懐ではあるが、死ねばカーキの貴重な手駒が減るのだ。
それでは結局、カーキの負担となってしまう。至高の存在である総帥の手駒が、あっさりと失われて良いわけがないのだ。
まだ誕生したばかりのワーカー三体のカーキへの忠誠心は、他メンバーと比べてやや低い。
が、ノフレテーテから生み出された以上はカーキへの忠誠心もGAの誇りも、ある程度は受け継がれている。
GAメンバーならば遵守して当然の規約についてもまた然りである。
「……ん?」
“レッド”を注視していた235号は、ペリュトーンを操っている少年の目に、剣呑な光が灯るのを感じた。
「……あ、ドジっ――――」
轟音が響き、自分の腹部が何かに貫かれるのを感じる。
スピーカーが吹き飛び、くるくると回転しながら雪原へと落ちていった。
私はセミ=ポ○モンのテッ○ニンを思い浮かべるので、タイプ・シギータは高速という特徴を持っています。
GAメンバーと言っても、一般兵士は総督程無敵ではありません。相手がそこらの傭兵では引けをとりませんが、エリート部隊では厳しいです。
次話は、ちょっと戦闘。あとはもう一つの特殊作戦部隊のお話です。勿論ヒイロ達も絡みます。
御意見御感想宜しくお願いします。
あと、外伝は皆様のリクエストも反映していくつもりですので、要望が多かったGAメンバーの日常とか、カーキとの絡みとかを主に書いています。
ネタは随時募集中ですが、場合によっては書けないこともあり得ますので、そこは御理解いただけると嬉しいです。




