第二〇話 クッキング 調理
お久しぶりです。来週からテストですが、ちょっと課題が一息ついたので更新します。
次の更新も多分遅れます。別作品の更新を優先したいので。
あと、今話でフローラ達メインの話は終わります。
「――――これで、よしっと。あとは転送するだけだね」
報告書に魔法で封印と暗号化を施し、フローラは立ちあがった。彼女の手には、八割をアオラキが手掛けた分厚い紙の束が何冊もあった。
フローラ達が大陸横断森林、そして彼女の部下がウェストポイント大森林の調査を開始してから六日。すでに日は跨いでいるので、七日目に突入している。
フローラとしては毎日直接カーキの眼前に跪き、情報を伝えたいところだが、流石に得た情報が多すぎた。フローラの任務は情報をクロノスに届けることであり、カーキに直接逢い、労いと御褒めの言葉を賜りたいというフローラの私情は全く関係ない。それに、フローラは自分の欲求不満だけでカーキの貴重な時間を潰させるほど我がままではなかった。割り切るしかないとわかっているが、帰還の日が待ち遠しかった。
抱きしめてほしいなどという贅沢は言わないが、せめて笑顔を見せてくれれば、恐らく自分は舞い上がるだろうとフローラは予測する。いや、それは確定事項だ。経験則から言って。
彼女がいる建物は、大陸横断森林の地下に設置された秘密基地である。自然を操ると同時に補助系・非戦闘系(生活系)魔法に優れるフローラの能力を駆使すれば、地下に即席の「基地」を建設するなど難しい事ではない。流石にプロが集まる工兵大隊には劣るが、精々二〇名足らずが使用するための放棄前提の施設を創ることならば朝飯前だった。
「フローラ様!」
紅茶でも飲もうかと立ち上がりかけたフローラは、ノックと共に聞こえてきた緊張感のある声に、実用性一点張りの無骨なドアを見つめた。
「うーん?」
そのフローラの返事を許可と受け取ったのか、部下の一人が荒々しくドアを開けて敬礼した。
「報告します、シンナーアット村近郊の泉にて、一班とエルフとの戦闘に突入しました。また、フォルガトン村近郊にて三班とクローラーが戦闘になっています」
「クローラー……あぁ、“漁り屋”か」
それは、ここ最近の調査隊の成果の一つである。フローラ達調査隊は派遣先はバラバラであるが、重要情報を入手した際は全方面の調査隊に報告される。情報の共有は組織の効率的運用に欠かせない。
クローラー。通称“漁り屋”。一応は傭兵の一形態であるが、実態は殆ど別の職業と化している。
端的に言うと、武器・防具作成のための素材であるモンスターの死体収集、及び他の素材の採取や採掘などを専門とする連中の事だ。
傭兵は基本的に、武具や防具などは自前である。契約者(雇い主)から支給される事もあるが、それは例外中の例外であるし、支給されるものにも限度がある。
ならば自前で揃えれば良いのだが、市販で流通しているものなどたかが知れている(例外はあるが、傭兵と雖も手が出せないし国軍が購入権を独占している場合が多い)。ではどうすれば良いのかと言えば、素材を自分で集めて加工職の者に頼み、オーダーメイドで手に入れるのだ。
またモンスターから手に入るものも含め、素材集めは重要な資金源になるし経験も積める。リスクはあるが(言うまでもなく自分が死体になるリスクである)そのリスクを冒すだけの価値がある。
しかし時代を経るにつれ、傭兵の中に加工職の店と契約を結び、店が扱う素材を集める事に専念する者たちが出てきた。彼らは店に手に入れた素材を売り資金を得て、店に納入しなかった分のおこぼれを自分の懐に収めるのだ。
そしてそういった連中の登場は、時代の趨勢と言えた。幾ら傭兵に価値がある時代とはいえ、傭兵の需要が高まるほどの大戦争がそうそう起こるわけもない。平時の警備任務では稼ぎはたかが知れているし、結果的に唯素材集めに精を出した方が儲けが大きい場合も少なくない。
クローラー、“漁り屋”というあまり響きが宜しくない、そして御世辞にもクローラーの実態を正確に表現しているとはいえない通称は、生粋の傭兵からすれば“はみ出し者”である彼らを同業者・或いは貴族などが侮蔑するときに使っていた表現であるが、次第にクローラー自身が誇りを持って漁り屋という言葉を使いだした。
彼らは自分たちが素材を集め売りさばくことにより、多くの素材が流通し、経済が成り立っていることを主張し始めたのである。そしてそれは、決して高慢な論理ではなかった。
ポーションの材料である薬草などですら、唯の農民たちでは採取できる量・種類に限界がある。一部は人工栽培が行われているが、それも需要量と比較すれば十分とは言えないし、天然モノと比べて質が落ちるものも珍しくない。
この世界ではアイテムや装備は購入や作成以前に、材料の入手が難儀なのである。
「んっ、じゃあ――――」
「報告します、先程発生した戦闘、何れも終了しました。敵性勢力は全て撃退、我が方の被害、ゼロであります!」
「――――あっ、そう……」
フローラの声に覆いかぶさるように、駆けこんできた別の部下が満面の笑顔を隠そうともせずに、弾んだ声をあげた。無邪気にはしゃぐ“植物兵士”を見て、フローラは頭を掻いた。
「殺した?」
「いえ、全員生かしてあります。…………痺れさせましたけど」
後頭部に毒々しい藍色の大きな花弁をくっつけた兵士は、緑色の肌を持つ顔を引き攣らせた。
バトルプラント・ナイトは身体能力や魔法能力よりも、相手の動きを封じたりステータスをダウンさせたりする補助系の魔法やスキルに特化している。所謂“補助役”のモンスターだ。一応“ナイト”の名を冠している以上は、肉弾戦も得意としているのだが。
そして補助役として活躍するモンスターが多いのは植物系モンスターの特徴である。
そんな彼らは、麻痺や毒などのスペシャリスト、相手への“嫌がらせ”にかけてはプロだ。そしてそんな彼らだからこそ、こんな森の中で麻痺にされた状態で放置されればどうなるかくらいの事は容易に想像がつく。
「何人か、喰いたがっていましたね」
「やめといた方が良いよ、美味しくないだろうしさ」
御主人様からの御恵みで作られた料理の方がずっと美味しい、と肩をすくめ、フローラはため息をついた。
「あとで報告書を提出させます。まぁ、こんなに早く終わった以上はいつも通り……大したことがなかったのでしょうが」
「確認するけど……本当に被害はないんだね?」
「ええ……少なくとも、通信文からは被害はないと読み取れます」
小脇に挟んでいたファイルを捲り、さっと目を通した後、バトルプラント・ナイトは断言した。
被害は少ない方が良い。それはカーキの願いである。しかし、それは被害を隠蔽して良い理由にはならないし、なるわけにはいかない。それが分かっているからこそ、フローラは念を押し、部下はそれに答える。特に疑問を挟む事もなく。
「……さて、じゃあ……」
フローラは立ち上がると、パン、と両手を叩いた。
「総仕上げに入ろうか。……これほど被害を出したんだ。向こうもアクションをとるだろうね。エルフだか、クローラーだか、傭兵だか、知らないけどさ……面白くなってくるといいなぁ。一日千秋、一日千秋……」
フローラは誰もが身惚れる程の笑顔を浮かべ、スタスタと歩いていった。
報告をしに来た二人の部下は互いに顔を見合わせ、慌てて後を追った。獰猛な笑みを顔に張り付けながら。
大陸横断森林に未知のモンスターが大量に出現している。
そんな情報が森林連盟と傭兵・クローラーなどを統轄する国際調整支援組織(ギルド連合体)“機構”の耳に入ったのは、今から三日前の事であった。
新種のモンスターの大量発生と被害は言わば“波”のようなもので、思い出したかのように時々やってくる。モンスターに関しては、寧ろわかっていないことの方が多いのだ。
機構は国際組織であり、流石に別の大陸にまでは勢力を広げていないが、それでも種族を超えたネットワークを構築している。エルフ圏で活動する人間の傭兵は多いが、同じように人間圏で活動するエルフの傭兵も決して珍しくないのだ。
機構は情報を掴むや否や、その道のモンスターが周辺諸国に大きな被害を与える可能性を鑑み、討伐クエストを作成、傭兵やクローラーを募り、周辺諸国に注意を促した。
言うまでもなく、自前の諜報網を有する国家はそれよりも先に国軍を然るべき場所に展開させ、警戒態勢をとっていたが、そういった国は大国だけだ。
とは言え、機構は若干ながら混乱していた。このような事が、大陸のあちらこちらで示し合わせたかのように発生していたのだ。流石に一地域ではなく、大陸規模での新種モンスターの活性化は、長い機構の歴史でもほとんど例がない。そもそも種族も生活環境も異なる様々なモンスターの活動が急に活発になるなど、専門家である学者たちがひっくりかえる程例がない。
気の早いものは古文書に残された終末の時と騒ぎ立て、逆に傭兵やクローラー達はまたとない稼ぎ時に酒場で盛り上がった。
しかし、仮に機構が他の大陸とのネットワークを有していれば、彼らは現在進行形で起こっている出来事が異例どころか、史上初であることを知っただろう。
そう、異変は大陸どころか、世界規模で起こっていたのだ。
GAがこの世界の歴史に、現れ始めた瞬間であった。
「ん~、どうしようかな……」
「如何したのですか、フローラ様」
木の天辺に座り込んだフローラを、部下が不思議そうな表情で問いかける。
アオラキと違い素直に表情に出す部下に微笑ましさを感じながら、フローラは眼下にいるであろう傭兵たちを指差した。
ちなみにアオラキと大勢の部下は帰還準備に取り掛かっており、今この場にいるのはフローラと先程返答した後頭部に藍色の大きな花弁をくっつけた部下とワーカー163号だけである。
「いや……せっかくだし、大物をゲットしたいからね……。だからこそ、あんな騒ぎを起こして脂の乗った獲物が来るのを待っていたんだけど……」
そこまで言って、困ったように顎に手を当てるフローラ。
「思ったよりも、小物が多いなぁ……心外千万、心外千万……」
「やはり、一週間かそこらでの活動では“サンプル収集”に限界があるのではないですか?」
残念そうな表情を隠そうともせずに、バトルプラント・ナイトが恐る恐る上司を見つめた。
ともすれば総帥への批判と取られかねない言葉ではあるが、元々フローラも、そしてカーキも一週間の調査ですべて終了するとは考えていない。あくまで今回の調査は「一週間でやれるところまでやる」という、ある意味無計画な任務なのだ。
とはいえ、殆ど情報のない未知なる場所を調査するのだから、事前に詳細な計画を立てると不測の事態が生じた時、かえって足かせとなりかねない。だからこそ、カーキも詳しい調査手順などは現地の指揮官――――ここの場合はフローラ――――に一任した。
「もっと大暴れしたら、人間も伝説級の傭兵を出すかもしれませんね」
「アズール、それはそうだろうけどさ、それじゃあGAの存在が大きく露見するかもしれない。それは避けなくちゃね」
「あっ……申し訳ありません」
上司への進言と言うよりは、半ば愚痴を言ってしまったアズールと呼ばれたバトルプラント・ナイトは恥ずかしそうに俯いた。
「で、第三そ……フローラ様、アレら、どうしますか?」
それを複雑そうな表情で静観していた163号は、蛾のような翅をはばたかせながら、森をかけ分け進んでいく傭兵たちを見下ろした。中にはエルフも混ざっており、規模は確認しているだけならば八人。そこそこの数だ。そして、その中には――――。
「僅かだけど大物もいるね……。まっ、いいか」
フローラは可憐な少女の笑みを浮かべたまま、部下に指示を飛ばした。
「連れてきて」
傭兵パーティの目の前に現れたのは、後頭部に巨大な花弁を咲かせて不思議な模様の服(迷彩服)に身を包んだ少年と、背中に蛾のような翅を生やした奇妙な姿の少女の二人組だった。
「おいおい、マジかよ……本当に異種族同士がコンビを組んでいるのか? しかもなんだよ、あの蟲のようなモンスターは……!」
事前に教えられたデマまがいの情報が真実であることを悟り、パーティのリーダーが思わず叫んだ。
不思議な服装に身を包み、異種同士でありながら協力しているモンスター。およそあり得ない光景に、パーティ全員が息をのむ。
ヒト型モンスターが服を着ている事は珍しくない。彼らの知能は決して低くなく、ヒトの行動を模倣し、時には村まがいなものを創る事さえある。
が、それは同族に限ればの話であるし、同族でもこのように協力し合って行動するモンスターは決して多くはない。
「いくぞ、作戦通りだ!」
「おう!」
バトルプラント・ナイト(と思われる)モンスターが、腰に差していた剣を抜いたのを合図に、パーティは打ち合わせ通りに行動する。
火炎系魔法を得意とする魔法師三人が詠唱を開始し、前衛を務める連中が一斉に斬りかかる。
バトルプラント・ナイト自体中級モンスターであり、決して侮れる存在ではない。一方、クラスすら不明な未知の蟲のようなモンスターはもっと危険だ。
故に、彼らは打てる術をすべて出し切る。
「――――“紅雨魔法”!」
魔法師三人がかりで繰り出したファイアー・レインは、多数の“紅矢魔法”を広範囲に繰り出す範囲攻撃魔法であり、しかも一発一発の威力が大きい。発動シークエンスの所要時間も消費魔力も極めて少ない、火炎系魔法の中でも極めて使い勝手がよく、愛用者が多い魔法だ。
轟音と同時に周囲の木々に紅い炎が突き刺さり、一瞬で周囲の空気を熱気が駆け巡る。
しかし、炎の矢が敵を飲み込むことはなかった。
「その薄汚ぇ炎を! 剣を! 斧を! 私に向けてんじゃねェぞ屑がぁ!!」
蟲のような少女が憤怒の表情を浮かべ、腕を斧使いの胸に突き刺した。
腕は容易く彼の鎧、そして身体を貫通した。
「――――ぐふっ!?」
血を吐きながら崩れそうになるアックス・バトラーの身体を、少女は翅で包み込む。そして翅を動かすと、毒々しい色の鱗粉が撒き散らされ、まるで小麦粉の袋をぶちまけたような有様になる。
たちまち鱗粉に全身をコーティングされたアックス・バトラーは、声を発する事もなくダラリと倒れた。少女が貫通していた腕を引き抜くと、支えもなくして地面に倒れる。
「ヘンリー! そんな……」
パーティでもっとも巨漢の男があっさりと倒れた事に、魔法師組の一人が混乱する。そしてそれが、断続的に続いていたファイアー・レインの猛攻に綻びを見せた。
魔法が乱れ、バチン、と音を立ててシークエンスが中止される。そして中途半端に構築・圧縮された魔法力が行き場をなくし、奔流となって周囲に拡散した。
「え――――う、あああ!?」
「きゃあああ!」
「が、あ――――」
つまり、魔法師三人は一斉に猛烈な魔法力の波にのまれ、吹き飛んでいった。
もし、三人のうち一人でもより高位の魔法師であったなら、即座に魔法力を操作し直し、別の魔法に組み替えるなり自然消滅させるなり手を打てただろう。が、このような状況で即座に共同とはいえ他人が構築した魔法力を操作するなどかなりの難易度だ。
そしてそれを見逃さず、バトルプラント・ナイトが後頭部の花弁から小さな種を吐き出した。
上空高く上がったそれは花火のように炸裂し、周囲にさらに小さな種の弾丸を撒き散らす。
「くそ――――」
余裕あるものは己の鎧や武器、結界魔法で防御を試みるが、異形の二人組は其れすら見逃さず、高速でパーティに接近して一人ずつ仕留めていく。
麻痺を与える鱗粉、そして花粉をその身に受け、結局リーダーを含めた全員が、その場に倒れ伏した。
「――――終わりましたよ、フローラ様」
「見ればわかるよ」
一息をついた163号とアズールの後ろから、ひょっこりとフローラが顔を出した。
「……んん……やっぱり、大したことはなかったかな。まぁ、最初のサンプルなんてこんなものか。ベケットちゃんほどのモノが手に入ればよかったのになぁ。残念至極、残念至極……」
「麻痺などの力があるからこそです。純粋に力で勝負するなら、一、二撃はもらっていたかもしれませんよ」
至近距離でファイアー・アローが炸裂したために焦げてしまった頬を軽く擦りながら、アズールが苦笑した。
「それに森の中で遅れをとれば、GA第一森林戦大隊の名が廃ります」
「だよねぇ。そうなっていたら――――」
にっこりと微笑む上官に、アズールは引き攣った笑みを返した。精神力を保っていなければ、身体はブルリと震えていたに違いない。
そして彼、アズールの発言に間違いはない。彼らGA第一森林戦大隊のメンバーは、森林エリアでの戦闘に特化しており、さらに森林エリアで戦えば大幅に戦闘能力などがアップするエリアボーナスを習得している。敵の方が数が多くても、六人差くらいなら勝って当然の戦なのだ。
「じゃあ、君たち。帰ってもいいよ。アオラキのトコに合流してさ、さっさと帰ってと言っといてね」
「――――え?」
「――――はい?」
突然の一言に、163号とアズールは揃って目を見開いた。
「あ、でもちゃんとコイツら連れて行ってね。貴重なサンプルなんだから」
「え、で、でも、まだ――――」
「いいからいいから。一路平安、一路平安……」
踵で倒れ伏した魔法師の少女の背に蹴りを入れつつ、笑顔で「とっとと帰れ」と伝えるフローラに、二人の部下は顔を見合わせ、そして同時にフローラに向き直り、敬礼した。
「――――さて、と」
フローラは誰もいなくなり、争いの跡が残された森をぐるりと見渡し、口笛を吹きつつ両手を広げた。
「――――♪」
ズブリ、と音を立て、フローラの両腕から鋭い植物の蔓が無数に伸び、触手の様に蠢く。
青々と生い茂っていた木々はドス黒い赤色に染まり、硬い外殻を纏っていく。不気味な声をあげながらざわつき、殺意に満ち満ちた戦闘植物が地面から芽を出した。
「そこにいるんでしょ、エルフ」
「――――」
フローラの呼びかけに答えるように、数人のエルフが其々の武器を構えつつ、何もなかった空間からはい出てきた。
やはり、次元が違う。今までの雑魚が嘘のような連中揃いだ。恐らくは、森林連盟のエリート部隊。
「……こうもあっさり、自然が支配下に……伝説の、悪魔か」
一人が呻くように言った。その顔は悲壮な決意を帯びつつも、青ざめて震えている。
他の一〇人前後のエルフも同様だった。全員、漆黒の戦闘服に身を包んでいる。
「悪魔め……」
「今、消さねば……自然の摂理が壊れる」
「ここまで来ると、まるで邪神だ……。こんな事が……」
虚ろな表情で、少女をとり囲むエルフの軍団。どう見ても異常な光景だが、その異常さを際立てているのは、平然と笑顔を浮かべているフローラだろう。
「――――自然の摂理が、壊れるって?」
しかし、彼女は内心で怒り狂っていた。
「違うよ。……本来あるべき、主人が降臨しただけさ。御主人様に全てが跪く……其れこそが、自然の摂理なんだよ。
で、お前達さぁ……サンプルにする前に……」
次の瞬間、一人のエルフの前に、フローラが肉薄していた。真正面にいるエルフにすら、気付かれる事無く。
「咲き殺す」
フローラの両腕がエルフの胴を貫き、同時にエルフの身体からまるで臓器のように、無数の蔓が飛び出した。
「……が、う、あああ!!」
蔓は周囲の木々にまで伸び、その御蔭でエルフは全身を貫かれたまま、まるでネットに捕まったかのように空中で宙ぶらりんとなった。大量の鮮血が流れ出て、蔓を伝って雫となり、落ちる。
一瞬で奇妙なオブジェの様になったそのエルフは、まだ生きていた。
回復作用のある花の種がエルフの体内から発芽し、彼の口から美しいオレンジ色の花弁が飛び出し、癒しの魔法も同時に発動する。
その様はまるで、一つの絵画のようであった。途轍もなく趣味が悪い部類の。
「――――あ~あ、やっぱり、あんまし綺麗な花は咲かないか……駄作もいいとこだ。まぁ……」
フローラはスタスタとオブジェから離れつつ、指先についた血を舐め、すぐに吐き出した。
「こんな不味い血を吸っているのだから、無理もないか。遺憾千万、遺憾千万……」
静寂。そして――――
「かかれぇええええ!!!」
絶叫が響いた。あらゆる魔法が、矢が、剣撃が、フローラの華奢な身体に襲いかかる。
エルフの猛攻は目の前の少女の姿をした邪神、そして己に芽生え始めた恐怖心を薙ぎ払うため、一心不乱に続けられた。
しかし。
「ま、肥しくらいにはなるかな」
内臓が破裂する音。血が噴き出し、一人のエルフが崩れ落ちる。その背中からは、柳のような木が生えていた。その木の枝は宿り主に伸び、グチュグチュと蠢きながら、宿り主のエルフの体内を好き勝手に弄くっていた。
「あ……」
「――――寄生植物に食人植物、殺人植物、吸血植物、吸魂植物、戦闘植物、食心植物……どれを使ってあげようか?」
可憐な笑みを浮かべながら、フローラは多種多様な植物の種を弾丸のようにジャラジャラと指先で弄んでいる。
その身体はおろか、服にさえ傷一つなかった。
「滑稽だね、エルフ。森の住民だと粋がってきたお前達が、自然の前に殺されるんだ……でも、これが世界の真の姿だよ。御主人様のために、全てを捧げるための世界だ。世界なんて、御主人様の御食事の一つにすぎないんだよ。
もっとも――――」
笑顔で謡う。彼女は詩を読むかのように、軽やかなステップと共に謡う。
「汚れた野菜は調理前に洗うように、しっかり綺麗にしないとね」
殺戮の宴は、まだ終わらない。
しかし、エルフたちはまだ死ぬことはない。彼らはあと少しだけ、生き続けるのだ。
次は帰還したフローラ達やクロノス内部、カーキとの御話です。カーキとGAメンバーの触れ合いをもっと書きたいのですが、カーキが前線に出ない以上前線組メインの話ではあまり書けないという……。
フローラは基本的に様々な植物を操って戦いますが、彼女の本業は友軍の強化や敵の動きを封じるなどの補助なのです。それでも流石は総督、メチャクチャ強いですけど。
ですのでGA総督では、フローラは一番攻撃力が低いです。
御意見御感想宜しくお願いします。




